譲二さんと毎日うふふ 妄想小説と乙女ゲーム

主に『吉祥寺恋色デイズ』の茶倉譲二の妄想小説

話数が多くなった小説は順次、インデックスにまとめてます。

小説を検索しやすくするためインデックスを作りました

インデックス 茶倉譲二ルート…茶倉譲二の小説の検索用インデックス。

インデックス ハルルートの譲二…ハルくんルートの茶倉譲二の小説の検索のためのインデックス。

手書きイラスト インデックス…自分で描いた乙女ゲームキャラのイラスト記事


他にも順次インデックスを作ってます。インデックスで探してみてね。



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いつもと同じ…そしてかけがえの無い日々

2015-04-09 07:38:47 | 年上の彼女

10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。
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いつもと同じ…そしてかけがえの無い日々~その1

〈奈実〉
今日は譲二さんが退院した快気祝いのパーティーでみんながクロフネに集まってくれた。


譲二「みんな、俺のことを心配してくれてありがとう。
ハルとタケとリュウは襲われた時に助けてくれて本当にありがとう。
特にリュウには救急車で一緒に来てくれた上に血まで分けてもらって…とても感謝している」


竜蔵「これでジョージと俺は血兄弟だからな」

春樹「リュウ兄、それはちょっと違うよ…」

理人「病院に付き添ったリュウ兄も奈実さんもマスターと同じ血液型で良かったね」

竜蔵「それがあるから、俺は付き添ったんだけどな」

一護「リュウ兄にしては上出来だな」

竜蔵「それどういう意味だよ。俺だっていざという時には機転が効くんだ」

剛史「確かにリュウ兄は教師になってから賢くなった」

竜蔵「おう。生徒たちを守らないとなんねぇからな」



いつも通りのみんなのやり取りに私は吹き出した。


百花「マスターが元気になって本当に良かったです。奈実さんも看病お疲れさまでした」

譲二「ありがとう」

奈実「百花ちゃんも忙しいのに何度もお見舞いに来てくれてありがとう。とっても心強かった」

一護「マスター、店はいつから開けるんだ?」

譲二「ずいぶん休んじゃったからね…。
本当は明日からでも開けたいところなんだけど、奈実が反対しててね」

一護「あんまり無理するなよ」

春樹「そうだよ、奈実さんのいうことをちゃんと聞かないと」

譲二「だから、今週いっぱいは休んで、来週頭からの営業かな」

剛史「あー、やっとまたマンデーが読める」

理人「タケ兄、収入あるんだし、そろそろ自分で買って読んだら?」

剛史「俺はクロフネでマンデーを読むことでマスターの生きがいに貢献してる」

一護「なんだよ、その理屈」


 クロフネでのいつもどおりのみんなのやり取り。

 それを譲二さんは楽しそうに眺めてる。

 私は…その日常が戻ってくれたことが嬉しくて…。

 そっと目尻に浮かんだ涙を拭いた。


その2へつづく


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いつもと同じ…そしてかけがえの無い日々~その2

 

〈譲二〉
 あの事件から5ヶ月が経った。

 犯人の伊藤は初犯ということもあって、大した罪にはならないみたいだ。

 みんなは刺され損だね、と言ってくれるけど、奈実を守ることができたので、それだけはよかったと思っている。

 奈実はあのままクロフネに住んでいて、アパートも引き払ってしまった。

 外出の出来ない日が続いたせいもあり、奈実の仕事は休業状態だ。

 でも、俺的にはずっと一緒にいられるから満足かな…。



 奈実が一緒に手伝ってくれるようになって、クロフネも少しずつ変わっている。

 ランチメニューに奈実が焼いた手作りパンをつけたり、フロアの一画に奈実の手作りの小物類を置くようになった。

 ビーズのアクセサリーやカントリー風の布のポーチやティッシュカバー、サシェ、トールペイントで描いたプレートや小物入れなど、女性が好みそうなものが揃っている。

 それらの売り上げ自体は大したことはないが、それ目当ての女性客のリピーターが増えて、店の売り上げも少しずつ増えている。

 この状態で売り上げが安定するようなら、そろそろ奈実にプロポーズしてみようかと考えている。

 今だって、ほとんど夫婦状態だけど、けじめはつけないとね。

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 客足の途絶えた午後、隅のテーブルで、奈実が手作りの小物を縫っている。

 窓からの日差しを受けて後れ毛が金色に光っていた。

 その美しい光景に見とれていると、視線を感じたのだろう、奈実がこっちを見て微笑んだ。


譲二「根を詰めてると疲れるよ。そろそろ休憩したら…」

奈実「まだ疲れるほど縫ってないよ」

譲二「じゃあ訂正。俺のために休憩して…」


 奈実は微笑んで縫い物をテーブルに置くと俺のところに来てくれた。

 彼女を思い切り抱きしめてキスをする。




 俺の大切な女(ひと)…。

 もう決して離さないからね…。

 


 


 

おわり

 


 

☆☆☆☆☆

 


 

年上の彼女の話はこれで終わりです。

 



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『怒涛のごとく』

2015-04-03 06:39:38 | 年上の彼女

10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。
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『怒涛のごとく』~その1

