風薫る道

Who never feels lonely at all under this endless sky...?

東京ニューシティ管弦楽団 第108回定期演奏会 @東京オペラシティ(11月1日)

2016-11-06 01:56:12 | クラシック音楽




<曲目変更のお知らせ>
当初予定されておりました、エウゲニウシュ・クナピクのピアノ・ソロ、混声合唱、オーケストラのための協奏曲「ソング・オファリングス(歌の捧げもの)」は、同曲の世界初演権を有するポーランド国立放送カトヴィツェ交響楽団の初演延期のため、予定された日本初演の実現が叶わなくなりました。出演予定であったクルスチャン・ツィメルマンは元来本公演を通じて東日本大震災復興支援を申し出ていたため、本人の支援実現への強い願いにより、演目をベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番に変更し、出演することに決定いたしました。今回の変更は演奏曲目に関わらず被災者支援を最優先するアーティスト側の意思を尊重いたしました。

確か今回は初めての協奏曲をやる予定と聞いていた気がするけど、チケット発売の時の曲目はなぜかベートーヴェンのピアノ協奏曲になっていて。そういう理由だったのだね。

ペライアの翌日にツィメルマン。東京は誘惑がいっぱい。。
ずっと頭を悩ませていたいや~な仕事を終えて、オペラシティで15分で蕎麦を食べて、20分前に会場に入ったら本日のプログラムとツィメルマンからの長~いメッセージが手元に・・・。開演までに読み終わるだろうか・・・(ギリギリ読めた)。
ツィメルマンも東京で3.11を経験していたんですね。
“誰かがアパートの暖房のスイッチを入れたからといって、そのせいで他の誰一人として被害を受ける者はいない、ということが確実になるまでは、何も「制御下」にはないのです。・・・私たちが冷暖房や照明のスイッチを入れる度に、電力の需要が生まれ、その結果として、政府に需要を満たすための何らかの方法をとらせているのです。私たちはこうした状況を変えていかねばなりません。そうすることが私たちの義務なのです。”
以前、ツィメルマンがアメリカ政府のポーランドでの東欧ミサイル防衛構想に抗議してアメリカで演奏をしないとしたことについて、私は「アメリカのファンに罪はない」とここに書いたけれど、今回このメッセージを読んで、彼の思考が少しわかってきたような気がします。
おそらく彼にとって、アメリカにいる彼のファンにも罪(或いは責任)は「ある」のだね。その大統領を選び、そういう政策を支持あるいは放置してきたのは国民なのだから。
そして今後の原発問題の動向次第では、彼が日本で演奏をしなくなる可能性も十分にあるのでしょう。そしてそのとき、日本にいる彼のファンにも「罪はある」のでしょう。声を上げ行動すれば止めることができた流れを、止めなかったという意味で。
彼の言うことは正しいのだと思います。
そしてこういうメッセージを読んだ後に、私達は彼の演奏を聴くわけです。そしてその演奏に感動するとき、彼の演奏に感動する権利が果たして自分にあるのだろうか?と考えないではいられなくなるわけです。

ところで(と、ここで話題を変えることにも心苦しさを感じてしまう^^;)、開演前にロビーでやっていた弦楽四重奏、楽しかったですね~。こういう手作り感のあるコンサートって素敵。


【ベルリオーズ:序曲「ローマの謝肉祭」 作品9
ツィメルマンの参加はベト4のみなので、こちらはオケのみ。(ところで交響曲じゃなくてもベト4ていうの?まぁいいか、ベトp4も微妙だし)
んー・・・上手い下手以前に、演奏や奏者の雰囲気に陽気さが皆無だったのはなぜなのだろう・・・。
もしかしたらこれはお祭りの曲ではないのだろうか?と帰宅した後に調べてしまったわ・・・(やっぱりお祭りの曲だった)。
この後のベト4大丈夫なのかな・・・と不安ばかりが募ってしまったベルリオーズでありました。 


【ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4 ト長調 作品58
前日のハンマークラヴィーアが「ああ、“ペライアのハンマークラヴィーア”だなあ」と感じたように、今夜も第一音から「ああ、“ツィメルマンのベト4”だなあ」と感じました。
ピアノって同じ曲でも弾く人によって本当に変わるんですね。こうして聴くようになるまでは知らなかったなぁ。面白いなぁ。
この曲は昨年ペライアで聴いているけれど、全く個性が違って。
ペライアの方は光と闇を感じたけれど、ツィメルマンの方は2楽章でさえも透き通った明るさがあって。この緩徐楽章のオケとの対話では、ツィメさんだけこの世にいないような美しさで(顔じゃなくて音がね)。オケとピアノが全く違う世界にいる感じががすごく良くて、ぞくぞくしました。それが3楽章では一転してオケと混じり合い戯れるその絢爛たる華麗さ。なんという軽やかさ、なんという自然体のカリスマ性。いやぁ、美しかった。。。。。いいものを聴かせていただきました。ピアノに限っていえば、あの素晴らしいバーンスタイン×ウィーンフィルとの演奏と比べても、生音効果もあって、今夜の演奏の方が好みだったくらいです。やっぱり年齢を重ねた弾き方の違いというものもあるのかな。

