暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

2019年 クリスマスの茶事・・・(3)

2019年12月31日 | 茶事・茶会(2015年~自会記録)

  後座の床の花です(半開きだった椿が途中で開花しました)

 

つづき) 

最後のご挨拶が終わり、待合へ戻ってクリスマスのプレゼント交換をしました。

思い思いのプレゼントが美しく梱包され、長靴ならぬバスケットに入っています。

サンタが奏でるジングルベルを聞きながらクジを引く予定でしたが、サンタさんが静か(故障?)・・でした。童心に帰り、プレゼントを開けて喜び合いました。

茶事もそうですが、プレゼントも何とも言えぬ幸せをもたらしてくれます。

 

 茶事後、アイビーとピペリカムをワイングラスにいけました

 

あれから早や1週間、心温まる後礼のお手紙が届くと、その度に茶事のシーンが鮮明によみがえってきます。いくつかをご紹介させて頂き、ご来庵のお客様に厚く御礼申し上げます。

 

 SYさまより

年の瀬もいよいよ押しせまり、慌ただしく日が過ぎようとしています。

この度は貴重なお茶事の機会をくださり、有難うございました。

待合では歌声が聞こえてくるかのような掛物、かわいらしい一閑人とハンサムなサンタさんのお出迎え、思わず笑顔になりました。

初炭のお点前では、暁庵先生が入って来られた所作に目を奪われました。足の運び方、羽箒の使い方、座る位置など先生がいつもおっしゃっている事が腑に落ちました。

一つ一つの動作がぴったりとはまり気持ち良く進んでいく。お茶事全体の中で流れに呼応するようにお正客様やお客様が応えられる。心地よい時間の流れがあるのですね。

濃茶の席では蝋燭の火だけが静かに灯り、厳かな空気の中、キリスト生誕にかけたお道具の数々が和の中の不思議な異国へといざなわれた気がします。

その中で練られた濃茶の美味しかった事!!

いつも濃茶は気合を入れて頂くのですが、すっーとお茶が喉を通って行き、思わず飲み干してしまいそうになりました。

また薄茶のお席では、天使が運んで来る霜柱や、白雪姫と名付けられた林檎菓子。薄茶器の中の景色が森に見え、童話の世界に入り込んだかのようでした。

前後しますが、懐石のお料理の数々、大変美味しく頂きました。

白味噌仕立ての汁物は優しい甘さで、一椀目と二椀目で具が違っており、思わず得した気分になりました。お大根の田楽や舌の上でとろけるようなお肉など、お腹だけでなく心も満腹になりました。

全てに趣向を凝らされお心遣いに満たされたお茶事に入らせて頂き、先生をはじめ、御正客様、同席くださったお客様、半東をしてくださったKTさまに深く感謝いたします。

最高のクリスマスプレセントでした。・・・後略・・・   かしこ  SYより

 

 

 Rさまより

今年の師走はまだ寒さが本格的でない気がします。

一番の寒さと言われた日曜日もあんなに暖かく幸せだったからでしょうか。

改めて日曜日はクリスマスの茶事にお招きいただきまして、ありがとうございました。

暁庵さまのお茶事は毎回テーマがあり、お道具や設えだけでなく会話の中にも繋がって行くので、一瞬たりとも気が抜けないのです。

今回も待合の一閑人が軽快なお帽子で装っているのを見てから、楽しいゲームの仲間入りをさせていただいているような気分でした。

生姜が入った甘酒は身体を芯から暖めてくれました。腰掛に座って席入りを待っている静かな時間は寒気でさえいとおしく、この寒さがあるからこそ余計に炭火が有難く、懐石をいただく度に身体が温まって行くのを改めて覚えた気がいたします。

炭の香り、釜の音、部屋の明るさ・・・五感が覚醒されて行くのも分かりました。

美味しい懐石と見目麗しいきんとんに歓声をあげた後の後入りでは、飼い葉桶に見立てた手桶水指が柔らかな光にゆらゆらと浮かんでいるのが見えました。

 

何故 神であるキリストが「飼い葉桶」のような低き場所で生まれたのか・・・

「キリストは神の御姿であられる方なのに、ご自分を無にして、仕える者の姿をとり、人間と同じようになられた」

私たちも自分の感じ方、考え方、方法にこだわらず、自分を無にして神の方法を受け入れなさい(ピリピニ章六節)・・を思い出しておりました。茶道に於いても、キリスト教でも、そして一人の人間としても、「無にする」事の大切さを感じます。