〈譲二〉
 クリスマスソングが町に流れ始めた。

 奈実はあれから、ほとんどクロフネから出ること無く過ごしている。

 あの電話の後、伊藤という人からはメールも電話も来なくなって、少しホッとしている。

 俺という恋人がいることがわかって諦めたのかもしれない…。

 奈実はこの頃、もう大丈夫だと安心しているけれど…。

 あの最後の電話の様子だともうしばらく気をつけた方がいいと俺は思っている。

☆☆☆☆☆

 昼からハルとタケ、リュウがクロフネに来ている。

 駅前にイルミネーションが飾られてかなり奇麗だという話題になった。


春樹「奈実さんはまだ見てないの?」

奈実「うん。このところほとんど外出してないからね」

竜蔵「それは残念だな。今年のはかなり気合いが入ってんのに」

譲二「奈実の安全には替えられないからね」

剛史「でも、一度電話があってからはメールもないんだろ?」

奈実「うん。一ヶ月近くになるから、もう諦めたのかなとは思う」

竜蔵「ジョージは心配性だからな…」

春樹「まあ、何かあったら怖いからね」

奈実「でも、イルミネーション見に行きたいな…」

譲二「子供みたいなこと言わないの」

剛史「イルミネーションを見てすぐに帰れば大丈夫なんじゃないか?」

竜蔵「そうだ、俺たちもいるんだし今から行ってみるか?」

奈実「え? 今から?」

譲二「こらこら、リュウ。奈実をその気にさせないでよ」

剛史「用心棒ならハルもいるしな」

春樹「え? でも俺、随分、空手やってないから身体が鈍ってるよ」

竜蔵「全国大会入賞レベルのヤツが何言ってんだ」

奈実「え? ハルくんてそんなにすごいの?」

譲二「ああ、ハルは高校の時、空手の全国大会の常連だったからな」

剛史「普通のヤツでは敵わない」

奈実「すごーい」

春樹「だから…、それは高校時代の話。今はもう身体が鈍ってるって…」

奈実「それでもすごいよ。ねぇ、ハルくんたちも一緒に行くんじゃだめ?」


 奈実が訴えるような目で俺を見つめる…。

 そんな目で見つめられるとダメと言えなくなるじゃないか…。

 本当は2人だけでイルミネーションを見に出かけたいところだけど…。


その2へつづく


☆☆☆☆☆

『怒涛のごとく』~その2

 

〈譲二〉
 結局、ハル達と一緒に駅前に出かけることになった。

 気休めだが奈実にはニット帽を被せマスクをさせた。



 駅前ではイベントも開かれていて、かなりの人出だった。

 5人で出かけたのに、いつの間にかハルたちとは離れ離れになる。

 俺は奈実の手をしっかり握って歩いた。


 あの伊藤という男のことがなかったら、とてもロマンチックな夜を過ごせたのに…。

 俺は周りの人混みに絶えず目を走らせる。

 奈実は…ただ無邪気に喜んで嬉しそうに俺に話しかけている。

 この一ヶ月、ずっとクロフネの中にカンヅメだったものな…。

 奈実が喜んでいるのがせめてもの慰めだ。



 ふと、視線を感じて周りを見渡した。

 気のせいだろうか?


 その瞬間、奈実と繋いでいた手が離れた。


 あっと思った瞬間、男が駆け寄って来る。


譲二「奈実! こっち!」


 奈実を引き寄せた途端、その男は横を通り過ぎた。


「ひったくりだ! 誰かー!捕まえてくれ!」


 誰かの叫び声がして、何人かの男性がその男を追いかけて行った。

 俺はほっとしてその行方を見送った。


 俺が奈実を振り返った時、目を血走らせコートの中に手を突っ込んだ男が小走りに近寄って来るのが見えた。

 男は何か長いものを引っ張り出した。


譲二「奈実! 危ない!」


 とっさに奈実を庇って抱きすくめた。


 背中にドン!という衝撃を感じた。

 


その3へつづく

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『怒涛のごとく』~その3

 

〈奈実〉
 ひったくりを追いかけ何人かの男の人たちが走って行った。

 その行方をぼんやり眺めていると、譲二さんの叫び声がした。


譲二「奈実! 危ない!」


 わけが分からないまま、譲二さんに抱きしめられる。

 ドン!という衝撃があって、2人ともよろけて踏みとどまった。
 

譲二「奈実、大丈夫?」

奈実「ええ、大丈夫、ありがとう」

譲二「…よかった」


 譲二さんの体が崩れ落ちる。



 まるで、スローモーションのように…。



 背中に回した手にぬるっとしたものがついた。


 私は悲鳴を上げた。

 


 



 私の悲鳴を聞きつけて人が集まって来る気配がする。

 倒れた譲二さんの下からは赤黒いシミが広がっている。

 周りでは、罵声や怒鳴り声が聞こえ、慌ただしい人の動きがあった気がする。

 でも、周りと私たち2人の間には厚い壁があって、私には譲二さん以外は見えないし、聞こえなかった。


譲二「…奈実…大丈夫…?」

奈実「私より…、譲二さん。今はしゃべっちゃダメだよ。」


 私はなす術も無く、譲二さんの手を握り続けた。


譲二「奈実は…怪我はない?」

奈実「私は大丈夫…」

譲二「よかった…」


譲二さんが目をつぶった。

 


 


その4へつづく


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『怒涛のごとく』~その4

 

〈譲二〉
 奈実の声が聞こえる。



 俺の名前を呼んでいる。



 今朝はまだ目を開けたくない。


 体がひどくだるくて眠たい。

 隣で眠っているであろう奈実の体を探る…。

 温かい手が俺のその手を握ってくれた。


 …ああ、奈実の手だ…。

 小さくて柔らかい。

 俺は安心して、また眠りについた。


〈奈実〉
 病室のベッドの横でずっと座っている。

 蒼白な顔をした譲二さんがずっと眠っている。


 一度薄目を開けたので、名前を呼んだら、弱々しく手で何かを探した。

 私がその手を握るとまた眠りについてしまった。


☆☆☆☆☆

 



 冬でコートを着ていたせいだろう、傷の深さは大したことはないということだった。


 手術の麻酔がよく効いて眠っているのだというお医者さんの説明だった。

 一度、ハルくんやタケくんやみんながお見舞いに来てくれたが、譲二さんは眠ったままだったのですぐに帰った。

 また明日も来てくれるそうだ。



 譲二さんの大きな手にそっと口づけた。

(大丈夫だよね? ちゃんと目を覚まして、私の名前を呼んでくれるよね?)

