散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
コメント歓迎、ただし仕事関連のお問い合わせには対応していません。

記憶は裏切る/相羽君の任地/卒業42周年

2014-07-09 07:23:11 | 日記
2014年7月9日(水)

 Traduttore, traditore.

 前にも書いたかな、イタリア語の格言で「翻訳することは裏切ること」と直訳できる。
 「翻訳に誤訳はつきもの」「完全な翻訳などというものはありえない」ぐらいに薄めて訳されることが多いようだが、それこそ少々「裏切り」の匂いがするだろう。素直に読めばそんな限定的な内容ではなく、「翻訳することは、とりもなおさず裏切ることだ」と解するしかないだろう。部分的な批評ではなく全面的な宣告なのだ。
 たとえ一文の外国語でも、真剣に翻訳作業に取り組むならば、この言葉の真実であることがひしひしと実感される。

 その「裏切り行為」に敢えて仲間と挑戦しようとしているが、今はそのことではなくて。
 これをもじって言ってみたい。

 「記憶は裏切る」

 「記憶に誤訳はつきもの」だとか「完全に正確な記憶はありえない」という薄まった話ではなく、「記憶はその本性からして裏切るものだ」というんだが、言い過ぎかなあ。
 記憶の食い違いについて、若い作家が面白い短編を書いていた。そのタイトルも作家名も思い出せず、本棚に現物を見つけられず、それこそ記憶に翻弄される図。
 気まぐれな暴君というか、猫の性の悪女というか、ほんとに記憶というやつは・・・!

***

 『ねじクロ』で回り道をしてしまったが、6日(日)に名古屋へ往復したのは中学校の同窓会に出るためだったのだ。ついでにA君 ~ 本名で行こう、桜美林健心一期生の相羽大輔君とランチを共にした。
 相羽君はこの春から愛知教育大学に職を得て、こちらへ来ている。職場は刈谷 ~ 徳川家康の母方・水野氏の土地だが、住まいは名古屋の熱田神宮近く。20km足らずの近さでも、名古屋は尾張で刈谷は三河、本来別の国でメンタリティが面白いぐらい違う。同県内なのに今でも厳然と存在する境界が、人事異動などで浮き彫りになることを面白そうに話してくれた。
 許諾を得て写真を載せる。念のために付記すれば、彼は好んで髪の色を抜いているのではなく、いわゆるアルビノなのだ。ストロボの赤目が強調されるのも同じ理由により、決して軽くはない弱視がある。その境遇が彼を障害児教育に導いた。今後、間違いなく良い仕事をしてくれるだろう。
 (右の2枚は、一緒に食べた名物の櫃まぶし御膳。)
   

***

 同窓会は3時開宴、冒頭に俊ちゃんを覚えて合掌する。
 前回は来なかったコイデ君が、マイクを握って『千の風になって』を歌い出した。プロみたいな歌いっぷりだが銀行勤めだそうで、そういえば中学の時は合唱部だった。音楽祭の『スイカの名産地』、面白い歌だったな。
 これも前回欠席のショウゲンジ君は、ちびっこくてすばしこいサッカー少年だったのに、今は堂々たる押し出しの出版社勤務。
 「人にボールをぶつけるの、うまかったよね?」
 「三人兄弟の末っ子だったね?」
 「ケンダマの名人だったよね?」
 「授業中に両耳に鉛筆つっこんでブツブツ言ってたよね?」
 皆それぞれ覚えていることが違う。そして皆、他の誰も覚えていないことを一つは覚えている。ジグゾーパズルのピースを持ち寄るように、手持ちの記憶をあわせるとみるみる全体像が浮かび上がってくる。
 集合記憶の面白さだ。四つの福音書を生み出したのも、イエスの思い出を語る人々の共同作業だった。

 で、ようやく本題。

 アリタケさんという女の子がいた。2回とも欠席だが、誰かがスマホで写真を見せてくれた。お嬢さんの結婚式の写真である。
 アリタケさんは小顔のかわいい子で、勉強もよくできた。お医者さんの娘だった。(ここまでは全員一致)
 「お父さんが早くに亡くなったよね、確か中三の時」と僕。
 「高一の時だな」とモリセが修正し、皆がそれに同意する。
 「中三だと思うよ、僕は高校で東京に移ったから僕が知ってるってことはさ、お葬式にも行ったんだから。」
 「いや、アリタケさんは瑞陵で、それを違う高校の連中に急いで伝えたりしたから、間違いない。」
 「でも・・・」
 「それはおまえ、東京まで伝わったんだよ、何かあったんだろ、かわいい子だったから。」
 で、お決まりの和やかな大笑いに終わるんだが、どうも腑に落ちないのだ。
 これほどはっきり記憶していることが、間違ってるんだねえ、どうも。

***
 
 記憶は裏切る。それは間違いないが、そこから想像/創造も生まれてくるのではあるまいか。
 DNAの複製における間違いが、しばしば進化の源になるように。
 

俊乂密勿 多士寔寧 ~ 千字文 071

2014-07-09 06:49:41 | 日記
2014年7月9日(水)

○ 俊乂密勿 多士寔寧

「俊乂」、弘安本はシュンゲイと読むが、漢音はシュンガイだそうだ。才能すぐれた人の謂。
「密勿 ミツブツ」は務め励むさま、また「君主を補佐する」の意味もあるらしい。
「寔寧 ショクネイ」は「まことにやすらか」の意だと。
 天子が賢人と互いに親しむと、朝廷には君子が多くなり、世が安寧に至る。

 下記とほぼ同義か。

「済済(せいせい)たる多士、文王以て寧(やす)んず」(『詩経』大雅・文王)

 いわゆる多士済済、済美高校と済々黌の校名由来で一度見たのだった。忘れていた。
(『中国の古典 ~ 済美vs済々黌』2013年5月6日)