まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

小学校2年生の「てつがくのじゅぎょう」

2013-03-08 20:13:13 | 哲学・倫理学ファック
いよいよ明後日、「てつがくカフェ@ふくしま特別編3」 ですが、
本日はその前哨戦というか、わたし的には本番以上に緊張してしまったのですが、
福島大学で附属小学校の2年生相手に模擬授業をしてきました。
ほんの1週間前に急に依頼され、詳しいコンセプトもよくわからないまま引き受けました。
小学校の先生からいただいた依頼の電話によりあらかじめわかっていたのは、
附小の2年生が校外学習の一環として大学に来るので、
M2教室で70分間の模擬授業をしなくてはならない、
美術のA先生とぼくの2人が開講し、1学年90名の子どもたちが、
希望によって2クラスに分かれる、ということくらいです。
それ以上の情報がないまま、とにかくこのイベントの準備をしなくてはなりませんでした。
月曜日までは身動き取れなかったので、実際に準備したのは火曜日以降)

昔、塾でバイトしていた頃も小4からしか教えたことはありませんので、
小2というのは初体験で、どんな生き物だかまったくイメージが湧きません。
facebook で泣きついて皆さんにいろいろと教えを乞いながら、
ただ話を聞くだけの講義型の授業ではまずもたないだろうなと判断しました。
そこでいろいろ悩んだあげく、哲学カフェをやってみようかなと思い立ちました。
私の話を聞くだけではなく、みんなで一緒に話し合うというスタイルなら、
70分間なんとか付き合ってくれるのではないだろうかと考えたわけです。
とはいえ、人数が不確定なのが不安材料です。
A先生は附属の校長を務めたことがありますし、お絵描き教室とかは得意中の得意でしょうから、
たぶん人気もそちらに集中するものと思われます。
あちらにみんな流れてくれて、こちらが10名とかせいぜい20名くらいであれば、
哲学カフェで行けるかもしれません。
しかし、もしも半々くらいに分かれてしまうと40名を超えてしまうので、
その数では大人であったとしても哲カフェはムリでしょう。
それと、小学校2年生の抽象能力がどれくらいかというのも分からなかったので、
それも不安材料のひとつでした。
あらかじめの情報では、ことばだけでは厳しいので絵や図を多用したほうがいいと聞きましたが、
哲学カフェの場合、基本ことばだけでの勝負です。
美術作品や絵本を題材にして子ども相手に行う哲カフェのことを聞いたことはありますが、
私自身はその経験がありませんし、いい題材を探している時間的余裕もありません。
そして何よりも困ったのは何をテーマにするかということでした。
ふだん行っている 「てつがくカフェ@ふくしま」 ではあらかじめテーマは決めてあり、
そのテーマに興味をもってくれた人だけが参加してきてくれます。
今回はあらかじめテーマを提示しておくことができませんので、
たまたまやってきてくれた子全員が興味をもって取り組めるテーマを選定しなくてはなりません。
こういう不確定要素が多いなかですべてをクリアできる企画案を練るのには本当に苦労しました。

そこで最終的には、完全に哲学カフェ形式にしてしまうのではなく、
キャリア教育系のワークショップの形式も取り入れた、以下のような案を考えてみました。
全体的には 「てつがくのじゅぎょう」 というタイトルです。
テーマは 「たいせつなものってなんだろう?」。
自分たちにとっての大切なものについて考えてもらうことにしました。
問いを2段階に分けて、順を追って考えてもらいます。
まずは自分にとって大切なものや大切なことは何かを考え、
マインドマップにたくさん書き出してもらいます。
これを数人のグループに分かれて一人ずつ順番に発表してもらいます。
そのときになぜそれが自分にとって大事なのか理由も話してもらうようにします。
ひとりひとり大切なものが違っていたことを確認させた上で、
みんなが違っていていいんだということを納得してもらいます。
この問題に関してはひとつの答えや正解があるわけではない、
ということを理解してもらうことがこの授業の第1の目的です。
これは 「キャリア形成論」 でやっている 「偏愛マップ」 に近い作業です。
偏愛マップなら小さい子でも楽しく書いてくれるでしょう。
ただし、自分の好きなものではなく大切なものは何と聞くところがミソです。
これによって第2段階の問いに導いていくのが狙いです。
ここまでやったところで休憩をはさみ、第2段階に移っていきます。
ひとりひとり大切なものは違っていたけれど、
今度はみんなにとって大切なものは何だろうと問いかけます。
みんなが違っていることは踏まえながら、
それでもみんなに共通に大切だと言えるものは何かを考え、グループで話し合ってもらいます。
各班から、その結果を理由も含めて発表してもらって、
最後に可能であれば全体討論をする、というのが第2段階です。
ここではひとりひとりの違いを超えて、共通に守るべきものは何かという、
きわめて倫理学的な問題について考えてもらうわけです。
はたして小学校2年生がここまで付いてこられるのか半信半疑の授業案でした。