 


その5へつづく


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『怒涛のごとく』~その5

 

〈奈実〉
 眠り続ける譲二さんに心の中で語りかける。



 今、譲二さんの身体の中には私の血も流れているんだよ。

 正確に言うと私とリュウくんの血なんだけど…。



 あの時、伊藤くんは譲二さんを刺した包丁を抜いちゃったから、血がたくさん出て怖かった。


 私の悲鳴を聞いて、近くにいたハルくんとタケくんとリュウくんが駆けつけてくれて…。

 ハルくんは伊藤くんが手に持った包丁を足で蹴り上げてくれて、すかさずタケくんとリュウくんが伊藤くんを押さえ込んで…。

 その間にハルくんは警察と救急車を呼んでくれた。



 譲二さんの血液型はO型だったんだね。


 リュウくんはね、救急車にも一緒に乗ってくれたんだよ…。


 「俺はジョージと同じ血液型だから、役立つかもしれねぇ」って言って。


 救急車に乗るとき、ちょっとゴタゴタしちゃった。


 救急隊員は「付き添いは一人だけでお願いします」って言ったんだけど。

 リュウくんは血のついた私の手を見せて「この人も怪我人だ」って言ったの。

 隊員は「じゃあ、付き添いはこの女性にお願いします」って言って、リュウくんを乗せようとはしなかったんだけど。

リュウくんは「この人はショックで口が聞けねぇから、俺が付き添います」って強引に乗っちゃった。



 お医者さんへの説明もリュウくんが全部してくれたし…、私は横で泣きじゃくるばかりで何も出来なかった。


 ごめんね。


 私のせいで、痛い思いをさせて…。

 


その6へつづく


☆☆☆☆☆

『怒涛のごとく』~その6

 

〈譲二〉
 人の話し声がしている。



「マスターはまだ目を覚まさないの?」とか「もう麻酔は切れてるだろ」とかそんな内容だ。


 俺は目を開けて周りを見回した。

 白い天井と心配そうな奈実の顔、その向こうにはあいつらの顔がみえる。


春樹「やっと気がついたみたいだね」

百花「マスター、よかった」

竜蔵「ジョージ、えらく長いこと寝てたな」

一護「もう目覚めねぇのかと思ったぞ」

剛史「眠り姫みたいだった」

理人「だから、奈実さんにキスしてみたらって言ったんだよね」

譲二「…どれぐらい眠ってたの…?」

春樹「まる二日くらいかな…。中々目を覚まさないから、奈実さんもすごく心配してたよ」


 俺は青白い奈実の頬に手を伸ばした。

 そうだ!

 俺はあの伊藤とかいう男が奈実を襲おうとしたから、とっさに庇って…。


譲二「奈実! 大丈夫!? 怪我は?」

奈実「譲二さん…」



奈実が戸惑ったような顔をした。



理人「奈実さんは怪我なんかしてないよ。怪我したのはマスターだけだから…」

譲二「あの男は?」

剛史「警察に拘留されてる。俺とハルで警官に引き渡したから」

譲二「よかった…」


安堵すると途端に背中の傷が痛んだ。


奈実「痛む? ごめんね、私のせいで…」

譲二「なんで? 奈実のせいじゃないだろ?」

一護「さ、マスターも目を覚ましたことだし…、お邪魔虫な俺たちはもう帰ろうぜ」

竜蔵「え? もう帰るのか?」

春樹「リュウ兄、2人だけにさせてあげようよ」

理人「じゃあね、マスター」

剛史「また明日来る」

百花「また、お見舞いに来ますね」


 みんな気を使って口々に挨拶をして病室を出て行った。


譲二「奈実、心配かけたね」

奈実「もう、目を覚まさないんじゃないかと思って不安だった。でも、よかった…」


 奈実の伏せたまつげに雫が光った気がした。

 俺は元気づけたくて奈実の手をぎゅっと握った。

 すると奈実はにっこりと微笑んでくれた。

 


 

『怒涛のごとく』おわり


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『転がるダイス』~その5~その7

2015-03-24 07:51:06 | 年上の彼女

 10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。

☆☆☆☆☆

ダイス(英:dice):サイコロを意味する単語(複数形。単数形はdie)。

 譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
 本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。


 9歳年上の恋人、奈実に元夫から手紙が来た。
 しかもクロフネを探っている怪しい男も現れて…。

☆☆☆☆☆

『転がるダイス』~その5

〈譲二〉
 奈実が以前の仕事の後輩の伊藤という人からのメールをみせてくれた。

 単なる直感だが、クロフネを見張っている男はこの伊藤という人ではないだろうか?

