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ジャノーリによるモーツァルト「ピアノのための変奏曲全集」(第1集)初CD化のライナーノートです。

2011年04月27日 08時41分20秒 | ライナーノート(ウエストミンスター/編)






 昨日の続きとなります。ライナー・ノートの本文です。冒頭の写真は、今回の初CD化に際して、表紙デザインに使用されたジャノーリ(昨日の当ブログ参照)。


◎レコード盤に残されたレーヌ・ジャノーリ(1)
                              
 このところ、日本ウエストミンスターから連続してCD化されているレーヌ・ジャノーリの米ウエストミンスターへの録音も、ついに『モーツァルト・ピアノ変奏曲全集』の発売となった。1950年代の初頭(おそらく1950年または1951年と思われる)に開始されたジャノーリの米ウエストミンスターへの録音は、これまではすべてモノラル録音だったが、今回のもののみステレオ録音である。当時のモーツァルト研究の最新情報によって「Piano Variations」としてLP3枚組アルバムにまとめて発売されているが、収録曲に現在の「全集」と、わずかの異同があることはご承知置きいただきたい。今回のCD化にあたってはオリジナルLPの曲順・構成を尊重し、そのまま3枚のCDとして順次発売される。
 以下、レーヌ・ジャノーリとレコードをめぐる話題を、3回に分けてご紹介していきたい。

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 第二次世界大戦後、アメリカのレコード会社は、強い「ドル」の力を背景に次々とヨーロッパに乗り込んで録音・制作をしていた。ウィーンは、アメリカ、イギリス、フランス、ソビエトが戦勝国側として分割占領統治していた。当時、ヴァンガード、ヴォックス、ウラニアなどと共にウエストミンスターも、ウィーン常駐のスタッフによる録音が多かったので、その陰に隠れてあまり目立たないが、ウエストミンスターには英ニクサとの提携によるロンドン録音の他にパリでの録音も残されていて、そのいくつかが仏デュクレテ・トムソンとの提携によるものだということが知られている。
 だが私は、フランスのピアニストであるジャノーリのウエストミンスター録音は、必ずしもパリ録音ではないと思っている。それは、ジャノーリの初期録音の米盤に提携表記が見あたらないということもあるが、録音の音質が、当時のアメリカ好みのクリアなサウンドであることにもよる。そしてジャノーリが、当時ウィーンからスイス辺りでの演奏会が多かった可能性があることが、そうした想像に拍車をかけている。2枚ある協奏曲録音が、いずれもウィーン国立歌劇場管弦楽団によるものであることも、その裏付けとなるだろう。
 いずれにしても、ピアノ独奏をステレオ録音するという、当時としてはかなり「贅沢」な仕事によって、それまでのジャノーリのウエストミンスターによるピアノ録音の硬質な響きに、しっかりした定位に支えられた奥行と広がりが加わっているのはうれしいことだ。録音年が不明だが、アメリカのマイナーレーベルによるヨーロッパ録音が「ステレオ」に切り替わるのは1958年あたりからだから、このピアノ変奏曲集の録音は、おそらく1959年か1960年頃ということになるだろう。その後、ほどなくして米ウエストミンスターはオリジナル録音活動を休止してしまうので、これがジャノーリの最後のウエストミンスター録音となった。この後に続くジャノーリ録音は仏ムジ・ディスクへのショパン「協奏曲」(別記参照)であり、その後、仏アデへのショパン「ワルツ集」や、シューマン「ピアノ独奏曲全集」という膨大な仕事、そして仏エラートへの「バッハ・アルバム」となる。
 ところで、私は以前、米ウエストミンスターから1951年に発売された「バッハ・アルバム」が、ジャノーリのデビュー盤ではないかと書いたことがある。いわば、バッハに始まりバッハに行き着いた、といった風情にジャノーリの録音歴が見えてくるのだが、それが誤りであることがわかったので、この際、明記しておきたい。
 真にジャノーリのデビュー盤と思われるものは、1947年5月30日にパリで録音されて発売された仏BAMのSP盤3枚(6面)に収められたもので、曲目はベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第18番 変ホ長調作品31‐3」とブラームス「狂詩曲第2番ト短調作品79-2」。これは、貴重なSPレコード音源をCD‐R盤やDVD-R盤で制作・頒布している「グッディーズ」から昨年5月にリリースされており、録音データ、原盤データはそこに記載されているものを準用した。これまでの一連の日本ウエストミンスターによるLP復刻シリーズの音源制作を担当している新忠篤氏にご教示いただいたものである。
 それを聴いていて思ったのだが、デビュー盤とされるベートーヴェンの演奏のテンポ設定の自在さ、音色のカラフルな味わいといったものが、これまで聴いてきたジャノーリのウエストミンスターへのバッハやモーツァルトにも共通しているということである。
 ひとつひとつのピアノの音の粒立ちの良さが確保されているので、飽くまでもくっきりとしたフォルムは大切にされている。だが、同時に、情感の動きを大胆に表現するジャノーリのピアノは、ハッとさせられるテンポの揺れ、せき込む瞬間を随所に盛り込みながら、強弱の絶妙な変化の合間に見え隠れする音楽が、色彩感にあふれて独特の甘い香りを放っている。その魅力を言葉にするのは難しいが、今回のような「変奏曲」では、ことさら、その変化の妙が匂い芳しい音楽の泉となって楽しませてくれる。変奏曲という形式的な厳格さを、これほどに自在に飛び交わせてくれる演奏は、ジャノーリにして初めて可能な世界なのだと思った。



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