hiyamizu's blog

読書記録をメインに、散歩など退職者の日常生活記録、たまの旅行記など

森絵都『この女』を読む

2011年10月02日 | 読書2
森絵都著『この女』2011年5月筑摩書房発行、を読んだ。

舞台は1995年前後の大阪、神戸。阪神大震災の直前。大阪・釜ヶ崎で日雇い労働者をしている20代の若者、甲坂礼司が書いた『ある女』というタイトルの小説、作中作で始まる。

礼司がホテルチェーン社長夫人二谷結子の生い立ちを小説として書くことを300万円で依頼される。彼と数歳の歳の差しかない結子は、乱れた生活をし、生い立ちに関し嘘ばかりつき、一筋縄ではいかない。しかし、それらの嘘の話からは、現在の結子の絶望と孤独と、ある種のたくましさがにじみ出てくる。

彼女は「一回寝たら、もうそれだけで家族になれた気がするやんか」と多くの男とセックスするが、同じ男とは二度しない。なぜなら「家族には欲情せえへん」からだという。

気まぐれで、しっかりしているようで頼りなく、冷たいようで、ときにやさしい結子に、そのまま惹かれていく礼司は、彼女を描ききりたくて必死に小説を完了させようとする。やがて、小説依頼の背景に釜ケ谷地区をめぐる土地買収の巨大な陰謀が見えてくる。



森絵都(もり・えと)
1968年東京生まれ。女性。
日本児童教育専門学校卒業後、アニメーションのシナリオ作成。早稲田大学第二文学部卒。
1990年『リズム』で講談社児童文学新人賞を受賞しデビュー。翌年椋鳩十児童文学賞受賞。その後も数々の作品で多数の文学賞を受賞している。
1999年『カラフル』は産経児童出版文化賞受賞、映画化
2003年『DIVE!!』小学館児童出版文化賞受賞、映画化
2006年『風に舞いあがるビニールシート』で直木賞受賞。
他に『永遠の出口』『ラン』『架空の球を追う』など。



私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)

面白く引きこまれて読み進めた。徐々に明らかになる結子という女性の正体、謎解きと魅力に引きこまれて行く礼司。
しかし、礼司と結子の話にいろいろな小テーマがいりまじり、枝葉が多い。新興宗教にはまったお坊ちゃん大学生、釜ヶ崎改造計画など、中途半端に終わってしまう。阪神大震災を暗示するだけでなく、何が絶たれてしまったのか明示して欲しかった。

「作中作」という構成になっているが、冒頭で、礼司が関西の大震災で行方不明になっていることが明かされてしまう。この構成もわかりにくく、逆に主人公、礼司の結末が早々に解ってしまうのはどうかと思う。


コメント
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする