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スティーヴ・ライヒとアダムスから思い出したテリー・ライリーなど、ミニマル・ミュージック全盛の時代

2011年05月19日 08時20分22秒 | BBC-RADIOクラシックス



 1995年の秋から1998年の春までの約3年間にわたって全100点のCDが発売されたシリーズに《BBC-RADIOクラシックス》というものがあります。これはイギリスのBBC放送局のライブラリーから編成されたもので、曲目構成、演奏者の顔ぶれともに、とても個性的でユニークなシリーズで、各種ディスコグラフィの編者として著名なジョン・ハントが大きく関わった企画でした。
 私はその日本盤で、全点の演奏についての解説を担当しましたが、それは私にとって、イギリスのある時期の音楽状況をトータル的に考えるという、またとない機会ともなりました。その時の原稿を、ひとつひとつ不定期に当ブログに再掲載していきます。そのための新しいカテゴリー『BBC-RADIO(BBCラジオ)クラシックス』も開設しました。
 なお、2010年1月2日付けの当ブログでは、このシリーズの特徴や意義について書いた文章を、さらに、2010年11月2日付けの当ブログでは、このシリーズを聴き進めての寸感を、それぞれ再掲載しましたので、合わせてお読みください。いわゆる西洋クラシック音楽の歴史におけるイギリスが果たした役割について、私なりに考察しています。

 以下の本日掲載分は、第4期発売の15点の4枚目です。

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【日本盤規格番号】CRCB-6079
【曲目】ライヒ:砂漠の音楽
  アダムス:弦楽オーケストラのための《シェイカー・ループス》
【演奏】ペーター・エトヴェシュ指揮BBC交響楽団/BBCシンガース
    リチャード・バックリー指揮BBC交響楽団
【録音日】1985年7月29日、1984年11月22日
 
■このCDの演奏についてのメモ
 現代音楽の潮流に確固とした位置を占めるに至った、いわゆる〈ミニマル・ミュージック〉の作品を収めたCD。ミニマル・ミュージックとは、ごく短い音のパターンを執拗に反復しながら、いつの間にか少しずつ変化しているといった手法の音楽で、聴き手は独特の浮遊感の中に置かれる。1960年代半ば過ぎにアメリカで起こった作曲技法だが、ミニマル・ミュージックとしてはおそらく、テリー・ライリーの1964年の作品『IN-C』が、初期の代表作だろう。これは1968年に米CBSのLPで発売されたが、世界の作曲界に大きな影響を与えた。70年代以降は、このライリーとスティーヴ・ライヒが、ミニマル・ミュージックの分野での双壁で、日本も含む世界の各地で演奏され、また、新作の依頼がされたが、このCDに収められたライヒの作品も、ドイツのケルン放送局などの委嘱による作品。このCDでも指揮をしているペーター・エトヴェシュの指揮で1984年3月にケルンで初演され、ライヒの新境地を拓いた作品として著名だ。同年10月にはニューヨークに於いて、マイケル・ティルソン・トーマス指揮でアメリカ初演。このCDは、それに続く演奏で、初演時と同じエトヴェシュの指揮による英国初演の録音だ。
 エトヴェシュは、ルーマニア中部のトランシルバニア出身で、ハンガリーのブダペストで学んだ。バルトークの他、現代を代表するブーレーズ、シュトックハウゼンなどの作品の解釈で定評がある。一時期、シュトックハウゼン・アンサンブルでピアノ及び、パーカッションを担当していたというが、ブーレーズに推挙され、指揮者としては1980年にパリ、ロンドンでデビューした。以来、主として現代作品の貴重なスペシャリストとして、1988年まで、BBC交響楽団の首席客演指揮者として活躍した。現在は研究と後進の育成に力を注いでいるようだ。
 後半に収録された、ライヒの後に続く世代のジョン・アダムスが作曲した作品『シェイカー・ループス』は、1978年の秋にサンフランシスコに於いて作曲者自身の指揮で初演されたアダムスの代表作。このCDには、イギリスに於ける1984年の録音が収録されている。指揮は多くの現代作曲家の作品の初演を手掛けていることで知られるアメリカのリチャード・バックリー。バックリーとBBC交響楽団との関係は不明だが、イギリスを始めドイツ、フランス、チェコなどに、しばしば客演している。(1996.7.24 執筆)


【ブログへの再掲載に際しての付記】
 それぞれ、曲の背景説明に終始していてぶっきらぼうな文章ですが、今から15年前には、やはり、こうした「コンテンポラリィ・ミュージック」について、あまり書く気は起らなかったというのが、正直なところです。同時代の演奏家に対する親密感と違って、「同時代の作品」に対しては、私は昔からそうだったと思います。問題提起の在り様が、私の中でなかなか客観化されないので、思うことはいろいろあるのですが書きづらいのです。そして、かなり距離が置けるようになった今日、「こうした音楽が持っていた意味」と、過去のものとして聴きはじめている自分に気づいて、ちょっと驚いています。
 文中で言及している『in C』は1970年代にすっかり気に入って、LP時代から愛聴盤でした。カセットにダビングして曲終わりでテープをカットし、B面に同じ録音を入れ、自動反転のカセットデッキにセットしてエンドレスで聴けるように加工できるようにしたときは、ご機嫌でした。今でも、ライリーのミニマル・ミュージックの正しい再生法だと思っています。ライリーはLPを2種類持っていたと思いますが、『in C』がCD化された時には、大喜びで買いました。CDはリピート再生が簡単で、いいですね。よく一杯飲みながら、本を読んでいました。
 ライヒの作品は、リルケ研究で著名な慶応義塾大学の塚越敏教授(故人)のお宅(沼袋)に、書籍編集者時代に原稿の打ち合わせで伺ったとき、聴かせていただいたのが最初です。塚越先生は、後に、私が『レコード芸術』誌に執筆をして「音楽評論家」と呼ばれるようになってしまったきっかけとなった同誌の編集者H氏を紹介した人です。1980年代の半ば頃のことだったと思います。
 アダムスという作曲家には、確かサイモン・ラトルも録音している作品があったと思いますが、既報のように現在、我が家の地震被害の修復中のCD棚の中にあるはずの1枚なので、現物の確認ができません。
 いずれにしても、このBBCのCD解説を書くために、ライヒは同曲異盤を探し出して購入し、聴き比べたのを覚えています。それが冒頭に掲載した写真のCDで、米ノンサッチから発売されたマイケル・ティルソン=トーマス盤です。1984年10月ニューヨークでのスタジオ録音です。(文献上で1984年10月にアメリカ初演、とあるのは、これを使用した「放送初演」なのかも知れませんが、未確認です。)『砂漠の音楽』は、ライヒがこだわっていたアメリカを代表する現代詩人、ウィリアム・カーロス・ウィリアムズのテクストを使用した音楽で、確かに「ミニマム」な繰り返しを多用した音楽ですが、私自身は、例えば日本の祭の「お神楽」を聴くようなビート感のある、美しくも抒情的でもある作品に聴こえるノンサッチ盤の方が、BBC盤よりも好きでした。そして、85年にLPも発売されていますが、写真のノンサッチ盤は、1991年にワーナー・ジャパンから発売された国内プレス盤です。中に封入された日本語解説書はLP時代の複写物です。こうしたジャンルでさえ、国内盤の発売があったのです。凄い時代でした。
 


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