真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「不倫航海 人妻みだら貝」(2007/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/監督・出演・脚本:荒木太郎/撮影・照明:飯岡聖英・堂前徹之・宮田圭一/応援:田中康文・小林徹哉/編集:酒井正次/助監督・脚本協力:三上紗恵子/音楽:白井秀明/協力:pejite・佐藤選人・ハリウッド/タイミング:安斎公一/出演:桜田さくら・佐倉萌・淡島小鞠・真田幹也・縄文人)。
 「ようしいいぞ、ここまで来い!」父親が息子に泳ぎを教へる、短いショットを噛ませてタイトル・イン。
 後に語られる設定は南伊豆町すぐいく課の地方公務員・広瀬寛巳もとい広海(真田)の父親で、職業不詳の割には羽振りのいい譲治(縄)がヨットによる世界一周から帰国、父子は三年ぶりに再会する。因みに、全く登場しない広海の母からは、カサノバ気取りの譲治は十年前に愛想を尽かされ逃げられてゐた。待ち合はせた小さな埠頭にて、広海が肉感的な主演女優に目を留めたところで、赤いビグスクに跨り譲治登場。譲治の根城は、現し世でも縄文人が所有するアート工房との「pejite」。何某かの店の女らしき、譲治とは懇意のマナとカナ(佐倉萌と淡島小鞠)が二人を迎へる。その夜、譲治V.S.マナカナのコッテリとした巴戦も噛ませつつ、翌日父―劇中、広海は譲治のことを“父”と呼称―に送られる広海は、昨日見た美人が波間に漂ふのを発見、自死かと思ひ慌てる。とはいへ助け出したルリ子(桜田)は、人騒がせにも着衣のまま海に浸かつてゐただけであつた。後日、勤務中の広海は、駅で荒木太郎ともう一人(プロジェク太の情けない画質に阻まれ識別不能)を見送るルリ子と再々会、連絡先を得ることに成功。古の恋のABCでいふとAまでの逢瀬の末、親爺のヨットに乗るデートに漕ぎつける。そんな折、譲治は夫(荒木)をこの日はキスで見送るルリ子を目撃、ルリ子が人妻であることを知る。初心な息子を案じる譲治は広海から遠ざかるやう諭す一方で、自身は勢ひに乗じルリ子と爛れた関係に溺れる。
 今にして改めて思ふならば、2006年に本格的にスタートし昨今漸く沈静の気配を窺はせなくもない、荒木太郎の三上紗恵子(=淡島小鞠)との心中路線の中でも、迷走ぶりが顕著な仕出かし作。中盤以降は手数を明確に欠き、間に荒木太郎の役得もタップリと挿んだ、息子よりも愚息が可愛い譲治とルリ子の濡れ場がひたすらに連ねられる展開からは、下衆に勘繰るやうだが“荒木太郎の縄文人による縄文人のための一作”といふ色彩が兎にも角にも強い。さうなると幾ら桜田さくらの裸が攻撃力に富むとはいへ、所詮は何処まで行つても主役が素人につき、最終的には誰の為の商業映画かと鼻白むばかり。親子も含んだ三角関係を常識的かつ生温かく見守る、マナとカナの視座はひとつの基点として有効に機能する一方で、二人から想ひ人を父親に寝取られたことを知り、折角最終盤に及んで遅れ馳せながら青春を弾けさせルリ子を猛然と追ひ駆け始めた広海のエモーションに、既に鮮度の失はれて久しい桜田さくらと縄文人の絡みで水を差すに至つては、相も変らずでピンク監督としては致命的な、荒木太郎の裸の見せ方の下手さに正しく万事休す。挙句に、明けると広海は疲れたのかテレーッと寝てやがる始末。斯くも支離滅裂のクライマックスといふのも珍しい、と呆れるのも通り越し妙に感心しかけるのはまだ早い。洋上の修羅場に本当に全く満足にケリをつけられぬままに、譲治にとつても座右の銘らしい、何故か猪木が一休宗純の言葉と誤認する、“迷はず行けよ 行けばわかるさ”で御馴染みの清沢哲夫(a.k.a.暁烏哲夫)による詩の一節―CRDより―も持ち出し投げ放されたラストは別の意味でお見事、木端微塵が逆の意味で完成される。ロケーションには恵まれ画的な見所は決して無くはないので、他国語による吹き替へ版でも逆輸入してみせた方が、まだしも意外と普通に観てゐられるのかも知れない。


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