内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

手書きの手紙の掛け替えのなさ ― 『ツバキ文具店 ~鎌倉代書屋物語~』を観ながら想うこと

2017-05-03 23:59:59 | 雑感

 二十一年前の留学当初はまだメールは普及しておらず、日本とのやりとりは緊急の場合は電話、それに準ずる場合はFAXだった。身近な人たちとの間の近況報告はもっぱら手書きの手紙だった。
 今はほとんど手書きの手紙を書くことがなくなってしまった。プリンターを使って印刷した葉書や封書さえ送ることはほとんどない。もっとも最近でも数年前に遡らなくてはならない。
 しかし、手書きの手紙にはメールには置き換えることのできない大切なメッセージや気持ちが込められている。内容や筆跡だけでなく、選ばれた筆記用具、便箋、封書、切手まで含めてそれらすべてが人から人へと伝わる「便り」となる。
 この四月からNHKで始まったドラマ『ツバキ文具店 ~鎌倉代書屋物語~』は、そのことを現代における代書屋という実に斬新かつ伝統にも基づいた設定でしみじみと思い出させてくれている。主役の多部未華子が役柄にぴったりで、しかも脇を固めるのがみな芸達者な役者さんたちばかりで、鎌倉という古都の美しい風景を中心として展開される毎回の物語を楽しく鑑賞している。私個人の中では、はやくも今年度テレビドラマ大賞の最有力候補である。
 これはウェッブ上の動画配信サイトのおかげで海外でも見ることができているわけで、しかもHNKに受信料を払わずにだから、この点では現代の通信技術の発達の恩恵に、非合法的に、浴しているわけである。