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2011年の韓国を代表する本は? (2)教保文庫の<2011年今年の本>を見る

2012-01-05 23:57:16 | 韓国の文化・芸能・スポーツ関係の情報
  YES24の<第9回ネチズン選定、今年の本2011>に続いて、教保文庫の2011年今年の本を見てみます。参考サイトは→コチラ
 これまでは読者の人気投票で決めていましたが、今回は社会各界の専門家56人が 2011年の主要な流れを把握できる図書10種を選定しました。YES24と意図的に差別化をはかったのでしょうか?
 つまり、YES24が多くの人によく読まれた本=ベストセラーの順位とほとんど重なるのに対して、教保文庫の方は日本でいえば新聞の読書欄担当者が挙げる<今年の本>ですね。

①バーバラ・エーレンライク「ポジティブ病の国、アメリカ」(韓国題「긍정의 배신(肯定の背信)」
②シム・ボソン「目の前にいない人々(눈앞에 없는 사람)」
③金愛爛(キム・エラン)「ドキドキ私の人生(두근두근 내 인생)」
④ムン・ヨンミ「ディファレント(디퍼런트)」
⑤クレイ・シャーキー「多くなれば違ってくる(많아지면 달라진다)」(原題「Cognitive Surplus(認知余剰)」)
⑥ニコラス・カー「ネット・バカ~インターネットが私たちの脳にしていること」(韓国題「생각하지 않는 사람들.考えない人たち)
⑦ウォルター・アイザックソン「ステイーブ・ジョブズ」
⑧ニーアル・ファーガソン「Civilization: The West and the Rest(文明:西洋とその他の国(シビライゼイション)」
⑨野間秀樹「ハングルの誕生」
⑩鄭裕靜(チョン・ユジョン)「7年の夜(7년의 밤)」
 
※①~⑩の数字は元の記事にはありません。便宜上つけました。


            
  【ベスト10にあげられた野間秀樹「ハングルの誕生」韓国版。帯には「ハングルは世界文字史の奇跡だ」とあります。】

 YES24と重なっているのは⑦の1つだけ。昨年の教保文庫の<今年の本>が上位7位中3点まで重なっていたのと比べると大きな違いです。
 それぞれの本について、簡単に紹介します。

