★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽◇新譜CD情報

2014-05-30 10:38:54 | 新譜CD情報

 

<新譜CD情報>

 

~レヴァイン&キーシン、ライブ・アット・カーネギーホール~

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第4番/ロンド・ア・カプリッチョ「失われた小銭への怒り」
ワーグナー:歌劇「ローエングリン」第1幕への前奏曲
シューベルト:交響曲 第9番「ザ・グレイト」

ピアノ:エフゲニー・キーシン

指揮:ジェイムズ・レヴァイン

管弦楽:メトロポリタン歌劇場管弦楽団

収録:2013年5月19日、ニューヨーク・カーネギー・ホール(ライヴ録音)

CD:ユニバーサル ミュージック UCCG‐1656~7

 ジェイムズ・レヴァイン(1943年生まれ)は、アメリカ出身の指揮者。ジュリアード音楽院で学ぶ。1970年フィラデルフィア管弦楽団客演指揮者として指揮者デビューを果たす。1973年から現在までメトロポリタン歌劇場芸術監督を務めている。このほか1999年―2004年ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、2004年―2011年ボストン交響楽団常任指揮者・音楽監督を歴任。このCDは、2013年5月19日にニューヨークのカーネギー・ホールでの公演で、約2年ぶりとなる指揮活動復帰を果たした際のライヴ録音盤。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇コンサート情報

2014-05-29 11:45:03 | コンサート情報

 

<コンサート情報>

 

~イタリア・オペラの女王 バルバラ・フリットリ ソプラノリサイタル~

・デュパルク:旅へのいざない/悲しき歌
・ベルリオーズ:歌曲集「夏の夜」より
・トスティ:アマランタの4つの歌
・モーツァルト:歌劇「皇帝ティートの慈悲」より「おおヴィテリア、今こそ〜今はもう美しい花のかすがいを」
・マスネ:歌劇「マノン」より「さよなら、小さなテーブルよ」
・ヴェルディ:歌劇「アイーダ」より「勝ちて帰れ」
・プッチーニ:歌劇「トスカ」より「歌に生き、恋に生き」

ソプラノ:バルバラ・フリットリ

指揮:アレッサンドロ・ヴィティエッロ

管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団

会場:東京オペラシティ コンサートホール

日時:2014年6月4日(水) 午後7時

 ソプラノのバルバラ・フリットリは、ミラノ生まれ。ヴェルディ音楽院で学ぶ。1989年にフィレンツェ歌劇場でオペラ・デビュー。一躍世界が注目するトップ・ソプラノとしてミラノ・スカラ座、メトロポリタン歌劇場、英国ロイヤル・オペラなど世界の一流歌劇場で活躍する。絹のような艶やかな声と並はずれた表現力を持つ、イタリア・オペラの女王がドラマティックに歌い上げる、一夜かぎりのリサイタル。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

2014-05-27 09:55:16 | NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー

 

<NHK‐FM「ベストオブクラシック」レビュー>

 

~アメリカ出身の名ピアニスト マレイ・ペライア ピアノリサイタル~

バッハ:フランス組曲 第4番変ホ長調BWV815 
ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」   
シューマン:ウィーンの謝肉祭の道化 
ショパン:即興曲第2番
ショパン:スケルツォ第2番
ショパン:練習曲 作品25第1「エオリアン・ハープ」 
ショパン:練習曲 作品10第4 
ショパン:ノクターン 作品15第1

