真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「濡れる秘書室 淫らな匂ひ」(1993『いんらん秘書 スペシャルONANIE』の2000年旧作改題版/製作:旦々舎/提供:Xces Film/監督:山崎邦紀/脚本:的場千世/撮影:田中譲二・松本治樹・若杉恵吾/照明:秋山和夫・永井日出男/音楽:薮中博章/編集:㈲フィルム・クラフト/助監督:女池充/制作:鈴木静夫/ヘアメイク:斎藤秀子/スチール:佐藤初太郎/録音:銀座サウンド/現像:東映化学/出演:田中虹子・四谷桃子・麻美・杉本まこと・久須美欽一・平賀勘一・山本竜二)。脚本の的場千世といふのも浜野佐知の変名(その場合は的場ちせ)ではなく、山邦紀自身。
 颯爽と歩くハイヒールの足下に続き、闊歩する主演女優の全身を抜いて手短にタイトル・イン。秘書付きレンタルオフィス「CITY OFFICE CENTER」の秘書・栗木か栗城素子(田中)がカチャカチャ馬鹿デカいOA機器を叩く姿に、「CITY OFFICE CENTER」に事務所を構へる使用済み下着通販業者・江端か江幡か江畑(久須美)は複雑な視線を送る。“あの夜のことは夢だつたんですか?”、素子は江端の商品の仕込みに、わざわざオッパイまで見せONANIEを披露、下着を美しく汚す。男子たるもの当然点火、「これ以上は秘書の仕事ぢやありませんよ」―とつくの既に秘書の仕事ぢやねえよ―と拒みつつも、なし崩し的に素子と事に及んだ一夜を、江端は忘れられないでゐた。江端以外に、ヌードモデル斡旋業者・田屋か田谷か田家か以下省略(平賀)も利用する共同事務所である「CITY OFFICE CENTER」に、妙にしつかりした出来のチラシを見た出版業との藤原(杉本)が照会の電話をかけて来る。堅気の顧客を得られるのではと、素子は交代で勤務する佐久間ヨウコ(四谷)と期待する。
 配役残り、いはゆるワンレンボディコンが今となつては懐かしいといへば懐かしい麻美は、田屋の面接を受け、葱を背負はされる鴨・ヒロミ。髪に白を入れた山本竜二は、契約外を個人的にお手伝ひといふ形で素子が藤原の会席に同行する、大企業の会長・君塚、如何にもお偉いさんぽい苗字ではある。
 山邦紀1993年、水元はじめ名義による大蔵第一作と薔薇族(山崎邦紀名義の矢張り大蔵)挿んで第四作。「DMM荒野篇」が初戦にして木端微塵に粉砕されたのも今となつては甘酸つぱい思ひ出といふことに誤魔化してしまふとして、通算では第五作。兼現状、観戦可能な山邦紀の最も古い映画に当たる。因みに次作が、“子供でも動物でも、動くものなら何でも犯した”甲斐太郎がエポック・メイキングにしてリミット・ブレイクにカッコいい獣欲魔、確かに獣欲の魔物だ。話を戻すと、器用に曲者揃ひの秘書付き共同事務所を舞台に巻き起こるチン騒動。ここは旦々舎の性格上マン騒動といふべきなのかも知れないが、それではレトリックが成立しない。一件をヒロインが主導する女性上位の力技で無理から収束させる辺りは如何にも旦々舎らしいともいへ、藤原にせよ江端にせよ田屋にせよ世間一般的にポップな好色漢に過ぎず、正体不明の魑魅魍魎が愉快奇怪に蠢動する、十八番の変態博覧会が開催される訳ではない。田中虹子が肢体込みで正統派の美人過ぎたことが逆に禍したのか、絡みも比較的にでもなく素直で、思ひのほか標準的なピンク映画に近い。最もエモーションが動くのは、素子の華麗なる男供三連撃の三打目。序盤はそれはそれとしてそれなりに純な江端の素子への下心を物語の軸に据ゑるのかと思はせて、藤原と田屋に押し退けられ江端は暫し退場。脛に傷持つ藤原と田屋だけでなく、江端までもが朝の挨拶のクロスカウンターに頬を張られた瞬間には、完全に江幡に感情移入して即時同衝撃に驚いた。このある意味見事な件、展開の流れとしては明後日な暴投ゆゑ、情けない受けの芝居に長けた久須美欽一に負ふところがより大きかつたのではなからうか。「そんなあ」といふ泣き言を上げさせれば、多分日本一だ。


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