hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

アヴィドル・ダガン『宮廷の道化師たち』を読む

2012年12月20日 | 読書2
アヴィドル・ダガン著、千野栄一・姫野悦子訳『宮廷の道化師たち』を読んだ。

ナチ強制収容所の司令官コールの「宮廷」で、道化師を演じることによって処刑を免れた4人のユダヤ人たち、語り手の「背骨が曲がった」私、小人、占星術師、曲芸師(ジャグラー)の4人の物語である。
毛髪の不自由な私は、「せ◯し」という言葉を避けさせていただきました)

曲芸師ヴァーンは、自分の妻を殺した男を見つけ出して殺すために生きのびて、アルゼンチンにたどり着き、・・・。
なにより非人道的残忍さについて証言をしたいとなんとか生き抜いた私は戦後イスラエルに行き、占星術師マックに再会する。
さらに、腕に刺青された番号からヴァーンにも再会するが、そのとき彼は・・・。

果たして、我々は皆、この地上で宮廷道化師に過ぎず、我々の生死を司る全能者によって単にその慰みのために生かされているだけなのだろか? その疑問を取り除くことはできませんでした。
ちょうど権力を握る司令官コールが我々を生かしつづけたように?

本の最後の方で、家の裏庭を眺めていた私はふと気がつく。

けれども私にはこの瞬間、一つのことがはっきりしたのです。こんなにも多くの、えも言われぬ美しさが、目的もなく創られているわけがないということを。こうしたあらゆる美に驚嘆し、見とれて立ち尽くすことが許されている者たちが、それを創造した者の気晴らしのためだけに創られたとは考えられません。




私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

きちんと書かれており、哲学的テーマも筋が通っている。しかし、変なところに引っかかる私の思いがあって、ズレタまま終わってしまった。

前半はいかにユダヤ人がナチスから残忍な仕打ちを受けたかが述べられる。既にこの部分で私はウンザリしてしまう。私はこの種の話に距離を置きたい。なぜなら、今イスラエルがパレスチナをゲット-化し、領土を犯し続けているからだ。被迫害者がいまや防衛の名のもとに迫害者になっている。ヴァーンがアラブ人のテロによって負傷する場面がもっともらしく描かれるのにも反発するだけだ。



以下の著者の経歴は、ナチスの迫害からは早めに逃れているのだが、波乱に満ちている。
アヴィグドル・ダガン Avidor Dagan
1912年チェコのユダヤ人の家に生まれる。
1933年フィシェルの名で詩人として活動を始める。
1938年プラハのカレル大学法学博士。
1939年イギリスに亡命、チェコ亡命政権で働く。
戦後、プラハの外務省報道担当官となる。
1948年共産党クーデターで独裁政権となり、1949年イスラエルに出国。
チェコでは著作は発禁となる。
イスラエル国籍をとり、アヴィグドル・ダガンの名となる。
1955年以後はイスラエルの外交官として、日本でも臨時大使を務める。
1977年退職し作家活動に専念。
1982年本書のヘブライ語訳が出版(チェコ語の原書はビロード革命の翌年1990年出版)
1990年に発表された本書は今、チェコで最も読まれている。


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