 奈実がメールでクロフネに住んでいることを教えてから謎の男は現れているし、辻褄はあう。

 奈実を誘い出そうとしているようなのも気になる。

 もっともこれは俺の単なる嫉妬かもしれない。


〈奈実〉
和成さんから手紙の返事がきた。


『奈実へ

丁寧な手紙をありがとう。
もしかしたら、返事は来ないかもしれないと思っていたので、君からの封筒を見たときはうれしかった。
でも、君にとって俺は元夫で過去の人間なんだな。

奈実と別れてもう10年経つものね。
俺は奈実のことが好きなままだけど、奈実はもう違う人生を生きているんだな。
とても寂しいけど、俺も少しずつ前向きに生きて行こうと思う。

それを気づかせてくれてありがとう。やっぱり、10年ぶりに奈実に会えて、奈実に手紙を出してよかったよ。
                          さようなら。 
                                   和成

p.s.年賀状のやり取りくらいはしてもらってもいいかな? 未練たらしくてごめん。』


奈実「この手紙の返事は書かなくてもいいかな?」

譲二「そうだね。今度の正月に年賀状を書く位でいいんじゃないかな」

奈実「よかった」


これでもう何も心配することはない。

私は安堵のため息を漏らした。


その6へつづく


☆☆☆☆☆

『転がるダイス』~その6

 

〈奈実〉
伊藤くんからメールが頻繁に入るようになった。

その日にあったこととか、仕事でのちょっとした話とか他愛もない話題なのだけど、毎日メールがくる。

その合間に、食事の誘いやちょっと会えないかという誘いが混じっている。


譲二「今日は何件入ったの? 例の伊藤さんからのメール」

奈実「今のところ3件かな? まだ返信してないよ」


 譲二さんが伊藤くんのメールをチェックする。


譲二「うーん。こっちも和成さんへの手紙みたいに文面を考えてメールをだすか…」


『伊藤くん

先日からいっぱいメールをもらってるけど、全部に返信できてなくてごめんね。
伊藤くんが私のことを気にかけてくれるのはありがたいけど、私にとっての伊藤くんは元の職場の後輩でそれ以上でもそれ以下でもありません。

だから、たくさんメールをもらうと私には負担になって、伊藤くんのことが嫌いになってしまいそうで困っています。

どうか、懐かしい同僚のままでいてください。
                       奈実』


奈実「こんな感じかな」

譲二「こんなもんかな」


 2人で同じようなことを同時に言ってしまい、顔を見合わせて笑った。

 譲二さんが私の唇に軽いキスをした。

 譲二さんは顔をあげて窓の外を見ると、突然こわばった表情になった。


譲二「奈実、ここにいて!」


 譲二さんは叫ぶと、店の外へと走り出た。

 どうしたんだろう? 不安な気持ちでしばらく待っていると、譲二さんが帰ってきた。


奈実「どうしたの?」

譲二「さっき奈実にキスをして顔をあげた時、窓から男が覗き込んでいたんだ。
俺と視線が合うと逃げ出したんで、追いかけたんだけど…逃げられた」

奈実「和成さん?」

譲二「いや…、多分ちがうと思う。見たことのない男だった」


 それじゃあ、前に譲二さんが言っていたように伊藤くんだろうか?

〈譲二〉
 クロフネを覗き込んでいた男…。残念ながら逃がしてしまった。

 この頃頻繁に奈実にメールを送りつけている伊藤という男の可能性が高い。

 それにしても、まずいところを見られてしまった。

 商店街で聞き込みをしたみたいだから、俺たちが恋人だということは知っているだろうが…。

(話で聞くのと実際に目でみるのとは違うからな…。いちゃつく俺たちをみて、激昂しなければいいんだが…)

その7へつづく


 

『転がるダイス』~その7

 

〈奈実〉
さっきのメールを送って間もなく、伊藤くんから電話がかかった。


伊藤「奈実さん?」

奈実「もしもし。伊藤くん? どうしたの?」

伊藤「奈実さん…。今住んでいるクロフネのマスターと付き合ってるんですか?」

奈実「え? どうして、そんなことを?」

伊藤「俺が奈実さんのことを心配して、色々力になりたいと悩んでる間もその男と楽しく暮らしてたってわけですか?」

奈実「あのね。私は譲二さんとは…」

伊藤「名前で呼び合う間柄なんですね…」

奈実「それは…その」

伊藤「なんでそんな男に引っかかるんです。奈実さんも俺の気持ちは分かっていた筈でしょう?」

奈実「伊藤くん、私は伊藤くんを大切な仕事仲間ってずっと思ってた…」

伊藤「嘘だ。一緒に仕事をしていたときも、俺が毎日家まで送っていたときも、愛しい気持ちを込めて俺を見つめてくれたじゃないか。
この間久しぶりに携帯で話したときだって、俺に好意をもっているような話し方だった」

奈実「そんな…」


 異変に気づいて譲二さんが声をかけてくれる。


譲二「奈実、大丈夫?」

伊藤「あの男が側にいるのか?」

奈実「ねえ、伊藤くん落ち着いて…。私は伊藤くんが言うみたいに伊藤くんに特別な感情は持ってなかったから…」

伊藤「嘘だ! いつも俺のことを誘っていたくせに!」

奈実「そんな…」

譲二「ちょっと貸して」


私は携帯を譲二さんに手渡した。


譲二「もしもし、伊藤さん?」

伊藤「お前! 奈実に手を出してるのか?」

譲二「すみませんが、彼女が怖がっているんです。そんな脅すような物言いは止めて落ち着いてください」

伊藤「お前は奈実のなんなんだよ!」

譲二「俺は…奈実の恋人です。だから、俺の恋人にこんな電話をしてもらっては困ります」

伊藤「奈実! 聞こえるか? 今まで散々俺の気持ちを弄んどいて、覚えてろよ!」

譲二「切れた…」


 譲二さんは携帯を置くと私を抱きしめてくれた。

 怖い。

 伊藤くんがあんなことを思っていたなんて…。

 今まであんなに感情的になる人だとは思ってなかった。


譲二「奈実…。俺が守るから、心配しないで…」


 私は譲二さんを抱きしめる手に力を込めた。 

 


