ヌルボ・イルボ    韓国文化の海へ

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[韓国関係新刊書紹介①] 鄭銀淑「韓国酒場紀行」(実業之日本社)は期待通り!

2012-12-14 23:26:12 | 韓国・朝鮮に関係のある本
         

 12月13日つまり昨日発売の鄭銀淑「韓国酒場紀行」(実業之日本社.1500円)は期待に違わず。韓国風に言えば「カンチュ(강추.強推)」=強力推薦の本です。

 鄭銀淑さん、毎度のことながら、いい仕事をしているなー、と思います。「いい仕事」というのは、出した本の内容のことだけでなく、いろんな所に行って美味しいものを食べたり旨い酒を飲んだり等々、うらやましい仕事という意味でもあります。

 私ヌルボが彼女の本を最初に読んだのは、「ドキドキ半島コリア探検―北も南も、ご飯がおいしい!人がいい!」(知恵の森文庫.2002)あたりからだったかな? アマゾン等で見ると、その少し前から書いていたようですが・・・。

 彼女の名前が広く知られるようになったのは、「韓国の「昭和」を歩く」(祥伝社新書.2005年)、「年韓国の美味しい町」(光文社新書.2006年)、「韓国・下町人情紀行 (朝日新書.2007年)と立て続けに新書版が発行された頃からでしょう。
 そして、これは新書ではありませんが、2007年に名著「マッコルリの旅」(東洋経済新報社)が刊行されました。

 これらの著書で、鄭銀淑さんが韓国の庶民的な飲食文化の紹介に果たした役割はすごく大きいと思います。私ヌルボのサークル仲間のオジサンたちも皆彼女のファンで、「マッコルリの旅」等をバイブルのように(?)携えて、地方の飲み屋巡りに出かけたりもしています。同じようなオジサンは、全国にずいぶんたくさんいるのではないでしょうか?

 振り返ってみれば、この10年ほどの間に、彼女の本も進化してきていますね。具体的に言えば、地方の店や地方料理への広がり、それに伴って登場する料理も街や店もだんだんディープになってきたということ。
 そして、たんに店や料理の紹介・説明はもちろん、プラスαの魅力が増してきました。それは鄭銀淑さん自身の能力&努力も当然あるでしょうが、編集者等のスタッフが酒好きのオジサンをはじめとする主な読者層の次なる興味を巧みに先取りした本作りをしているのでは、と推測しています。
 上掲の「韓国の「昭和」を歩く」や、「中国東北部の「昭和」を歩く」(2011年)のタイトルそのままに、「平成」の今ではなく、韓国旅行にも「昭和」の郷愁を求めるオジサン世代の心情にまさにフィットした内容で・・・。
※「鄭銀淑の事務所代表」というManchuria7さんもその代表的なお一人なのかな?(twilogは→コチラ。)

 また、文書中に大方の日本人がカチンとくるような歴史認識に関わる言説がないことも親しまれる理由かも。韓国の地方都市や旧満州に残る日本風の建物や店を見ても「こんな所にも日帝の残滓が!」と怒ったりせず、「懐かしさを覚える」と書いてあったりして・・・。ま、これは読者のことを考えれば当然か。

 さて、というところで、「韓国酒場紀行」の内容を見ていきます。

 紹介している店はソウル30店、釜山9店、その他の地方13店。
 基本的に、庶民の街の、庶民の店ばかりです。
  ※この中には、「ソウル大衆酒場の入門編」として広蔵市場も含まれています。
 やはりソウルの店が多い、とはいっても、その中に浦項、南原、木浦等々の地方料理や地方出身の店主の店がいくつもあります。

 掲載されている写真もいいですね。酒や料理だけでなく、大勢のお客さんたちが楽しそうに飲み食いしているようすが撮られていて、雰囲気が感じられます。
 ヌルボも以前全州や南原の飲み屋に行った時のことを思い出しました。感じたのは酒飲みはどこの国も同じ、ということ。言葉はよく通じなくても、気持ちは相通じるものがあります。というか、お互いがそう思っていい気持ちになる雰囲気があります。(韓国人の方が一般的に声が大きい等の差異はありますが・・・。)

 また、本書には「사람냄새(人の匂い)が失われつつある首都ソウルだが、大衆酒場にだけは・・・」という表現がありますが、この本自体、店主や客や、そして著者自身の사람냄새が感じられます。
 たとえば阿峴(アヒョン)市場の入口近くのジョン横丁で一杯ひっかけた後、階段を上って<タルトンネ(月の町)>に行き、縁台で飲んでる人たちに仲間入りして再開発の話を聞いたりした後、また屋台街に下りて「終電まであと1時間ある」から「仕上げ」だとか・・・、どこまで「事実」に即しているのでしょうか? 
 ※<タルトンネ>は、イ・チョルファン:著/草剛:訳「月の街山の街」の舞台となったような、丘の上の低所得者層の住宅地。都市の再開発が進み、ほとんど消えつつある。

 必ずしも「事実そのまま」でないとしても、著者自身がお酒も料理も、また人間も好きなことはよくわかります。
 そして「神谷バーとの最大の共通点は・・・」とか「狭い店内は新宿駅西口の思い出横丁風」とか「御徒町駅から上野アメ横辺りの飲み屋街にブルーカラー色を加えたような乙支路3街駅周辺」等々の記述からは、日本の(東京の?)庶民的な飲み屋街にも親しんでいることがわかります。(このあたりは日本人スタッフの感化?)

 他にもいろいろありますが、昨日出た本の紹介としてはとりあえずこんなとこでいいでしょ。
 あ、細かい点では、各店の住所はハングル表記も併記されていて、韓国語はダメという人もタクシーの運転手さんに見せればOKになってます。

※高陽市の「例の肉」の料理店の紹介記事で、「例」の字に傍点は付いているものの、どこにも「犬肉」と具体的に書いてないのは、ミスじゃなくて、わざと、なんでしょうね?

※全然関係ないことですが、年中行事を表す명절(ミョンジョル)が「明節」と漢字表記されていましたが、2種類の辞典で確認すると名節でした。「明節」となっているブログ記事等もあるし、うーむ・・・。

※鄭銀淑さんの公式サイトは→コチラ

★[12月18日の追記] 本書は、2011年1月刊行の「韓国の人情食堂」(双葉文庫)と、掲載されている店が重なるところがあり、また、一部同じ写真あるいは明らかに同じ時に撮られた写真も用いられています。しかし、重なり過ぎてはいません。たとえば「韓国の人情食堂」には木浦の食堂が7店載っているのに「酒場紀行」にはなぜかゼロ。大きな違いは「韓国の人情食堂」の方が文章主体の本ということで、たとえば、韓国の食文化についていろんな知識を得たいという人はコチラの記述が詳しい。新書ということもあって、カラー写真は冒頭の16ページだけ。それに対して「酒場紀行」は写真に大きなウェイトが置かれていて、視覚に訴える本です。また、コチラの本は店自体の説明が中心。

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2 コメント

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買いました (k)
2013-01-10 18:52:37
ご紹介拝見して、買いました!いやー、本当にいい本ですね、今すぐにでも行きたくなる。
ほんとは、もっと地方のいい味の店が紹介されてると良かったんですが・・・
実業の日本社さんも、このタイミングでの発売はきつかったでしょうね。。。
私思うに・・・ (ヌルボ)
2013-01-10 21:34:51
鄭銀淑さんは、韓国の酒場好きという日本人の関心を半歩先取りして新しい本を出している感じですね。

地方色豊かな店の紹介は、そのうち出されるのではないでしょうか?

私も今年こそは韓国の地方の酒場にぜひ行ってきます!

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