真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「緊縛十字架責め」(1996/企画・製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:大門通/脚本:久保寺和人/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:斉藤久晃/編集:酒井正次/縄師:明智伝鬼/助監督:加藤義一/製作担当:真弓学/効果:協立音響/監督助手:紀伊正志・羽生研司/撮影助手:大塚雅信/照明助手:岩井一記/ヘアメイク:大塚春江/出演:岡田亜沙美・扇まや・白都翔一・佐々木共輔・林由美香・久須美欽一)。
 ど頭中のど頭、タイトルはおろか企画と製作がフィルム・ハウスである旨を伝へるクレジットの時点から、肉を鞭打つ音と、女の悲鳴が響く。画が入ると十字架に、縄師として明智伝鬼が参加してゐる割には随分テローンとした亀甲縛りで磔られた岡田亜沙美を、扇まやがビッシビシ責める。本来は衝撃的なショットの筈なのだが、岡田亜沙美の単調な左右の首の振りに、どうにも苛烈さは生まれ難い。ともあれ金切り声の扇まやの宣告にいはく、「これが緊縛十字架責めよ!」、箍の外れた判り易さが迸る。暗紅色した今作の開巻ほど、清しいものはない。
 カット変り、経理担当の今井潤一(白都)と、恋人の梶原千代枝(岡田)が二人きりで残業する小林商事。今井は女社長である小林節子(扇)の愛人に甘んじながら、会社の金を横領、将来的にはトンズラしての千代枝との新生活を目論んでゐた。と、いふことは、既にこの二人も十二分に手を汚してゐる訳なのだが。兎も角、その日は帰らうかとした千代枝と今井は、忘れ物を取りに来た節子と鉢合はせる。絶妙に微妙な空気の流れる中、節子からは三人での食事に誘はれるも、千代枝はそそくさと辞退。今井は仕方なく社長宅にて、節子の母親の具合が芳しくない伏線も投げつつ一夜を明かす。翌日、帰郷する節子は帰りは月曜日になると今井に言ひ残し会社を後に。ここで、節子と今井と千代枝の他に、後姿しか見せない男がもう一人社員要員に見切れる。それ行けハッピー・ウイークエンドとばかりに、千代枝と今井がプレ新婚生活を満喫する千代枝の部屋に、あらうことか節子が怒鳴り込んで来る。今井の千代枝との関係も、会社の金の横領も節子には露見してゐた、即ち二人は泳がされたのだ。それはそれとして、何故に節子が千代枝の住居に自由に侵入することが出来るのか、綺麗に抜けかけた底に関しては、その物件が小林商事の社宅であるといふ事情の一点突破。だからといつて、それも通るのか通らないのかよく判らない理屈ではある。横領の罪を特に問ふこともなく、節子は打ちひしがれ紛れに今井と千代枝を放逐する。それで事が済むのなら、ある意味旨い話だ。
 店名不肖の節子行きつけの店、但し、後に林由美香と佐々木共輔の絡みが閉店後の店内にて執り行はれるところをみると、もしかするとここも、節子の支配下にあるのかも知れない。千代枝に奪はれた今井と、恐らく幾許以上の金を失ひ、矢張り釈然としないどころでは治まらない節子に、ネットリとした下衆い造形が堪らない飲み友達・浅岡(佐々木)が接触する。恨み節を打ち明けられた浅岡は、店の女・めぐみ(林)を抱かせて呉れるならば、といふこれも又よく判らない交換条件での尽力を約束する。再びここで、めぐみが接客する客の男二名は、後述する今井逮捕のシーンに際してはサングラスを着用しただけで、二人組の刑事役として別の意味で華麗に再登場。小林商事への就職を餌に節子がめぐみを口説き、一方浅岡は、後々語られるところによるとジュク(新宿)でソープランドや売春クラブを経営するヤクザ・勇治(久須美)に連絡を取る。浅岡が何気にめぐみの前に節子も頂きつつ、手打ちの食事会を偽り、今井と千代枝を呼び出すことに成功する。目の前で見せつけられれば諦めもつく、とかいふ申し出を呑み、今井と千代枝は節子が―と浅岡も―見守る前で一戦交へてみせることに。尤も、では決してないが、ジャンル的には如何にもな方便の、画期的なへべれけ具合はグルッと一周して寧ろ感動的ですらある。その隙に、節子が呼んだポリスに事後今井は呆気なく御用。独り節子と浅岡に囚はれた千代枝は、冒頭に連なる緊縛十字架責めを受ける。
 大門通と、岡田亜沙美にとつても二年二作後となる「三十路同窓会 ハメ頃の人妻たち」(1998/主演:園田菜津実)からの逆算で、是が非でも観たいと熱望してゐたものだが、晴れてか曇つてか実際に観戦してみたところ、程度の大小も様々なツッコミ処に満ち満ちた、直截にはチャーミングな一作であつた。映画全体の鍵を成す重要なアイテムであるにも関らず、ぶら下がり健康器をベースに角材を交錯させた、手作り感の爆裂する随分と安普請な十字架自体も微笑ましいが、件の緊縛十字架責めの火蓋が切られるや、何時の間にかドレス・アップしてゐたりなんかする節子の闇雲なドレス姿は、気付いてみれば結構な破壊力。黙つて十字架に括つておけば済むものを、わざわざ千代枝にセーラ服やナース服を着させた上で責める、頓珍漢なサービス精神も実に下らなくて素晴らしい。挙句に画期的なのが、肝心のその場に何時まで経つても姿を見せない勇治登場のタイミング。一通り千代枝が節子と浅岡に嬲り尽くされた後に、要は身柄を回収する為のみに現れたことには、展開のみならず小生の腰も粉微塵に砕けた。一応浅岡から“買つた”千代枝を改めて陵辱する、といふ形でヒロインを更なる絶望に叩き込むバッド・エンドに一役買ひはするものの、看板に違(たが)はずメイン・テーマの緊縛十字架責めには、その筋の凄腕風の顔をしておいて勇治は一欠片たりとて寄与しない。観客を小馬鹿にしたかのやうな拍子抜けには、この際逆の意味で拍手喝采でも送るほかはない。一見、主演女優の清楚な顔立ちにも騙されると、可憐なヒロインが酷い目に遭ふ悲運物語にも思へかねないが、そもそも今井と千代枝も脛に傷持つ以上、所詮は非力な悪党が、より強大な悪党に喰はれただけに過ぎまい。始終の表面に止まらない、全方位的徹頭徹尾な無体さは、高緯度に於ける日の沈まぬ世界の如き、白々とした静寂をも最早漂はせる。


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