真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「美しすぎる女刑務官 女囚淫行」(1997『女刑務官 檻の発情牝たち』の2011年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督・脚本:伊藤正治/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:佐藤文男/照明:小野弘文/編集:金子尚樹《フィルムクラフト》/製作担当:真弓学/助監督:羽生研司/ヘアメイク:松本貴恵子/監督助手:紀伊正志/撮影助手:鏡早智/効果:東京スクリーンサービス/挿入歌:鴨川哲郎&The An teaters「Hit The Big Tree」より/出演:メイファ・青木こずえ・山本清彦・吉行由実・白都翔一・真央はじめ)。出演者中真央はじめが、ポスターには真央元。照明助手に力尽きる、といふか、俺本体がリアルに力尽きかけてゐる。
 メイファと真央はじめの絡みで開巻。刑務官・三島(真央)を色と金で買収した佐伯薫(メイファ)は、女刑務官の制服と房の鍵を手に入れる。後述するが例によつて戸建の女囚房、薫が檻の中の川村岬(青木)と再会を果たしたところでタイトル・イン。
 タイトル明け場面ガラッと変り、写真スタジオにて水着モデルの撮影風景。第四者を連れて来たのでなければ、背中からしか抜かれないモデル役は、恐らく体つきから青木こずえ(a.k.a.村上ゆう)の二役か。それと、関係者要員が若干名見切れる。要領の悪いアシスタントの薫に、カメラマン・矢崎浩郁(白都)の怒号が飛ぶ。薫がションボリしてゐると、先輩カメアシの岬が温かく接する。帰宅した岬と薫を、岬の従姉弟・忍(山本)が迎へる。字面だけだとどうしてもゴチャゴチャしてしまふのを整理すると、幼少時に両親を亡くした岬が忍の家に引き取られ、二人は実の姉弟のやうに育つ。その後忍の両親も死去した二人きりの川村家に、薄給故薫が世話になつてゐるものだつた。そして、目下薫と忍は男女の仲にあつた。
 吉行由実は、事実上矢崎を愛人として囲ふ、写真スタジオ経営者・原絹代。前段の撮影で下手に芸術嗜好の写真を撮りクライアントを怒らせた矢崎に、セックスだけが取り柄とある意味羨ましい業を煮やす。絹代に追ひ詰められた矢崎が、弱い者がさらに弱い者をたたくが如く薫と岬に詰め寄りヌード写真を撮影する一方で、岬と忍が以前から禁忌を侵す関係にある会話を盗み聞いた、薫は衝撃を受ける。
 本来ならばアシスタントの二人を捕まへ脱げだなどと、矢崎が八つ当たり気味に迫る件をファースト・インパクトに、以降折に触れ全篇を彩る、といふかより直截には散らかすといふべきなのかが甚だ微妙な、鴨川哲郎&The An teatersによる楽曲は、何れも普通によく出来たメロディに乗せた書き言葉風の妙に硬い歌詞を、音程は概ね正確ながら発声がへべれけな素人ヴォーカルが頓珍漢に歌ひ上げる、一聴必殺の迷トラック。
 「女刑務官 牝私刑」(1997/主演:冴月汐)に続く、伊藤正治1997年第二作。改めて振り返ると伊藤正治―ピンク映画監督作全六本―は、「女囚・毛剃り私刑」(1995/主演:吉川由貴/未見)なるソリッドなタイトルのデビュー作後翌年に跨いで女囚映画を二本、その翌年今度は女刑務官映画を二本、そして更に翌年には未亡人映画を二本といふ、幾らジャンル的に偏り易いピンク作家とはいへ、なかなか特殊なフィルモグラフィーを誇つてゐる。女刑務官映画と聞くと、女囚映画の逆視点といふ塩梅で、単に女囚を虐げる対象が百合の花を狂ひ咲かせる同性に変つただけのことかと思ひきや、正しくあに図らんや。所々に檻越しの薫と岬の2ショットを挿み適宜アクセントをつけつつ、物語の主眼はあくまで娑婆での薫と岬が忍を間に挟んだ三角関係。一部始終を伊藤正治らしい丁寧さでトレースした上で、予想外のロマンティックにも悲劇的な結末に辿り着く展開は、タイトルが当然に惹起するサディスティックな百合映画の予想を、ものの見事に覆してみせる。狗肉を偽り羊頭を売るが如く、特殊映画の看板からオーソドックスな恋愛映画が飛び出す変格的な本格は、よくよく思ひ返してみると「女刑務官 牝私刑」と全く同趣向の、プログラム・ピクチャーの特性を逆手に取つた実に心憎い戦法である。その限りに於いては伊藤正治に素直にシャッポを脱ぐと同時に、ポスターによると“アジアの名器”との愉快な異名も持つ主演女優のメイファは、超絶ボディの美しさは兎も角表情もさうなると当然にお芝居の方も、清々しく心許ないばかり。要は、エクセスライクな主人公に映画全体が足を引かれる構図も、「女刑務官 牝私刑」と同様である辺りは、話が上手くは行かないところでもある。

 “美しすぎる女刑務官”、時流に健気に即さうとした気配が、微笑ましい新題である。それと、因みに旧題にある“発情牝”は、“さかりめ”と読ませるらしい。“さかりめ”て、酒のツマミみたいだ。


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