ピアノ:マレイ・ペライア 

収録:2013年10月24日、東京・サントリーホール

放送:2014年5月23日(金) 午後7:30~午後9:10 

 今夜の「ベストオブクラシック」は、昨年10月に東京・サントリーホールで行われた“マレイ・ペライア・ピアノリサイタル”。マレイ・ペライア(1947年生まれ)は、ニューヨーク出身のピアニスト。1966年、17歳の時にニューヨークのマネス音楽大学へ入学し、ピアノ、指揮法を学ぶ。その後、ゼルキンおよびホルショフスキーらの大御所に師事。1972年リーズ国際ピアノ・コンクールにおいてアメリカ人初の優勝者となる。これにより一躍脚光を浴び、世界的な演奏活動を開始する。1981年から1989年までは、オールドバラ音楽祭の共同芸術監督を務めた。その後、1980年代に入ると、ペライアは、ホロヴィッツに招かれることになるが、この時ホロヴィッツから強い影響を受けという。ところが、1990年に右手が敗血症に侵され、演奏家活動から身を引かざるを得なくなってしまったという。数年間の療養の後、一旦は復帰を果たすが、2005年に再び発症し、療養生活に戻ることとなる。2006年には、再度復活を果たし、その後、世界各国での演奏活動を再開し、現在に至っている。つまり、もともと世界的に高い評価を得ていたピアニストにもかかわらず、手の故障のため、満足な演奏活動が続けられなかったブランクの期間があったようだ。今後、手の故障さえ再発しなければ、世界を代表するピアニストの一人としての活躍が大いに期待できる。これまで、グラミー賞最優秀室内楽演奏賞および独奏楽器演奏賞を受賞しているほか、2012年にはグラモフォン誌の初代殿堂入りも果たした。2004年には、アメリカ人のペライアは、名誉大英帝国勲章 ナイト・コマンダーKBEに叙されている。

 今夜のマレイ・ペライア・ピアノリサイタル第1曲目は、バッハ:フランス組曲第4番変ホ長調BWV815である。1720年6月にバッハは、レオポルド公のお供で湯治場として有名なボヘミアのカルルスバートに出かけるが、1か月後、ケーテンに戻って来ると、妻のマリア・バルバラが亡くなっていたことを知らされる。今のように情報網が発達していない当時のことだから、仕方のなかったことなのだろう。既に葬儀も執り行われていたという。暫くし、心の傷が癒えたバッハは、再婚することを決意する。当時バッハは4人の子供がいた。再婚相手は、宮廷トランペット奏者の娘で、ソプラノ歌手のアンナ・マクダレーナ・ヴィルケン。当時20歳。結婚後、彼女は、4人の子供を育てると同時に、バッハの作品の写譜もこなすなど、バッハを陰で支えたのだ。そんな彼女に感謝の念を込めてバッハが作曲したのが6つの曲からなるフランス組曲である。楽譜には「おまえといると、わたしは喜びに満たされる。天に召されて永遠の休息につくときも、私は怖くはないであろう。きみの美しい声を聴き、きみの優しい手で目を閉じてもらえるのだから」という詩が書かれてあるという。バッハ:フランス組曲を聴くときに、これらの背景を知って聴けば、バッハの作曲の核心に触れることができる。ここでのマレイ・ペライアの演奏は、実に伸びやかに、穏やかに、ゆっくりとしたテンポで繰り広げる。全体が光り輝くようなピアノ演奏である。この演奏は、バッハへ深い尊敬の念を持つペライアが、自身の持つ特徴である自然な音のつくりと豊かな音楽性を発揮した名演となった。やはり、マレイ・ペライアは、凄いピアニストであったのだと改めて認識させられた。

