恋、ときどき晴れ

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

茶倉譲二本編10話~吉祥寺恋色デイズ

2014-06-02 11:16:39 | 吉祥寺恋色デイズ 茶倉譲二

☆☆☆☆☆
10話その1

子供時代の思い出


雨の中濡れながらベンチに座っている中学生の譲二を見つけた百花と良子。

風邪を引くといけないからと良子は家につれて帰る。

お腹がすいた譲二におにぎりを作る百花と良子。

明里に失恋した譲二。

涙を流す譲二に「いつか譲二君のことが一番大好きな女の子があらわれるよ。」と良子


☆☆☆☆☆

  とうとう百花ちゃんに会える日が来た。



教えてもらった住所を片手に佐々木家を訪ねた。

ドキドキとはやる胸を抑え、少し緊張して呼び鈴をならす。


間を置かず、にこやかな良子さんがドアを開けてくれ、中へ迎え入れてくれた。

佐々木夫妻に挨拶をしている間、百花ちゃんは信じられないという顔で俺を見つめていた。


1ヶ月会わなかっただけなのに、ずっと大人びて見える。

ふっくらとしていた頬が少しすっきりしたせいだろうか…。


 余裕の笑みを見せながら、俺の心臓は早鐘のように鳴っていた。


不思議そうな百花ちゃんに、なぜ俺が佐々木夫妻を知っているのかを良子さんが説明してくれた。

俺が中学生の時、佐々木さん宅を訪ね、その時にメールアドレスを交換してメル友になったこと。

大学の時にインターンシップ先を良子さんに相談したところ、ご主人の会社を紹介してもらったこと。

どの話も百花ちゃんは初めて聞いたらしい。

そして「マスターがちゃんとしているから驚いた」という。


譲二「これでも、ちゃんとした大人だからね。」


良子さんに明里の結婚式のことを聞かれる。


譲二「ええ、無事に滞りなく。」

佐々木父「結婚? 譲二君が?」

譲二「いえ、僕の親友と、幼なじみです。こっちで挙式をあげるっていうんで…」

良子「ふふっ。新婦は、実は昔、譲二君が好きだった女の子なのよね?」

譲二「いやだなぁ、それバラしちゃいますか?」

良子「懐かしいわね。あれからもう10年以上にもなるのね。」

譲二「やめてください…昔の話ですよ。」


 良子さんが、明里にふられた時の惨めな俺の話まで持ち出して来そうなので、慌てて遮った。


そして、俺が撮った結婚式での2人の写真を3人に見せた。

百花ちゃんは明里の花嫁姿をじっと見つめている。


(ほら…。明里の結婚相手は俺じゃないだろ?)


心の中でつぶやきながら、俺はひと月ぶりに会う愛しい人を見つめた。



☆☆☆☆☆

 ヒロインの目からは大人びて、どうどうと佐々木夫妻と話す譲二さんも本当は緊張であがっていたと思う。



☆☆☆☆☆
10話その2

 佐々木夫妻に許しをえて、百花ちゃんを散歩に連れ出した。


 明るい日差しの中、2人で公園をそぞろ歩く。


百花「どういうことなんですか?」


 俺は明里が俺の親友とずっと付き合っていたことを話した。

そして、明里は家を捨て、やっと好きな人と結婚したのだということも。


百花ちゃんはまっすぐな瞳で俺を見て尋ねた。


百花「マスターは悲しくないんですか?」


百花ちゃんはやっぱり誤解している。

俺は明里のことを昔好きだっただけで、今好きなわけじゃないと言った。


(これで分かってくれるよね?)


しかし、百花ちゃんは視線を落とすと少し拗ねたように呟いた。


百花「クロフネで……明里さんと抱き合っていたじゃないですか?」

譲二「俺が? 明里と? いつ?」


百花ちゃんの思わぬ言葉に彼女を問い詰めた。


なんと百花ちゃんは、明里が結婚を報告に来た時、俺とハグしてたところを目撃していたらしい。

俺は百花ちゃんにも軽くハグしてみせた。

そして、明里は海外生活が長かったから、明里にとってはただの挨拶なんだと説明した。


それにしても……。

やっと百花ちゃんに会えたというのに……。

なんでまた明里の話ばかりしてるんだろう?


