
写真は、”Solti の Wagner: The Operas” 36枚のワーグナー10作ボックス。 アマゾンで ¥8,434 (1枚当り ¥235) で配送料込みで販売。 歌詞データ CD-ROM が付属しているが、156p 冊子に日本語訳は含まず。 安くて結構だが …
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1980年以前のアナログテープ録音時代は 固有のテープ雑音は消しようがなく、ドルビー装置などの雑音減衰技術を駆使していましたが、根本的なテープ雑音は残ったままでした。 このテープ雑音を消すために開発されたのがデジタル録音方式で、1970年前後です。
NHK 技研で開発され、それを引き継いだのが日本コロムビア・デノンで、当初は 12ビットで録音され、1970年代前半にはまず 45回転盤 LP (デジタル録音した音源のアナログ LP) が発売されました。 ジャケットも新機軸を出そうというからなのか、現代アートというか何というか、無機質なイメージ写真を使ったせいもあったのでしょう、45回転盤シリーズはすぐになくなっちゃいましたね (早くいうと売れなかったんでしょう)。
そして デノンは自社単独で孤軍奮闘 デジタル録音を進め、1974年に全曲録音されたのが、マリア・ジョアオ・ピリスのモーツァルト “ピアノソナタ全集”。 彼女はその当時は新人扱いでしたが、今は大御所で 2000年前後には名門ドイツ・グラモフォンで全曲録音し直しています。
1980年代にはやっと デジタル録音した音源をデジタル・メディアの CD で発売できるようになり、インバル指揮フランクフルト放送交響楽団によるマーラーの交響曲全集 (デノン発売) が世界的なヒットとなりました (今 インバルは、Exton から東京都交響楽団によるマーラー全集を再録音しつつあります)。
デノンはデジタル録音に使う ADC のビット数を当初の 12ビットから上げて (解像度を上げて)、1993年には 20bit、95年からは 96kHz/24bit 方式に突入しています。 当初のデジタル録音機材は、2インチ幅のビデオテープを使い、大型冷蔵庫くらいの大きさで重さも 2トンあったそうです。 欧州出張録音はかなり大変だったとか (今じゃ ポータブルの IC レコーダーがありますね)。
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もう一方のデジタル録音機の雄 ソニーも VTR を使ったデジタル録音機の製作を進め、フィリップスと共同開発した CD 規格を業界標準規格として CD プレーヤー発売と共に、音源をグループ会社の CBS ソニーから発売し、CD 時代の黎明期を形作りました。 1980年代初めのことです。
蘭フィリップスも CD プレーヤーを発売、傘下のドイツ・グラモフォンや英デッカ、フィリップスから音源を発売しましたが、多くの日本の電機メーカーの発売する CD プレーヤーの前では影が薄かったですね。 蘭フィリップスは音響関係の事業をマランツ社に売却、CD・レコード会社のフィリップスは英デッカに吸収されました。
その後はネット配信時代に突入して、メディアとしての CD 販売は売上規模が小さくなり、CD・レコード会社の統廃合が世界的に進んでいます。 具体例は、米 CBS ソニーと欧 BMG (旧 RCA) の統合、ドイツ・グラモフォンも独シーメンス系 → 独蘭ポリグラム → 加ユニバーサル → 仏ヴィヴェンディと、目まぐるしく親会社が変わっています。
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ある意味 20世紀のカリスマ指揮者 カラヤンは、いい時代に活躍したともいえるでしょう。 彼の膨大な録音歴を顧みると、当初は戦前の SP 録音 (ドイツ・グラモフォン) から始まって、戦後は LP とステレオの勃興期に英 EMI で録音専門のフィルハーモニア管とクラシック音楽の交響曲や管弦楽曲の代表的なレパートリーを世界中の大衆に届けました。
1960年以降の本格的なステレオ時代には ベルリン・フィルのシェフとして更に質の高い演奏を吹き込み (ドイツ・グラモフォン)、毎月のように新録音が続々と発売されては、批評も “絶賛” のオンパレード。 世界中で公演してその演奏を大衆に届けると同時に、クラシック音楽 LP つまり彼らのコンビが吹き込んだ膨大なレコードが大いに売れまくりました。
そして 80年以降のデジタル録音時代にも巡り合わせ、再々録音を繰り返して CD の発展にも貢献し、89年に惜しくも亡くなりました (当時のソニー社長 大賀典夫の眼前で)。 その後の95年にはインターネット時代が始まり、今に続くネット配信時代に突入するのですが、皮肉なことにネット配信が発達してきた ここ十年ほど前から CD 販売が落ちています。 売上の減った CD・レコード会社は人員整理か統廃合を余儀なくされていますね。