庚子は心に留めて、暁庵さまをお招きする年にしたいと願いつつ、来年も宜しくお願いたします。

                   かしこ  Rより

 

 暁庵より

Sさまのお手紙を拝読して、入門して1年なのにお茶事の細部をしっかり捉えていらっしゃる内容に感心し、とても嬉しかったです。また、懐石が美味しかったそうで安堵しました・・・。

Rさまのお手紙を読んで、漠然としていた来年のテーマがはっきり姿を現わしたような気がしました。

来年のテーマは「シンプル」ですが、「無にする」についても考え、追求出来たら・・・と思います。

ありがとうございました。  

 

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読者の皆様へ 

今年も「暁庵の茶事クロスロード」をご愛読いただき、ありがとうございました!

どうぞお元気で良い年をお迎えください。   令和元年大晦日  暁庵  

 

 


2019年 クリスマスの茶事・・・(2)

2019年12月29日 | 茶事・茶会(2015年~自会記録)
 
腕まくりの懐石が終わりましたが、今一つ自信がなく・・・如何だったでしょうか? 
主菓子をお出ししました。
クリスマスなのでいろいろ迷いましたが、久しぶりに手製の金団に挑戦です。
菓子銘は「ホワイトクリスマス」、ガラスの大皿にアイビーとピペリカムのリースで飾りました。
 
腰掛待合へ中立の予定でしたが、雨がぽつぽつ降り始め、このまま待合で銅鑼の合図を待って、玄関前の蹲を使って後入りしていただきました。
 
 
 
後座はまっ暗闇の中、蝋燭の灯りの元、濃茶を差し上げました。
半東KTさんがしっかり温めてくださった茶碗のぬくもりを感じながら襖を開け、茶碗を運び出します。
帛紗を四方捌きしながら、クリスマスの教会の厳粛なミサを思いました・・・。
織部肩衝の茶入、茶杓を清め、茶碗をゆっくり温め、茶筅通しをします。
茶入から濃茶5人分を回しだすと、早や茶香が薫り立ちました。
柄杓にほぼ満杯の湯を汲み入れ、丁寧に心をこめて濃茶を練りました。
5人分なので2杓目の湯をたっぷり入れたのですが、少し濃い気がしてもう1杓入れさせて頂きます。
大ぶりの茶椀で熱々の濃茶をたっぷりとお出し、モールの古帛紗を添えました。
 
「お服加減いかがでしょうか?」
「薫り高く美味しく頂いています」(お正客さまの一言で安堵しました・・・)
 
濃茶の回し飲み・・・これは「利休がカトリックの聖体拝領の儀式からヒントを得たのではないか」という説があります。昔は各服点てだったとも・・・今でも流儀によっては各服点てです。
 
話は飛びますが、昔、亡父から濃茶の回し飲みについて次の話を聞いたことがあります。
大阪城の茶会で、豊臣諸将が集まる中、大谷刑部(吉継)と石田三成が同席しました。
濃茶が出され、ハンセン病を患っていた大谷刑部の後の濃茶を回し飲むのを皆がためらっていたところ(一説には鼻汁が茶碗に入った?)、三成がこともなげにその濃茶を飲み干しました。
このことに恩義を感じた大谷刑部は関ケ原の戦いでは三成の西軍に馳せ参じ、奮戦したそうです。
 
 
 
濃茶は「天王山」、宇治の山政小山園詰です。
詰Rさまの「最後まで美味しく飲めました」とのお言葉を嬉しく聞きました。
 
水指は手付の白磁、砥部焼です。キリスト生誕の飼葉桶に見立ててみました。
茶碗は利休好みの魚屋(ととや)、韓国・山清窯のミン・ヨンギ作です。
茶入は織部肩衝、佐々木八十二造、仕覆は十二段花兎です。
茶入は宇和島市に住む黒河さまから「お茶を教えている貴女に役立ててほしい・・・」と贈られたもので、お茶の先生だった亡き母上様の遺愛のお品です。
茶杓は銘「たんちょう(誕生)」、大徳寺・藤井誠堂師作です。
 