 2曲目は、ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」。この曲は、ベートーヴェン中期の最高傑作の一つに数えられ、ベートーヴェンの三大ピアノソナタの1つに数えられている。この曲の完成以後は、ベートーヴェンは、4年間ピアノソナタを書かなかった。この曲へ投入したエネルギーがいかに巨大であったことを感じせる。全曲を通して、ベートーヴェンの力強い意志の力が感じられる曲であり、「苦難を克服して歓喜を得る」という、ベートーヴェンの根底に流れる思想を直接肌で感じさせてくれる曲でもある。1805年の春に集中的書き、完成させた。ベートーヴェンの闘争心が旺盛なことは、「熱情」の完成直後のエピソードに表れている。1806年の夏に、ベートーヴェンはシレジアのリヒノフスキー侯爵の居城であるグレーツ城に滞在していた。ある日、侯爵からベートーヴェンに、滞在客のフランス軍将校のためにピアノを弾いてほしいと要請があったが、ベートーヴェンが断ったため喧嘩となり、怒ったベートーヴェンは、雨の中帰ってしまったという。ナポレオンに失望し、「英雄交響曲」の楽譜を破り捨てたというエピソード(こちらはどうも事実ではなさそうだ)を髣髴とさせる。この場合、ベートーヴェンは、信念を貫き通すというより、どうも直情型性格にその原因がであったのだろう。ベートーヴェン:ピアノソナタ第23番「熱情」は、そんな背景を思いながら聴くとよい。ここでのマレイ・ペライアの演奏は、他のピアニストのように激情を無造作に叩きつけることはない。どんなときにも豊かな音楽性を保ちながら、理性の範囲で音楽を構築するのだ。そこには、いつもと違う「熱情」描き出される。仄かな陰影を含んだ静かだが、信念を持った「熱情」が表現されていた。

 3曲目は、シューマン:「ウィーンの謝肉祭の道化」。この曲は、シューマンが1839年に作曲した全5曲からなるピアノ曲で、“幻想的絵画”という副題が与えられている。演奏時間は20分を超す曲で、当初「ロマンティックな大ソナタ」と名付けようとしていたようである。同時期に作曲され、今でもしばしば演奏される「フモレスケ」にちょっと似た感じの曲である。ただ、この「ウィーンの謝肉祭の道化」は、「フモレスケ」に比べると影が薄い理由は何であろうか。「フモレスケ」ほど完成度が高くなく、ピアニストとしては、効果が発揮しづらい曲なのかもしれない。ペライアが敢えてこの「ウィーンの謝肉祭の道化」を取り上げた理由は、自分の個性が発揮できる曲であることを、ペライア自身が気付いたからなのではなかろうか。抒情的であり、自然の流れの中に大きな構成力を持った曲である。そこがペライアの個性が発揮されるところだ。あまり聴く機会がない曲であるが、今夜ペライアの演奏で聴けたことにより、この曲の新たな魅力を聴き取れた。多分、ペライア以外のピアニストがこの曲を演奏したら、印象の薄い曲に終わっただろう。そして、今夜のピアノリサイタルの最後のプログラムであるショパンの曲がアンコールを合わせて全部で5曲演奏された。それらは、スケルツォ第2番、練習曲作品25第1「エオリアン・ハープ」、練習曲作品10第4、ノクターン作品15第1である。これらのショパンの曲の演奏では、ペライアの持てる力がこれまでの曲以上に発揮されたように私には聴こえた。美しい音そのものに加え、その根底には豊かな音楽性に基づいた力強さが潜んでいる。これは、長い経験を積んだピアニストにしか表現しえない、ショパンならではの世界だ。久しぶりに美しいショパン演奏が聴け、大なる満足感に浸れた。また、マレイ・ペライアのピアノでショパンを聴きたいものだ。(蔵 志津久)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇コンサート情報

2014-05-26 10:56:50 | コンサート情報

 

<コンサート情報>

 

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 
           交響曲第6番「悲愴」

ヴァイオリン:諏訪内晶子

指揮:ヤニック・ネゼ=セガン

管弦楽:フィラデルフィア管弦楽団

会場:サントリーホール
 
日時:2014年6月2日(月) 午後7時

 指揮のヤニック・ネゼ=セガン(1975年生まれ)は、カナダ出身。19歳でモントリオール・ポリフォニー合唱団の監督に就任。2008年~2014年ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者、2012年からロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者およびフィラデルフィア管弦楽団音楽監督を務めている。

 ヴァイオリンの諏訪内晶子は、桐朋学園大学で学んだ後、ジュリアード音楽院に留学。1989年、エリザベート王妃国際音楽コンクールで第2位。1990年、史上最年少でチャイコフスキー国際コンクール優勝。2013年、「国際音楽祭NIPPON横浜&仙台」を企画し、芸術監督を務める。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇新譜CD情報

