真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「監禁玩具 わいせつ狩り」(2010/製作:フリーク・アウト/提供:オーピー映画/監督:国沢☆実/脚本:岡輝男/撮影・照明:小山田勝治/録音:シネキャビン/助監督:小川隆史/監督助手:藤剛/撮影助手:大江泰介/撮影助手:花村也寸志/スチール:本田あきら/音響効果:山田案山子/ネガ編集:有馬潜/現像:東映ラボ・テック/出演:鈴木なつ・藍山みなみ・河本博志・野村貴浩・村田頼俊・佐々木麻由子)。
 男の手の中で弄ばれるフィギュア素体、俯瞰の、何故かキネコによる街頭ガールズ・ショット。何処かしら高い場所から見下ろす画家の村川ならぬ白川、静もとい透(河本)は、目を留めた女の子と同じ体勢にフィギュアの形を変へる。と、いふと、ピグマリオン・コンプレックスなる特異なモチーフの陰から素敵なロマンティックを撃ち抜いた、山﨑邦紀2005年の傑作「変態体位 いやらしい性生活」中の写真家・渋沢蘭子(佐々木麻由子)の逆バージョンかと想起しかけたが、よくよく思ひ留まつてみるに、それは極々標準的なメソッドに過ぎない。とりわけ気に入つた鈴木なつが、待ち合はせたと思しき野村貴浩と連れ立ちその場を去る様子に、透が岡惚れな地団太を踏むのに合はせてタイトル・イン。ところで透役の河本博志は野村貴浩と同じく、ヨギプロダクション所属、であつた筈なのだが。2011年九月現在、ヨギプロダクション公式サイトに河本博志の名前は見当たらない。
 話戻してタイトル明けると、舞台はラブホテル。先刻までは私服であつた鈴木なつが、何故か女子高生の制服姿に。それは香坂唯(鈴木)と、ああだかうだ注文の煩い中島洋一(野村)の援助交際。三歳の時に両親を亡くし、以来親戚中をたらひ回しに。十八の時に家出した唯は、中島の求め以前に、人形のやうに生きることを旨としてゐた。中島からいいやうに玩具にされる、唯のモノローグ「私は人形」、「何も感じない」、「何も思はない」、「心なんて要らない」。良くも悪くも手慣れたもので、国沢実の演出は主人公を内向させるとひとまづ走る。一戦交へた中島とは別れ、立ちんぼ感覚でキャッチを仕掛けた国沢実には綺麗に袖に振られた唯は、寝床にするかと赴いた公園のゴミ箱から、腹が裂け綿の飛び出したクマさんのお人形を手に取る。すると、捨てるつもりならばその人形を呉れまいかと、新米女優の相沢美穂(藍山)が唯に声をかける。宿無しであるのを目敏く見抜き、唯を自宅に招いた美穂は、自身も親を知らぬ施設育ちであつた。人懐つこい美穂の温度と距離感とを疎んじつつ、行く当てもない唯はひとまづ厄介になる格好に。所変り、小洒落たコテージ風の白川邸。母親の峰子(佐々木)が、無断で外出した透を咎める。透の創作が捗らぬ風情を看て取つた峰子は、モデルを雇ふことを思ひ立つ。後々幾らか披露される、そこそこの水準の劇中透描画は、何処かで目にしたやうな気もするが、何者の手によるものなのかはクレジットもされないゆゑ不明。結果論的には、然程活かされる設定でもないものの、美穂はフリーターの彼氏(スナップで見切れるのは演出部?)の子供を身篭つてゐた。何かと金が入用な美穂は、まんまと好条件に釣られネットで拾つた透のモデルを募集するアルバイトに応募する。白川家を訪れた美穂を、紫色のフードで顔はほぼ隠した峰子が出迎へる。
 痒いところに手を、届かせないかの如き一作。裸の美穂―今回藍山みなみは、相変らず重量過多傾向に―を前に、一旦は普通に筆を走らせる透も、やがて飲み物に混ぜた薬物で眠らせあれやこれやする内に、あれよあれよと本格的な監禁状態に。初めは無関心を装ひながらも、やがて唯は人間的に美穂を案じ始める。一方美穂の携帯を触る透は、メールを送つて来る相手が、写メの画像から冒頭に心奪はれた鈴木なつであると知り、俄に心ときめかせる。屈折し倒した透の正しく純然たる片想ひに加速気味に連動させた、美穂のバイト先に突入する腹を固めた唯が“人形であることをやめる”過程が、今作の最高潮。都合三度目の対戦の最後に唯が中島に投げる、「あばよ、ヘンタイ!」なる捨て台詞には、2010年に少女の口から“あばよ”かよ!?などといふ野暮な疑問も、微塵たりとて感じさせない鮮やかな決定力が漲る。漲つた、時点に於いては散発的な、国沢実の充実が感じられもしたけれど。中盤より徐々に起爆装置が地表に露出する、ピンクの安普請から登場人物の頭数を更にひとつ減らす、<二重人格>ネタを、それなりに丁寧に割つたまでもいいとして、そこから拡げた風呂敷を畳む段が、どうにもかうにも策が尽きたかのやうに力ない。結局<峰子を絞殺した>のは誰なのよ、あるいは動機は何なのかといつた、物語の鍵を握る重要な情報も性急に通り過ぎられた挙句に、在り来りなマッド・エンドが生煮えなルーチン感を加速する。女の裸方面からも突出した威力を誇るシークエンスは用意出来ず、所々では輝きつつも最終的には漫然とした印象の強い、僅か二作に止まつた国沢実2010年最終作。何時の間にやら、気がつくと今年で監督デビュー十五年選手になるとはいへ、未だ世間を轟かせる戦果も挙げ―られ―ぬまゝに、国沢実はまだまだ中途半端に纏まつてゐる場合でもないやうに思へるのだが。
 そんな中、プアではあれ最も可笑しかつたのは、透がモデルの最中の美穂を二度目に眠らせる件。その際の透からの陵辱は、美穂の白日夢なのかはたまた現実なのか。といふ問題に対する回答が、美穂が捌けた直後、透は尺八を吹かせようとして噛まれた一物が、痛い痛いと悶絶する。遣り口のプリミティブな馬鹿馬鹿しさに、河本博志の稚拙さがいい感じに加味され、消極的なツッコミ処ではあれ反射的に笑かされた。

 出演者残り村田頼俊は、遣り取りから透中学時代の担任。佐々木麻由子唯一の濡れ場の、介錯を務める。


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