 
後炭をしたくって、後炭の炉の景色を見て頂きたくって、まっ暗闇にしたのかもしれません・・・「お炭を直させて頂きます」
釜を上げると、暗闇の中、残り火のキラメキが・・・・。
胴炭は割れないくらい、しっかりと残っていたのですが、後の炭はほとんど燃え尽きています。
匙香をし、残りの湿し灰を撒きました。
輪胴を灰器に移し、炭を逆に継いでいきます。
丸管と割管と枝炭1本を上手に持てるかしら?
後炭の最大の見せ場であり、難関でもあります・・・実は1回で成功させないと、大変なことになることが多いのです。気合を入れて持つと、一度に持てて左向う側に置けました。(「ヤッター!」・・・影の声です)
 
薄茶になり、半東KTさんにお点前をお願いしました。
煙草盆と干菓子器2つが運び出され、薄茶点前が始まりました。
 
薄器はガラス製、ガラス作家の西中千人作です。「暁」という銘があり、呼継(よびつぎ)という特殊な手法で製作されています。
呼継(よびつぎ)とは陶芸の伝統的な修復技法である金継(きんつぎ)の一種を言います。
しかし、ガラスなので従来の呼継とは少し違います。
一度作ったガラス器を壊して、ガラス器の壊れて足りなくなった部分に別のガラス片を埋め合わせてガラスで継ぎ直し、新たな作品を創り出しています。
 
ガラス薄器  銘「暁」 西中千人作 
 
茶碗は上野焼と京焼(橇に乗ったサンタの絵)です。
薄茶は「金輪」、丸久小山園詰です。
2種のお菓子は、「霜柱」と「白雪姫」(リンゴの干菓子)をお出ししました。
「霜柱」は仙台・玉澤製の銘菓、社中の方の差し入れです。
口に含むと消えてしまう繊細な霜柱も、それを入れた菓子器も天使が運んできてくれたみたいで、好評でした。
 
 仙台の銘菓「霜柱」 玉澤製   天使の台のガラス器に入れて
 
 
薄茶と干菓子を頂きながら、皆様、ニコニコと楽しそう・・・お話が弾み、時の経つのを忘れそうでした。
いつか雨が本降りになり、これにてお開きにしました。
 
 
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2019年 クリスマスの茶事・・・(1)

2019年12月28日 | 茶事・茶会(2015年~自会記録)

 

12月22日(日)に我が家でクリスマスの茶事をしました。

クリスマスの茶事にお招きされたことは何回かありますが、自分でするのは京都以来かもしれません?
クリスチャンでないのに、キリスト生誕を茶事でお祝いするのもねぇ~と気が引け、なかなか気乗りがしなかったのです。
・・・それが、突如ヤル気になったのは次の理由からでした。

もう一度今年最後の茶事をしたい! 日ごろお世話になり、親しくしている茶友をお招きし楽しみたい・・・と。 
もう1つは、社中の方をお招きして、少しずつ茶事の楽しさや奥深さを経験してもらえたら・・・と思ったのです。それで、入門1年のIJさんとSYさんをお招きしました。
お二人とも大先輩の中で緊張したと思いますが、お客様(正客Yさま、次客Oさま、詰Rさま)が素晴らしい方なので、優しく穏やかな雰囲気の中にも大事なことをいろいろ学んだことでしょう。

その日は暖かかったけれど、天気予報は曇り のち 雨
何とか後座の席入まで持ってくれれば・・・と願いながら、晴雨両方の準備をして臨みました。

 


玄関入り口にメキシカン・クリスマスリースを飾り、お客さまをいそいそと迎えます。
このリースは20年ほど前にテキサス州サンアントニオで購入したものですが、今も大事に使っています。そういえば、クリスマスグッズは古いものばかりかも・・・。

 


11時に待合に集合です。
板木が5つ打たれ、半東KTさんが甘酒をお出しし、腰掛待合へご案内しました。
待合の掛物は「Silent Night」の色紙、友人の布絵作家・森下隆子さんの作です。
幸い雨はまだ降らず、腰掛待合でお待ちいただき、迎え付けができました。

初座の床は

「去々来々来々去々」のお軸、足立泰道老師のお筆です。

歳月もそうですが、人や物事もまた

「去って行ってしまう、去って行ってはまたやって来る、来たと思うと去ってゆく・・・」

・・・それらを心静かに受け入れる境地とでもいうのでしょうか。 

 