 

『転がるダイス』おわり


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『転がるダイス』~その1~その4

2015-03-20 08:19:08 | 年上の彼女

 10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。

☆☆☆☆☆

ダイス(英:dice):サイコロを意味する単語(複数形。単数形はdie)。

 譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
 本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。


 9歳年上の恋人、奈実に元夫から手紙が来た。
 しかもクロフネを探っている怪しい男も現れて…。

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『転がるダイス』~その1

〈譲二〉
 怯える奈実を寝かしつけた。

 暗い部屋で横になったまま、今の状況を頭の中で整理する。



・クロフネを見張り、商店街でクロフネのことを聞き回っている男がいる。

・その男は中肉中背で背広を着ていた。

・その男が手に入れた情報は
 …クロフネは俺が1人で切り盛りしていること。
 …最近女性が一緒に住むようになって、店を手伝っていること。
 …その女性はマスターの恋人らしいという噂があること。

・奈実の元旦那が奈実のマンションの住所を手に入れた。

・そのマンション宛に奈実へのラブレターを送って来た。

・その手紙には奈実と偶然あった時に一緒にいた俺のことが書かれている。

・また、奈実が1人であればもう一度やり直したいと書いてある。

・クロフネのことを嗅ぎ回っている男と奈実の元旦那が同一人物かどうかはわからない。

 これぐらいかな…。

 最後の1行、クロフネを嗅ぎ回っている男と奈実の元旦那が同一人物かどうかだが…別な人間と考えた方が自然ではないだろうか?

 もし、奈実がクロフネに住んでいることを知っていたら、元の住所に手紙をだすだろうか?

 いやいや、決めつけるのは危険だな…。

 わざと、クロフネに移ったことを知らないフリをして、相手を油断させてクロフネのことを嗅ぎ回っているということも考えられる。

 ただ、同一人物と決めつけるのも止めた方がいいだろう。

 探偵を雇っているのかもしれないし…、奈実とは関係なく俺のことを何らかの理由で調べている人間ということも考えられる。

 ストーカーと決めつけることで、相手を攻撃的にしたり、こちらが恐怖にかられて判断を誤ることもあるだろう。


 悔やむのは、一護とハルが不審な男を見つけた時、俺があの男の顔を確かめておけばよかったということだ。

 奈実の元旦那の顔の記憶はあやふやだが、本人をもう一度みれば同一人物かどうかはわかっただろう。

 クロフネを嗅ぎ回っている男と奈実の元旦那が同一人物か別な人間かで対処は全く違って来るのにな…。

 別な人間だとしたら、元旦那はただ奈実に手紙を出しただけで、別に違法なことをしたわけではない。

 怯える奈実を元旦那と会わせたくはないが…、手紙には返事を書いた方がいいかも知れないな…。奈実は嫌がるかもしれないが…。

その2へつづく

☆☆☆☆☆

『転がるダイス』~その2

 

〈奈実〉
 目を覚ました時、譲二さんは既に起きて、パソコンに向かっていた。

奈実「おはようございます」


譲二「あ、目が覚めた? おはよう」

奈実「昨日はごめんなさい。なんだか取り乱してしまってて…」

譲二「奈実にしがみつかれて、俺は嬉しかったよ」


 譲二さんはベッドに腰をおろすと私を抱きしめてくれた。


譲二「すぐ朝食の用意はできるから、一緒に下に降りる?」

奈実「昨日の夜はあまり食べられなかったから、お腹が空いたかも…」

譲二「じゃあ、朝食はたっぷり用意しないとね」


 そういいながらも、譲二さんは私を1人にしないために私の着替えを部屋で待っていてくれた。


☆☆☆☆☆

 


 朝食の後、コーヒーを入れてくれる。


譲二「ねえ、奈実。ちょっと嫌なことを頼んでもいい?」

奈実「なに? 大抵のことは大丈夫だよ」

譲二「奈実の元旦那の手紙はいつ届いたの?」

奈実「3日くらい前かな…」

譲二「そうか、それなら相手はそろそろ返事が来るかもと思っているかな…」

奈実「返事?」

譲二「うん、手紙を出したということはその返事を期待しているってことだよね」

奈実「…」

譲二「だから、今頃奈実の手紙を待っていると思うんだ」

奈実「それは…、和成さんに返事を書いた方がいいってこと?」

譲二「ああ、昨夜色々考えてみたんだけど、クロフネを探っている男とその和成さんが同一人物かどうかわからない。
和成さんは手紙を出しただけだとしたら、違法でもストーカーでもないと思うんだ」

奈実「でも…」

譲二「奈実が過去でしかない元旦那に手紙なんか書きたくないのは分かってる。
でも、和成さんの方はどうだろう?
 久しぶりに奈実にあって、自分がまだ奈実のことを好きなことを確認して、自分勝手だとは思うけど…奈実も自分をまだ好きかもしれないと思っていたとしたら…。
手紙を出して確かめようと思うのはそう不自然なことじゃないだろう?」


 私は離婚の調停で何度も和成さんに「あなたのことはもう好きじゃない」と態度で示していたつもりだった。

でも、和成さんはそうは取らなかったのだろうか?

