暁庵の茶事クロスロード

茶事が好きです。茶事の持つ無限の可能性に魅了されて楽しんでいます。2015年2月に京都から終の棲家の横浜へ戻りました。

朝茶事の準備中です

2023年07月28日 | 「立礼の茶事」(2023年~自会記録)

 

暑中お見舞い申し上げます

 

毎日、命の危険が心配されるほどの猛暑が続いていますが、いかがお過ごしでしょうか?

水分補給や温度調節に気を付けてお過ごしください。

さて、昨日7月のお稽古が全て終了し、全面的に来たる30日の朝茶事に向けてスイッチを入れ直しました。

先ずは八畳に点茶盤や喫架をならべ、立礼の茶事の仕様にしました。

点茶盤の脇にも喫架を置くので、客用の喫架3台を並べると八畳でもあまりゆとりはありません。椅子はお客さまが楽なように円椅ではなく、背もたれのある椅子にしています。

お早目ですが御軸も当日の物に掛け変え、待合の掛物も変えました。

 

      (こちらは7月の或る日のお稽古の設えです)

 

一番大変なのは庭の掃除です。

生い茂っている庭木には目をつぶり、日照りで茶色くなった葉を取り除いたり、雑草を抜いたり、落葉を掃除したり、いつもは楽しくやっている作業が、夏はもうもう大変です。朝か夕方の涼しい時に「それっ!」とやらないと、熱中症になるくらい暑いです。

もう一つ大変なのは、朝茶事なので懐石を自分でつくらなくってはなりません(いつもは無理をしないで佐藤愛真さんまたは小梶由香さんに懐石をお願いすることにしています)。

それでも今回は社中のAYさんが懐石や水屋の手伝いを買って出てくださって、二人で頑張ることにしました。今日もこれから煮物椀の試作をしなくっては・・・

献立についてもあれこれ書きたいところですが、茶事が終わってからご報告しますね。

 

      (涼しげな金魚のゼリーを頂きました) 

最後にお道具を並べ、最終決定をしました。

頭の中で考えていたお道具を並べてみると、どうしても合わないものがでてきます。今回も茶入と薄器が別のものになりました。

一方で、あんまりしっくりと合いすぎるのも面白みがないのでは・・・という気がします。以前に「不協和音」について書いたことがありますが、「不協和音」的な存在も少し意識するようになりました。

薄茶は洗い茶巾、お点前は半東のY氏がつとめます。26日のお稽古の時に点茶盤で洗い茶巾のお稽古してもらいました。茶事に使う道具でしてもらったので、いろいろ動作確認などが出来て、きっとY氏は安堵して本番でご活躍することでしょう。

 

 

3人のお客さまを朝茶事でどのようにおもてなしをしたらよいか、亭主の暁庵だけでなく、半東Y氏、懐石&水屋のAYさんと三人四脚で仲良くがんばりたいと思います。 

今日は灰を篩って明日は灰形を作ります。お客さまは小堀遠州流の方なので裏千家流の灰形を楽しんでいただければ・・・と。

今日も35℃の暑さが予想されています。どうぞご自愛ください。    

 

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「颯々の茶事」・・(4)後礼の手紙

2023年07月21日 | 「立礼の茶事」(2023年~自会記録)

 

つづき)

大分時間が経ってしまったのですが、どうしても記録しておきたくって追加いたします。

6月11日(日)に「颯々の茶事」が無事に終わりましたが、その後も茶事が続いたので、一旦は掲載を断念しました。

ここのところの猛暑の中、何度も後礼のお手紙を読み返し、何故断念してしまったのかしら? と後悔しきりです。

「颯々の茶事」で詰をつとめてくださったIさま、いつもやさしい微笑と共に暁庵の茶事を応援してくださるIさま、遅くなりましたが後礼のお手紙を掲載させていただきます。

 

 

 Iさまの後礼の手紙

梅雨に入り長い雨が続いております 

暁庵様のお宅にお伺いする時はほとんどが雨の日でございます 

私はいつも雨を呼んでいるようです

日曜日はお招き頂きまして ありがとうございました

 五山送り 口切り ゆく年(クリスマス)・・・暁庵さまのお茶事は数時間の移ろいの中にいつも物語があり 帰り支度をする頃は重厚な本を読破した気分になるのです

今回はお遍路巡りのお話と共に進めてくださいました

寄付きのテーブルクロスまで季節に合わせて変えていらっしゃるのでしょうか

洗心の軸に迎えられ 伏傘懐石の趣向に合わせて傘をかぶる一閑人の火入なのかと思いましたが 外でも合わせるかのような雨音・・・素晴らしい演出です

 

 

