【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

ウイルスよりエラい人たち

2021-06-25 07:19:37 | Weblog

 尾身さんの危惧は「自主研究に過ぎない」と切って捨て、天皇の懸念は「宮内庁長官の考え方に過ぎない」と切って捨てる政治家って、専門家よりも天皇よりもエラい、という自覚があるのでしょうね。(ちなみに、専門家は研究をするのが当たり前ですし、天皇は政府に直接口出ししたら憲法違反になるから間接的にしか述べることが許されていません)
 まあ、たしかに彼らは人間の世界では一番エラいのでしょう。問題は、ウイルスがそれを認めてくれる(「エラい人には従おう」と思ってくれる)かどうかです。だれかウイルスの意向を確かめました?

【ただいま読書中】『横浜の関東大震災』今井清一 著、 有隣堂、2007年、2300円(税別)

 1923年(大正12年)9月1日正午1分前の関東大震災では、「東京(市)」の被害はよく知られていますが、神奈川県や千葉県でも大きな被害が生じていました。ちなみに当時の東京市は15区で面積は80平方キロ(渋谷・新宿・池袋などは「市外」)でしたが、現在の23区は627平方キロです。横浜も区政を敷く前で面積は現在よりはるかに小さいから「東京」とか「横浜」と言う場合でも現在のイメージを大正時代に安易に投影しない方が良さそうです。
 関東大震災の震源域は、千葉県から山梨県東部の直下で、神奈川県は全体がそこに含まれます。東京はほとんどが震度6(地盤が弱い本所区北部は震度7)でしたが、神奈川県と房総半島は広い範囲で震度7でした。横浜では、東京以上に「地震による被害」が大きかったことが想像できます。実際に、市街地では建物はすぐに倒壊しさらに大火災で市街地はほとんど焼失してしまいました。特に悲惨だったのは南京町(中華街)で、建物倒壊と火災で5000人の中国人のうち2000人が死亡したそうです。さらに悲惨なのは、その直後のデマ。千葉でも東京でも「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などのデマが流れましたが、横浜でもご多分に漏れずその類のデマが流れ、さらに「中国人も」が加わっていたのです。
 本書には「個人の体験談」が豊富に含まれています。そのリアルさには驚きますが、生き残った人の体験でさえこんなに恐ろしいものなのだったら、死んでしまった人の体験はどうだったのだろう、ということも考えてしまいます。私に特に印象的だったのは、巡査の体験で、家に残っている人には避難を勧告し、狭い避難路では交通の誘導、火事が迫ってきたら消火活動、さらにはアナーキストなど普段から行動を監視している人の監視も継続しています。いやあ、大活躍ですね。
 震災の日の夕方には「朝鮮人が」のデマが流布し始め、翌日には市中全体に拡散。この時横浜は孤立状態だったので、他の地域とは関係なく「横浜発のデマ」だったと考えられます。震災の1年くらい前から神奈川県では警察主導で地域の在郷軍人会や青年団を中心にした「自警団活動」が盛んになっていました。警察の下請けのつもりだったのかもしれませんが、震災で警察が「略奪や強盗に注意」と注意喚起をしたのに対して、当時社会主義者や朝鮮人中国人に警戒意識を持っていた人がそこに「朝鮮人の」をつけ加え、それがあっという間に拡散していったのではないか、という推測も著者はしています。面白いのは、後日「○○がデマを言い始めた」という「デマの真犯人に関するデマ」もまたどんどん拡散していったことです。
 政府は戒厳令を敷き、食糧配給を行い、ともかく壊滅状態の被災地に秩序を取り戻そうとします。でもそれだったら最初から「デマが流布しやすい素地」を作らないように努力しておけば良かったのにね。まさか震災が来るとは思わなかったのでしょう。最近の政府がまさか震災や原発事故(事故と言うより人災)やコロナが来るとは思わなかったのと同じように。