 ①「ポジティブ病の国、アメリカ」は、日本では2010年刊行。自身の乳癌体験を契機に、いかにもアメリカらしい「ポジディブ・シンキング」について批判的に考察したジャーナリストの著作。大病に対しても「乳癌になったからこそ感謝と愛を知ることができた」等のポジティブな反応がよしとされ、不安や弱音をもらすことは許されない雰囲気。ポジティブ思考で病気が治ると主張する疑似科学も生まれ、ビジネス本出版や企業向けの講演で利益を上げる一つの産業ともなり、一部のキリスト教のセクトとも結びついて宗教化・イデオロギー化する。そんなポジティブ・シンキングは搾取・抑圧の道具と化す。失業や貧困、さらに病気や天災までもが当人の怠慢とネガティブ思考のせいにされて、社会的弱者や貧困国を切り捨てる根拠になる。・・・たしかに今の日本でも、わりを食ってる若年層に、その理由を自分の努力や能力の不足に帰する人が多くいるそうですが、たしかにそういう思考法に知らないうちに導かれてしまっているようです。
 ②の「目の前にいない人々」は、「読者の愛と文壇の注目を浴びてきた」詩人の第二詩集。タイトルは「不在の恋人」のことだそうですが・・・。
 ③の金愛爛は1980年生まれの女性作家。昨年(2011年)4月21日の記事で少しふれたように、「毎日新聞」連載の「新世紀 世界文学ナビ」韓国編できむふなさんが最初に紹介した作家です。小説集「달려라,아비(走れ、父さん)」で韓国日報文学賞、今日の若い芸術家賞、申東曄創作賞、李孝石文学賞、金裕貞文学賞、若い作家賞などを受賞した韓国文壇の次世代作家です。この作品は、青春の愛を描いた彼女の初の長編小説。17歳で妊娠して子供持った若い親と早老症を持って生まれて来た子供、一番幼い親と一番老けた子の青春と愛、そして希望の物語。・・・とほとんど高麗書林の紹介文そのまま。リンクを張ったので許して下さい。
※「달려라,아비」は読んだなー。それから昨年(2011年)6月17日の記事で紹介したように、文芸誌「新潮」2010年6月号に「水の中のゴライアス」という作品が掲載されています。
 ④の「ディファレント」は、ハーバード経営大学院学生たちが選んだ<最高の教授賞>を受賞したムン・ヨンミ教授による経営戦略の本。キャッチ・コピーは「人と同じ戦略では生き残れない!」。スターバックスとマクドナルドが似てくる理由は?等々、競争が熾烈になる中で、すべての企業が全く同じになっている。そんな「同一」が支配する世の中でアイディア・ブランドはいかにマネージすべきか?
 ⑤は、日本では未訳。今までテレビに使っていた思考の余剰を、インターネットに使うことで、ウィキペディアなどの媒体を作るのに貢献できる、とのこと。デジタル技術と個々人の余暇が数10億人を連結した結果、人類は遙かに賢くなっているというのですが・・・。
 ⑥、ニコラス・カーの「ネット・バカ」は日本では2010年刊行。⑤の本とは正反対に、ネットから情報を得てばかりいると、注意力が散漫になって長文の読解能力が衰え、ものごとを深く考えることができなくなり、長期記憶力も衰えるため個々の知識量も減っていくんだって!? 私ヌルボ、ネット利用以前からそんな症状は発現していたような・・・。
 ⑦については省略します。
 ⑧ハーバード大教授の歴史学者ニーアル・ファーガソンの著作は、日本でも「憎悪の世紀」や「マネーの進化史」が刊行されていますが、この本は未訳。東洋に遅れをとっていた西洋文明がどのように追いつき追い越すことになったのか、600年間の世界史を競争、科学、財産権、医学、消費、職業の6つのキーワードを通じてたどって「文明進歩の秘密」を明らかにし、さらには現代の政治経済まで眺望する・・・。「憎悪の時代」のような、多くの興味深い史実が満載(巨視的にはイマイチ?)の本なのかな?
 ⑨、野間秀樹先生の「ハングルの誕生」については、本ブログ2010年6月2日の記事でも少しふれました。その後第22回アジア・太平洋賞の大賞を受賞したのも順当なところです。そして韓国では昨2011年10月に翻訳書が刊行。好評をもって迎えられています。ある読者は「日本人が書いたということに対して偏見の目をもたないこと」と前置きして、「ハングルが持っている言語史的・音素的・歴史的・構成的な要素等の多様な部分を深くて理解しやすく語っていて、教科書にもなるほど」と評価し、また別の読者は涙まで流し、「韓国人であれば必読書中の必読書」「野間秀樹教授はハングルの柳宗悦のようだ」と絶賛して野間先生に謝意を表しています。
 ⑩、innolifeの記事によると、「チョン・ユジョン(45)、キム・エラン(31)という20万部に迫る新人小説家が登場し、ベストセラー作家の世代交代がされている」とのことです。チョン・ユジョンの作品は、デビュー作「私の人生のスプリングキャンプ」も第2作の2009年の世界文学賞受賞作「私の心臓を撃て」も、そしてこの第3作も映画化が進められているとか。サスペンスの要素を備えた視覚的な文体に映画会社が注目したようです。彼女の小説は、どうも純文学というより<ジャンル小説>と見られているところもありそうです。この作品の梗概は次の通り。「7年前偶発的に幼い少女を殺害した殺人犯の息子は、父親の死刑執行の消息を聞いて7年前のその日の夜に誘われる。一方、小説の中の小説では、7年前偶発的に幼い少女を殺害した後罪悪感で狂っていく男と、加害者(とその息子)に復讐を敢行する被害者少女の父親との息詰まる対決が繰り広げられる・・・。」