 偶然久しぶりにあった時、和成さんはとても懐かしそうに話しかけて来た。

まるで、ドロドロした離婚の話し合いのことは忘れてしまったかのように…。


奈実「でも、私はもう和成さんのことをなんとも思っていないし…。
結婚生活の最後はとても辛かったからなるべく考えないようにしていた」

譲二「うん。だから、それを和成さんに手紙で書いたらどうだろう。
今の奈実の気持ちを…。
気をつけて、きつい言葉ではなくいたわりを込めて、でもはっきりと相手にわかってもらえるように…」

奈実「…」

譲二「好きな人に拒絶されても、それを受け入れるには時間がかかる。
相手が求めているのは自分ではないと頭で分かっていても、それを心が受け入れるには時間がかかる。
前はああ言っていたけど、今は思い返してくれたんじゃないかって、自分の都合のいいように思ってしまうものなんだ…」

奈実「譲二さんも…そんな経験をしたの?」

譲二「ああ、だから今の和成さんの気持ちは何となくわかる気がする。
和成さんが前に進むためには今の奈実の気持ちをはっきり伝えた方がいい。
ただし、相手を追いつめてしまわないように気をつける必要はあるけど」

奈実「そんなにうまく書けるかな?」

譲二「難しいけど…、俺と一緒に考えよう」


譲二さんは優しく微笑んだ。

 

その3へつづく

 

☆☆☆☆☆

『転がるダイス』~その3

〈奈実〉
譲二さんと一緒に和成さんへの手紙を書いた。

今も思ってくれるのはうれしいが、私にとって和成さんへの気持ちは冷めてしまっていること。

だから、ずっと私を思ってくれても、応えられないし、私にはそれが負担になっていくだろうこと。

今は2人ともそれぞれの人生を前向きに生きて行きましょうということ。

譲二さんという恋人がいることはあえて、書かないことにした。


譲二「あの手紙の感じだと奈実に恋人がいることは受け入れられない可能性が高いし、嫉妬で逆上してこちらの言うことを聞かなくなる可能性もある。
…それに和成さんがクロフネを見張っている人物と同一人物だとしたら、すでに俺が恋人だってことは掴んでいるはずだからね。
だから、第一弾としてはこれ位の内容でいいかな」

奈実「第一弾ということは、手紙をまだやり取りするの?」

譲二「ああ。少しずつ相手することで、クールダウンしてもらう」

奈実「また、書かないといけないんだ」

譲二「次の返事はまた一緒に考えよう。」


譲二さんは私を抱きしめる。


譲二「辛いのに手紙を書くの頑張ったね」



こんな風に慰めてもらっていると、9歳も年下とは思えない。

私は…本当に譲二さんに頼り切っている。


奈実「譲二さん…」

譲二「…なに?」

奈実「愛してる…」

譲二「…俺もだよ」


どちらともなくキスを求めあい、濃厚な一夜を過ごした。


その4へつづく

 

☆☆☆☆☆

『転がるダイス』~その4

〈奈実〉
伊藤くんからメールが来た。

『大丈夫ですか?

あれから連絡ないけど大丈夫ですか?
俺で役立つことがあったら、いつでも相談してください。
ところで、今度の日曜日ですけど、休みが取れたので一緒にランチでもしませんか?
いい店があるんです。

                                                 伊藤』

これはもしかしてデートのお誘い?和成さんといい、この頃急にモテてる気がする。

もちろん、4つも上の女に本気でモーションをかけてくるとも思えないが、譲二さんの例もあることだし。


『ごめんなさい

この日曜日は予定があって…。お誘いありがとう。

                                                 奈実』

これでよし。

一応譲二さんにも報告しておこう。

ヤキモチ妬くかもだけど、隠してばれた時の方が怖そうだし。



譲二さんはメールの文面を見てじっと考えこんでいる。


奈実「単に心配してくれているだけだと思うんだけど」

譲二「この人は独身?」


ほら来た。


奈実「10年前は独身だった。その後結婚したという挨拶状は来てないから…」

譲二「どんな外見?」

奈実「うーん。特に特徴は無いかな…。身長も普通くらいだし、太っても痩せてもいないし」


譲二さんはさらに考えこんだ。


譲二「もしかして、この人にクロフネにいることを話した?」

奈実「えっとどうだったかな?ちょっと待って」


私は送信済みのメールを探した。


奈実「あ、クロフネという喫茶店の二階に間借りしてますって、メールしてた」


譲二さんは大きく溜め息をついた。


譲二「この間からクロフネを探っているのはこの伊藤さんという人かもしれない」

奈実「え?うそ!」

譲二「あくまでも推測だけど、クロフネを見張る男が現れたのはこのメールの発信日より後だし、特に特徴の無い中肉中背というのも同じだ。」

奈実「確かにそうだけど…」

譲二「伊藤さんから会おうという誘いがあったのは今回だけ?」

奈実「ううん。前に一度会えないかって誘われたけど、夜の7時以降でってことで、夜は怖いし、住まわせてもらっている人にも出歩かないように言われているからって断った」

譲二「その二回だけ?」

奈実「そうだと思う」

譲二「奈実に会って話をするだけなら、クロフネに訪ねて来てもいいんだし、なんだか奈実を誘い出そうとしているように感じるんだよね」

奈実「考え過ぎだよ」

譲二「今は得体のしれない相手と対しているんだから、考えすぎるくらいでちょうどいいと思うよ。
とにかく、しばらく1人では出歩かないように…。
それとその伊藤という人から連絡があったら、返事をする前に必ず俺に話してね」

