goo blog サービス終了のお知らせ 

★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽CD◇横山幸雄のショパン:練習曲集

2010-07-08 09:21:55 | 器楽曲(ピアノ)

ショパン:練習曲集Op.10
     練習曲集Op.25
     3つの新練習曲

ピアノ:横山幸雄

CD:ソニー・ミュージックエンタテインメント SRCR2685

 横山幸雄のコンサート会場は何時も満員だし、コンサートが終わった後のサイン会も長蛇の列ができる。現役のピアニストの中で、今最も人気が高いピアニストの一人であろう。今年39歳という若さが一つの魅力で、それに技術的にも完璧なテクニックを持っているのだから、人気が出るのも当たり前のことかもしれない。今回のCDは、この横山幸雄がショパンの練習曲集を収めたアルバムだ。生の横山の演奏を聴くと、その歯切れのよい、テクニックの正確さに圧倒させられるし、ホールいっぱいに直線的に広がるピアノの音は、いささかの曖昧さもなく、あたかも光沢を放っているかのように聴衆に降り注ぐ。その点、このCDに収められた音は、実演ほど歯切れが良くとはいえず、横山独特の音の鋭い広がりがもう一つ捉えられていないように思う。これは録音が悪いのではなく、横山のピアノの音は、録音には収まりきれないというのが本当のところだろう。

 練習曲集Op.10の12曲の演奏の中でも横山らしさが反映されているのが第2、4、7、8、10、12番だと私は聴いた。第2番は、激しく上下するパッセージが続くところを横山はいとも軽々と弾きこなす。誠に見事なものだ。第4番も第2番に曲想が似ているが、ここでも横山は圧倒的なテクニックで乗り切るのはさすが。第7番は、テクニックプラスアルファーの要素が求めらる曲なのだが、横山は抒情味を湛えたテクニックを披露する。第8番は、聴いていて気分が高揚する曲であり、横山は今度は一音一音を納得しながら軽快に弾き進める。第10番は、ぱあーっと光が差し込んで一面が光だらけといった雰囲気の曲だ。横山のピアノは、このきらびやかさにぴったりとした
名演を聴かせる。第12番は「革命」の愛称がつけられた、誠にもってドラマチックな曲であるが、こうなると横山の本領発揮で、力強いピアノタッチが印象に残る。

 練習曲集Op.25も全部で12曲からなる。Op.10が1829年―1832年に作曲されたのに対し、このOp.25の方は、1832年―1836年に作曲されている。ショパンは1810年に生まれている(今年は生誕200年)ので、2つの練習曲集は19歳から26歳ごろに作曲されたことになる。ショパンは39歳の若さでこの世を去ったが、丁度人生の半ば前後の一番力の付いた頃の作品だけに、2つの練習曲集は、数あるショパンの曲の中でも充実度の高い曲と現在評価されている。Op.25での横山の演奏は、第1番、第2番、第6番、第7番、第9番、第11番が聴いていて、私は納得がいった。第1番の夢見るようなメロディーを横山は素直に、柔らかに弾きこなす一面を見せてくれる。第2番の横山の演奏は、私はこのCDの中の演奏で一番好きだ。流れるような、それでいてメリハリが利いた演奏は横山でしかなし得ないもの。第6番の音の乱舞を巧みに弾きこなし、第7番では静寂さとドロマティックな演出が冴えわたる。第21番の「蝶々」は横山お手のもの。第11番「木枯らし」の激情のほとばしる表現力に感服。

 結論を言うと、この横山幸雄のショパンの練習曲集のCDは、生の横山幸雄の演奏からすると、その実力がすべて発揮できているとは言えないかもしれないが、スケールの大きさ、テクニックの冴え、抒情的表現のすべてにおいて水準を抜いており、現役のピアニストのCDとしては、ライバル達を一歩も二歩もリードしていると言っても過言なかろう。今後の課題は“世界の横山幸雄”なれるかだ。なお、横山は今年面白い記録を達成した。それは1人でショパンのピアノ・ソロ全166曲を1日で弾くコンサートを2010年5月4日に東京オペラシティコンサートホールで開催し、深夜0時30分に全曲目の演奏を無事終了、ギネスワールドレコーズ社より「24時間以内に最も多く作品を弾いたソロ・アーティスト」という新設カテゴリーでギネス記録に認定されたのだ。今後のさらなる飛躍に期待したい。(蔵 志津久) 


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ◇クラシック音楽◇コンサート情報 | トップ | ◇クラシック音楽◇コンサート情報 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。
ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

器楽曲(ピアノ)」カテゴリの最新記事