俺は明里の話をするためにここへ来たわけじゃない。


俺がここへ来たわけは……。


もう自分を抑えることが出来なくて、百花ちゃんを抱き寄せて、しっかり抱きしめた。


譲二「本当に好きな人にはこんな風にするよ。」


今……やっと自分の腕の中に一番大切な人がいる。


この一ヶ月どんなにこの日を待ちわびていただろう。

もう絶対に放さない。



百花ちゃんを抱きしめたまま、ちょっと拗ねて尋ねてみた。


譲二「どうして俺にだけ手紙がないの?」


百花ちゃんの腰は抱いたまま、少し離れて顔を覗き込む。


譲二「だって変でしょ。ハルや一護や…みんなには手紙を残してるのに、俺にだけないなんて」

百花「だって……だって、マスターには『カルボナーラのレシピ』を書いたから…。」


俺はますます拗ねてポツリと言った。


譲二「でも、手紙も欲しい」


百花ちゃんはハッとしたように俺を見上げた。


譲二「ハル達に宛てた、手紙みたいなのが欲しい。」

百花「そんな。」


大人げないとは思ったけど、一度本音が出ると後から後から止まらなくなってしまう。


譲二「みんなの、読ませてもらったけどさ。すごかったじゃない。『ハル君大好き』『一護君大好き』って。」


百花ちゃんの大きな瞳を見つめて、甘えて言った。


譲二「俺にも言ってよ、百花ちゃん」

百花「だって…。だって、好きって言ったら迷惑になるって…」

譲二「…うん」

(そんな風に思っていたんだ…。)

百花「マスターには、明里さんがいるのに…。私が『好き』って言ったら、きっと迷惑だ…って…」


(ああ、また、明里か…。)


譲二「…迷惑じゃないよ。」

(むしろ嬉しいくらいだ…。)


俺の胸は早鐘のように打っている。

思い切って囁いた。


譲二「だから、俺にも『好き』って言って」

百花「マスター…。好きです…」

譲二「うん…」


 百花ちゃんの口からその言葉を聞いて、俺の心臓はドクンと大きな音を立てた。


百花「マスターのことが好きです…。誰よりも誰よりも、大好きです。」


(嬉しい。すごく嬉しくて…)


譲二「…良かった。ずっと、百花ちゃんの気持ち、知りたかった…。百花ちゃんに触れてもいいのかどうか分からなくて…ずっと不安だった…」

百花「そんな…全然そんなふうに見えなかった…。好きなの、私だけだと思ってた…」

譲二「ハハッ、ごめんね。ウソつくのが上手な大人で」


そして、百花ちゃんを胸に抱き寄せて言った。


譲二「しかも、先に女の子に告白させちゃうような卑怯な大人で…ホント、ごめんね。」

百花「マスター」

譲二「でも…こんな俺を、好きになってくれてありがとう…。本当に本当に…ありがとう…」


 目に滲んできた涙を見られないように、百花ちゃんをいっそう強く抱きしめた。




☆☆☆☆☆

 ゲームの方では、譲二さんが「好きになってありがとう」と言っている時、泣いている描写はないけど、多分泣いてしまっていると思う。


 ヒロインに「好き」って言ってもらえるまで、実は不安で不安で仕方がなかったと思うから。


☆☆☆☆☆
10話その3

 佐々木夫妻にレストランでごちそうになった。

俺がごちそうのお礼を言うと、佐々木夫妻は百花ちゃんが日本で世話になったお礼だと言ってくれた。


 俺は意を決して、佐々木夫妻に頭を下げた。


譲二「では、もう一つお願いしたいのですが」

佐々木父「なんだい。譲二君」

譲二「百花さんを、日本に連れて帰ってもいいですか?」

 
驚く3人。


譲二「日本で寂しい思いはさせません。高校も、ちゃんと責任をもって卒業させます。ですから…百花さんを、連れて帰らせてもらえませんか?」


俺は深々と頭を下げた。

佐々木父「えっと。それはどういうことなのかな、譲二君。娘はまだ高校生で、本来なら親許を離れるような年でもなくて…」

良子「あら、やだ。父さんったら。高校生にもなったら、家族より好きな人と一緒にいたいものでしょ。ね、百花?」

 良子さんが援護射撃をしてくれる。

百花「え!?」

佐々木父「そんな、好きな人って…まだ高校生なのに…」

良子「百花、あなたはどうしたいの?正直に言ってもいいわよ。」

百花「…帰りたい。マスターと一緒に、日本に帰りたい」

佐々木父「百花…!」

良子「じゃあ、決まりね」


俺はほっとして言った。

譲二「ありがとうございます。」


佐々木さんは納得いかない顔をして、抗議の声を上げたが良子さんは慰めるように言った。


良子「だってしょうがないわ。百花は、ちっちゃなころから『じーじ』が大好きだったんだもの」


(良子さん……ありがとう。)


☆☆☆☆☆

 ヒロインを連れ帰るのがもう一つの目的だったので、これでミッション完了!


