散日拾遺

日々の雑感、読書記録、自由連想その他いろいろ。
コメント歓迎、ただし仕事関連のお問い合わせには対応していません。

何ごとの不思議なけれど

2022-02-28 11:03:54 | 日記
2022年2月28日(月)


 このところ、朝きまってスズメがベランダに立ち寄っていく。4羽から5羽、冬枯れのプランターにも何かうま味のあるものか、ひとしきりついばむような動作をして飛び去っていく。飛び去る前にこうして並び、一息入れるようでもあり、眺めて思案するようでもある。

 何の不思議もないことがいつものように無事くりかえされる、これをもって平和と呼ぶ。

Ω

言葉と関わり

2022-02-27 12:10:40 | 日記
2022年2月27日(日)

ことばとは、かかわりのことです。
松下恭規牧師

***

「はっきり言っておく。これらのことがみな起こるまでは、この時代は決して滅びない。天地は滅びるが、わたしの言葉は決して滅びない。」
マタイによる福音書 24:34-35

Ω

紙の辞書の世代論

2022-02-27 07:21:48 | 日記
2022年2月27日(日)

 …その点、紙でできた辞書は素晴らしい。 人間だけでなく、辞書にも若者、中年、年寄りなどいろいろな世代があり、それぞれの良さがある。 だからわざわざ図書館に足を運んで古い辞書で調べることもある。19世紀の辞書の復刻版では Bohnenkaffee という言葉はまだ収録されていないし、今使っている辞典で引くと Bohnenkaffee はすでに載っていない。しかし1960年に作られた辞典にはしっかり説明してある。八十歳の教養人も二十歳の若者も知らない言葉を五十前後の世代だけが知っているということもあるようだ。Bohnenkaffee の意味は、「チコリーなどの混じらない純コーヒー」と説明してある。
多和田葉子『白鶴亮翅』25
 
 あった、ほんとだ!


 木村・相良の独和辞典は長らくベストセラーだったと聞いている。手許のものは昭和38(1963)年版の第13刷、昭和49年夏に父から手渡されたものだが、翌春の教室で関楠生先生が最初に推薦なさったのは、案の定これだった。作家が手にしているのも、きっと同じものに違いない。
 昭和49年から50年…川崎桃太氏がリスボンで、フロイスの『日本史』原文と運命的な出会いを果たした頃である。同時代の甘さと苦さ、そしてもどかしさ。

 

Ω

 

朝の付記

2022-02-26 08:51:23 | 日記
2022年2月26日(土)

 先の声明の真価は、実はE君のメール末尾の転載しなかった部分にある。
 Facebook に続々と現れるおびただしい数の署名、その一つ一つが命がけのものだ。今のロシアでプーチンに対して真っ向から No を叫ぶことが、あとあとどんな危険を招くことになるか。わが身大事、家族大事とばかり思えば、一片の署名すらできたものではない。こんな泡沫ブログでも公安は抜かりなくチェックしているよと警告してくれた友人があるが、もとより危険のレベルに雲泥の開きがある。それを思えば「涙が出る」は大げさでもなんでもない。
 声明文の土台には、たとえば「科学者のコミュニティが国境を越えた相互信頼に支えられている」という意味深い歴史認識もまた踏まえられており、現代史の資料として一行ずつ吟味し学ぶ意味がある。
 やや突飛ながら、第一次世界大戦の時期に社会主義者らが彼らの歴史観に則って唱えた「反戦」のことを連想する。そうした主張の中に理想に純たる者もあれば、別の権力と支配への野望もまた潜んでいた。そこからはロシアとウクライナに接続する歴史事情をたどることができる。
 あるいははまた、日頃まったく価値を実感できずにいるSNSが、ここでは硬直した制度の壁を突き崩す可能性があること等々。
 しかし、キリル文字の洪水に圧倒されながら今いちばん身に沁みて痛いのは以下の指摘である。

