井沢満ブログ

後進に伝えたい技術論もないわけではなく、「井沢満の脚本講座」をたまに、後はのんびりよしなしごとを綴って行きます。

命がけの迫力 韓国ドラマ

2016年07月23日 | 日記

韓国の連続ドラマ「星から来たあなた」全21回だったか、見終わって
ほぼ20時間も登場人物と付き合うと別れが寂しかったりして、同じ俳優の
出ているドラマを探して「再会」を試みたりなど、国が違うので
同業者の仕事ということではなく、一ファンで見られるのも
私が韓ドラを時々見たくなる理由の一つです。

日本の連ドラで、数年後にDVDを借りて一気見した作品はなく
韓国ドラマ特有の麻薬的何かが込められているようです。
昔の大映ドラマにたとえられますが、ベタな展開に惹かれている
わけでもなく・・・・・何かと思えば、皆が必死なんです。

芸能の市場が狭いので生き残るのに皆が体を張っている。その緊張感が
どうやら「麻薬」のようです。脚本家、監督、俳優、それぞれが
これで失敗したら後がない、と命を懸けている迫力。

日本の10回連続でもしんどいのに、韓国は20回、30回。
徹夜続きも珍しくないようで、これはスタッフはまだいいのですが
主演の男女優は、よれよれになれないから大変です。
皆、根性が違うのです。

チャン・テユ監督の感性の繊細さや撮り方の上手さにほとんど
恍惚となり、こういう才能と一緒に仕事したくて、せめて
会いに行けないかな、など思ったりしてるわけですが・・・・

優れた監督にありがちですが、役者に対してサディスティックです。
DVDには特典映像がついていて、撮影風景がレポートされいます。
その中で、悪役の
シン・ソンロクへの演技指導がほとほと、
偏執的なまでに細かいのです。視線から手の角度まで、こまごまと。
挙句「感じが出てない」と冷たい一言を浴びせます。
NGは一人のシーンではそうでもないのですが、相手役がいる時
自分の失敗で撮り直すのは、役者にとってはつらいことです。

とりわけ、シン・ソンロクのシーンにはベテランの大俳優がいるので、
シン・ソンロクはそのつど謝って、見ている私も心臓が縮かみました。

撮影現場は知っているので、雰囲気はビシビシと伝わりシン・ソンロクの心中が痛いように解るのです。

私の目から見たら、なんでここNGにするかなあと思うところまで
撮り直し、執拗に撮り直し。

まるで監督の役者いじめです。本当にいじめて喜ぶねじくれて暗い人も
いるのですが(いるんです、変態監督)、チャン・テユ監督のシン・ソンロクへの厳しさは、おそらく愛情です。亡き蜷川幸雄さんが、誰だっけかなあ、
最近名前が出て来ない・・・・えっと・・・・まだ若手の部類・・・・でもないのか。
誰それへの舞台演出中の、怒鳴り方は半端なかったですが、
これ、まぎれもなく愛でしたねえ。好きだから叩いて叩いて、一番
いいところを引き出す。叩かれて嬉しがるのも役者です。
信頼関係が前提ですが。

シン・ソンロクはクレーンで、高層ビルの屋上から吊るされたりしています。
高所恐怖症の私は、見ていてすくみあがりましたが。
監督自身が言ってましたが「韓国だからやれた」。
ハリウッドなら人権問題です。ハリウッドよりは人の命が
安いからやれた、と身も蓋もないことを言ってしまいますが。

普通、青いスクリーンを前に演技して合成するのですが、サディストチャン・テユ監督は、そういう仕掛けは使わず、本気で吊るすのです。
怖かったと思います。しかし、怖がるシーンなのでいいのです。怖がりながらも、
強気の芝居を要求されるシン・ソンロク。ミュージカル出身で運動神経が
発達しているそうで、だから耐えられたのかもしれません。

仕掛けでは出ない迫力って、画面を通じ伝わるものなのです。

いじめ抜かれたおかげで、脇役ながらこのドラマにおけるシン・ソンロクの
存在感は強く、次の仕事につながったと思います。

監督はいじめる一方かというとそうでもなく、主役のキム・ヒョンスは
若いながら、監督の指示に反論したりもしていて、またその反論が
適格で、さすがスターに上り詰める子は違うなあ、と感性のよさに
舌を巻きました。

日韓関係がこんなふうで、共に仕事をする機会はないでしょうが、
私にとって韓ドラで優れた人たちの仕事は、いつも教科書です。