真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「桃木屋旅館騒動記」(2014/製作:新東宝映画株式会社・レオーネ/配給:新東宝映画/監督・脚本・編集:城定夫/企画:衣川仲人/製作:獅子奮迅/プロデューサー:獅子奮迅/ラインプロデューサー:羽根誠/撮影・照明:田宮健彦/録音:小林徹哉/助監督:伊藤一平/ヘアメイク:柿原由佳/スチール:本田あきら/撮影助手:川口諒太郎/監督助手:寺田瑛/制作応援:躰中洋蔵/メイキング:相羽誠聡/制作プロダクション:Production Lenny/出演:西野翔・早瀬ありす・吉岡睦雄・麻木貴仁・津田篤・森羅万象・蘭汰郎・廣岡孝一・辻和朗・久保和明・花畑元子《声》・稲森誠・城太郎)。出演者中、花畑元子以降は本篇クレジットのみ。
 山間の田舎町・毛更津村の温泉旅館「桃木屋旅館」(ロケ先:八幡屋旅館)がてんてこまひに大繁盛するのは、二人で切り盛りする夫兼板前の桃木幹也(吉岡)に起こされた女将・月子(西野)の午睡の夢。読みかけのホームページ作成の入門書に、月子が再びとりかゝりタイトル・イン。このアバン、自作サイト云々が後述するピュオーネ隊がそれを見て桃木屋にやつて来る。のにしか繋がらないといふのは、開巻の振りにしては些か弱くもあるまいか。
 温泉旅館とは名ばかり、毛更津は地質変化で温泉が枯渇、桃木屋は当然の如く閑古鳥。目下の宿泊客は、社長の無茶振りで再開発計画の下調べに毛更津を訪れたものの、聞きしに劣るとも勝らない壮絶な過疎さ加減に頭を抱へるのも通り越し匙を投げ気味の、デベロッパー会社の山田(麻木)と部下・中島(津田)の二人きり。そんな桃木屋に、「潮吹き温泉」シリーズで人気のAV女優・星川キララ(早瀬)以下、監督の定岡(蘭汰郎)・助監督なのかカメラマンなのか微妙な二つ足した三平(廣岡)・ストイックな潮吹かせ男優の後藤タッカー(辻)からなるピュオーネ御一行が到着する。月子は三平に国営放送の旅番組クルーと言ひ包められ、一方山田と中島は業界の名物男の異名を誇る、「大東京地所」丸山専務(森羅)の―何にもない―毛更津での接待と、再開発計画契約書に判を捺させるインポッシブルなミッションをバカ社長に厳命され悶絶する中、洩れ聞こえる嬌声に誘はれた山田と中島を注意しようとして、撮影現場に転がり込んだ月子は驚く。星川キララが栃木の実家を家出して生き別れ状態の、妹・陽子であつたからだ。ところで蘭汰郎が、更に遡れば頂哲夫ソックリな綱島渉に、異常なほど酷似してゐる。
 配役残り、レオーネ代表取締役社長である久保和明は、オドオドと終始不発の吉岡睦雄に対し小気味いい弾けぷりを披露する借金取り・遠藤。花畑元子は棒読みナレーションの主に、もしかするとクレジットはオミットされたけど桃木屋先代の幹也没母遺影も兼務?大阪を拠点に関西圏で活動する劇団「シアターOM」代表の稲森誠と、あんまり顔が綺麗なのでまさかと思つた城太郎は、劇中2バージョン挿み込まれる「お仏壇のケサラヅ」CMのお爺ちやんと孫。まさかとは何事かといふと、太郎君は城定秀夫の愛息である。
 城定夫名義だけどよもや一日撮りなのか!?城定秀夫「妖女伝説セイレーンX 魔性の誘惑」(2008/高木裕治と共同脚本/主演:麻美ゆま)以来六年ぶり二度目の新東宝作。因みに地元駅前ロマンが来月末には正月映画の「わるいをんな」(2015/主演:めぐり)と、二ヶ月連続で城定秀夫新東宝新作が着弾する晩夏と初秋の大フィーバー。映画の中身は絡みに絡める一工夫も設けられるとはいへ、要は「ザ・クールジャパン ロシア熟女で女体盛り」なるイカした新題で来月新版公開される、勝利一2004年第二作「和風旅館のロシア女将 女体盛り」(助監督:伊藤一平/主演:グロリア)が不自然に釣り逃がした魚を的確に押さへた、悪くいへば“だけ”の物語。確かに手堅いことは手堅いが城定秀夫分ハードルが上がつてゐるだけになほさら、ギャースカワースカ騒ぐほど面白い訳でも別にない。展開込みで類型的な造形に俳優部がほぼほぼ全滅する中、久保和明以外に気を吐くのは飛び込んで来るや圧倒的な貫禄で始終を突発的に牽引する森羅万象。流石に馬力が違ふ、専務の割に上着は安つぽいけれど。観客の期待と予想を一欠片たりとて裏切らぬ、順当な順当な王道娯楽映画であるのは間違ひないにせよ、あくまでそれは、理想論に於ける量産型娯楽映画のアベレージ。新東宝が年に一本製作するかしないかの決戦兵器の出来としては、矢張り物足りなさは否めない。仕出かす時は派手に仕出かしつつ、温泉映画の黙したアルチザン・新田栄の方が、当たれば遠くに飛ばす。裏の裏に表返るセカンドインパクトの方便に、東北地方太平洋沖後の頻発地震をどさくさと紛れ込ませるのは、それはブラックユーモアのつもりなのか、それとも単なるキナ臭い無神経なのか。


コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )