夜の月忌回向も終わり、夕食の時間を迎えた。
嘱託テーブルに座ると、
独特な匂いが漂っていた。
「この匂い・・・なに?」
見ると、テーブルの上には茶色の物体がある。
「大根の煮つけよ。
今日、檀家さんからいただいたでしょう」
台所にいる家内が、振り返る。
フライパンを忙しそうに動かしている。
卵焼き。
僕の大好物。
でも、目の前にある大根の煮つけ。
これ・・・僕のトラウマなんですけど。
学生寮の献立で、
切り干し大根の煮つけ、ひじき、があった。
好き嫌いが激しい僕は、
今まで食べたことがなかった。
学生寮は、安い食費で運営されていた。
食事を作るのは、老夫婦。
だから、切り干し大根も、ひじきも
異様な匂いがした。
※(あくまでも、当時感じたことです。
決しておいしくないと言っているわけではありません)
口に入れると、吐きそうになる。
とても食べられない。
他の寮生を見ると、みんな黙々と食べている。
学生寮は、食べ物を残してはいけない。
食べ終わるまで、席を立てない。
だから、地獄だった。
吐き気を我慢しながら、
胃の中に流し込んだ。
その記憶が、今なお鮮明に残っている。
一生消えないだろう。
夕食。
目の前にある、大根の煮つけ。
おいしそうに食べる家内を、恨めしげに眺める。
「母ちゃん、残してもいい?」
「だめよ!」
氷の視線が突き刺さる。
「好き嫌いは、だめ」
柔らかな顔で諭される。
目を閉じて、口に中に入れた。
グェッ・・・。
涙と一緒に、僕は食べ続けた。
好き嫌い。
子供の時に、治しておこうね