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主に映画、ゲーム、同人誌の感想などをコンクリートミキサーにかけてブチまけた、ここはいいトシしたおっさんのブログ。

塚口サンサン劇場「ドロステのはてで僕ら」見てきました!

2020-09-06 21:13:03 | 映画感想

 3時間稽古してフラフラになり自販機に1000円札飲まれて体育館を出たタイミングで雨が降って来たので全人類を滅ぼすしかないという気持ちで胸がいっぱいになってましたが、サンサン劇場で見てきたこの一本が最高に最高だったのでノーカンです。

 はい、というわけで今回見てきたのはこの作品、「ドロステのはてで僕ら」。
 まったくノーマークだったんですが、塚口の予告編で知りました。
 その予告編から濃厚な良作時間系SFフェロモンを感知したので、これは見なくては、ということで見てきました。
 で、結論なんですが優勝です。
 2020年度時間系SF大賞(脳内調べ)が決定しました。
 というかハヤカワSFは真面目に本作に何らかの賞を与えるべき。
 本作のストーリーは、主人公であるカトウの自室のモニターと階下にあるカフェのモニターが2分の時差でつながってしまうという事件から始まるドタバタ劇。
 そして、騒ぎを聞きつけたカフェの店員や友人たちは、なんとかしてさらに先の未来を見ようとするのですが……。
 このように、本作は前述の通り時間系SFです。
 SF作品、特に時間系SFはいわゆるタイムスリップ、タイムワープ、タイムループといったテンプレートがが非常に強固であるために、ケーキで例えるとトッピング部分を変えてバリエーションを広げることはできても、まったく新しいテンプレートを作り出すのはかなり困難なことだと思います。
 やっちゃいましたね本作。作ってしまいましたね新しいテンプレート。
 本作は今までになかったタイプの時間系SFの展開で、いちSF好きおっさんとしては最高に楽しませてもらいました。
 いわゆる「サイエンスフィクション」ではなく「Sukosi Fusigi」のSFのノリで、事態がどんどん転がっていくジェットコースター的展開が70分ずっと継続されててダレません。
 カトウの自室のモニターとカフェのモニターを向きわせて、合わせ鏡のようにドロステ構造を作り出したあたりからの「なんかよくわかんないけどやばいことになってる!」感がとても楽しい。
 楽しいだけでなく、劇中の人物が度々言ってるように、本作のこのギミックは一歩ずらせばSFホラーになってしまう「怖い」ものでもあるんですよね。
 最初はモニターを通じて2分先の未来を覗けるだけだったのが、モニターを向かい合わせにすることによってより先の未来とコンタクトできるようになってから、なんだかだんだん「現在」がどこなのか、基準時間がどこなのかが曖昧になっていくのがじわじわ怖かったですね。「俺は『今』、『いつ』にいるんだ?」という。
 そしてもう一つの怖いポイントが、これまた作中の人物が言ってましたが「現在が未来に縛られる」ということ。
 普通は「現在が過去に縛られる」なんですが、本作では規定されている未来に合わせるために登場人物たちが行動するという展開があり、最初の告白失敗のあたりこそコミカルに描いてますしその部分は決して本作の核として取り上げられはしないんですが、この「現在が未来に縛られる」というのは深く考えるとどんどん強くなっていくポイントだと思います。
 本作は時間系SFという形をとっていますが、それで大スペクタクル!という展開ではありません。
 物語はあくまでビルの中というミニマムな空間内で完結している……ように見せかけて、いわゆる神の視点からは少なくとも過去・現在・未来の多重構造になっており、宣伝文句にもある通り「時間のミルフィーユ」状態でその密度は凄まじいことになっています。
 作中の役者さんたちは過去の自分と寸分たがわぬ演技を現在の時間軸でやったり、さらには違う時間軸の自分と会話を成り立たせたりしないといけないので、本作はその構造だけでなく制作過程もまた精緻なパズルとなっており、1回のミスで全部やり直しになってしまうとんでもない難易度の撮影を強いられていた模様。
 公式トレーラーの最後にNGカットがありますが、あれを見たあとに本編を見てるとなんかこっちまで胃がキュンキュンしてしまいました。これが恋……?
 あともう一つ、本作ですごいと思ったことがあります。それは「時間の連続性を直接的に可視化したこと」。
 これ、改めて考えるとすごいことですよマジで。これをやったのは僕が知る限り藤子不二雄先生だけです。
 そもそも、時間の流れは目には見えません。時間のつながりも目には見えません。時間そのものを知覚することはできません。
 その目には見えず知覚することもできないはずの時間を、「2つのモニターを合わせ鏡状態にすることで現在・2分後・4分後の自分がそれぞれいる」というかたちで表現したあのシーン、まさにエポックメイキング!
 もう上映中マスクの中でなんべん「すっげぇ……!!」とつぶやいてしまったか。
 今まで時間の連続性を主観的に仮定できる要素って、詰まるところ記憶しかなかったと思います。
 見ました。時間を見てしまいました。時間を視覚で知覚してしまいました。時間って本当につながってるんだすっげぇ!!
 今までいろんな映画を見てきましたが、こうい方向性で興奮を覚えたのは初めてです。
 いやこの作品、実際時間系SFとしてはとんでもない高次元な作品なんではないでしょうか。
 あ、あとラストシーンで藤子不二雄SFの話ではしゃいでるカトウとメグミのテンションが完全に普段はSF好きを隠してるけど同士を見つけたSFオタクのそれで自分の身に覚えがありすぎて死んだ。「藤子不二雄のSF」ってワードが出たときのあのテンションほんとリアルすぎて寒気すらした。
 などと色々な意味ですごい作品なのでこの記事を読んでいるよいこのみんなは今すぐ親をヤフオクで売り飛ばしてそのお金で本作を見に行け。お願いしてるんじゃないの命令。

 そして本作終了後、サンサン劇場は「いますキャンペーン」を開催していました。
 「いますキャンペーン」とは、地下1階の待合室に本作の監督である山口淳太監督がいますというキャンペーンです。なんだよそれ……。
 まあ今さら売店でカレー売って戦車作るような劇場のやることにツッコミを入れてても仕方ないのでおとなしく地下1階へと向かいます。
 待合室前には結構な列ができており、山口監督がサインをしたり写真を撮ったりと大忙し。
 そしてわたくし、開口一番「ブッ飛ばされました!」と口走ったところ、山口監督からは「ありがとうございます! そう言っていただけて嬉しいです! 実は『TE●ET』とネタが被り気味で不安だったんd監督ちょっと待って待って待って待って? ねえ待って?
 え? そういうの言っていいんですか? むしろ聞いていいんですか? ここに法というものはないんですか? ないんだろうなあ塚口だからなあ……。
 などといきなりのレッドアラートレベルのぶっちゃけトークがぶちかまされてわたくしいきなり前後不覚に。ほんとにすげえなこの劇場。
 朦朧となりながらも今まで見てきた時間系SFベストワンを聞けたので満足です。ちなみに回答は「ビューティフルドリーマー」でした。だろうなあ。

 いやー何度も言いますが本作は本当に最高レベルの時間系SFでした。
 このテーマをアニメや小説じゃなくて実写でやるというのは、例えるならウエディングドレスを着てカレーうどんを食べるくらいの危険行為だと思うんですが、本当によくぞやってくれたといった感じです。
 「劇団ヨーロッパ企画」の名前も覚えたので、今後もチェックしていこうと思います。 

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