竹内貴久雄の部屋

文化史家、書籍編集者、盤歴60年のレコードCD収集家・音楽評論家の著作アーカイヴ。ときおり日々の雑感・収集余話を掲載

ジャノーリのレコード歴に関連して重要な指摘を戴きました。(「ステレオ」という用語成立以前のことなど)

2011年04月28日 10時08分12秒 | LPレコード・コレクション


 当ブログ、26日付けの「別記」に関して、さっそく今村亨さんから連絡メールが入ったことは、その26日付けの末尾に書き加えましたが、そのメールを少しだけ整理したものが、下記です。やはり、ジャノーリのショパン「協奏曲」は、フランスのディスク・クラブ盤が初出ということにしたほうが、正しいと言えるようです。私は1~2年の時間差だと思っていましたが、8~9年もの開きがあるようでは、仏ムジディスク盤は、単なる後発です。
 しかし、フランスのディスク・クラブがスタート当初からステレオ盤を発売していたとは、まだ信じられません。例えば、EMIやデッカよりスタートが遅れたドイツグラモフォンのステレオ初期、1959年~61年のフランス盤のジャケットは、「STEREO」という表記そのものがなくて、その位置の背文字には「UNIVERSEL」と入っているのですから。(私の手元にあるのはマゼールの指揮するものばかり。それぞれフランス初出盤です。)そのころ、日本では「立体音響」と表現していました。まだ業界全体で用語の統一に至っていなかったと思います。つまり、「ステレオって何?」と店頭で言われてしまうので、「立体音響」と表現していたのです。フランス語の「UNIVERSEL」は、「ウニヴェルセ」とでも発音するのでしょうか? お気づきのように英語の発音は「ユニバーサル」。普遍的とも全方位とも受け取れる、なかなかうまい表現です。これが、英語文化にムキになって反撥して独自表現にこだわっていた時期のフランスの実態のはずです。だから、60年に「STEREO」と堂々と銘打ったフランスの通販クラブ盤があるとは、俄かに信じられないのです。日本でも、この時代は、モノラルが先行発売、物によっては、数年遅れてステレオ盤の発売となっていました。コンサートホール盤も、後になってから同じ番号に「S」を付けたステレオ盤が発売された記憶があります。
 謎は、深いですね。今村さんも書いているステレオ初期のヨーロッパの原盤供給は、ほんとにわからないことが多いのです。原盤が「オーディオ・テープ・カンパニー」とあるのは、「ソンドラ・ビアンカ」のコレクションをしていて発見しました。何ですか、この表記。思わず笑ってしまいます。
 さて、いずれにしても、今村さんからの下記の指摘をお読みください。

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 ジャノーリのショパンPfコンチェルト1番(ジョルジュ・セバスチャン指揮、バーデン=バーデン南西ドイツ放送響)は仏Le Club Francais du Disque(N.368)でステレオ発売されています。ヨーロッパのクラブ盤が何故早い時期にステレオ録音を開始しているのか、また、オリジナル製作がどのように行われたのかは、複雑なパズルのような所があり、ずっと調べ続けている課題でもありますが、手元にあるピエール・サンカンが弾いたラヴェルのPfコンチェルト2曲(ピエール・デルヴォー指揮、バーデン=バーデン南西ドイツ放送響(写真※ 小さくて見え難いでしょうが、左上の黒い楕円形がステレオ表記です)をお見せします。ジャノーリ盤も同様で、少し前の番号(N.336、ステレオ)なので、多分同じ頃の製作だと思われます。
 一般的にクラブ盤は、米コンサートホールが1946年秋頃に開始した年間定期会員向けの通販によるレコード提供という販売形態を採用していますが、コンサートホールがヨーロッパに進出した50年代末頃から、各国毎に様々な通販クラブが設立されて活動を始めました。これは、通販事業が最も成立し難い国と言われていたフランスで、当初の予想を裏切ってコンサートホールが、数ヶ月の間に同国最大の売り上げを記録してしまったということが大きかったと言えるでしょう。
 こうした中でスタートした仏・独の通販クラブ盤は、コンサートホールを追うように、各国の放送局等とも緊密に提携してステレオ録音を活発に行いました。ご指摘のように、これ等のクラブ盤は60年代末頃に仏ムジディスクからまとめて一般発売されました。モノラル録音も含め全てステレオ表記でしたが、これは当時の一般的な基準が既にステレオに移行していたからに過ぎず、実際はただステレオ・カッティングしただけで、疑似ステレオ化等の処理は行わず、モノ録音はモノのままでステレオ表記されていました。このことからも、ムジディスクが自主製作した音源ではないのは明らかですが、だからと言って、「オリジナル製作はクラブ・フランセ」と言い切るのも、少し微妙な所があります。しかし、元々の製作が小規模な製作プロや放送局(バーデン=バーデンの南西ドイツ放送とフランクフルトのヘッセン放送は早くからステレオ録音を行っていました)であっても、前述のラヴェルが60年発売ですから、このクラブ・フランセ盤が初出である事は、ほぼ間違いないと思います。そして、同様にジャノーリのショパンもクラブ・フランセ盤が初出なのは確かでしょう。少なくともムジディスク盤と表現するよりは正確だと思われます。
 実は昨年末頃にコンサートホールに関する資料を入手し、調べてみましたが、コンサートホールがステレオ初期にヨーロッパで行った一連の録音の後を追いかけるように、様々なステレオ録音テープが製作され、それ等がメジャー・レーベル以外の様々な独立レーベルからのステレオLPの発売ソースになっていた事も判ってきました。そして、コンサートホールの活動の全体像も明らかになりました。くわしくは、今度お会いした時にでも。

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