真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「浮気妻 したがる三十路」(1998/製作:フィルムハウス/提供:Xces Film/監督:勝利一/脚本:国見岳志/企画:稲山悌二《エクセスフィルム》/プロデューサー:伍代俊介/撮影:天野健一/照明:小野弘文/編集:金子尚樹/撮影助手:田宮健彦/照明助手:藤塚正行・大橋陽一郎/助監督:周富芳・高田亮・山本テツ/製作担当:真弓学/ヘアメイク:塚本ゆき/スチール:本田あきら/タイトル:道川昭/編集:《有》フィルムクラフト/録音:シネキャビン/現像:東映化学/出演:立花優・村上ゆう・里見瑶子・山本清彦・山内健嗣・久須美欽一)。脚本の国見岳志は、勝利一の変名。
 路面電車を斜め前から捉へてタイトル・イン、別に痴漢電車といふ訳ではない。視点を移し電車が左から右に通過すると踏切の向かうには、ロングでは華がないゆゑ風景に埋れがちとなるエクセスライクな主演女優。ボサッと買物帰りの主婦・旧姓竹上の大橋景子(立花)に、何某かの工事中の作業員・田辺信介(山本清彦)が聞こえよがしなので陰ではない憎まれ口を叩く、「女もああなつちまふともうお仕舞だなあ」。もう三人見切れる同僚作業員は、定石から考へると演出部動員か。帰宅するや受話器越しの声も聞かせぬ実家の母親から孫を催促する電話が入り、結婚後七年、連夜帰りの遅い亭主・哲夫(久須美)とはただでさへ御無沙汰気味な景子のフラストレーションは火に油を注がれる。挙句にその夜、夫婦の寝室ではなく居間で眠るのを叩き起こして無理から夜の営みに突入するも、何と哲夫は勃たない始末。そんなこんなで河原でホケーッと黄昏る景子は、秘書の浜田健二(山内)を連れた、高校時代の同級生で下着会社社長の小室麗子(村上)と再会する。景子の悩みを聞いた麗子は、三人でレインボーな照明の連れ込みに。「旦那がしたがらないの、貴女に問題あるのよ」、といきなり本丸に攻め込んだ麗子は目を丸くする景子の前で浜田とオッ始めると、華麗に巴戦に移行、地味に浜田強い。とか何とかいふ次第で大橋家食卓、頻りに使ふ景子の色目に哲夫が反応を示さないどころか、化粧が濃いと不平まで垂れるのが笑かせる。景子は買物で家を空けた休日、哲夫がエロ本に垂涎しながらマスをかいてゐる―ティッシュが二固まり転がる―ところに、麗子が訪ねて来る。それは所定の段取りで、景子が偶々再会した田辺と作業車のライトバンでの一戦を交へてみたりもする中、麗子は過呼吸の介抱を装つた強引極まりない導入であれよあれよと哲夫を誘惑。したにも関らず、麗子御自慢の淫技にも、矢張り勃たない形で哲夫は陥落しなかつた。プライドを傷つけられつつ、麗子はヒントを掴む。
 配役残り里見瑶子は、麗子の命を受けた浜田の尾行も知らず、講和産業の高橋との商談を済ませた哲夫が密会する援交JK・優香、実は二十五歳。
 共に初陣となる勝利一と佐々木乃武良の間で坂本太がガッチリ扇の要を果たす、オムニバス作「痴漢エロ恥態 電車・便所・公園」(1998)に続く、勝利一一人立ちデビュー作。大雑把に譬へれば量産型速水今日子のレストア機、とでもいつた風情の―どんな風情だ―劇中夫婦生活第一戦までは本当にお仕舞に見えた立花優が、単に化粧と対田辺第二戦に際しては照明部決死の大健闘とにより、現に麗子の指南によつて次第に女として磨かれて行くやうに見えるのは、鮮やかな映画的マジック。一聴適当にズンドコしてゐるやうに聞こえて、案外的確な劇伴も何気に光る。何よりも素晴らしいのは、麗子大橋家急襲時にオチが見えたと思はせて実際にそれが半分は間違つてゐなかつたのは、寧ろ勝利一の術中にまんまとハメられてしまつたといふことなのか。四球を選び塁に出た久須美欽一を、村上ゆうが犠打で進め、里見瑶子と山内健嗣が本塁に返すのは実は二段構へのフィニッシュの序段。立花優と山本清彦のアシストを受けた、久須美欽一が大ハッスルのゴールを決める真のオーラスには脱帽した。朝つぱらから自宅に連れ込んでの三番手挿んで昼下がりにまで至る、明らかに平衡を失した長期戦にも思はせた対田辺第二戦が、実は計算され尽くされたものであることが明らかとなる瞬間に火を噴く、緻密な論理と完璧な構成美。今作で目下最終2005年の全十三作+1/3の監督作をコンプした格好となる、勝利一はこの時点で既に完成されてゐたのかといふ驚きと同時に、自ら選んだ沈黙にせよ状況に強ひられた不遇にせよ、これだけのタレントを遊ばせておく現状が激越に勿体ない。


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