 実は、冒頭には書きませんでしたが、教保文庫はこれまで通り「毎日経済新聞」との共催で<2011 BEST BOOK50>というのもやっていて、ソチラではベストセラー本も多く入っています。(YES24<今年の本2011>の①~⑥もリスト中にあります。) これについては、面倒なので(!)書きませんが、その50点の中に日本人の著作が6つありましたので、それだけ紹介しておきます。
○村上春樹「雑文集」 
○塩野七生「十字軍物語(십자군 이야기)」
○野間秀樹「ハングルの誕生」
○小池龍之介「考えない練習(생각 버리기 연습)」

 ・・・この本については、本ブログ2011年7月31日の記事でふれました。
○稲盛和夫「稲盛和夫のガキの自叙伝」(韓国題「좌절하지 않는 한 꿈은 이루어진다.挫折しないかぎり夢は達成される」)
 ・・・ウィキ(稲盛和夫)によれば、朝子夫人は禹長春の四女とのことです。
○エアーダイブ「義男の空(요시오의 하늘)」 
 ・・・12月12日に刊行したばかりの本ですが、主催の「毎日経済新聞」で発行して書評を載せて、<今年の本>にまで入れるというのはお手盛りもいいところ。しかし多くの人が感動したという感想を寄せていて、その点については非難する理由はありません。この本をご存知ない方は→コチラで。

 ところで、「東亜日報」も独自に<2011今年の本10>を選定しました。同紙で提示した150冊の中から各界の専門家などによる選定委員と同紙出版チームの論議を経て10冊を選んだものですが、10冊中6冊は上述のYES24または教保文庫のベスト10と重なっているし、もう字数も一杯なので、興味のある方はリンク先をご覧ください、ということにしておしまいにします。

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2 コメント

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Unknown (のんき)
2012-01-08 09:57:12
遅ればせながら・・・ヌルボさん、あけましておめでとうございます。今年も楽しい記事を期待しています。よろしくお願いいたします。

年末年始の休暇中に『景福宮の秘密コード』を読みました。(原題『뿌리 깊은 나무』이정명 著)2006年の出版時にもベストセラーになったようですが、昨年末にSBSでドラマ化されたことにより再注目されている本の日本語訳です。
野間先生の『ハングルの誕生』が10位圏に入ったのは、このドラマのヒットによって、ハングル誕生に関する韓国人の意識が高まっているせいでもあるかと思います。

訳文もなかなか見事で、感動のうちに一気に読んでしまい、ヌルボさんの感想文がどこかに載っていないかと探しにきたのですが、検索ではひっかかりませんでした。
もしまだお読みでないなら、是非読んでいただいて、ヌルボさんの感想が聞きたいです。(勝手な意見ですみません)
ハングル文字を生み出すにあたって世宗大王が直面した時代的葛藤や政治闘争を背景に、反対派による殺人事件が次々と起こる歴史ミステリーです。野間先生とはまた違った視点でハングル誕生の苦労がわかり楽しめます。
韓国ミステリー文学も成長したなぁと思わされた作品でもあります。
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「景福宮の秘密コード」は・・・ (ヌルボ)
2012-01-08 15:50:26
のんきさん、今年もよろしく!

「景福宮の秘密コード」は、私も以前から読みたいと思っていた本ですが、上下2巻で4千円近くで二の足を踏んで、図書館も今日現在の予約者数が15人。・・・ということで、まあそのうち読むことにしようと思い今に至っています。いずれ必ず読みます。
こういう本を契機に、ミステリー・ファンの間にも韓国の歴史・文化に興味を持つ人が増えるといいですね。
史実とフィクションの間の見極めがむずかしいかもしれませんが・・・。
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