奈実「うん。そうする」


何だか考えすぎのような気もするけど…。

譲二さんは私の事になると色々と心配してくれてるんだ。


その5へつづく


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『忍び寄る影』~その5~その8

2015-03-06 08:09:43 | 年上の彼女

 10歳上の女性との恋愛。譲二さんはヒロインからみて年下の若い男性なんだけど、色気のある大人の男性で頼りがいも包容力もあるという、ものすごくおいしい男性になっちゃいました。

☆☆☆☆☆

 譲二ルート以外のどれかのルートの譲二さん。
 本編のヒロインは大学を卒業して就職、クロフネを出ている。


☆☆☆☆☆

『忍び寄る影』~その5

〈奈実〉
伊藤くんからメールが届いた

『こんばんは

奈実さん、その後元旦那さんからは何も無いですか?
ちょっと気になることがあるので、一度会えないでしょうか?
込み合った話なので、メールではしにくいです。

都合のいい日時があれば教えてください。
俺は夕方7時以降ならいつでも大丈夫です。


                伊藤』


気になることってなんだろう?

伊藤くんの携帯にかけてみる。


奈実「もしもし伊藤くん?」

伊藤「あ、先輩。わざわざ電話してくれたんですか? すみません」

奈実「会って話したいことって何かな?」

伊藤「えっと、会うのは無理ですかね?」

奈実「うーん。今住まわせてもらっているところの人にも出歩かないように言われているし、特に夜出るのは無理だと思う」

伊藤「…そうですか。じゃあ、今話しますね。ウチの会社の子で、奈実さんが辞める1年位前に入って来た子がいるんですが、その子のところまで奈実さんの元旦那は聞いて回ったらしいです。
それで、たまたまその子は奈実さんが退職した後に同僚みんなに出した挨拶状をまだ持ってて、ご丁寧に元旦那に奈実さんの住所を教えたそうなんです。
 挨拶状には電話番号は載ってなかったので、一応住所だけだそうですが…」

奈実「…そうなんだ。でも、あっちには伊藤くんのアドバイス通りなるべく行かないようにしているから…たぶん大丈夫だと思う」

伊藤「俺のアドバイスが役に立ったなら良かったです」

奈実「うん。ありがとう」

伊藤「あの…。今住んでるクロフネっていう喫茶店のことですけど、そちらは大丈夫なんですか?」

奈実「そうね、今のところ和成さんには知られてはないんじゃないかな。そういう気配はないし」

伊藤「いえ…そういうことじゃなくて…」

奈実「え?」

伊藤「いえ、何でもないです。奈実さんが無事ならよかったです。じゃあ、また何かあればメールしますね」

奈実「ありがとう。またね」

伊藤「奈実さんも元気で」


 譲二さんにこのことを話すべきだろうか?

 譲二さんは最初から私のことをすごく心配してくれて、この前の家に物を取りに行くときも、りっちゃんをつけてくれたり、気をつけないといけないことを色々とアドバイスしてくれた。

 譲二さんの心配は杞憂ではなかったということだ。

 でも、これ以上譲二さんに私のことで心配をかけたくない。

今だって、充分心配しすぎるくらい心配してくれているのに…。

 だから、和成さんが私の家を突き止めたことは黙っておこう。

 必要な物は既に取って来たし、あのマンションに近寄らないようにすればいいだけだから…。


その6へつづく


☆☆☆☆☆

『忍び寄る影』~その6

〈奈実〉
 ポストに入っていた手紙を選り分ける。

 譲二さんと同棲するようになって、すぐに転送届けを出したので、私の元の家宛にきた郵便物もクロフネに届くようになっている。

 その私宛の郵便物の中に差出人が『明石和成』という名を見つけてドキッとした。


譲二「奈実、手紙の中に何かあった?」

奈実「ううん。仕事関係のが何枚か…そうだ、ちょっと仕事でやらないといけないことがあったのを忘れてた。
ちょっと二階に行っててもいい?」

譲二「うん、いいよ。今はお客さんもいないからゆっくりしてくれていいよ」

奈実「ありがとう」


 私は譲二さんに微笑むと二階にゆっくりとあがった。

 百花ちゃんの部屋に入ると急いで和成さんの手紙の封を開けた。


手紙を読んで、青ざめた。

これは…紛れもないラブレターだ…。

寒気がして、自分で自分を抱きしめた。

どうしよう。譲二さんに相談した方がいいかな?

でも、こんな熱烈なラブレター、譲二さんに見せていいものだろうか。

和成さんと会っただけでも、譲二さんは妬いていたのに…。

この手紙の宛先は私のマンションで、このクロフネが突き止められたわけじゃない。

今はまだ譲二さんにいうのはやめよう。

譲二さんを心配させたくない。

 


その7へつづく


☆☆☆☆☆

『忍び寄る影』~その7

〈譲二〉
 奥のソファーで奈実はタケとりっちゃん相手におしゃべりをしている。

 相変わらず、若い男に囲まれて楽しそうだ。

 苦笑しながらも、明るい奈実の姿にホッとしている。

 先日の男は今のところあれだけで、姿は現してない。



 チャイムの音と同時にドアが開いてリュウが入って来た。


竜蔵「ジョージ、知ってるか?この間からクロフネのことを根掘り葉ほり聞き回ってる男がいるんだとよ」


 その大声は奥のソファーで談笑していた3人にも届いた。


譲二「それはどんな男だ?」

竜蔵「背広を来て、背は高くもなく、低くもなくというところらしい」


 奈実がひぃっという小さな悲鳴を上げた。

 やはりこの間の男か?