小梶さまのお料理はジュレの醤油や煮物椀の板蕨、大きな田楽と、とても斬新ですね 皆で歓声をあげておりました

    (煮物椀・・・枝豆真蒸 板蕨 隠元 青柚子

鈴や橋のお茶碗を拝見しながら暁庵さまのお遍路巡礼に想いを寄せておりました

お仕事と子育てにお忙しいながらもお茶を勉強され ご退社されてから京都で更に深められ、そしてご縁があって今こうしてご一緒させていただいている事に本当に感謝いたします

かけがえのないお時間を作ってくださっている事に私もまた刺激を受けました そして年齢を重ねて行くことが、ますます楽しみになりました  

どうぞ今後とも宜しくお願い致します

まだまだ雨は続きます   

大好きなのですが 滑りやすい季節です  

お気をつけてお過ごしくださいませ   かしこ

     令和五年六月十三日       Iより

 

   

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「海想の茶事」に招かれて

2023年07月15日 | 社中の茶事(2018年~)

 

令和5年7月2日(日)、半夏生の日に「海想の茶事」へお招き頂きました。

ご亭主は社中Iさま、席は拙宅:暁庵にて正午の茶事(11時席入)でした。

お客さまは、御正客Oさま、次客暁庵、三客松谷千夏子さま、四客KMさま(小堀遠州流)、詰AYさま(社中)です。

「海想の茶事」については後礼に差し上げた手紙を少しアレンジして記録しておこう・・・と思います。どうぞよろしくお付き合いください。

 

       (「拈華微笑」の御軸  前田宗源禅師筆)

 

 後礼の手紙より

Iさま

半夏生の季節になりました。

この度は海想の茶事にお招き頂き、ありがとうございました。

席中でも・・終わってからも・・何度もため息が出るほど、良いお茶事でございました。

茶を教える者にとって生徒さんの茶事へお招きされることほど嬉しいことはございません。

・・・それで、この度はお道具やお支度をなるべく見ないようにしていたので、次客としてIさまのお茶事を心ゆくまで楽しませて頂きました。

「先生の心臓に悪いのでは・・」と心配してくださっていましたが、そんなことは全く無く、スラスラと点前をなさり(そのように見えました)、お話も分かり易く「流石・・」と感心しきりでした。

床に掛けられた御軸「拈華微笑」

釈迦が花を一輪かざして弟子たちに見せると、その意を解した迦葉一人がただ微笑みを返したというお話が伝わっています。

「微笑みを介して互いに理解し合うこと」・・静かな茶室の中での主客の無言の会話、そして海中で素晴らしい景色に遭遇した時のダイバー同士のアイコンタクト・・・言葉だけではない、心を通い合わせるシーンが強く私の胸を揺さぶりました。

 

 

少しばかり心配していた初炭でしたが、日頃の努力の甲斐あって右手が右利きの人のように働いていました。きっと本人にとってはもどかしい思いがあるのでしょうが、左利きと言わなければわからないくらい働いていたと思います。

京都在住の時に知り合ったSさまという方は交通事故のため右手と左手の指がいくつか使えなくなってしまいました。それでもお茶がお好きで、私が茶事に招かれたときは右手と左手がそれはもう絶妙に助け合って、流れるようにお点前をされていました。

きっと長い時間を掛けて血のにじむような努力をされたと思うのですが、「お茶が好きだから出来たと思う・・・」の一言で、素敵な笑顔が今も思い出されます。

 

   (主菓子は銘「半夏生」 大宰府の藤丸製)

古染付の小壷の茶入から「不識」の茶杓で緑の抹茶(星授、星野園)が掬い出され、心を込めて練ってくださった濃茶を美味しく頂戴しました。

長い時間をかけて集められた茶道具が随所でご亭主の想いを生き生きと語っていましたし、お道具も喜んでいるように思われました。

私は中でも「月日貝香合」(上杉満樹作)にとても心惹かれました。本物の貝と伺ってびっくりし、深い海の底で赤と白の美しくも不思議な貝が生まれる神秘を思いました。

ダイビングしている海中で交わす「拈華微笑」のお話はとても心に残り、お茶だけではない一期一会の海の景色を見てみたいものと憧れます。一方で茶室での「拈華微笑」の境地は暁庵にとって永遠のテーマになりそう・・・。

御正客Oさまもきっと十二分に楽しまれたことでしょう。Oさまのお人柄もあって終始なごやかな雰囲気で、詰のAYさまにもいろいろ助けて頂きました・・・。

ご友人の日本画家の松谷千夏子さま、お茶人の雰囲気がおありの素敵な方ですね。小堀遠州流のKMさま共々これからも親しくお茶のご縁が続くと嬉しいです。

(待合いの「夏待ち」の掛物  松谷千夏子画)