お客様がベテランさんなので初炭所望とし、正客Yさまが炭を置いてくださいました。

炭斗はフィンランド製のカバ細工の籠、水次もスウェーデンで買ったカバ細工の水次(見立て)です。

香合はイギリスのアンティーク、1820年に作られた嗅ぎ煙草入れです。10年前の横浜開港150周年記念の茶事の折に購入した2つの内の1つです。

香は黒方、香元は山田松香木店です。 

 
初炭が終わり、待合のテーブル席へ動座していただき、懐石をお出ししました。
暁庵が懐石を担当しましたので、半東KTさんに給仕をお願いしました。
12月に入ってから、どのような懐石を差し上げたらよろしいかしら?と思案したり、試作したり・・・献立を記念に記します。
 
クリスマスの茶事 献立
  飯椀    一文字 (ゆめぴりか・・でした)
  汁椀    舞茸  胡麻麩  白味噌  辛子
  つぼつぼ  柿なます(忘れてしまい、後から鉢でお出ししました・・・)
  お向う   山かけ  山葵  加減醤油
  煮物碗   銀杏と海老の真蒸  松茸  紅葉麩  三つ葉  柚子
  焼き物   ビーフステーキ ポテトサラダ ミニトマト 芽キャベツ     
  強肴    ふろふき大根  春菊のお浸し
  箸洗い   昆布引き湯  松の実      
  八寸    鮭の昆布巻  干し柿(チーズ)  
  香もの   沢庵  奈良漬  キュウリ糠漬け          
  湯とう   お焦げ
  酒     越乃寒梅
 
 
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師走の五葉会・・・麗しき香付花月

2019年12月27日 | 暁庵の裏千家茶道教室
 
 
12月13日(金)は令和元年・師走の五葉会でした。
この日の科目は、法磨之式、軸莊花月、香付花月です。
 
前日から必要な道具類を用意しておくのですが、
法磨之式・・・花台一式、炭道具、濃茶(包み帛紗にて)、菓子器(菓子)、折据、十種香札と長盆
軸莊花月・・・折据、軸、袱紗、白菊扇、薄茶(花月)
香付花月・・・折据 香道具一式、香包3つ、文台、奉書、硯箱、薄茶(花月)
 
こんなにいろいろな道具を揃えるのは久しぶりです。
3科目のいずれもお勉強することがいっぱいあり、それぞれやりがいがありますが、一番印象深かったのは香付花月でした。
 
 
 
 
折据を乗せた香盆が正客へ運び出され、折据を回し、月(香元)と花(花月の初花)が名乗ります。
香元は重香合に入っている3種の香包から一包を選んで、香を焚き、一同香を聞き、香包に書かれた香銘を拝見します。
香が終わると、花月になり、薄茶を点てて飲んでいる間に香銘にちなむ和歌を考えます。
 
和歌の初心者である私たちにはその場で和歌を詠む・・・というのは少し無理があり、前もってメールで香銘をお知らせしておきます。
この日は、「枯野」「初雪」「埋火」より「初雪」としました。
(丁度、数日前に横浜で初雪のたよりがありました)
 
花月が終わり、亭主が水次を持って立つと同時に八畳へ戻ります。正客は折据を持って、八畳上座七目に置きます。
 
 
 
亭主は水屋から硯箱と奉書を乗せた文台を持ち出します。この日は重硯箱ではなく硯箱を使いました。
すぐに硯箱を上座縁内におろし、両手で蓋を取って縁内下座に置きます。
墨をすって記録紙を作り、奉書を二つ折りにし、硯箱の蓋を閉め、文台の上にのせます。
 
 
文台の正面を正し、文台を正客の前に運びます。
亭主は座に戻ると、「どうぞ文台おまわしを」と正客に言います。
正客から順に、奉書の自分の名前の上に和歌をしたため、次客に回します。
亭主も和歌をしたため、奉書をひろげたまま正面を向こうにし、文台を正客の前に持っていきます。
 
正客から順に歌を拝見していくのですが、五葉会では唱和之式のように2回ずつ唱和していただきます。
麗しき声が朗々と響きます・・・
すると、心を込めて詠んだ和歌が一段と輝きを増し、ストーンと頭と心に入って来ました。
 