☆☆☆☆☆


10話その4

 夜、佐々木邸の客間で寝る準備をしていたら、ノックの音がした。

ドアを開けると、パジャマ姿の百花ちゃんが立っている。

一瞬どきっとして、尋ねた。


譲二「…百花ちゃん?どうしたの?」

百花「マスターと話がしたくて…」

譲二「え? でも今、夜中の0時だよ?」

百花「そうですけど…ダメですか?」

譲二「…うーん。じゃあ、ちょっとだけだよ?」


百花ちゃんを招き入れ、ドアを閉めた。

少しだけなら、大丈夫だろう。

たぶん…。


百花「あの、マスター…。最初から、私を日本に連れて帰るつもりだったんですか?」

譲二「そうだよ。明里の結婚式への出席はオマケ。本当の目的はこっち」

百花「えっ?逆じゃないんですか?」


やっぱり百花ちゃんは分かっていなかった。

俺がどんなに苦しい1ヶ月を過ごしたか、そのためにここに来たのだということを。


譲二「そんなわけないでしょ。だいたい、前にも言ったじゃない。『俺は明里よりも百花ちゃん優先』って」

百花「たしかに、言いましたけど…。じゃあ、本当に私を連れて帰るために?」

譲二「そうだよ。絶対に、俺のことを『好き』って言わせて、連れて帰ろうって思ってた」

百花「マスター…」

譲二「だって、寂しいじゃない。遠距離恋愛なんて。それとも、百花ちゃんは平気?」

百花「平気じゃないです」

譲二「だよね?良かった」

譲二「あー、でも、誤算だったな。連れて帰るって言っても、すぐにはいかないんだねぇ」


百花ちゃんの頭をポンポンと叩く。

こんなことをするのも1ヶ月ぶりだな。


百花「はい。出国するためのいろいろな手続きを済ませないといけないから。もしかしたら1ヶ月くらいかかるかも…」

譲二「1ヶ月かぁ。俺、明日にでも連れて帰る気でいたのになぁ…。ま、いっか。これまでずーっと我慢してきたんだから、ちょっとだけ延びたと思えば…」


☆☆☆☆☆
10話その5

百花「あの…もう一つ聞いてもいいですか?」

譲二「どうぞどうぞ」

百花「マスターって、その…いつから私のこと、好きだったんですか?」

譲二「うーん、いつからだろう…。かなり前からだった気がするけど…」

百花「ホントですか!?」

譲二「うん。ただ、認めるのに時間がかかったていうか…。『いやいや、気のせいでしょ』って、ずーっと自分の気持ちを誤魔化してきたからなぁ」

百花「そんな、誤魔化すって…」

譲二「だって、さすがにマズイでしょ。百花ちゃん、まだ10代なんだし。これが、10歳違いでも37歳と27歳くらいだったら問題ないんだけどねぇ。勢いで押し倒しちゃうとか、できちゃいそうだしねー」


百花「押し…っ!?」


久々の俺のジョークに百花ちゃんは真っ赤になった。


譲二「だからね、『あー、もうこれ誤魔化しきかないわー』って思ってからは、ホント、辛かった。俺、ホント、よく頑張ったと思うんだよねー。」

百花「…」


ちょっと刺激が強かったかな。

そっと百花ちゃんの顔を覗き込む。


譲二「…ひいてる? もしかして」

百花「いえ…ただ…ちょっとビックリしただけです」

譲二「なんで?」

百花「だって、私がドキドキしているようなときも、マスターはいつも平気そうだったから」

譲二「そんなわけないでしょ。平気なフリしていただけだよ。」

百花「そうなんですか?」

譲二「当たり前でしょ。ほら、あの雷の夜…あったじゃない?」

百花「はい…」

譲二「あのあたりからさ、もうずーっとヤバかったんだよね。触れたいって思うけど、怖がらせるのはイヤだし…。好かれてるのかな…って思って確かめようとしたら、百花ちゃん、逃げ出しちゃうし…」