今回3階L側だったのですけど、開始早々から視界にはオケに体を思いっきり向けてめちゃめちゃ左右に動いているシルバーヘアとお背中が。ツィメさん、動く動く。前回のシューベルトの子供時代の曲を弾いていた時の3倍くらい動いていた。ご本人楽しそうだし、見ている方も楽しいけど、「うんうん、その調子だよ~君たち。緊張しないでいいからね~。僕は怖いピアニストなんかじゃないんだから」と生徒達を温かく見守っている先生みたいに見えてしまったのは気のせいかしら(^_^;) 私の席からは顔が見えなかったけど、絶対笑みを浮かべてたと思う。ノヴァックさんがいるのに、左手でいちいちキュー出すツィメさん。一度などわざわざコンマスさん?を振り返ってキュー出してましたよね、めっちゃ笑顔で。その仕草までが美しいんだから、まったくもって。。
普段ウィーンフィルやベルリンフィルと共演しているような人だけど、ご本人、楽しそうにリラックスして弾かれていましたね。この曲をこんなにぴょこぴょこ可愛く弾くピアニスト。と言って全く力を抜くことなく弾いてくれて。こういうツィメルマンもいいものだね。今夜行ってよかった 

そして相変わらずピアノが身体の一部か同志のよう(今回も自ピアノ?)。ツィメルマンのこれを見るの大好き。ピアノがピアノじゃなく見えるピアニストって、今まで見たことのある中ではこの人だけです。
そしてこんなに危なげなく弾き流しているようにさえ見える余裕さなのに(魔術師みたいだな~と思いながら指と鍵盤眺めてました)、ピアノに向き合う姿勢はちゃんと真摯なのだものなぁ。いいピアニストだなぁ。
今回も楽譜あり。これだけ躊躇なく弾けるのなら、いらないのでは(^_^;)

そうそう、ノヴァックさんは一楽章と二楽章の間を全く空けませんでしたね。んー、私はここは空けた方が好きだな。二、三楽章の間と違って、ここでは一楽章が大音量で終わるから、その音が消えないうちに二楽章が同じく大きめな音量で始まるのは、あまり美しくないように感じられました。
この二楽章が始まった瞬間、ツィメさん、ギョっと驚いてませんでした?その後すぐにピョコピョコしてたけど。リハも前日も演奏しているはずだけど、うっかり忘れてたのだろうか。

心配していたオケは、全く問題ありませんでした。これだけツィメルマンのピアノに安心して耳を傾けられたということが、その証拠だと思う。先程も書いたように、ピアノとの対話も問題なく。いい演奏でした。
指揮者のノヴァックさんもポーランド人なんですね。これまでもツィメルマンと一緒にツアーをされているのだとか。お二人の雰囲気から信頼関係がしっかりあるのがわかって、見ていて心地よかったです。

ここで休憩。
そして、ツィメさんのファンらしきお客様方が大量にお帰り。元々7割くらいの入りだったのが、6割か5割くらいに。
皆さん、露骨だなぁ。。。
私はオケの生演奏というものを聴くこと自体が好きなので、迷うことなく残りましたです。


【ムソルグスキー(ゴルチャコフ編曲):組曲「展覧会の絵」】
初めて聴く曲だけど、こういう色んな意味でロシアっぽい曲好き~。
展覧会の様子を音楽で表現しようとする発想自体にも吃驚だけど(元はピアノ曲なのね)、それに成功しているところに更に吃驚。元絵を見たことがないのに、まるで絵が見えてくるよう。ユーモアがあったり、不気味さがあったり、壮大さがあったり、くるくる変わる表情がすごく楽しかった。
演奏会で演奏されるのはラヴェル版が多く、このゴルチャコフ版は珍しいのだそうですね。ラヴェル版は聴いたことがないからどういうものかわからないけど、今回のこの版、私は大好きです。
演奏もメリハリが利いていて、全く飽きなかった。
世界の一流オケの音とは違うかもしれないけど、最後も限界までめいっぱい盛り上げてくれて、それでも気になるほどの崩壊もなく。
楽団の皆さんもノヴァックさんもブラボー めちゃくちゃ楽しかったです!!

こんな演奏会を日本で4000円で楽しめるなんて夢みたい。。。
とはいえ前回のリサイタルの後、Japan Artsの会長さんの本を読んだのです。会社立ち上げの頃の熱意やツィメルマンやリヒテルやゲルギエフとの馴れ初めなどが書かれてあって大変面白かったのですが、その中で日本のクラシック演奏会のチケット代の高さについて触れられていて、「もっと誰もが気軽に演奏会に来られるような国にするのが夢」というようなことが書かれてあったのです。でもそんなJapan Artsもやっぱり値上げし続けているんですよね。ボリショイバレエのザハロワの白鳥の湖なんて、2014年→2017年でS席22000円→26000円、D席7000円→11000円ですよ。為替の事情などもあるのかもしれないけれど、それにしても異常です。ツィメさんとのハグで感動して損した、とワタクシはやっぱり思ってしまいますよ、中藤さん。
そのうちクラシックもきっとS席5万円とかいうオペラみたいな値段になるのでしょう。そして平民は生で聴く機会が失われ、殆どの国民が文化的な教養を失い、心の豊かさとは無縁の国になる日も遠い未来ではないのだと思います。
だったらチケットを買わない!という不買運動をしたいくらいだけど、それもできない。なぜなら一流の芸術に触れていたいから。
ツィメさん、この現状に対して私達客はどう行動すべきなのでしょう。。

※ニューシティ管弦楽団のフルート奏者さん(立住若菜さん)の11月5日のブログより。ミャオと鳴くツィメさん リハーサルも含めて録音録画、ピアノの写真撮影もNGと、音楽事務所から厳しいお達しがあったそうです


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