実務家弁護士の法解釈のギモン

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「募集」、「売り出し」における元引受証券会社の責任(3)

2019-07-26 14:36:01 | 会社法
 金融商品取引法には、「募集」または「売り出し」における元引受証券会社の責任について特別の規定があり、有価証券届出書に虚偽記載がある場合、元引受証券会社は「募集」または「売り出し」に応じて株式を取得した者に対し、損害賠償責任を負うと定めている。
 有価証券届出書は、株式を発行している会社自身が作成するものであり、証券会社が作成するものではない。しかし、有価証券届出書の虚偽記載に対して元引受証券会社に民事責任を負わせることにより、実質的(あるいは間接的)に、元引受証券会社にも有価証券届出書の内容の正確性についての調査義務を課したといえるのである。いわゆる、ゲートキーパー的な責任を持たせたのである。

 ところが、これに対して免責規定もあり、そこには、「記載が虚偽であり又は欠けていることを知らず、かつ、第193条の2第1項に規定する財務計算に関する書類に係る部分以外の部分については、相当な注意を用いたにもかかわらず知ることができなかつたこと」が免責事由となっているのである。この免責規定をかみ砕いて説明すれば、虚偽記載を相当な注意をもちいても知らなかったことが免責事由なのであるが、財務計算に関する書類、すなわち財務諸表の部分に限っては、単に虚偽記載であることを知らないだけで免責されるという規定ぶりとなっているのである。
 したがって、有価証券届出書の虚偽記載のうち粉飾決算が問題となっている場合は、元引受証券会社は虚偽記載であることを知らない限り責任を負わないという解釈が導ける規定となっている。