真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「人妻を濡らす蛇 -SM至極編-」(2005/制作:セメントマッチ/提供:オーピー映画/監督:池島ゆたか/原作・脚本:五代暁子『呪縛の屋敷』より 桃園書房刊SM小説『蛇』掲載/撮影:清水正二/編集:酒井正次/音楽:大場一魅/助監督:森山茂雄/監督助手:高田宝重・中川大資・松本一真/撮影助手:海津真也・中村純一/協力:後藤大輔、他一社/緊縛:狩野千秋/出演:山口真里・水沢ゆりな・華沢レモン・紅蘭・竹本泰志・中川大輔・神戸顕一・牧村耕次)。出演者中、神戸顕一は本篇クレジットのみ。
 舞台は前篇の三年後、ゆうな(山口)は渋谷武彦(牧村)との交はりも絶ち、現在は平凡な主婦として生活してゐた。ところが夫・水島(中川)の急な仕事により、キャンセルになつてしまつた夫婦のグアム旅行の埋め合はせの温泉一人旅を口実に、ゆうなは再び渋谷の下を訪れ、二度とは引き返せぬ魔界への扉を開いてしまふ、といふ後篇である。
 至極編には、渋谷の知識と技術の全てを受け継いだ弟子・森沢真悦(竹本)と、開華編で大暴れしたエリカ女王様(紅蘭)は電話越しの東京に止(とど)まり、代つて妹分のリョウ女王様(華沢)が新たに登場。竹本泰志には特に心配もないのだが、華沢レモンが女王様として登場して来た時には、前作紅蘭の伊達ではない本職ぶりが印象に強い分、正直些か以上の不安を覚えたものである。ものの、それは完全なる杞憂であつた。中々以上に堂に入つた女王様である、平板にギャルギャルしてゐるやうに見えて、結構カンのいい女優さんでもあるのであらうか。加へて、ゆうなの調教に際し暴走の余り渋谷に逆らひ逆鱗に触れ、挙句エリカ女王様にも見限られ真悦からゆうな以上の苛烈な責めを受ける。といふエクストリームな展開には、ストレートに感動した。
 「バットマンビギンズ」や「亡国のイージス」といつた大作映画―バジェットは一桁違ふが―が、のうのうと何が映つてゐるのかよく判らないポンチ画面を曝してゐたりもする中、何が映つてゐるのかがギリギリ判別出来る暗さの画面をキッチリ撮り上げた、撮影の清水正二は流石の匠を披露。バジェットでいふならば「亡イー」とでも二桁の、「ビギンズ」とならば三桁の差があらう、三桁て。
 ゆうなの美しく、且つ壮絶な野外での吊りを見せた後、自らの死期を悟つた渋谷はSM発祥の地で最期を迎へると書き残し、真悦を伴ひヨーロッパへと旅立つ。魔王然としたSMの権化が、その発祥の地、欧州を死地に選ぶとは。何とも泣かせる脚本である。五代暁子の癖にどうしたのか、消える間際のロウソクか?   >失礼
 結局ゆうなは、東京でエリカがリョウと共に経営するSMクラブに身を寄せることに。亀甲縛りで彩られた肉体にコートを一枚羽織つただけで、妻が急に失踪し荒んでゐた水島の前に姿を現し、夫に自らの真実の姿を晒す、といふのがラスト・シーンである。

 開華編の出来がよかつた分、監督:池島ゆたか&脚本:五代暁子といふコンビからするとどこまで期待してよいものかといふのは、直截にいへば半信半疑以下といつたところでもあつたのだが、それもいい意味で完全に裏切られた。よくて適温のエンターテイナー、といふのが個人的には池島ゆたかに対するこれまでの評価ではあつたが、暗さと歪みのテンションが肝のSM映画を十二分に暗く、歪めてモノにしてゐた。

 一点補足< 前篇、「襦袢を濡らす蛇」に於いては、美術評論家の渋谷(牧村耕次)を激昂させてしまつた若手編集者の小田切(平川直大)が、侘びを入れに渋谷宅を訪れるも苛烈極まりない責めによつて人格を崩壊する。といふ件があるのはいいとして、尺の都合によるものなのかも知れないが、肝心の小田切が渋谷に粗相を仕出かす発端が欠けてゐるのは如何なものか、と述べた。同様に、後篇「人妻を濡らす蛇」に於いても、矢張り足りないと思はれる一幕が大きくひとつばかりある。
 新たに登場するリョウ女王様(華沢レモン)が、主人公ゆうな(山口真里)の調教に際して暴走の余り渋谷の逆鱗に触れ、挙句の果てに姉貴筋のエリカ女王様(紅蘭)にも見限られてしまひ、渋谷の弟子・真悦(竹本泰志)にゆうな以上の苛烈な責めを受ける、といふ展開にはストレートに萌えた燃えたものではあつた。当の暴走の中身といふのが、未だ処女であるゆうなの後門にバイブを捻じ込まうとして、ゆうなのアナル・バージンは後々自らが頂かうと目論んでゐた渋谷の制止を受けるもそれに従はなかつた、といふものである。それならば当然に、渋谷がゆうなに二度目の破瓜の痛みを味ははせるシーンがあつて然るべきであらうと思はれるところなのだが、それがなかつた。それはSM映画の勘所あるいは見せ場といふ意味合ひの上でも、結構致命的な欠損であるやうに見受けられる。

 以下は地元駅前ロマンにて再見を果たした上での付記<< 配役中神戸顕一は、三年前を正確にトレースしたカットでおむすびを食べながら登場する農夫。今回は道も尋ねずに真直ぐ渋谷邸に向かふゆうなを、何処かで見覚えがあるやうな風情で振り返る。冒頭の濡れ場を飾る水沢ゆりなは、真悦の元恋人で、老舗和菓子屋の若旦那との玉の輿に乗る為に、真悦を捨てた女・ミク。真悦のストーキングに関して渋谷の下を相談に訪れ、初めからそのつもりであつた渋谷に制裁の調教を受ける。この一幕も、渋谷の愛弟子にして女を苛烈に憎悪するサディスト・真悦の誕生シーンとして、開巻から輝かしい充実を見せる。


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