最後の挨拶で申しましたように「Iさまはご自分のお茶事を立派になさった・・・」と思いました。どうぞこれからも一つ一つ丁寧にお茶事を続けてくださいませ。

お茶事をすると、成功も失敗もあるかと思いますが、それが全てIさまの糧になると思います。そしてお茶事を通して素敵なお茶人さんと交流を深めて、お茶を大いに楽しんでください。

 私もいつまで出来るかわかりませんが、一生懸命にお茶を生徒さんに教え、同時に今自分に出来る「立礼の茶事」に取り組んでいこう・・・と覚悟を決めて踏み出したところです。

そのこともあって、Iさまのお茶事に邁進している御姿からたくさんの元気とエールを頂きました。

ありがとうございます。

 

(煮物椀に舌つづみ・・・海素麺、鮎の一夜干し、茗荷、青柚子)

    (焼物の鰻のけんちん焼きと青楓麩)

末筆になりましたが、半東を務めてくださった社中KTさま、美味しい懐石を作ってくださった佐藤愛真さまにくれぐれも宜しくお伝えくださると嬉しいです。    かしこ

   令和五年文月吉日                                  

                     暁庵 拝                        

 


箱根・水無月の茶事に招かれて・・・(2)

2023年07月06日 | 社中の茶事(2018年~)

つづき)

懐石が終わり、初炭になりました。

すぐにパチパチと火がはぜる音が聞こえ、安堵しました。M氏は火の扱いが上手でいつも感心 していたので、そのことをお尋ねすると、

「最初にお習いした先生が男性は火の扱いを任されることが多いのでしっかりと修練するように・・・」と厳しくご指導してくださったそうです。それにしても入門したての若い男性によくぞ厳しくご指導なさったこと! 本当に素晴らしい先生だわ・・・と尊敬しきりです。

初炭手前がスラスラと終わり、香合が拝見に出されました。

香合は手に取ると石のように重い埋もれ木香合。埋もれ木は川底に数千年を経て堆積した樹木が炭化したもので、M氏が転勤途中で滞在した仙台市を流れる広瀬川の産でした。桐の葉と花の蒔絵が描かれていました。

縁高で主菓子が運ばれました。紅白の金団で金箔が載っています。

出来立てのように柔らかく、中のつぶ餡が絶妙な味わいの金団でした。菓子銘は「寿ぎ」です。

後でお伺いすると、石川県小松市の行松旭松堂へ特注してくださったそうです。お茶の不思議なご縁でM氏は行松旭松堂のご主人と親しいことを伺っていたので、嬉しいサプライズの金団でした。

再び先ほどの腰掛待合へ中立しました。

 

しばらくして幽かに銅鑼の音が聴こえてきました。その響きの良さにしばし魅せられ、再び蹲を使い後座の席入りです。

立礼席は片づけられていて、床には花が活けられていました。

青紫の桔梗、笹百合、利休草が竹一重切(池田瓢阿作)に生けられ、壁に露が清々しく打たれています。

間もなく濃茶点前が始まりました。

「喫茶去」の御軸の如く、しっかりお心を受け止めようと、客3人が静かにお点前を見詰めます。端正なお点前にいつも見惚れてしまうのですが、指先まで神経が行き届いているような所作で茶入や茶杓を間合い好く浄めていきました。

絶妙な柄杓の扱いで適量の湯を注ぎ、濃茶をしっかり練ってくださいました。茶の馥郁とした香りが茶室を満たしていきます。

茶事では濃茶の時間が一番大切で、客にとっても色々な味わい方が出来るのですが、この時は心を込めて練ってくださった御茶を半ば夢の中にいるような気持で頂戴しました。

「美味しゅうございます!」 (ちょっと胸がつまる思いで・・・)

美しく練られた濃茶は甘くまろやかに舌や喉を潤していきました。濃茶は「青葉の昔」(仙台市・大正園詰)です。

          (後座の点前座・・・萩焼の水指)

茶碗は黒楽。出身地に近い名古屋市の津島窯だそうで、小ぶりで口づくりや黒釉薬の流れが味わい深い茶碗です。

茶入は古瀬戸の丸壷、鵬雲斎大宗匠の「松聲(しょうせい)」という銘があります。丸壷がかわいらしく、茶と黒の釉薬が魅力的な景色を醸し出していました。このような茶入とお出会いがあったのが羨ましいです・・・仕覆は牡丹二重蔓金襴だったかしら??