現在 クラシック界においては、カラヤンに代わるカリスマ指揮者・帝王不在の時代といってもいい状況で、そのためもあってか (?) クラシック CD の売上はカラヤン時代に比べ、激減しています (元々クラシック CD の売上は巨大な売上のポップス系大衆音楽の影のような存在でしたが)。 CD・レコード会社は、かつてのような多くの人手を抱える余裕がないのが現状です。
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「CD などの音楽ソフトの売上は下降の一途を辿る。 日本レコード協会の統計によると、1999年に 5695億円 だった生産総額は2013年に 2705億円 と半分以下にまで減少。 パソコンやケータイ、スマホなどの普及でインターネット経由での販売はシングル、アルバムのダウンロードが前年比で増えている」(日経ビジネスから 5月26日)
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でも 今はいくら CD が安く作れるからといっても、あまりに安直な CD セットもの、1枚当り数百円の大全集は、そこそこ売れても CD・レコード会社は自分で自分の首を絞めているようなもので、あまり大きな売上には貢献しないのではないでしょうか? 音楽 CD はジャケットや解説書を見ながら、読みながら聴くもので、ただ “同じ音が安く聴ければいい” というものではないはずです (勿論 そう考える層も少なからずありますが)。
冒頭写真の英デッカのワーグナー全集は、この類いと想像します。 付属する歌詞データ CD-ROM を見るには別途 PC を立ち上げ、画面の歌詞を見ながら曲を鑑賞すればいいのでしょうが、多くの愛好家は、PC のファンの音を嫌って PC を設置する部屋と音楽を鑑賞する部屋は別だと想像します。 歌詞訳が付属していない 156p 冊子では1作当り 15p しか記述がないことになり、ワーグナーを初めて聴く人向きではなく、既にワーグナーの LP や CD 全曲ものを幾つか保有している人が その既存オペラに付属した解説書も見ながら聴くような購入者が殆どではないでしょうか?
今後 音楽録音形態やメディア、流通のデジタル化がさらに進化すると、音楽産業はどのように変わっていくのでしょうか? 凡人には想像もできません。 流通やメディアが変わっても、音楽を聴きたい/楽しみたい/感動を味わいたい/元気をもらいたい/一緒に演奏して一体感を共有したい、という一般大衆/愛好家/マニア/演奏家/音楽提供者がなくなることはないでしょう。
以上
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1980年以前のアナログテープ録音時代は 固有のテープ雑音は消しようがなく、ドルビー装置などの雑音減衰技術を駆使していましたが、根本的なテープ雑音は残ったままでした。 このテープ雑音を消すために開発されたのがデジタル録音方式で、1970年前後です。
NHK 技研で開発され、それを引き継いだのが日本コロムビア・デノンで、当初は 12ビットで録音され、1970年代前半にはまず 45回転盤 LP (デジタル録音した音源のアナログ LP) が発売されました。 ジャケットも新機軸を出そうというからなのか、現代アートというか何というか、無機質なイメージ写真を使ったせいもあったのでしょう、45回転盤シリーズはすぐになくなっちゃいましたね (早くいうと売れなかったんでしょう)。
そして デノンは自社単独で孤軍奮闘 デジタル録音を進め、1974年に全曲録音されたのが、マリア・ジョアオ・ピリスのモーツァルト “ピアノソナタ全集”。 彼女はその当時は新人扱いでしたが、今は大御所で 2000年前後には名門ドイツ・グラモフォンで全曲録音し直しています。
1980年代にはやっと デジタル録音した音源をデジタル・メディアの CD で発売できるようになり、インバル指揮フランクフルト放送交響楽団によるマーラーの交響曲全集 (デノン発売) が世界的なヒットとなりました (今 インバルは、Exton から東京都交響楽団によるマーラー全集を再録音しつつあります)。
デノンはデジタル録音に使う ADC のビット数を当初の 12ビットから上げて (解像度を上げて)、1993年には 20bit、95年からは 96kHz/24bit 方式に突入しています。 当初のデジタル録音機材は、2インチ幅のビデオテープを使い、大型冷蔵庫くらいの大きさで重さも 2トンあったそうです。 欧州出張録音はかなり大変だったとか (今じゃ ポータブルの IC レコーダーがありますね)。
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もう一方のデジタル録音機の雄 ソニーも VTR を使ったデジタル録音機の製作を進め、フィリップスと共同開発した CD 規格を業界標準規格として CD プレーヤー発売と共に、音源をグループ会社の CBS ソニーから発売し、CD 時代の黎明期を形作りました。 1980年代初めのことです。