2014-05-23 11:04:56 | 新譜CD情報

 

<新譜CD情報>

 

~フルートの第一人者 工藤重典とウィーン・フィルの首席奏者アウアーによるフルート・デュオ作品集~

 

J.C.F. バッハ:2本のフルートのためのソナタ ハ長調
テレマン:ソナタ ヘ短調
バッハ:トリオ・ソナタ ト短調
ドップラー:夢遊病の女~アデリーナ・パッティの思い出によるパラフレーズ
 ユーグ:ヴェルディの「仮面舞踏会」の主題による大協奏幻想曲
モーツァルト:ドイツ風舞曲第9番

フルート:工藤重典/ ワルター・アウアー

録音:2013年9月、浜離宮朝日ホール(ライヴ録音)

CD:マイスター・ミュージック MM‐2172

 日本のフルートの大家 工藤重典とウィーン・フィルの首席奏者 ワルター・アウアーが組んだフルート・デュオ作品。工藤重典(1954年生まれ)は、1979年フランス国立リール管弦楽団に入団し、首席フルート奏者となる。1979年パリ音楽院修了。1987年にリール管弦楽団を退団し、活動の比重をソロへ移すと共に、パリ・エコール・ノルマル音楽院教授就任。1978年第2回パリ国際フルートコンクール第1位、フランス独奏家協議会賞、1980年第1回ジャン=ピエール・ランパル国際フルートコンクール第1位、フランス共和国大統領賞。ワルター・アウアーは、ランパルと名声を二分した名匠オーレル・ニコレの薫陶も受けた、ウィーン・フィルの首席奏者。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇コンサート情報

2014-05-22 10:31:50 | コンサート情報

 

<コンサート情報>

 

~東京交響楽団ソロ・コンサートマスター大谷康子のヴァイオリン演奏を聴く~

L.モーツァルト:おもちゃの交響曲

モーツアルト:セレナーデ第13番「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」K.525
 
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番「トルコ風」

ヴァイオリン:大谷康子(東京交響楽団ソロ・コンサートマスター)

指揮者:なし

管弦楽:東京交響楽団

会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

日時:2014年6月1日(日) 午前11時

 ヴァイオリンの大谷康子は、愛知県出身。東京芸術大学、同大学院博士課程を修了。全日本学生音楽コンクール第1位。2013年ザルツブルグ市に招かれて ミラベル宮殿 マーブルホールでリサイタルを開く。コンサートの合間には病院や施設でのボランティア演奏も精力的に行っている。現在、東京交響楽団ソロ・コンサートマスター。東京音楽大学教授。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽CD◇ゲルギエフ&マリインスキー劇場管弦楽団のラフマニノフ:交響曲第2番

