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日本共産党兵庫県委員会で働いています。

男女賃金格差 公表から是正へ① 世界と日本で大きな違い 海外は差別解消から出発

2024-04-08 07:33:37 | 働く権利・賃金・雇用問題について
男女賃金格差 公表から是正へ① 世界と日本で大きな違い 海外は差別解消から出発

一昨年から始まった男女賃金格差の公表(301人以上規模の企業に義務付け)で、深刻な実態が明らかになっています。この公表からどう格差是正に結びつけるか、問題点や課題について、早稲田大学名誉教授の浅倉むつ子さんに聞きました。(行沢寛史)

早稲田大学名誉教授 浅倉むつ子さんに聞く




―日本の男女賃金格差の公表をどうみていますか。
今回の公表は、女性活躍推進法の省令と指針の改正によるものです。女性活躍の公表項目に男女賃金格差を入れるべきだという議論は前からありましたが、使用者の反対で実現してきませんでした。それが一転して、今回、実現したことは評価できます。しかし同時に、その限界も見極めておくべきです。

個人救済の限界
じつは世界でも賃金透明化法が登場しており、日本もこの動きを取り入れたかにみえますが、世界の動向と日本の動向では、大きな違いがあります。
先進国の賃金透明化法としては、カナダのオンタリオ州が1987年という早い時期にペイ・エクイティ法を作りました。イギリスとドイツは2017年から、フランスは19年から、一定規模以上の企業に男女賃金格差の情報開示を義務づけ、EU(欧州連合)は23年に、賃金透明化指令を制定しました。
世界の賃金透明化法の背景には、男女の賃金差別解消は個人からの救済申し立てだけでは限界があるという問題意識があります。差別された本人が提訴するには、賃金格差の事実を入手しなければならず、救済されても本人に効果が及ぶだけで、職場の労働者全体の賃金格差は是正されないという限界です。
そこで個別救済を援助するためにも、賃金格差是正のプロアクティブ(予防的)な手段として賃金透明化法が登場しました。この法律では、労働者個人が使用者に、自分と同一価値労働をしている者の賃金を開示するよう求めることができます。また使用者は、比較されるべき男女間の賃金格差を公表し、一定以上の格差があれば是正する義務を負います。
一方、日本では、賃金差別の個別救済の問題点の認識がないまま、女性活躍推進の必要性から、男女賃金格差の公表を行っています。賃金差別の是正と賃金格差の公表という課題が切り離されているところに、一番の問題点があるといえます。

―賃金格差の公表から、日本ではどのように賃金差別の是正、格差解消につなげることができるのでしょうか。
日本では、男女賃金格差の公表が301人以上の企業に義務付けられましたが、公表だけで、是正させる仕組みがありません。是正にむけた行動計画の策定義務もなく、企業の自発性に委ねています。当面の課題は、企業に格差是正を義務付けることが必要です。
外国では、格差是正のために、同一価値労働同一賃金の原則に基づいて、企業に同一価値労働の男女間の賃金格差公表を義務付け、格差があれば是正義務を課すというやり方をしています。比較すべき男女間に賃金格差があれば、それは違法な賃金差別だという推定が働くのです。
これに対して日本では、企業内の平均的な男女賃金格差の把握と公表だけが行われるので、その格差が違法か否かの評価とは別物になっています。
では、日本でも「同一価値労働」の賃金格差を公表させるのは可能なのでしょうか。私は、日本でも、労働組合と使用者が共同で、職場内での職務分析や職務評価を実施するのが望ましいと考えています。しかし、この主張については、日本では職務評価は難しいという反論があるかもしれません。

男性正規と比較
しかし、厚生労働省も「同一労働同一賃金への対応にむけて」として、「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」を発行しています。厚労省も、日本の企業で職務評価ができないとは考えていないということでしょう。このマニュアルは、ILO(国際労働機関)がいう4要素(知識・技能、責任、負担、労働環境)での職務評価も推奨しており、参考になると思います。
ただし、マニュアルの中には、パート労働者と一般労働者の賃金について「活用係数」を設定してもよいという部分があり、問題です。「活用係数」を使えば、パート労働者の賃金は一般労働者の八掛けでよいということになり、賃金格差をそもそも容認してしまうことになるからです。これでは格差は是正できません。


男女賃金の差異を公表している企業の例
【A企業】人事関連業務
 男性数女性数男女賃金差
全従業員312101347.4
うち正規24730480.2
うち非正規6570990.1
【B企業】飲食業の経営管理業務
 男性数女性数男女賃金差
全従業員1569560.2
うち正規1547668.1
うち非正規219192.7
【C企業】飲食サービス業
 男性数女性数男女賃金差
全従業員83091247897.5
うち正規61819878.3
うち非正規769112280122.0
※男女賃金差は、男性の賃金を100とした場合の女性の賃金の割合


―日本の男女賃金格差の情報開示制度について、当面、どのような改善点があるでしょうか。
日本の公表制度は、「全労働者」、「正規雇用労働者」、「非正規雇用労働者」という三つの雇用管理区分内での男女比較(男性を100とした場合の女性の賃金割合)だけを示すものです。しかし、この3区分の中での男女間の賃金格差だけを比較しても格差の実態はわかりません。
表は、今回公表された企業のなかからランダムに選んだ3企業の実情を示したものです。A、B、C各社の「全労働者」の賃金差は、A社で大きく、C社で小さくなっています。一方、「非正規雇用」の賃金差では、B社、C社で、女性が男性より賃金が高いことが示されています。おそらく非正規で働く女性の方が、男性より勤続年数が長いなどの要因があるのでしょうが、女性の大半が非正規だという差別的な事実は、C社の「全労働者」の数値からはわかりません。
公表制度を改善して、男性の正規雇用を100とし、それに対する「全労働者」「正規雇用」「非正規雇用」の男女の賃金割合を示すなど、実態がより反映されるものにすべきです。そのためにも、男女の正規・非正規の労働者数を同時に示すようにして、適切に実態を分析できるようにする必要があります。
現役時代の賃金差は、高齢期に年金の格差にも跳ね返ります。高齢女性の貧困率が高いのは年金が低いからで、現役時代のパートや有期雇用などによる低賃金が反映しています。この点からも、男女賃金差の是正が大切です。(つづく)

「しんぶん赤旗」日刊紙 2024年4月5日付掲載


世界の賃金透明化法の背景には、男女の賃金差別解消は個人からの救済申し立てだけでは限界があるという問題意識。
個別救済を援助するためにも、賃金格差是正のプロアクティブ(予防的)な手段として賃金透明化法が登場。この法律では、労働者個人が使用者に、自分と同一価値労働をしている者の賃金を開示するよう求めることができます。また使用者は、比較されるべき男女間の賃金格差を公表し、一定以上の格差があれば是正する義務を負います。
一方、日本では、賃金差別の個別救済の問題点の認識がないまま、女性活躍推進の必要性から、男女賃金格差の公表を行っています。
公表制度を改善して、男性の正規雇用を100とし、それに対する「全労働者」「正規雇用」「非正規雇用」の男女の賃金割合を示すなど、実態がより反映されるものにすべき。そのためにも、男女の正規・非正規の労働者数を同時に示すようにして、適切に実態を分析できるようにする必要があります。
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