***

 キリシタンの根絶を目ざすために徳川幕府の用いた手段は、きわめて周到かつ陰湿なものであった。それが単にキリシタン問題のみならず、およそ権力者に対する逆心の芽をあらかじめ徹底的に摘んだという意味で、日本人の心性に遺した負の遺産の罪は計り知れない。

 第一:徹底検挙と極刑。幕府の命令の下に全国一斉に徹底した検挙を行い、キリシタンの信仰を捨てぬ者は老若男女の別なく火刑・斬首刑その他残虐なやり方で処刑した。
 第二:寺請制度。本格的な鎖国開始後には寺請制度を設けて宗門改帳を作成し、すべての日本人に某寺の檀家であることを証明する書類の提出を義務づけた。
 第三:婚姻手形。結婚や旅行にあたっては、自分が特定の寺に所属することの証明を求めた。
 第四:密告制度。キリシタンの疑いをかけられた者やキリシタンであった者を密告させ、賞金をもって密告を奨励した。
 第五:五人組の連座制。キリシタンが発見されると、その一家全員と五人組に属する全家の主人を処刑した。

 以上は仏教から宗教エネルギーを殺いで政治の末端組織に組み込むとともに、キリシタン的なものを日本の国土から完全に払拭するのが狙いであった。同時に、三百年間にわたって峻厳に維持されたこのような陰湿な制度が、その後の日本人の行動パターンに深く影響を遺したことは疑い得ない。
 未だに出る杭が打たれ、共同体的なものに明るさと開放性が認められないのは、鎖国の後遺症とはいえないだろうか?

川崎桃太『フロイスの見た戦国日本』より、一部改変

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 ついでにこちら:
 …見るからに聡明で理知的な風貌の女性の館長は、私の話を黙って聞いた後、無条件で承諾してくれた。それだけではない。これは帰国後のことだが、持ち帰ったフィルムに欠番のあることが判明した。手紙を出したところ、欠けた部分はコピーされてただちに送られてきた。私は図書館での閲覧のため一文の金も払っていない。そんなものは全く不要だった。それどころか、この写本を翻訳して日本人に紹介する意向のあることを知ると、満面に笑みを浮かべて私を激励してくれた。
 その頃すでにポルトガルは小さく、あまり豊かな国ではなかったのだが、ポルトガル人は別だった。過去の誇りに生きている民族であることを、あらゆる面で知ることができた。
川崎桃太『続・フロイスの見た戦国日本』

 「その頃」と筆者が記すのは、1974年(昭和49年)から翌年にかけての時期である。それから半世紀、あるいはその期間を後半部とする一世紀の間に、僕らもまた小さからぬ上下動を経験した。
 軍事であれ経済であれ大国の栄光が過去のものになったいま、日本人の誇りと主体性を回復するよりどころを、どこに求めればよいだろう?そして自分もまた署名に加わろうと思い立つ時、「鎖国」に養われたみみっちい心性が残り少ない後ろ髪にねちねちとからんでくる・・・

Ω

ロシアの科学者および科学ジャーナリストによる反戦声明

2022-02-25 22:30:00 | 日記
2022年2月25日(金)

 「夜分に失礼。すごいことになってます。Facebookにロシアの友人がたくさん登録されているのだけど、反戦の意思表示が続々と発信され、ある人はプロフィールを黒塗りにして抗議してます。またある人は、下記の学者・研究者・ジャーナリストの反戦声明を拡散しています。
 この声明を翻訳にかけて読んでみてください。涙が出ます。」

 ウクライナ侵攻の報を受けてまず考えたのは、ロシア国家とロシア人を区別すべきことだった。直後の来信、E君に感謝。
 以下、これまたE君が文末に示した翻訳サイトで英訳してくれたものを貼付する。今は読めないロシア語原文とあわせて。

Open letter from Russian scientists and science journalists against war with Ukraine

24.02.2022

  We, Russian scientists and science journalists, declare a strong protest against the military action launched by the armed forces of our country on the territory of Ukraine. This fatal step leads to enormous loss of life and undermines the foundations of the established system of international security. The responsibility for unleashing a new war in Europe lies entirely with Russia.
There is no reasonable justification for this war. Attempts to use the situation in Donbas as a pretext for deploying a military operation are not credible. It is clear that Ukraine does not pose a threat to our country's security. A war against it is unfair and frankly pointless.