2014-05-20 13:07:52 | 交響曲

~ゲルギエフが手兵のマリインスキー劇場管弦楽団を指揮した名盤~

ラフマニノフ:交響曲第2番

指揮:ヴァレリー・ゲルギエフ

管弦楽:マリインスキー劇場管弦楽団

CD:ユニバーサルミュージック(DECCA) UCCD-2101

 ラフマニノフの音楽は、甘美なメロディーに加えドラマティックな構成で書かれた作品が数多くあり、そしてそれらを愛好する多くの熱烈なファンがいる。私などは、最初ラフマニノフの音楽を聴いたときは「ほんとにこれがクラシック音楽?」と思ったほど。まるで映画音楽かミュージカルの音楽を聴いているみたいな感じがしたからだ。クラシック音楽は、ラフマニノフが作曲活動をし始めたころから、後期ロマン派の影響力が薄れ、現代音楽へと大きく舵を切ったわけであるが、ラフマニノフはこれらの現代音楽には興味は持たず、もっぱらロマン派の影を追い続けたのである。当時は、「進歩的な音楽は、12音音楽のような現代音楽で、ロマン派の音楽は、古い、発展性のない音楽」と捉えられ、多くの作曲家は、現代音楽の潮流へと向かったわけである。今から思うと、このことが今日のクラシック音楽の低迷に繋がったのではないか、と私には思える。当時、もう先はないと思われたラフマニノフの音楽は、現在行われているコンサートの中でも人気のある曲目の一つになっている。一方、現代音楽はどうなったかというと、あまり一般のコンサートで取り上げられることはなく、現代音楽の同好の士の集まりの中だけで生き続けているというのが実態ではなかろうか。確かに、ラフマニノフの音楽には、革新性は薄いとは思う。絵画で言えばルノワールのようなものかもしれぬ。ピカソやベーコンのような斬新性は感じられない。でも、自宅の居間に飾る絵画は、多くの人は、ベーコンよりルノワールを飾るのではなかろうか。これからのクラシック音楽を考える際には、ラフマニノフの音楽の持つ大衆性をもう一度見つめなおす必要性があるのではないのか。

 そういうわけで、今回はラフマニノフ:交響曲第2番を聴いてみることにした。この交響曲は、昔は、演奏されるとき、一部を省略した版での演奏が通例だったようであるが、プレヴィンが全曲を通して演奏した以降、いまでは、全曲を通して演奏されるのが当たり前となった。このことを見ても、最近になりようやくラフマニノフの真価が、多くのリスナーにより評価され始めたとみてもいいだろう。当初は、冗長とみられていたラフマニノフの曲も、今、よく聴いてみると内容の充実した、安定した音楽であることが聴き取れるのでる。この交響曲第2番は、音楽院時代の作曲の師であるタネーエフに献呈され、初演は、1908年1月にマリインスキー劇場で行われた。この作品は、その年のグリンカ賞を獲得し、これによりラフマニノフは作曲家としての自信を取り戻したという。この曲をロシアで演奏すると、あちこちからすすり泣きが聞こえることがあるという。それは何故か?ラフマニノフは、ロマン派の後継者であると同時に、民族音楽に深く根差した曲を作曲した作曲家でもあった。このことも現代音楽に欠けている重要な点だ。民族的な感情は、人類が如何に進化しようが、決してなくなることはない。現代音楽が、民族的精神を抜き去り、いくら純音楽だといっても、所詮それは頭でつくられた音楽に過ぎないのではないか。ラフマニノフ:交響曲第2番は、民族音楽のような交響曲であり、同時に国境を越えて共感できるような豊かな音楽性も持ち合わせている。

 この曲が初演されたマリインスキー劇場とはどんな劇場なのであろうか。マリインスキー劇場は、ロシアのサンクトペテルブルクにあるオペラとバレエ専用の劇場。1783年に女帝エカチェリーナ2世の勅令により、オペラとバレエの専用劇場としてサンクトペテルブルクに開設された劇場なのである。バレエの名作「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」「白鳥の湖」などは、ここで初演されたということからもその格式が想像できる。今回のCDで演奏しているマリインスキー劇場管弦楽団は、同劇場を本拠地としている。旧ソ連時代には、キーロフ劇場と改名されたが、旧ソ連解体後、1992年にマリインスキー劇場の名称に戻ったという歴史を有している。今回のCDで指揮をしているヴァレリー・ゲルギエフ(1953年生まれ)の略歴を見てみよう。モスクワの出身で、レニングラード音楽院(現サンクトペテルブルク音楽院)で学び、同院在学中にカラヤン指揮者コンクール2位、全ソ指揮者コンクール1位を獲得する。1977年同音楽院を卒業後、当時のキーロフ劇場(現マリインスキー劇場)の指揮者となった。1988年キーロフ劇場の芸術監督に就任し、現在のマリインスキー劇場を世界的な劇場へと発展させることに大いに貢献した。そして1996年には総裁に就任。2007年からロンドン交響楽団首席指揮者を務め、2015年からは、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者も兼任することになっている。これらの経歴からも、ヴァレリー・ゲルギエフは、現代を代表する指揮者の一人の資格は十分に持ち合わせている。

