真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「新妻奴隷 強制愛撫」(1991『新妻下半身 わしづかみ』の2008年旧作改題版/製作:獅子プロダクション/提供:Xces Film/監督:佐藤寿保/脚本:五代響子/原題:『DOOL』/撮影:河中金美/照明:岩崎豊/編集:酒井正次/音楽:DOOL/助監督:江尻健司/監督助手:須川修次/出演:浅井理恵・中村京子・水鳥川彩・杉下なおみ・今泉浩一・佐野和宏・伊藤清美・五代響子)。出演者中、伊藤清美と五代響子は本篇クレジットのみ。撮影・照明助手に関しては力尽きる。
 上半身は裸の上から白衣を羽織つただけにアラレちやんサングラスを合はせるだなどといふ、80年代の斜め上を行く風体の滝沢幾郎(佐野)が、セーラ服姿のエリ(浅井)を車椅子に押す。エリは幾郎のことをお父様と呼ぶが、明らかに歳は合はぬ。姉を欲しがるエリの求めに応じ、幾郎はウエディング姿のあゆみ(水鳥川)を麻酔で眠らせ拉致する。ドレスのまま式場を抜け出しタバコを吸つてゐたところといふ、あゆみの造形は少々あざといか。幾郎はあゆみに、要はいはゆる“ 汚れちまつた悲しみ”を治療するとかいふ方便で、人格を完全に払拭するべく調教も通り越した拷問を施す。この頃はほぼ手放しで香坂みゆきでも通る、中村京子は時に人間犬、時に人間食卓、そして知性を全く喪失してしまつた訳でもないのか、後のシーンでは看護婦として幾郎の助手も勤める美奈子。街を行くエリと幾郎の姿に、荷物を配送中の矢島秀之(今泉)が目を留める。三年前、当時高校生であつたエリと矢島とは付き合つてゐた。その人と判然も能はぬロング・ショットで見切れる―山ノ手ぐり子ではなく―五代響子(現:暁子)は、矢島から閉院した滝沢病院について尋ねられる女。あゆみの“治療”の名を借りた度を越した馴化には失敗し、新たな姉を調達するべく今度は公園でマンガ本を読んでゐた智子(杉下)を連れ去るエリと幾郎を、尾けてゐたのか矢島は目撃する。
 時期の問題かも知れないが、私はさういふ世代のピンクスではないことと、昨今の至らぬ体たらくからはいよいよその残滓に止めを刺されつつもあらうが、ざつくばらんにいふところの国映過大評価の悪弊に対しては一貫して否を唱へ続けて来たものでもあるので、ここはひとまづ、ピンク四天王に関しては概ねスルーする。まあ構はぬではないか、瀬々も映画の撮り方覚えてゐないみたいだし。さういふいはばフリーな態度で、改めて一本の映画として観てみたところ、画面が終始明る過ぎるものの、主にあゆみ・智子らに対する拷問シーンは、桃色の実用性の有無に関しては個々人の素養ないしは性癖にも大きく左右されようが、表面的な描写のハードさも、その奥底の歪みぷりも申し分なく、十二分に見応へがある。画面の明るさに阻まれ重量感には些か欠くやうにも思へるが、そこの部分は会社のカラーであるのかも知れないところなので、一旦はさて措く。その上で、苛烈な女体陵辱で尺を繋ぎながら、そこにリエとの過去を共有する矢島を放り込み、矢島を動因にエリと幾郎、そして幾郎の妻・祥子(浅井理恵の二役)を加へた閉ざされた過去が明らかとなる展開は、思ひのほかスマートによく出来てゐる。エリ・幾郎・祥子の複雑な関係を丁寧に説き明かして行く手法は素晴らしく鮮やかで、手放しで感心させられた。もつと我の強い映画かとも思つてゐたが、これならば、普通に観てゐれば特に人を選ぶといふこともなからう。敢て注文をつけるとすると、水鳥川彩か杉下なおみのポジションに、一人オッパイの大きな女でも連れて来て即物性も補完されてゐたならば、より一層映画が力を得てもゐたのではなからうか。主演の浅井理恵も間違つても大きな方ではないが、この人の場合、そもそもそのやうな要素など問はれるべきではない。初めは単なる我儘な小娘と思はせておいて、物語の核を為す三人の過去が説き明かされて行く件辺りから、可憐な女子高生であるエリと、十分に大人の女である祥子とを万全に演じ分ける高いスペックと、なほかつ最終的には劇中世界を掌握してみせる決定力とが抜群に素晴らしい。後々と殆ど変化が見られない今泉浩一と、現在の方がよりいい男に思へる、当時は未だ線の細さを感じさせる佐野和宏とを共に文字通り従へる、浅井理恵の主演女優ぶりは見事の一言に尽きる。弾けるところでは思ふがままに弾けつつ、物語を収束させる段では巧みな手腕を冷静に発揮する演出と、磐石のビリング・トップとが綺麗に噛み合つた、一見暴力的あるいは過激に見せ、最終的には洗練された娯楽映画の佳篇である。
 本当に出て来るのか本気で不安にさせられた、伊藤清美はラスト・シーンに際してリエと、矢島とに拉致される女子高生。

 伊藤清美が女子高生?

 といふアナーキーな無茶に関しては通り過ぎろ、当時既に三十路も跨いでゐる筈だが。その点を力技で回避しようともしたのか、オーラスでは包帯でグルグル巻きにされた伊藤清美―無論、伊藤清美もへつたくれもないが―を、車椅子に乗せ新宿の副都心を連れ回すといふ迫力ある荒業も見せる。オープニング・クレジットを観た時点では、個人的には山ノ手ぐり子との姉妹役を期待してもみたところであるのだが。仮にその場合に、どちらが姉役になるのかはよく判らない。

 一箇所詰めきれてゐないのは。あゆみに対する―形だけの―剃毛シーンがあるのだが、そこは国内法の規定に挑戦する覚悟で、ギリギリの領域まで実際に剃つてみせたところを見せるべきではなかつたか。時期的には前後するが、旦々舎に遅れをとつてよしとする、獅子プロではあるまい。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )


« 美肌家政婦 ... 美人家庭教師... »
 
コメント
 
コメントはありません。
コメントを投稿する
 
名前
タイトル
URL
コメント
コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

数字4桁を入力し、投稿ボタンを押してください。