それに、和歌を奉書にしたため、皆で唱和する・・・この瞬間、この時間が大好きです。
きっと皆様も、「和歌を作るのは大変だけれど、この優雅な時間を同好の士と過ごす喜びは何とも代えがたい・・・」
と思っていてくださって、素晴らしい五葉会のお仲間に感謝です。
 
 
 
 
     香付花月之式

     二   宗曉
     一   宗貞   二
   月     宗里   三
     三   宗陽
        主 宗悦   一
 
 
     香付花月之記
   
   初雪のたより舞い込む朝の苑
      落ちる葉残る葉ルノワールの秋   宗曉

   初雪の積もりし庭の生垣に
      紅き山茶花さむざむ咲けり     宗貞

   紅葉の映えたる木々に
      初雪のふりそそぎて心凍てつく   宗里

   張りつめし稽古納めの静寂に
      初雪見舞う障子真白く       宗陽

   忙しなき街も我が家も静めたる
       しんしんと降る初雪の朝      宗悦
 
 
  
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釣月庵の茶室拓きの茶事・・・(3)

2019年12月23日 | 茶事・茶会(2015年~他会記録)


        後座の点前座

(つづき)
点前座に廻ると、備前種壷の水指と茶入が置かれ、向切の炉には湯が沸いています。
備前種壷は、N氏のお気に入りで魯山人造の水指と一目でわかり、この後にどのような濃茶が展開するのか、ご亭主の気合をふつふつと感じました。

全員が席入し、しばらく無言の静かな時間が流れます。





茶道口が開き、ご亭主N氏が茶碗を持って進み、濃茶点前が始まりました。
客6人がN氏のお点前に全身全霊で呼応するように見つめます。
紫色の袱紗が捌かれ、いつものように美しい所作で茶入続いて茶杓が清められていきました。

茶碗に思わず惹きつけられました。
大ぶりの茶碗は絵志野、桃山時代でしょうか? 遠目にも深い味わいを感じる茶碗でした。
10月に出かけたサントリー美術館の「黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部-美濃の茶陶」展で印象に残った志野茶碗を思い出しながら、それらに匹敵する名椀だこと!・・・と密かに思いました。
鼠志野というのでしょうか、淡いグレーの亀甲文が更なる魅力を増し、大きさといい形といい、N氏が茶室拓きの茶事に選んだのも大いに頷けます。
この茶碗で6人分の濃茶をしっかり練ってくださいました。

美しい青地モールの古帛紗が出されましたが、暁庵の古帛紗バトラを使います。
手に取り、濃い緑色の薫り高い濃茶を一口含みました。
「まろやかな濃茶で大変美味しゅうございます」
濃茶は「宝授」星野園詰だそうで、初めて頂戴しました。

茶入は信楽肩衝、時代の仕覆は紺地松唐草文。
茶杓は煤竹、上部に深い樋があり、大徳寺管長(宝暦頃の)大真和尚が「瀧」という銘を付けられています。
紅葉美しき箱根の山の懐に抱かれて、釣月庵という草庵に響く「瀧」の音、しばしその音に身を委ね、ご亭主や社中の方々と一体となって夢のような時を過ごしました。





渾身の濃茶が終わり、薄茶になり、座が急ににぎやかになりました。
釣月庵を作られた過程や創意工夫したところなどを興味深く伺いながら、薄茶が点てられていきました。
薄器は渋い古絵唐津の片口、大きな象牙の蓋が目を引きます。
薄茶の茶碗がたくさん出され、どれも個性的でステキでした。

暁庵は、小ぶりな形良い肌色の茶碗、半泥子作です。
御本がまるで桜の花びらが散るがごとく、あるいは、散紅葉が風に舞うがごとく、現われていて、その美しさに見惚れながら緑の薄茶を頂戴しました。





お気に入りの茶室で、お気に入りの茶道具を配して、全身全霊の誠実さでおもてなししてくださったN氏、なんとお礼を申してよいやら・・・・社中一同と共に茶室拓きの茶事を楽しませて頂き、ありがとうございました!

先ずは、第1回が無事に終わり、安堵していらっしゃることでしょう。
これからますます釣月庵にてご活躍されることを祈念しておりますし、思いっきり茶事をなさってくださいまし。
次のお招きを今から楽しみにしています・・・。


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