蘭フィリップスも CD プレーヤーを発売、傘下のドイツ・グラモフォンや英デッカ、フィリップスから音源を発売しましたが、多くの日本の電機メーカーの発売する CD プレーヤーの前では影が薄かったですね。 蘭フィリップスは音響関係の事業をマランツ社に売却、CD・レコード会社のフィリップスは英デッカに吸収されました。
その後はネット配信時代に突入して、メディアとしての CD 販売は売上規模が小さくなり、CD・レコード会社の統廃合が世界的に進んでいます。 具体例は、米 CBS ソニーと欧 BMG (旧 RCA) の統合、ドイツ・グラモフォンも独シーメンス系 → 独蘭ポリグラム → 加ユニバーサル → 仏ヴィヴェンディと、目まぐるしく親会社が変わっています。
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ある意味 20世紀のカリスマ指揮者 カラヤンは、いい時代に活躍したともいえるでしょう。 彼の膨大な録音歴を顧みると、当初は戦前の SP 録音 (ドイツ・グラモフォン) から始まって、戦後は LP とステレオの勃興期に英 EMI で録音専門のフィルハーモニア管とクラシック音楽の交響曲や管弦楽曲の代表的なレパートリーを世界中の大衆に届けました。
1960年以降の本格的なステレオ時代には ベルリン・フィルのシェフとして更に質の高い演奏を吹き込み (ドイツ・グラモフォン)、毎月のように新録音が続々と発売されては、批評も “絶賛” のオンパレード。 世界中で公演してその演奏を大衆に届けると同時に、クラシック音楽 LP つまり彼らのコンビが吹き込んだ膨大なレコードが大いに売れまくりました。
そして 80年以降のデジタル録音時代にも巡り合わせ、再々録音を繰り返して CD の発展にも貢献し、89年に惜しくも亡くなりました (当時のソニー社長 大賀典夫の眼前で)。 その後の95年にはインターネット時代が始まり、今に続くネット配信時代に突入するのですが、皮肉なことにネット配信が発達してきた ここ十年ほど前から CD 販売が落ちています。 売上の減った CD・レコード会社は人員整理か統廃合を余儀なくされていますね。
現在 クラシック界においては、カラヤンに代わるカリスマ指揮者・帝王不在の時代といってもいい状況で、そのためもあってか (?) クラシック CD の売上はカラヤン時代に比べ、激減しています (元々クラシック CD の売上は巨大な売上のポップス系大衆音楽の影のような存在でしたが)。 CD・レコード会社は、かつてのような多くの人手を抱える余裕がないのが現状です。
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「CD などの音楽ソフトの売上は下降の一途を辿る。 日本レコード協会の統計によると、1999年に 5695億円 だった生産総額は2013年に 2705億円 と半分以下にまで減少。 パソコンやケータイ、スマホなどの普及でインターネット経由での販売はシングル、アルバムのダウンロードが前年比で増えている」(日経ビジネスから 5月26日)
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でも 今はいくら CD が安く作れるからといっても、あまりに安直な CD セットもの、1枚当り数百円の大全集は、そこそこ売れても CD・レコード会社は自分で自分の首を絞めているようなもので、あまり大きな売上には貢献しないのではないでしょうか? 音楽 CD はジャケットや解説書を見ながら、読みながら聴くもので、ただ “同じ音が安く聴ければいい” というものではないはずです (勿論 そう考える層も少なからずありますが)。
冒頭写真の英デッカのワーグナー全集は、この類いと想像します。 付属する歌詞データ CD-ROM を見るには別途 PC を立ち上げ、画面の歌詞を見ながら曲を鑑賞すればいいのでしょうが、多くの愛好家は、PC のファンの音を嫌って PC を設置する部屋と音楽を鑑賞する部屋は別だと想像します。 歌詞訳が付属していない 156p 冊子では1作当り 15p しか記述がないことになり、ワーグナーを初めて聴く人向きではなく、既にワーグナーの LP や CD 全曲ものを幾つか保有している人が その既存オペラに付属した解説書も見ながら聴くような購入者が殆どではないでしょうか?
今後 音楽録音形態やメディア、流通のデジタル化がさらに進化すると、音楽産業はどのように変わっていくのでしょうか? 凡人には想像もできません。 流通やメディアが変わっても、音楽を聴きたい/楽しみたい/感動を味わいたい/元気をもらいたい/一緒に演奏して一体感を共有したい、という一般大衆/愛好家/マニア/演奏家/音楽提供者がなくなることはないでしょう。
以上