真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「変態本番 炎の女体鑑定人」(1997/製作・配給:新東宝映画/脚本・監督:深町章/企画:福俵満/撮影:千葉幸男・池宮直弘/照明:井和手健/編集:酒井正次/助監督:広瀬寛巳/協力:セメントマッチ/出演:風間今日子・相沢知美・原田なつみ・林由美香・樹かず・久保新二)。
 師匠に指示され女の扱ひ方を習得すべく教えを乞ふ、とかいふ文脈と思しき、樹かずと、盲目設定の相沢知美の一戦にて開巻。
 御馴染み水上荘を根城とする、鑑定士に扮する際には武田信玄斎を名乗る詐欺師のゲン(久保)と、ゲンからは呼吸するやうにデコピンを弾かれ倒す間の抜けた弟子・塩山ケンイチ(樹)が、蔵に入り適当な骨董品を物色する。入つてもゐない銘を入れ、名品をデッち上げる件を妙に丁寧に消化する中、ゲンにとつては稼業の主戦場たる、女体鑑定の依頼が入る。清々しく耳慣れぬ単語だが、女体鑑定とは要は張道完先生の玉門占ひの全身版とでもいつた趣向で、今回のクライアントは、亭主(全く登場しない)の浮気に悩む山下春江(風間)。初めに風呂に入らせた隙にケンイチがリサーチした春江の個人情報を、チラッと体に触れたゲンが言ひ当てる、やうに偽装する度に、二人で大仰なアクションとともに「霊!」と大見得を切るのは微笑ましく馬鹿馬鹿しいが、そのやうな枝葉はこの際兎も角、表情から初々しい風間今日子の、柔らかなボリューム感を爆裂させる白く若い肉体がヤバい。今作、今回は旧題ママによる二度目の新版公開で、2001年一度目の旧作改題時新題が、「女体さぐり とろけさう」。正しく心も蕩ける極上のエモーションを、暫し堪能する。贅沢にもビリング・トップを惜しげもなくサクッと通過し、一旦ケンイチが一人で、町に下り一仕事して来ることに。確か明示はされないが、この流れが冒頭に連なる模様。ケンイチは猫好きの女を狙へといふ、後々効いて来ぬでもないゲンの訓へを守り、幾ら樹かずのイケメンを以てしてとはいへ、正直へべれけな遣り取りでペットショップから出て来たところの秋子(林)に接触する。
 出演者残り、潤沢にも四人目となる脱ぎ役の原田なつみは、犬猫の血統書感覚で自身の品定めを依頼する、町議会議長愛人のハーセルフ。ゲンならずとも、余程特殊な性癖をお持ちの御仁でなければ辟易させられずを得まい、正真正銘紛ふことなきれつきとした重戦車ではあるが、間を繋ぎラストに色をつける、全体の構成として実は重要なワン・ポイントをドッシリと果たす。
 女の裸を軸に据ゑた、明確で十全な起承転結により編まれた統一的な物語。と、いふよりは、御存知稀代のエンターテイナーにして我等が久保チンこと久保新二と、一昔以上前であるから若いのは当然としても、今も然程変らないことがある意味恐ろしいといへば恐ろしい樹かずとによる、ざつくばらんにいへばコント劇といふ色彩が兎にも角にも強い。幾分気配が匂はされもするものの、ケンイチが山を下りる直前、超絶に藪から棒に捻じ込まれるゲンとケンイチが狂ひ咲かせる本格的な薔薇の花は、ピンク映画である前提以前の要件を鑑みるまでもなく、更に一層劇映画としての輪郭をおぼろげにしかねない。とはいへ、前述した原田なつみの地味に秀逸な起用法に加へ、圧倒的な桃色の破壊力を誇る形式的には主演女優の脇を、子役時代からの長い芸暦は決して伊達ではない、さりげない芸達者・相沢知美が手堅く固め、何よりも決定的なのが、林由実香に刹那のワン・カットに撃ち抜かせた永遠にキュートなアッカンベー。一見右から一昨日に流れ過ぎ去るやうに思はせて、案外精緻な仕上がりが堪らない。肩肘張らない熟練が実に深町章らしい、量産型娯楽映画の大樹の、枝葉を繁らせるやうに見せかけてシレッと幹を成すやも知れぬ、工芸的な一品である。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 黒い下着の未... 肉体婚活 寝... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。