  Ukraine was and remains a country close to us. Many of us have relatives, friends and colleagues in Ukraine. Our fathers, grandfathers and great grandfathers fought together against Nazism. The unleashing of war for the geopolitical ambitions of the Russian leadership, driven by dubious historiosophic fantasies, is a cynical betrayal of their memory. We respect Ukrainian statehood, which is based on really working democratic institutions. We are sympathetic to the European choice of our neighbours. We are convinced that all problems in relations between our countries can be resolved peacefully.

  By unleashing war, Russia condemned itself to international isolation, to the position of a pariah country. This means that we scientists will no longer be able to do our work properly: scientific research is inconceivable without full cooperation with colleagues from other countries. Isolating Russia from the world means a further cultural and technological degradation of our country, with no positive prospects. War with Ukraine is a step to nowhere. We are bitterly aware that our country, which made a decisive contribution to the victory over Nazism, has now become the instigator of a new war on the European continent.

  We demand an immediate halt to all military action against Ukraine. We demand respect for the sovereignty and territorial integrity of the Ukrainian State. We demand peace for our countries. Let us engage in science, not war!

(Signatures keep coming in, we add as we can)

Translated with www.DeepL.com/Translator (free version)

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Открытое письмо российских ученых и научных журналистов против войны с Украиной

 24.02.2022 

Мы, российские ученые и научные журналисты, заявляем решительный протест против военных действий, начатых вооружёнными силами нашей страны на территории Украины. Этот фатальный шаг ведёт к огромным человеческим жертвам и подрывает основы сложившейся системы международной безопасности. Ответственность за развязывание новой войны в Европе целиком лежит на России. 
Для этой войны нет никаких разумных оправданий. Попытки использовать ситуацию в Донбассе как повод для развёртывания военной операции не вызывают никакого доверия. Совершенно очевидно, что Украина не представляет угрозы для безопасности нашей страны. Война против неё несправедлива и откровенно бессмысленна. 

Украина была и остаётся близкой нам страной. У многих из нас в Украине живут родственники, друзья и коллеги по научной работе. Наши отцы, деды и прадеды вместе воевали против нацизма. Развязывание войны ради геополитических амбиций руководства РФ, движимого сомнительными историософскими фантазиями, есть циничное предательство их памяти. Мы уважаем украинскую государственность, которая держится на реально работающих демократических институтах. Мы с пониманием относимся к европейскому выбору наших соседей. Мы убеждены в том, что все проблемы в отношениях между нашими странами могут быть решены мирным путём.  

Развязав войну, Россия обрекла себя на международную изоляцию, на положение страны-изгоя. Это значит, что мы, учёные, теперь не сможем нормально заниматься своим делом: ведь проведение научных исследований немыслимо без полноценного сотрудничества с коллегами из других стран. Изоляция России от мира означает дальнейшую культурную и технологическую деградацию нашей страны при полном отсутствии позитивных перспектив. Война с Украиной – это шаг в никуда. Нам горько сознавать, что наша страна, которая внесла решающий вклад в победу над нацизмом, сейчас стала поджигателем новой войны на европейском континенте. 

Мы требуем немедленной остановки всех военных действий, направленных против Украины. Мы требуем уважения суверенитета и территориальной целостности украинского государства. Мы требуем мира для наших стран. Давайте заниматься наукой, а не войной! 

(Подписи продолжают приходить, добавляем по мере сил)

Ω