真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「未亡人の寺 夜泣き部屋にて…」(2002『昇天寺 後家しやぶり』の2010年旧作改題版/製作:フィルム・ハウス/提供:Xces Film/監督:坂本太/脚本:有馬仟世/企画:稲山悌二/プロデューサー:伍代俊介/撮影:創優和/照明:三浦方義/編集:フィルムクラフト/助監督:竹洞哲也/監督助手:伊藤一平/撮影助手:宮永昭典/照明助手:腰山航/ヘアメイク:パルティール/タイトル:道川昭/出演:星李沙・美里流季・林由美香・吉田祐健・竹本泰志・町田政則)。
 「貴方、御免なさい」、「でも私、もう我慢出来ない・・・」と、後家設定と思しき、いふほど悪くはない主演女優の自慰にて開巻。確かに、間違つても美人ではない。首から上は落花生のやうな造作ではあるが微妙に色気がないこともなく、首から下もそこそこには綺麗な体をしてゐる。
 滝本雅子(星)は、後にどさくさに紛れるやうに語られるところによると腹上死したとの、一年前に死別した夫の墓のある昇天寺を参る。昇天寺の住職・徳永遥蕣(町田)は、まるでコントのやうに雅子の目を盗みつつ、仏に憚ることもなく後家の色香に町田政則十八番の顔芸で目尻を下げる。ここでどうにも立ち止まらざるを得ないのが、遥蕣のアフレコの主が、どう聞いても間違ひなく町田政則ではない点。強ひて例へると森羅万象とたんぽぽおさむとが、7:3の比率の声―判んねえよ―のアテレコ氏の正体には、どうしても辿り着けなかつたことも残念無念。
 雅子は遺影も何も一切登場しない亡夫から、スナック「LOVABLE」を継ぐ。とはいへ客足は清々しく芳しくなく、加へて夫が遺した借金が、雅子を苦しめてゐた。閑古鳥も鳴かない「LOVABLE」を亡夫の親友で、実は雅子にとつては―当然、結婚前の筈の―元カレでもあり、更には店の権利書を担保に金を貸す信用金庫の挙句に当該融資担当といふ、ややこしく属性を積み重ねた山村和也(竹本)が訪ねる。ここは正直、元カレは省いてもよかつたのではなからうかと思へぬでもない。辛抱堪らんことが既に観客には説明済みの雅子主導で事に及ぶも、諸方面に戸惑ひも隠せない山村は、土壇場で勃たなかつた。一方日を改め昇天寺、雅子と同じく未亡人で、町内婦人会会長である入江美沙(美里)が、以前より関係の継続する風情で遥蕣に抱かれる。事後遥蕣は、恍惚とする美沙に婦人会会長のコネクションを利しての、何事かを依頼する。結果論としては、美里流季はビリング的には二番手ではあるが、劇中遥蕣に最も近い位置を考慮したとて、実際の活躍度でいふと完全に三番手でもある。
 そんなこんなで、それまでの焦点の定まらない流れを断ち切るかのやうに、飛び込んで来ては映画のグレードを夫婦で偶さか上げる吉田祐健は、「甲州屋酒店」店主・古山孝明。ブランド狂ひの妻・沙織(林)の豪快さんな散財に、日々悩まされてゐる。お強請りする時は寸止めまでの生殺しで、買物の支払ひが終らないとキュートに凶悪な沙織はサセて呉れない為、酒代のツケを回収する金策に古山は奔走する。当然「LOVABLE」も溜めてはゐるものの、払へといはれても無い袖は振れぬ雅子を、古山は自暴自棄で半ば手篭めにするかのやうに抱く。そして“注文の品”がどうかうと、最終的には消化不足の含みを持たせた上で、遥蕣が本格起動する。
 改めていふと、女優勢の布陣はエクセス―に限らぬが―が時に仕出かすほどには、決して木端微塵ではない。星李沙はある意味適度な不美人といつていへなくもなく、美里流季も些かアクが強めではあるが、こちらもボディ・ラインは十二分に鑑賞に堪へ、新田栄作かと見紛ふ惨劇臭は、特にも何も漂はせない。史上最強のピンク五番打者ぶりを輝かしく炸裂させる林由美香に関しては、凡そ論を俟つまい。同じ役を例へば―時期的にも問題はない―横浜ゆきが演じた場合には刺々しくもならうところが、あくまで可愛らしさ微笑ましさの枠内に観る者のエモーションを固定する、林由美香超絶の小悪魔ぶりは永遠である。対する、吉田祐健の受けも全く素晴らしい。古山夫婦パートの突発的な充実と抜群の安定感とを他方に置き、殊に昇天寺周りに於いて顕著な、闇雲なショットの美しさも全篇を通して光る。と、いつたところで再度整理すると。女優三本柱の粒は、意外に揃ふ。他人の声に違和感は拭ひきれないが、好色坊主にこの上なくジャスト・フィットする町田政則に、色々とアンニュイな二枚目と奔放な妻に翻弄される小市民をそれぞれ好演する竹本泰志と吉田祐健、俳優部には僅かな隙もない。撮影部の無闇な健闘により、加へて映画的な見所にも溢れる。さうなると、結構な結果に漕ぎつけてゐても不思議はなかつたものなのに、終盤の暴力的にいい加減なストーリー展開が、まるで観客を嘲笑ふかのやうに一切を御破算にしてみせる。のうのうと筆を滑らせてみるが、詰まるところは妙な財力を誇る生臭坊主に、順に実質二番手と金に窮したヒロインが股を開くだけの、無体な物語には開いた口が塞がらぬのも通り越し、殆ど別の意味で打ちのめされてしまふ。吹つ切れた雅子が、結婚指輪をわざわざ墓石目線で返した後、締めの濡れ場は山村との再戦。上に乗りアンアン普通に悶え狂ふ雅子の姿に、ゴーンと鐘の音が被せられると共に“終”とエンド・マークが振り抜かれる終幕は、逆の意味で感動的。この際、色んな意味で無常観でも感じ取ればよいのか、あるいは報はれぬ雅子亡夫を思ひ、止め処なく流れよ、我が涙。

 ところでもしかして、遥蕣役に町田政則を配したキャスティングは、昇天寺から逆算した山上たつひこの『快僧のざらし』を念頭に置いてのものなのであらうか。因みに参考資料として画像検索結果が、町田政則のざらし


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