真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「近所の人妻 熟れた白昼不倫」(2007/製作:多呂プロ/提供:オーピー映画/出演・監督:荒木太郎/脚本:荒木太郎・三上紗恵子/撮影:清水正二/編集:酒井正次/撮影助手:海津真也・関根悠太/助監督:金沢勇大・三上紗恵子/タイトル・漫画協力:堀内満里子/ポスター:本田あきら/録音:シネキャビン/現像:東映ラボテック/タイミング:安斎公一/出演:桜田さくら・華沢レモン・久須美欽一・なかみつせいじ・丘尚輝・国沢実・竹本泰志・里見瑤子)。
 火野妖子、もといトン吉・ピー子のペン・ネームで夫婦マンガ家―ピー子は事実上アシスタント―として活動する、トン吉こと敏吉(竹本)の稼ぎが少なく前の借家を大家に追ひ出されたゆゑ、ピー子担当の妻・比佐子(里見)の、長期留守となる親戚宅に二人は転がり込む。因みに、竹本泰志がエロマンガ家に扮するのは、竹洞哲也デビュー作「人妻の秘密 覗き覗かれ」(2004)以来三年ぶり二度目。隣家から洩れ聞こえる叙情的なピアノの音色に耳を留めたトン吉は、家の中から現れた森田和歌子(桜田)の色つぽい容姿に目を奪はれる。夫が余所の女に鼻の下を伸ばした気配を嗅ぎつけ、ポップに角を生やしたピー子がトン吉に襲ひかゝる形から始まる夫婦生活。濡れ場にも関らず妙に間延びした様子に、何とはなしに暗雲が立ちこめる。ともあれ、ピー子に尻を叩かれつつ、生活のためにトン吉は差迫る締切を見据ゑてマンガの創作に取りかゝる。とは、いふものの。遅々とどころかピクリとも作業は進まない締切二週間前、仕事部屋の窓から和歌子が干したパンストが風に飛ばされるのを見たトン吉は、すはお宝ゲットとばかりに回収に向かふ。そこに和歌子が出て来たので、慌ててトン吉が下着を返さうかとしたところに、すつかり心のヘシ折られた風情の和歌子の夫・直樹(荒木)が、亡霊の如くぼんやりと帰宅する。
 登場順に、久須美欽一は締切十日前、トン吉・ピー子宅に忍び込む泥棒。ロクに金目のものも見当たらないのに文字通り盗人猛々しく腹を立て、ピー子を犯さうとする。トン吉はその模様を、マンガのネタを提供しようとした狂言―それならば一体久須美欽一は何処から連れて来たのか―であると初め誤解するが、ピー子の目配せにより本物の侵入者である旨知ると、恐々撃退する。といふ件には、竹本泰志の体格の良さが、正直逆方向に作用する。派手な服装で微妙に柄の悪いなかみつせいじは、締切まで後七日、例によつてトン吉が窓越しに窺ふ中、森田家に入つて行く謎の男。なかみつせいじに抱かれた体を、事後和歌子は直樹に洗つて貰ふ。丘尚輝と華沢レモンは、締切四日前、台詞がよく聞き取れなかつたので正確なディテールは判然としないが、夫婦交換か、あるいは矢張りネタ提供目的でピー子に招かれた丸尾と淀美夫妻。どうでもよかないが、淀美とは何て名前だ、あんまりだろ。二人は、他人に見られてゐないと燃えないガッチガチのマニアさんで、他人の家で家人の了承も待たずに猛然と開戦。濃厚なプレイ内容で、固唾を呑んで見守るばかりのトン吉・ピー子を、度肝を抜くのも通り越し卒倒させる。“スラッとして繊細な”と語られる特徴から配役が読める、丸尾夫妻来襲の翌日に飛び込んで来る国沢実―沢と実の間にオプションなし― は、和歌子へのあてつけで開巻から度々ピー子の口に名前の上る、久方振りの再会を果たす幼馴染・達也君。確かに、スラッとしてゐるのは見たまゝ一応スラッとしてゐるし、繊細といふのも、多分その通りなのであらうが。直截には出オチといふべきか、荒木太郎にしては気が利いてゐる。困窮を見かね略奪求婚するが、ピー子には里見瑤子一流の穏やかな微笑でやんはりと拒絶させる。それにつけても、国沢実が女に振られるシークエンスの、何とサマになることよ、思はず身につまされる安定感が尋常ではない。
 微動だに進行しない原稿製作を横軸に、隣のミステリアスな美人妻に対する正しく横恋慕を縦軸に描かれる、最終的にはトン吉・ピー子の夫婦物語。和歌子が漂はせる謎めいた空気の底は清々しく浅く、詰まるところは直樹が事業に失敗したツケを、体で払つてゐるとかいふ次第。ピー子と達也の一幕を噛ませた上で、同日進行で外出する和歌子を再度尾行したトン吉は、終に川辺のあばら家にて体を重ねる。如何にも男好きしさうな主演女優の桜田さくらの、対なかみつせいじ戦、役得の荒木太郎に介錯させた風呂場での顔ならぬ裸見せに続き炸裂させる、猛烈な官能性はピンク映画的に全く申し分ない反面、傍から見るよりは逞しい和歌子をトン吉が抱くまではいいとして、そこから思ひ出したかのやうにピー子の下に駆け戻り夫婦の絆を再確認するエモーションは、落とし処としての妥当性は兎も角、展開の流れとしては完全に木に竹を接ぐ。綺麗に説明不足で、本丸はいふに及ばず外堀すら満足に埋められてはゐまい。肝心の行もまゝならぬまゝに、行間だらけの一作といふ印象が強い。だから相変らず清水正二が横好く、CGによる紫色の蝶を数度に亘り結構尺も浪費してプラプラと飛ばせるよりも先に、片付けておかねばならない段取りは幾つもあつたのではなからうか。ただ、ひとつ正方向に特筆すべきは、淡島小鞠として出演はしない三上紗恵子が片足突つ込んでゐる割には、三番手の華沢レモンを放り込むタイミングを間違へてゐない点。マイナスがゼロになつたのを評価するといふのも、貧しいか情けない話ではあれ。

 結局、トン吉・ピー子のマンガは、48時間を一時間水増ししたリミット四十九時間で一息に完成まで漕ぎつける。その過程に際しては、ペンを入れ、定規で線を引き、消しゴムをかけ、ベタを塗り、スクリーン・トーンを貼る。マンガの作成工程が、ネームを何時切つたのか以外は早送りの中にも一通り捉へられる。


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