元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

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時間外労働の絶対的な制限・上限はないのか。

2015-05-09 18:04:40 | 社会保険労務士
労災保険法及び労働安全衛生法からのアプローチ

 労働時間を規制する労働基準法においては、法定労働時間はあるものの、36協定等でそれを超える時間外労働は認められており、そこでは、行政によるチェックはあるものの、絶対的な労働時間の上限は、基本的にはないことは、前回申し上げたところである。
<時間外労働時間の制限(労働基準法~36協定)> 

 それでは、青天井となって全く絶対的上限の規制がかからないかというとそうでもない。今回のテーマは、その絶対的な時間外労働時間の上限をさぐろうというものである。

 政府は1980年代において、年間の一人あたりの平均総労働時間を1800時間とする目標を掲げてきた。当時は労働時間が2000時間以上となり、エコノミックアニマルと海外から批判され、外圧(=外国からの圧力)によって、それではいかんと労働時間を削減することが急務であった。ところが1990年に2031時間あった労働時間も1995年には1884時間、2000年には1821時間、2002年には1798時間となり、またたく間に目標を達成してしまった。これには、からくりがあり、パート労働者の比率が上がったことによることが原因と言われる。結局、労働時間の総枠規制では、一人あたりの労働時間削減にはあまり意味をなさなかったのである。

 そこで、長時間労働に規制がかかるのは、労災保険法からの規制である。労災として認められるのは、「業務上」疾病であるが、本来は原因と結果の間に業務上の関連性があれば認められるものではあるが、現在の医学から業務から生ずる蓋然性の高い疾病が、その原因ごとに一覧表として挙げられ、これに該当すれば、反対の証拠がない限り、労災保険が適用されるという形になっている。

 いままでこの一覧表には入っていなかったが、2010年から、長時間労働による脳・心臓疾患や過度の心理的負荷による精神障害が該当することになった。従来でも、長時間労働や過度の心理的負荷は脳疾患等や精神疾患としては認められてはいたが、これにより、より労働災害が認められやすくなったのである。

 これをさかのぼること2001年に、最高裁の判決もあり、労災の「認定基準」の方が先に見直しがなされ、(1)発症前1か月ないし6か月にわたって、一か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症の関連性は弱いが、おおむね45時間を超えて時間外労働が長くなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まると評価できるとある。そして、(2)発症前1か月間に100時間または発症前2か月ないし6か月にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症の関連性が強いと評価できる とした。精神障害にあっては、2011年に認定基準が改定となり、発病直前の一か月におおむね160時間以上の時間外労働や発病直前の3週間におおむね120時間以上の時間外労働を行った場合は、心理的負荷が最も強い「強」と判定され、業務外の強いストレスや脆弱性などの個体側要因がない限りは、業務起因性が肯定されるとしている。

 そのうえで、本来は直接は関係はないのだが、労災として認められると安全配慮義務違反があるとして、損害賠償責任が認められる可能性が大となる。

 ということは、総じて、80時間を超える長時間労働を課している企業にとっては、何かあった場合の損害賠償責任等のリスクが高まるといえるものであり、この長時間労働の80時間が法的な絶対的な時間外労働時間の限界といえないまでも、企業に一定の歯止めといえるのではないか。あくまでも、業務上の疾病が起きてからの責任であるが、それが起こらないように予防策として、企業もその責任が生じないように自ら歯止めをかけることになると思われる。

 さらに、労働安全衛生法でも2005年から、事業者は労働者の週40時間を超える労働が1か月当たりで100時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められるときは、労働者の申し出を受けて、医師による申し出を受けて、医師による面接指導を行わなければならないとされている。この義務が課されるのは、労働者の申し出をうけてという条件が付くのではあるが、100時間超の場合は、強制的な義務となっている。ちなみに、80時間超の場合は、努力義務となっている。

 2000年以降の動きを見ると、時間外労働の長期化は、この医師の面接指導の規定と相まって、先の労災の業務との関連性の「認定基準」が100時間・80時間が何かあった場合や安全配慮義務違反としての損害賠償の「リスク」を負うことになり、絶対的な法的制限とは言えないまでもそれに近いものとなっていると言えそうである。いずれにしても、時間外労働80時間・100時間という時間は、労働者に対して健康面からのリスクが非常に高まるラインとなるところであり、企業としては無視できないものとなっていると言える。


関連ブログ(1)<時間外労働には絶対的な制限・上限はあるか=実際の運用と法定労働時間のかい離>
関連ブログ<時間外労働等45時間・80時間・100時間に注意>


 参考 労働時間制度改革(大内伸哉著) 中央経済社

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