万国時事周覧

世界中で起こっている様々な出来事について、政治学および統治学を研究する学者の視点から、寸評を書いています。

日本国政府は「日本版エンティティ・リスト」の作成を

2020年10月16日 12時33分23秒 | 日本政治

 報道によりますと、日本国政府は、アメリカが提唱している「クリーンネットワーク計画」への参加を断ったそうです。政府のこの判断につきましては、日本国民の多くが不安を感じるのではないでしょうか。何故ならば、情報通信分野では、既に、中国の影が日本国政府に忍び寄っているからです。

 

 5Gに関する政府調達については、日本国政府は、早い段階でアメリカの方針に同調し、中国製品の排除を決定しています。このため、日本国民は、政府は中国製品に対して締め出しに動いているとイメージを懐きがちです。しかしながら、現実には、アメリカによる制裁の発動後でありながら、総務省、文科省、農水省の三省は、中国のセンテンス製のAI顔認証監視カメラをソフトバンク経由で本省に設置しているというのです。センテンス・グループが、アメリカの「エンティティ・リスト」に含まれているにも拘わらず…。

 

アメリカ政府が作成している「エンティティ・リスト」とは、いわば、不適切な通商相手を定める‘ブラックリスト’です。同‘ブラックリスト’への登録は、アメリカの安全を脅かすか否か、という安全保障の観点に加え、核開発といった国際法違反やウイグル人弾圧への制裁としての人道問題等も基準として設けられており、ロシア、イラン、北朝鮮、並びに、中国の企業がリスト入りしています。もっとも、中国企業がロシア、イラン、北朝鮮に対して製品を供給しているケースが多く、事実上、ファーウェイ、ハイクビジョン、ダーファ・テクノロジー、そして、センスタイム・グループといった中国のIT大手が主たるターゲットです。

 

北朝鮮やイランの核開発は、直接的であれ、間接的であれ、日本国にとりましても安全保障上の脅威ですし、国際社会もまた、これらの諸国に対して国連制裁をはじめ厳しい経済制裁を科しています。核やミサイル開発は、アメリカ一国の国益に関わる問題ではなく、日本国を含む国際社会全体の問題なのです。しかも、最大の制裁対象国である中国は、国際法違反の常習犯なのですから、これまで国際的な制裁を逃れてきたこと事態が不自然であったとも言えましょう。とりわけ日本国は、尖閣問題を含め中国からの直接的な軍事的脅威に直面していますので、率先して中国排除に動いてよいはずなのですが、何故か、政府は、対応措置を採ろうとはしていないのです。これでは、日米同盟を考慮すれば、アメリカに対する背信行為とも見なされかねませんし、国際社会の平和に対して背を向けていると批判されても致し方はありません。

 

さらに日本国政府に対して懸念されることは、‘何もしない’どころ、自ら親中の方向に動こうとしている点です。日本国民が知らない間に、日本国政府は、情報通信分野において中国を呼び込んでおり、それは、日本国が中国を中心とした「ダーティーネットワーク計画」に絡めとられる可能性を示しています。アメリカによる対中政策が発動された後にあって、総務省、文科省、農水省の三省は、「エンティティ・リスト」に載るセンテンス・グループのAI顔認証監視カメラをソフトバンク経由で設置したことは、先に述べましたが、同センテンスの製品には、遠隔修理を名目とした‘本社への通信ソフト’が内蔵されており、それが、‘バックドア’として機能するというのです。日本企業も顔認証ステムの開発に取り組んでおり、中国でも一部日本製が採用されているそうですが、通常、政府は、多少は割高であっても、情報管理や産業政策の側面から自国製品を導入するものです。ところが、日本国政府は、敢えて政府関連を含む情報が中国に筒抜けとなるリスクを無視し、中国製品を導入しているのです(総務省、文科省、農水省に出入りした人物は全て中国にチェックされている…)。

 

こうした日本国政府の行為は、アメリカに留まらず、日本国民に対する背信行為となるのではないでしょうか。日本国民からしますと、政府が自国民を‘デジタル情報’という形で中国に引き渡したかのように感じられます。「クリーンネットワーク」への不参加の件も、アメリカからの招待を、政府が国民に賛否を問うこともなく、勝手に断ってしまったということになりましょう。情報通信分野における市場開放は、経済活動のみならず、個々の国民生活の細部にまで外国の通信網が入り込むことを意味しますので、情報化時代にあってはとりわけ‘リモート監視’、あるいは、‘リモート支配’になりかねず、国民の安全や自由に直結する重要問題です。

 

「クリーンネットワーク」への参加を断るに際して、日本国政府は、自国独自で対策を講じる旨をアメリカ側に伝えたそうです。センテンス製品の採用例からしますと、この弁明も怪しい限りですが、独自路線を選択するならば、「日本版エンティティ・リスト」を作成し、それを内外に向けて公表しないことには、日本国民は納得しないのではないでしょうか。国民に隠れて陰でこっそりと政府が中国製品を使うようでは、日本国政府に対する信頼は低下の一途を辿るばかりではないかと思うのです。


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