まさおさまの 何でも倫理学

日々のささいなことから世界平和まで、何でも倫理学的に語ってしまいます。

Q.哲学をやろうと思ったきっかけは何ですか?(その4)

2009-08-29 23:55:13 | 哲学・倫理学ファック
長々と話してきたこのシリーズも、今回が最終話です。
考えることに目覚め、哲学に目覚め、書くことに目覚めた私ですが、
哲学をやっていこうと心に決めるにはまだそれだけでは足りません。
哲学に身を捧げるためには、最後の決定打が必要だったのです。

A-4.『ノストラダムスの大予言』を信じていたからです。

実はこの話、以前にほんの少し書いたことがあるのですが、
そのときはこう書きました。
「私は1999年第7の月に世界が滅びると信じていたので、
 10年ちょっとくらいは何とか食っていけるだろうと思って、
 この道に進む決心をしました。」
これをもうちょっと詳しく説明しましょう。

恥ずかしながら若かりし頃の私は、「ノストラダムスの大予言」 を信じていました。
彼の予言そのものというより、当時大ベストセラーとなっていた
五島勉 『ノストラダムスの大予言』(祥伝社、1973年) における、
五島独自の解釈を信じていたのです。
ノストラダムスの有名な4行詩があります。

 「1999年7の月,
  恐怖の大王が天から降りてきて,
  アンゴルモアの大王をよみがえらせる。
  その前後,軍神が幸福に統治する。」

これを、五島氏は1999年7月に核戦争によって
人類が滅亡することを予言した詩であると解釈し、大ブームを巻き起こしました。
その後も五島氏は続編において、原因に関して様々な新説を持ち出しつつ、
人類滅亡の日が刻一刻と近づいていることを訴え続けました。
今でこそその主張がいかに怪しいものであったかを、
説得的に解説してくれる書物が現れていますが、
(山本弘『トンデモノストラダムス本の世界』宝島社文庫、1999年、他)
しかし米ソ冷戦の当時は、そうした奇説が広く受容される土壌が確実に存在し、
子どもの私はみごとに信じていたのです。

私と同世代の人間はけっこう信じていたのではないでしょうか。
ちびまるこちゃんの作者のさくらももこ氏も私とほぼ同年齢ですが、
ちびまるこちゃんがノストラダムスの大予言を信じて、
勉強をやめてしまうというエピソードを残しています。
どうせもうすぐ死んじゃうんだとしたら、
そりゃあ勉強なんてするのはバカらしいし、
あくせく働くのもバカらしいですよね。
だから私は、真っ当に就職して、真っ当に生きていく道は放棄して、
37歳 (1999年) まで、好きなことをやって好きに生きていこうと決心し、
哲学の道に進むことを決めたのです。

哲学・倫理学で大学教員になることは、とても難しいということを書きました。
それはもう、努力していればいずれ何とかなる、
というレベルの話ではまったくありません。
私の先輩たちにも、哲学の世界ではすでに功成り名を遂げているにもかかわらず、
大学教員になっていないという方々が何人もいらっしゃいます。
私はそういうもんだと思っていましたし、今でもそうだと思っています。
たまたま私は大学教員になっていますが、
それは本当にさまざまな偶然が積み重なった末の奇跡にすぎず、
ほんのちょっと偶然が足りなければ、
未だにフリーターであったとしても全然おかしくはなかったのです。

そして、私は 「フリーター」 なんていう言葉がなかった頃から、
一生フリーターとして生きていく覚悟ができていました。
未だに中萬学院 (神奈川県にある学習塾) で非常勤講師として小中学生を教えながら、
哲学研究を続けているという自分の姿をリアルに思い描くことができます。
あるいは夜は銀座か歌舞伎町でバーテンとして働き、
昼頃起き出して、哲学書を読み、論文を書くという生活を送っていたかもしれません。
そういう茨の道に踏み出す勇気 (というか諦め?) を、
ノストラダムスの大予言が与えてくれたのです。

もしもノストラダムスの大予言をあれほど深く信じていなかったら、
私はどうなっていたでしょうか。
きっと20代のどこかの時点で、ちゃんと就職して生きるための努力をしていたでしょう。
妹や弟が先に就職してしまって、
家の中では「穀つぶし」だの「碌でなし」だの言われ続けていたわけですし、
大学時代に付き合っていた彼女とうまくいかなくなったのも、
こんな私の生き方が争点だったわけですから、
世界が滅びてしまうと信じていなければ、
いつでも真っ当な道に戻っていたことと思います。
そう思うと五島勉さんは罪深い人だなあと思います。
いたいけな青年の道を誤らせてしまったのですから。

というわけで、哲学を学ぶことによって合理的に考えられるようになった私ですが、
哲学をやっていこうと決心する根底には非合理的な信念があったのだというお話でした。
このクソ長いどうでもいい独白におつきあいいただき、ありがとうございました。

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