真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「一人寝未亡人 恥毛の落ちた蒲団」(2000『黒い下着の未亡人 通夜の情事』の2011年旧作改題版/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:勝利一/脚本:国見岳志/企画:稲山悌二《エクセス・フィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:佐藤文男/照明:小野弘文/助監督:寺嶋亮/撮影助手:市山誠/照明助手:平岡えり/監督助手:林真由美/メイク:パルティール/効果:東京スクリーンサービス/タイトル:道川昭/出演:高樹里緒・麻生みゅう・時任歩・柳東史・加藤智明・吉田祐健)。
 一週間の新婚旅行(行き先不明)から、曽根悟郎(柳)と新妻・百合子(高樹)がアツアツも通り越しホッカホカの風情で帰国。エクセスが時に仕出かす惨劇を幸にも回避した、古手川祐子のセンの正統派美人の主演女優に、ホッと胸を撫で下ろすどころか心の琴線を結構掻き鳴らされる。それにつけても、どうして女の裸が主眼の量産型娯楽映画にあつて、ヒロインが美人であるなどといふ至極当然であらう筈のことに、一々安心しなくてはならないのか。何といふか、因果な世界であるとでもしかこの際言葉が見当たらない。気を取り直し、シチュエーションを替へ趣向を替へ、延々延々もひとつ延々、早速新居での夫婦生活に半日文字通り明け暮れる、といふかより正確には暮れ明ける百合子と悟郎の姿が、勝利一も撮つてゐて楽しくて仕方がなくなつてしまつたのか、いつそこのまま一時間を使ひきつてみせるおつもりではなからうなとすら危ぶまれるほどに、前半をほぼ費やさんばかりの勢ひでひたすらに延々描かれる。漸く翌日、悟郎は仕方なく出勤。無防備にも、百合子が通りに開(ひら)けた車庫に下着を干す曽根家に、通りがかりの不審な労務者・鳥羽伸次(吉田)が目をつける。空巣を狙ひ忍び込んだ鳥羽がショッポで一服つくところに、財布を忘れて街まで出かけた百合子が帰宅。正しく居直つた鳥羽は百合子を手篭めにするや、薮蛇な説教強盗的捨て台詞も残し立ち去る。犬に噛まれたことを嘆く間もなく、百合子を更なる最大級の衝撃が襲ふ。悟郎が、後に語られる理由によると子供を守らうとして交通事故死したといふのだ。
 麻生みゅうと加藤智明は、カット明け悟郎の葬儀―ここの繋ぎの超速ぶりは清々しい―に列席する、百合子の妹・松原藤子と、その婚約者・林田修。続けて蛙腹で登場し一同の度肝を抜く時任歩は、悟郎の前カノを自称する早瀬歩美。回想による、柳東史との濡れ場がてらお腹の子は悟郎の種であると主張するが、何のことはない、こんな時に非常識極まりなく人騒がせな、歩美は単に岡惚れしたに過ぎぬ悟郎勤務先の元派遣社員で、しかも妊娠などしてゐなかつた。
 スマートなルーチンワーク作家として、勝利一と、もう一人大門通のことは個人的に常々地味に注目してゐるものである。これは全くの純然たる思ひつきでしかないが、実はピンク映画はこの二人の何れかが誰も知らない内に完成してゐて、そのことを特に誇るでもないままに事実上退場してしまつたのではないかとさへ、時に夢想することがある。さうはいふものの、少なくとも今作に限定した話としては、リアルタイムでm@stervision大哥が軽快かつ的確に論断された通りに、場当たり的といふ形容が矢張り最も適当か、としかいひやうのない一作。妙なボリューム感を誇る新婚新居初夜をやつとこさ通過、ジャンル上必須の段取りとして、悟郎を無造作な寝耳に水で泉下に叩き込んだまでは、兎も角としても、あるいは仕方のない範疇に止まるとしても。以降、こちらは未亡人ものといふジャンルも超えた、ピンク映画といふカテゴリー上必須の要諦として二番手・三番手の絡みもビリングは前後しながら矢継ぎ早に、といふか直截には拙速に消化したところで、画期的な藪から棒感を爆裂させる、一応香典泥棒の下調べとでもいふ方便のやうだが、忌中にあることを看て取つた鳥羽は、俄に喪装すると何くはぬ故人の知人面して曽根家に再突入。挙句に、ある意味定番ギミックといつてしまへばさうともいへるのかも知れないが、兄急死の報に駆けつけた、双子の弟・達郎(勿論柳東史の二役)までもが放り込まれるに至つては、木端微塵になる以前の、元々の物語の概要すら最早覚束ない。いつそのこと、ここは然様な瑣末はさて措き、思ひのほかキュートな高樹里緒に心ときめかせてのみをればいいものを、まだまだ修行が足らぬと自戒すべきや。
 あるいは、高樹里緒の素材にハートウォームな新妻物語に適性をより見出しつつ、さりとてエクセスとの商売上は未亡人として喪服を着せぬ訳には行かぬジレンマに陥つた勝利一の、やぶれかぶれな開き直りの結果が、序盤で事済まず中盤にまで及んだ、頓珍漢なペース配分なのではあるまいか。とまでいふのは、贔屓目に勘繰るにも度が過ぎるであらうか。

 製作費を浮かせる為に撮影との同録ではなく、音は後から入れることを旨とするピンク映画にあつて、今回時任歩演ずる早瀬歩実と、更に吉田祐健演ずる鳥羽伸次の声は別人。歩実の声は多分佐々木基子のやうな気もするが、些か自信が無い。鳥羽に関しては、まづ間違ひなく岡田謙一郎のアテレコ。女優は結構ままあるが、男優の、しかも一作品にアテレコが二人といふのも、珍しいことではないかとも思へる。悟郎の葬儀には、正直貧相な面子のその他弔問客が四名見切れる。その中でも、一見中高生男子にしか見えない女の子は、この人が林真由美なのか?


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