剛史「その男の噂ならうちのばあちゃんも話してた。この辺りでは見かけない顔だって」

理人「それ例のストーカー?」

剛史「奈実さんの旦那?」

理人「タケ兄、旦那じゃなくて元旦那だよ」

竜蔵「なに? 奈実さんが狙われてるのか?」

理人「あれ?リュウ兄知らなかったの?」


 俺は蒼白になった奈実に話しかけた。


譲二「大丈夫?お水でも持って来ようか?」

奈実「大丈夫。ちょっとびっくりしただけだから」

譲二「奈実、実はリュウが言った男はこの間、ハルたちが来た時にクロフネを見ていた男と同じやつだと思う。」

奈実「え?そんなことがあったの? どうして黙ってたの?」

譲二「ごめん。その男はすぐにいなくなったし、その一回だけだったから気のせいかもしれなくて、奈実を怖がらせたくなくて黙ってた。本当にごめん」

奈実「私も…譲二さんに黙っていたことがある」

譲二「何のこと?」

奈実「伊藤くんからメールがあって、会社の子が和成さんに私のマンションの住所を教えたって。
それで、この間、和成さんから手紙がマンション宛に来てた」

譲二「なんで! そんな大事なことを俺に黙ってたの?!」


 ついきつい口調になってしまう。


奈実「ごめんなさい。譲二さんに心配かけたくなくて…」

譲二「そんな大事なこと! 知らなけりゃ何の対策も立てられないじゃないか!」

奈実「本当にごめんなさい。譲二さんには隠し事をするのはやめようと思ってたのに…」

譲二「いや…、奈実が謝ることはないよ。
俺も奈実に不審な男のことを話さなかったんだし…」

奈実「譲二さん…ごめんなさい」


2人でじっと見つめ合う。


理人「2人ともお熱いのはいいけど、僕たちがいること忘れてない?」

剛史「俺は続けてくれていい。観察してるから」

竜蔵「い…いや…譲二と奈実さんはやっぱり恋人同士なんだな…お、俺たちのことは気にしないでくれ」

理人「リュウ兄、真っ赤になってるよ」


 俺は咳払いした。


譲二「とにかく、どうすればいいか、相談しよう。その元旦那の手紙というのは?」

奈実「二階の机の引き出しに置いてある…」

譲二「じゃあ、取って来て」

奈実「でも…」


 奈実は視線をリュウたちに泳がせた。

 手紙にはあいつらには見せられないようなことが書かれているのかもしれない。


譲二「じゃあ、一緒に2階へ行こう。タケ、リュウ、りっちゃん…。すまないけど」

理人「僕たちは勝手にやってるから気にしないで…」

剛史「お構いなく」

竜蔵「俺らは、ここで待ってるから、行って来い」

 


その8へつづく


☆☆☆☆☆

『忍び寄る影』~その8

〈譲二〉
 奈実と2人で二階にあがる。

 どうして話してくれなかったのか? それを思うと、奈実に話しかける言葉を思いつかない。

 奈実は百花ちゃんの部屋の方に入り、机の引き出しから白い封筒を取り出した。


奈実「どうしても見なきゃダメ?」

譲二「そんなに俺に見られたくないの…?」

奈実「譲二さんが…嫌な思いをすると思う…」

譲二「それを心配して、黙ってたんだ…」

奈実「うん…」


 俺は奈実を抱き寄せた。


譲二「ありがとう。でも、今は奈実に危険が迫っているんだから、小さなことでも俺に隠さず相談して? その方が俺も安心できる」

奈実「わかった…ごめんなさい」


 奈実の手から封筒を受け取ると、便せんを開いて読んだ。


『愛しい奈実へ


 こんな書き方をしてごめん。

 君は僕のことをもうなんとも思っていないのかもしれないが、僕の気持ちは10年前と全く変わっていない。

 この間、偶然君に会って、10年ぶりに君を見て、やっぱり僕は君のことを愛しているんだと確信した。

 君は10年経っても変わってないね。見た瞬間、すぐに分かった。

 僕はそれなりに老けたと思うけど、君も僕を見てすぐに気づいてくれたね。

 あの時、僕たちの離婚の原因になった僕の誤解については本当に申し訳なかったと思う。

 僕の乱暴な行為のせいで、君を傷つけ、僕らの子供も失ってしまった。

 あれから、僕は悔やんで悔やんで、何度悔し涙を流したことだろう。

 自分の軽率な行為でこんなに愛している君を失ってしまった。

 この年月は取り戻せないものなんだろうか? 僕は今も君を愛しているというのに…。

 この前に君と一緒にいた人、僕らより随分若かったね。あの人は君の新しい恋人なんだろうか?

 あれから僕は嫉妬に狂ってる。あの人が君の恋人なんだろうかと思って…。

 もし、君がまだ1人ならもう一度僕とやり直せないだろうか?

 こんなこと虫のいいお願いだとはよく分かっている。

 でも、僕らが一緒に過ごした8年間のことを思い出して欲しい。

 あんなに愛し合っていたのに。

 君が僕を見つめる潤んだ瞳は今もまぶたに焼き付いてる。

 もう一度あの頃のことを思い出して。

 君の返事を待ってる。

 
                  和成』


譲二「…随分…熱烈なラブレターだな…」


 奈実が俺にしがみついた。


奈実「怖い…」


 彼女の不安を取り除きたくて…奈実をしっかりと抱きしめた。

 


 


 

『忍び寄る影』おわり


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