昨日から妻が来福していて、妻はワークショップの達人ですから、
自分の構想を話して、いろいろと相談に乗ってもらいます。
子どもに限らずワークショップの場合はできるだけ身体を動かさせたほうがいいということで、
100円ショップを回って笛や紙風船などを買い揃えておきました。
そして、いよいよ当日です。
昨日は大学に行けなかったので、今日は早めに出勤してメールチェックしてみたら、
こちらの受講者はなんと40名もいるとのことで、やはり本格的な哲学カフェ形式はあきらめました。
また机と椅子が固定されたM2教室ではワークショップ形式は取れませんので、
急遽M3教室を借りて、5人ずつ8グループに分かれて座れるように机をセットします。
そして、早めに到着した引率の先生から今回の企画の趣旨を今さらながらお聞きしました。
すると、子どもたちには美術の先生と社会の先生が来てくれるので、
そのどちらかの授業を選ぶようにと指示していたということが判明しました。
小2までは生活科の授業ですが、3年生から社会科という新しい科目が入ってくるので、
社会科の授業を先取り的に受けることができるよという触れ込みだったそうです。
そんな大事な情報はもっと早く聞いておきたかったところですが、
「てつがく」 が 「しゃかい」 になっても私の今回の案は成立しそうですので、
タイトルを急遽 「しゃかいのじゅぎょう」 に変更することにしました。
こんな泥縄的な状態でゼーハーしているところに2年生たちが到着したのです。

みんなかわいいですが、2年生というのは思った以上に小さいですね。
しかし、ちゃんと座って黙って話を聞いてくれるので、少し安心しました。
「まさおさま」 ですと自己紹介し (つかみはOK)、今日の目的を話します。
「学校でのいつもの授業とは違う、答えがひとつに決まっていない問題を考えてもらいます。
 だから他の子が自分の考えていることと違うことを言っても間違いではないので、
 自分と違っていても、なんでそう考えるのかその理由をよく聞いてあげてください。」
そしてグループに分け、アイスブレイクのゲームをしてもらいました。
紙風船を使った連想ゲームです。
あることばから連想される語をポーンポーンと紙風船を2回突いているあいだに考え、
3回めにそのことばを言いながら次の人に紙風船を回していくというゲームです。
リズムに合わせて身体を動かしながら考えないといけないのでけっこう難しいですが、
みんなは楽しんでやってくれていました。
アイスブレイクのゲームはグループの結束を強め、その後の話し合いをスムースにするのですが、
それとは別に内容的にも意味があって、今日の目的ともつながっています。
「あることばから思いつくことばってみんなそれぞれ違ってなかった?
 白って言われたら私だったら雪って思うのに、あの子は全然ちがうことばを言ったとか。
 これって正解はないから、どんなことばを言ってもいいんだよね。
 みんな考え方が違うんだよね。」

アイスブレイクで気分がほぐれたところで、マインドマップのワークに移りました。
どんどん書ける子、なかなか筆が進まない子がいますが、
みんな一生懸命考えてくれていました。
「たいせつなもの、たいせつなこと」 という問いはなかなかヒットしたようで、
ゲームや食べ物など好きなものばかりを挙げている子もいましたが、
ほとんどの子は命や家族、友だちなどを挙げていましたし、
水とか空気とか地球とか、また、優しさや元気 (健康) などを挙げてくれる子もいました。
グループ内でのシェアの話し合いは若干散漫になりがちではありましたが、
各グループを回って、その子の大切なものの話だからしっかり聞いてあげようねとか、
なぜ大切なのか理由をちゃんと質問してあげようね、などと支援しながら話し合ってもらいました。

あらかじめfacebookでいただいたアドバイス通り、ここでトイレ休憩をはさんだところ、
3分の1くらいの子がトイレに行きましたので、
やはり2年生は70分はもたないんだなと得心いたしました。
後半はみんなにとって大切なものです。
各班で一番大切なものをひとつ選び、それを選んだ理由も発表してもらいます。
意見が真っ二つに分かれてしまってなかなか結論が出せない班もあるなど、
みんな一生懸命話し合ってくれました。
誰が発表するか大学生のようにジャンケンで決めている班もありましたが、
たいていの班では率先して発表役をやりたがる子がいて、
小学生っていいなあ、うちの大学生たちも昔はこうだったんだろうなあと思いました。
けっきょく全体討議はあきらめここでタイムオーバーです。
ひとりひとり自分の大切なものをこれからも大切にしていってほしいこと、
人が大切にしているものを尊重してあげてほしいこと、
社会の授業ではみんなにとって大切なものについて考えていくことになるので、
これからも考え続けてほしいこと、等を伝えて終わりにしました。