茶杓は繊細な2つの虫食い穴が印象的な古竹で作られ、銘「閑日月」(紫野・方谷浩明師作)です。「のんびりと一日一日を大事に過ごしていこう・・・」という意味でしょうか・・・いいなぁ~

 

    (点前座の障子の景色が刻々と変化します・・・後炭の風炉中拝見)

 

最後の薄茶になり、半東T氏にも相伴して頂き、一期一会の幸せな時間を全員で共に過ごしました。

「清風」と鵬雲斎大宗匠が書かれた茶椀でお薄をたっぷり頂き、100才を迎えられた大宗匠が歩んで来られた茶の道程に思いを馳せました。薄茶の茶杓銘「養老」にM氏の温かな激励の気持ちが伝わって来て嬉しかったです。

暁庵も「無明払曉」の中、とにかく出来るところまで一生懸命にお茶を生徒さんに教え、同時に今自分に出来る「立礼の茶事」に取り組んでいこう、今までご縁があった方をお招きして・・・と覚悟を決めて踏み出したところでした。

そのこともあって、M氏から「水無月の茶事」を通して、たくさんのエールを頂いた気がして感無量でございました。

きっとYKさまもKTさまも同じ思いでM氏のエールを受け取ったことでしょう。

帰り道、本当に幸せな時間だったわね・・・と異口同音でした。

渾身のおもてなしを頂きまして、誠にありがとうございました。    

 

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箱根・水無月の茶事に招かれて・・・(1)

2023年07月03日 | 社中の茶事(2018年~)

 

 

令和5年6月25日(日)に社中M氏の「水無月の茶事」にお招きいただきました。

「水無月」の「無」は「の」を意味していて、水が無い月ではなく雨が多く水が溢れる「水の月」を表わしているそうです。

暁庵をお招きくださったM氏は長年の茶道精進の甲斐あって昨年目出度く準教授を坐忘斎お家元から拝受し、そのお礼の茶事に招いてくださったのでした。

翠滴る山懐に抱かれた箱根湯本の仁庵へ次客YKさま、詰KTさまと3人でいそいそと出かけました。

紫陽花が鮮やかに咲き乱れる仁庵へ伺うのも5年ぶりでしょうか? 

 

 

広間の待合には煙草盆が美しく調えられ、床に「喫茶去」の横物が掛けられていました。御筆は紫野弧蓬庵・小堀卓厳師です。

大好きな禅語「喫茶去」が嬉しくも、厳しくも心に迫って来ました。きっとご亭主は万感の思いで美味しい御茶を練ってださると思うし、御茶を頂戴する客もそのお心にしっかりと応えなくてはなりません・・・ね。

詰KTさまが板木を打つと、半東T氏が紅い切子のグラスに冷たい飲み物(梅ワイン?)をお運びくださり、腰掛待合へご案内頂きました。冷たい梅ワインが乾いた喉をゆっくりと潤してくれ、期待で胸を膨らませながら腰掛待合へ向かいました。

 

 

腰掛待合で辺りの風情を楽しみながら待っていると、ご亭主M氏が水桶を持って現われました。ご挨拶を交わし、緑の苔に覆われた露地を通リ、蹲で身を浄めてから仁庵(四畳半台目席)へ席入りしました。思いがけなく立礼席になっていて温かなご配慮を感じ、嬉しかったです。

床の御軸は「無明払暁」と何とか読め、米寿大龍と書いてあったような・・・。

相国寺・有馬頼底師の八十八歳の御筆だそうで、「無明払暁・・無明の中、今ここから始まる」を意味するとか・・・。

      (「無明払暁」と書かれた御軸)

「無明払暁」と伺って、以前訪れた直島(香川県香川町)の「家プロジェクト」の一つ、「南寺」(ジェームス・タレル)をぼんやり思い出しました。

一足中へ入ると、そこは漆黒の無明の世界でした。暗闇の中を不安、恐れ、期待を感じながら壁を伝って進んでいくうちに、身体に染みついた常識や不要な感情がそぎ落とされて、本来の人間の持つ感覚だけが研ぎ澄まされていくようでした。

ベンチに座り、しばらく無明の世界へ身を置きました。すると、闇に目が慣れたのでしょうか? 一筋の光明が見えてきて、次第に目が明るさをとらえていきました・・・。

私には難しい仏教的な意味合いはわかりませんが、これから切り開いていかれるM氏の茶の世界への光明(道しるべ)を示しているように思われ、心の中で応援の拍手をしました・・・。

 

       (仁庵にある道しるべ)

懐石になり、仁庵・調理長心尽くしの懐石を感激しながら賞味しました。特に湯葉しんじょう水無月の煮物椀が絶品!でした・・・。

記念に献立の写真を掲載します。 つづく)

 

     箱根・水無月の茶事に招かれて・・・(2)へつづく