百花「あ…」

譲二「さすがにさぁ、アレはヘコんだよなぁ。俺、百花ちゃんに嫌われたって、本気で思ったもん。」

百花「ふふっ」

譲二「え、笑うとこ!?」

百花「だって…マスター、なんだか可愛いから…」

譲二「可愛いって!10歳も年上つかまえておいて。」

百花「だって…。ハハッ」

譲二「…ああ、もうこれだから、女の子は…。『可愛いなぁ』って思ってたら、いきなりキレイに見えたり、『子供っぽいなぁ』って思っていたら、急に大人びた顔したりするし…」

百花「今の私は、どっちですか?」

譲二「教えません」

百花「ズルい…」

譲二「ズルくありません。それより、もう夜も遅いんだから、そろそろ寝なさい」

百花「ええっ?」

譲二「ほらほら、部屋に戻って…」


 俺は百花ちゃんの体を押して、部屋から出そうとした。


百花「もっと、マスターと一緒にいたいのに…」

譲二「…また、そんなこと言って…。ダメだよ。さっきも言ったけど、これでも結構ギリギリなんだから」

百花「!」

譲二「だいたいね、百花ちゃんは無防備すぎ。夜中にパジャマで男の部屋に来るとか、ありえないからね。それとも、俺のこと…男として全然意識してないの?」

百花「…ごめんなさい」

譲二「分かってくれればいいけどさ…」

百花「じゃあ、もう寝ます…」


ちょっと寂しそうな、物足りなさそうな顔が可愛いくて、ドキッとする。


譲二「うん…」

百花「おやすみなさい」

譲二「うん…」

百花「…」


百花ちゃんは潤んだ瞳でじっと俺を見上げている。

できれば……。

このまま帰したくない…。


譲二「…。ああ、もう…まいったな…」


俺は百花ちゃんを抱き寄せて、額にキスをした。

これ以上はだめだ。

俺の理性が持たない。

抱きしめたまま囁いた。


譲二「みんなにはヒミツね?」

百花「はい…」

譲二「お父さんにも、お母さんにもだよ?」

百花「はい!」


目一杯見開いた瞳は俺をまっすぐに見つめてキラキラしている。


譲二「…ああ、もう…なんでそんな可愛いカオするの…。がんばれ…俺…」

百花「え?」

譲二「なんでもない。こっちの話。じゃあ、もう…本当におやすみ」


百花ちゃんの頭をぐしゃりと撫でる。

百花ちゃんは花のような笑顔で頷いた。


百花「おやすみなさい、マスター」

 

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10話その6

  百花ちゃんが部屋に帰った後……。

目が冴えてとても眠れそうにない。


今日佐々木邸を訪れてからのことを頭の中で反復する。


1ヶ月ぶりに見る少し大人びた百花ちゃん。

百花ちゃんが俺を好きだと言ってくれたこと。

百花ちゃんを抱きしめた手触り、百花ちゃんの匂い。

久しぶりに見た百花ちゃんの花のような笑顔。

そっと口づけた百花ちゃんの額の肌触り。


 あまりに幸せすぎて、本当のことに思えないくらいだ。

…それに、それ以上手を出さなかった俺は偉かったよな。

まだ若い百花ちゃんを傷つけないように、そっと、そっと大切にしていこう。

百花ちゃんが大人になるまで…。

日本に帰って来たら…。

ずっと一緒にいられるのだから…。


ゆっくりゆっくり、百花ちゃんの成長を待とう……。



 いつの間にか、俺はぐっすり眠っていた。


夢の中で、百花ちゃんと手をつないで草原の道をどこまでも歩いていた。

その百花ちゃんは小さい頃の姿だったり、俺が一番大好きな今の姿だったりした。


百花ちゃんの手を握りしめて、この手を絶対に放すまいと俺は心に誓っていた。


10話おわり

☆☆☆☆☆

本編はここで終わり


本編のエピローグカレ目線の話はこちらです。

譲二さんの少年時代をカレ目線で妄想した話はこちらです。




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