恥母の名古屋帯 いぢくる

　「恥母の名古屋帯　いぢくる」（2005/製作：フィルム・ハウス/提供：Xces Film/監督：勝利一/脚本：国見岳士/企画：稲山悌二/プロデューサー：伍代俊介/撮影：創優和/照明：小峯睦男/助監督：竹洞哲也/メイク・衣装：早津晋二/スチール：阿部真也/撮影助手：沼田知久/照明助手：松本智之/監督助手：伊藤裕太・安達守/編集：フィルム・クラフト/録音：シネキャビン/音楽：中目黒合唱団/撮影協力：カプリ/現像：東映ラボ・テック/出演：紫綾乃・瀬戸恵子・矢藤あき・小林三四郎・竹本泰志・柳之内たくま）。脚本の国見岳士は、勝利一の変名。
　竹下志保（紫）は夫・真一（小林）とともに、名古屋で呉服店を営む。真一は安い化繊―化学繊維―織りの着物も扱ふやう提案するが、拘りを持つ志保は頑とした抵抗を示す。とはいへ呉服店の経営は芳しくなく、全国での展示即売会に真一自ら運転するワゴン車で出向いてゐる。出がけにエンジンのかゝりが悪い伏線を馬鹿丁寧に挿みつつ、車は東京で故障して動かなくなる。仕方なく、志保と真一は偶々近くに住む志保の姉・草壁松枝（瀬戸）の家に身を寄せる。
　“熟女No.1女優　紫綾乃が映画初主演”と、ポスターには賑々しく謳はれる。何が、もしくは何のNo.1なのだかはさつぱり判らない。今時に判り易く譬へるとお笑ひ芸人の友近のお姉さん、といつた風情の紫綾乃が、まあお芝居の方はといへば殆ど素人。比較の対象を持ち出すと、山下将軍よりは幾分マシなくらゐか。主演が素人の映画といふのも、「シベ超」は特殊な例として桃色の世界では、殊に敵がエクセスとあつては、まゝあるチン事もとい椿事でもある。ともあれ紫綾乃のお芝居はさて措き、体の方はそれはもう、蕩けさうなエロい体をしてゐる。それも又、といふかそれで又よし。
　登場順に竹本泰志は、バツイチである松枝の不倫相手・山崎吾郎、中古車店に勤務する。松枝が山崎を不倫相手と志保に語る点から、山崎は既婚者と推定される。矢藤あきは、松枝の娘で女子大生のいずみ。志保に感化され母の着物を一日着るといふ件が設けられるが、これが別に決して悪くはない。と、なると。順番的には前後するが加藤義一の「義父の愛戯　喪服のとまどひ」（2006）で感じた強力な違和感といふのは、地味な喪服もさることながら、矢張り主要な敗因はアップにした髪形にあつたといふ寸法か。山崎を相手にした夢でオトす絡みは、最終的に正雄―直後に後述―との一戦が用意されてゐる以上、別に不要ではなかつたかとも思はれる。柳之内たくまは、真一の後妻である志保とは血の繋がらぬ息子・正雄。名古屋の大学を中退したのち、東京でフリーターをしながらプロを目指しバンド活動を続けてゐる。バイトだけでは食へぬと、呉服店の経営も苦しい中、月十万の仕送りをして貰つてゐる脛齧り。
　蕩けさうなエロい体をしつつも演技は素人の女を堂々と、あるいはのうのうと主演に据ゑた時点で、ストーリーもテーマもへつたくれもない、エロが主体、女の裸が見所、濡れ場が全て。他に何が必要といふのか、と開き直つた、もとい腹を括つた映画であらう節は恐らく疑ひない。その割に、仙台まで行く途中で車が壊れてしまつた。お金もないのにどうしよう・・・＞＜　などとどうでもいゝ、といへば実も蓋もない伏線を、一本の映画を通して最後まで律儀に引つ張る辺りは実に微笑ましい、チャーミングな一作といへよう。その上で、局所的に腹を抱へさせられるポイントが二箇所。
　冒頭、志保と真一が仙台出発の準備をする。手短に基本設定の説明を済ませたところで、真一はうつむいた志保のうなじに不意に催す。とかいふ次第で冒頭早速展開される夫婦生活に対して異を唱へるつもりは勿論毛頭ないが、真一が志保を押し倒すと、いきなり真一の下半身はパンツ一丁になつてゐる、一体何時ズボンを脱いだのだ。それ、とも。初めから履いてゐなかつたのか？「探偵物語」OPの工藤ちやんかよ。この愉快なジャンプ・カットは、締め括りの一戦に際しても、いきなり志保が襦袢姿になつてゐる、早変りに蒸し返される。
　もう一箇所、家計が苦しいゆゑ仕送りを止める旨を正雄に伝へに、東京で足止めを喰らつたついでで志保が義理の息子の部屋を訪れる件。志保がそのことを切り出すや、キレた正雄は義母を犯し始める。その途端、♪ギュイーン（ギターの音）、ドカドカドカ（同：ドラム）と調子外れに威勢よく鳴り始める、底の浅さも通り過ぎ最早抜けた劇伴。映画史に残りかねない安い選曲には、素面で大笑させられた。