最後に全体討論をとりやめた分、少し時間が余ったので、
みんなから今日を振り返っての感想を求めたところ、
ハイハイとものすごくたくさん手が上がったのでビックリしました。
「70分は長いと思っていたけどあっという間に終わったので楽しかったです。」
「最初はつまらないと思っていたけどおもしろかったです。」
「社会ではこんな勉強ができるんだと分かって3年生になるのが楽しみになりました。」
いやあ、どんなことになるやらビクビクものでしたが、
2年生に楽しんでもらえたようで本当によかったです。
感想を聞きながら頭の片隅では、社会の授業ではこんなことばっかりやるわけではないんだよぉと思い、
(哲学は楽しいけど、社会科は暗記科目なんだよぉ)
社会の授業に対する過度な期待を植え付けてしまって、
子どもたちにも先生方にも申しわけなかったなあという気もしなくもありませんが、
まあそれは私なんかに模擬授業を依頼したほうが悪いと思うことにしましょう。
とにかく今日の1日を乗り切ることができてホッとしました。
今日は哲学カフェにはなりませんでしたが、
子どもたち相手に哲学カフェをやれそうだという手応えも感じることができました。
貴重な機会を与えていただき本当にありがとうございました。
そして、最後まで付き合ってくれた附属小学校2年生のみなさん、
本当にどうもありがとうございました
これからも考え続けてステキな大人になってください。
またお会いしましょう


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4 コメント

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お疲れ様でした! (とむ)
2013-03-09 03:33:17
私もどうなるものやら心配でしたが、無事に終わったようで良かったです!
さすが先生!
小2の心も掴みましたね(`・ω・´)
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ハイタッチ (まさおさま)
2013-03-09 08:13:04
とむさん、コメントありがとうございました。
いやあホントにヒヤヒヤものでしたよ。
最後はみんなにハイタッチでのお別れをせがまれましたので、
なんとか小2の心を掴むことには成功できたのかもしれません。
ホッ。
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「りんり」と「しゃかい」 (鎮守の森)
2013-03-12 09:22:42
先月、福島大学と東京大学の先生方が共著で出版なさった本の出版記念シンポジウムの動画を拝聴しました。
最後の会場質疑応答で、群馬大学の先生のツィッター発言について、福島の方が声を震わせながら、「あなたの発言で福島の人たちは大変心を痛めている」とおっしゃいました。(私も、以前「ねじり鎌一揆」発言を聞いたときは、脳天にねじり鎌を振り下ろされたようなショックを受け、どうか福島農家の方々にこの発言情報が伝わりませんように・・と神様に祈りました)
「心を痛めている」はその後、なぜか「怒り」という言葉に言い換えられてお話が進んでいきました。
閉会直前の、最後のまとめで、「群大先生発言は、りんり的には正しかったが、しゃかい的に正しかったかどうかはわからない」と締めくくられました。
はて・・「りんり」と「しゃかい」って別物?
高校で倫理社会という教科がありましたが・・
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倫理と社会 (まさおさま)
2013-03-17 11:52:59
鎮守の森さん、コメントありがとうございました。
倫理ということば自体が多義的なので、何とも言えませんが、
最後のまとめをされた方は、倫理という語を個人倫理という意味で使っているのかもしれません。
個人的にそのような発言をするのは自由だが、
その発言がもたらす社会的影響まで考えると間違っていた、とか。
あるいはもっと邪推すると、りんり的ということばを、
「学問的」とか「真理」という意味で使っていたかもしれません。
学問的真理という意味では正しかったけれども、社会的影響を考えると間違っている、とか。
いずれにせよ倫理と社会が別物なのは確かですが、どちらも多義的(たくさんの意味をもつ)なので、
その人がどういうつもりで用いているかは本人に確かめてみるしかありません。
私は、本当に危ないものに関しては危ないと言うべきだし、
よくわからないものに関してはデータを明らかにすべきだと思っていますし、
特に今の福島県産品に関しては軽々しく安全ということばを使うことはできないと思っていますが、
群大の先生の語り口は学者の客観性を逸脱していたと思っています。
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