真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「真珠夫人 脱がされた肉襦袢」(2002『いんらん夫人 覗かれた情事』の2005年旧作改題版/製作:加藤映像工房/提供:オーピー映画/監督:加藤義一/脚本:岡輝男/撮影:創優和/照明:野田友行/音楽:レインボーサウンド/助監督:竹洞哲也/監督助手:伊藤一平/撮影助手:宮永昭典/照明助手:藁部幸二・山本真吾/協力:睦月影郎・ゴジラや/出演:水沢百花・佐倉萌・相沢知美・竹本泰志・柳東史・なかみつせいじ・吉田祐健・坂入正三・丘尚輝・中村半次郎)。出演者中、中村半次郎は本篇クレジットのみ。
 どうでもいいが、箆棒な改題に思へてしまふのは気の所為か。旧題封切り当時に流行つてゐた昼メロのタイトルを大胆にフィーチャーするのは兎も角として、“肉襦袢”などといふのは、肥満した人間の余り肉、あるいはそれを模した一種の着ぐるみのことではないのか?
 開巻は、蕩けさうに肉感的な肢体を晒し横たはる主人公と、裸身に降り注ぐ真珠の粒々。幻想的で、美しいショットである。
 時は昭和二十年、敗戦を確信した情報将校の雨宮多聞(竹本)は職を辞するが、情報漏洩を恐れた内務省により特高(丘)に追はれる身となる。ある夜馴染みの女郎・お小夜(相沢)を抱いた雨宮は、燗をつけるとお小夜が席を外したところに怪老人・野呂恒夫(坂入)の不意の訪問を受ける。自分に任せて呉れれば逃がしてやる、といふ野呂を雨宮は初め取り合はなかつたが、後日、終に特高が女郎屋にまで踏み込んで来た際、逃亡する手引きをして呉れた野呂を、雨宮は信頼することにする。野呂が雨宮に持ちかけた話は、不能の野呂に代り陸軍少将・仙波藏人(なかみつ)の未亡人・珠子(水沢)を抱いては呉れまいか、といふものである。珠子は、亡き恋人の形見にして、古来より支那に「飲めば永遠の命を得る」と伝はる伝説の真珠“人魚の涙”を、女陰に埋め込んでゐると噂されてゐた。
 要するに「鍵穴 ~和服妻飼育覗き~」(1999)以降、深町章が折に触れ量産してゐるのとほぼ同趣向の、昭和初期、あるいは大東亜戦争敗戦前後を舞台とした猟奇ミステリーである。美術、乃至は撮影に根本的にバジェットを割けぬピンク映画にあつては、初めから負け戦のやうにも思へて来るものの、大ベテランの深町章を向かうに回しデビュー年にして早くも四作目となる加藤義一は、岡輝男(=丘尚輝)にしては余程上出来の水準的な脚本も得て、丁寧な作劇と全員とはいはないまでも力のあるキャストの力を借り、十・・・二分には満たないとしても一分くらゐまでには健闘してゐる。
 主演の水沢百花は、首から下も上もルックスには何ら申し分がないのだが、お芝居の方はどう贔屓目に見てもへべれけ。ただし切れ長の美しい目は切り取り方によつては妖艶な、あるいは毒婦然として見えなくもない。加藤義一と創優和もその点については恐らく承知のことと見え、要所要所で的確な表情を―恐らくは水沢百花的には勝手に―切り取つてゐる。与へられた素材の料理法としては、全く適切であらうかと思はれる。
 柳東史は、政略結婚で仙波に嫁ぐまでは、珠子の恋人であつた夏目蓮太郎。出征前夜、珠子に今生の別れを告げに訪れる。「これでもう、何の悔いもございません!」とカッコよく敬礼を決めるも、要はピンクなので結局珠子とセックスする。余談ではあるが、初めて小倉名画座を訪れた私が劇場内に足を踏み入れた際が、ちやうど珠子と夏目との濡れ場であつた。濡れ場が殊更にいやらしく見える小屋の雰囲気に、秒殺されてしまつた瞬間である。事が終り、身支度を整へる珠子に夏目は人魚の涙を差し出す。再び話は反れるが、このシーンで、恐らく実際には和服の着付けなど一人で出来ないであらう水沢百花は、間も保てずにモタモタと肌襦袢を弄んでゐるばかりである。演技、あるいは所作指導に大いなる改善の余地あるシーンなのでは。話を戻すと、夏目が人魚の涙を差し出したところに、折悪しく仙波が帰宅。妻の不貞に激怒した仙波は、軍刀で夏目を一太刀に斬り捨てる。ここでの、ドス黒い憤怒に震へるなかみつせいじの表情が素晴らしい。
 佐倉萌は、仙波家の女中・山内勝乃。夏目との不貞以降すつかり狂つてしまつた仙波により、縛り上げられた珠子の目前犯される。まあこのシーンの、思ひ切つた邪悪さ加減も天晴である。加藤義一は、アクセルの踏み加減を心得てゐる。さういつた辺りが、娯楽映画の良作を量産し得てゐるところの所以でもあるのであらう。吉田祐健は、珠子の女陰に真珠を埋め込む手術を施す、闇医者の多々良幸庵。坂入正三も固より、ベテラン勢の脇の固めぶりが頼もしい。さう考へると、水沢百花の演技力を等閑視しさへ出来れば、残るウイーク・ポイントはどう見てもらしくは見えない特高役の丘尚輝か。まあこの辺りは、どういつても詮ないことではあるが。まだしも助監督で国沢実が入つてゐた方が良かつたやうな気がする、それも無理か。

 中村半次郎は、戦後六十年を経た現在、今も街に珠子の姿を探す老人となつた雨宮役。この人のことでいいのかな?協力のゴジラやと睦月影郎も、一体何処に絡んでゐたのか。軍服その他の小道具関係?


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