 早速、ヴァレリー・ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団の演奏で、ラフマニノフ:交響曲第2番を聴いてみよう。私は、ヴァレリー・ゲルギエフというと、即物的で劇的な指揮をするという既成概念を持っていたが、このラフマニノフ:交響曲第2番の指揮を聴いて、それらの既成概念が何処かに飛んで行ってしまった。その、情念に溢れた、緻密で流麗な指揮ぶりに圧倒された。第1楽章は、何か哲学的な奥深さの表現ぶりが秀逸だ。あらゆるところから薄日が零れ落ちるような表情が何とも美しい。第2楽章は、スケルツォの楽章であるが、いたずらに騒ぎ立てるのではなく、情緒をたっぷりと取り、十分に説得力を持った指揮ぶりである。そして、このシンフォニーのハイライトの第3楽章が始まる。一瞬「あれ」と感じた。この楽章は、どの指揮者もダイナミックな表現で、朗々と美しいメロディーをことさら強調するものだが、ゲルギエフはその真逆を行き、独白のような内省的な演奏に終始する。こんな静かで美しいラフマニノフ:交響曲第2番の第3楽章を私はこれまで聴いたことがない。やはり、これはロシア人の血のなせる技なのかもしれない。全て自然の流れの中で音楽が流れ行く。分厚く、包容力のあるマリインスキー劇場管弦楽団の響きも聴きものだ。第4楽章は、これまでの夢想のような世界から一変して、明るく輝かしい世界へと一歩踏み出す。ゲルギエフ指揮マリインスキー劇場管弦楽団の演奏は、そんな時でも決して軽薄にならないところが、流石と感じさせる。これは伝統という重みの中から生まれる音の深みなのかもしれない。(蔵 志津久)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇コンサート情報

2014-05-19 10:22:30 | コンサート情報

 

<コンサート情報>

 

~伊福部昭  生誕100年記念コンサート~

伊福部昭:SF交響ファンタジー第3番
             二十絃箏と管絃楽のための交響的エグログ
             ピアノとオーケストラのためのリトミカ・オスティナータ
             交響頌偈「釈迦」-バーリー語- 

指揮:大植英次

管弦楽:東京交響楽団
 
二十五絃箏:野坂操壽

ピアノ:山田令子

会場:ミューザ川崎シンフォニーホール

日時:2014年5月31日(土) 午後3時

 伊福部昭(1914年ー2006年)は、北海道釧路市出身。北海道帝国大学農学部卒。作曲を独学で学び、1935年チェレプニン賞を受賞し、一躍注目を浴びる。東京音楽学校(現東京芸術大学)や東京音楽大学で教鞭を執り、芥川也寸志、黛敏郎、矢代秋雄らの多くの優れた作曲家を育てる。バレエや映画の音楽も数多く、映画「ゴジラ」や「座頭市」などを手掛けたことでも知られる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇新譜CD情報

2014-05-16 10:36:09 | 新譜CD情報

<新譜CD情報>

 

~ジンマン&チューリヒ・トーンハレ管のマーラー:交響曲「大地の歌」~

マーラー:交響曲「大地の歌」
          (現世の愁いをうたう酒歌/秋に寂し/青春について/美しさについて/春に酔う/告別)

ブゾーニ:「悲歌的子守歌」(母親の棺に寄せる男の子守歌)

指揮:デイヴィッド・ジンマン

管弦楽:チューリヒ・トーンハレ管弦楽団

CD:ソニーミュージックジャパン SICC‐10210

 デイヴィッド・ジンマン(1936年生まれ)は、アメリカ出身の指揮者。タングルウッド音楽センターで指揮活動をスタートさせる。その後ピエール・モントゥーに師事。オランダ室内管弦楽団首席指揮者、ロチェスター・フィルハーモニー管弦楽団音楽監督、ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者を歴任。さらにその後、ボルチモア交響楽団の音楽監督を務め、同楽団を全米屈指のオーケストラに育て上げた。1995年にチューリヒ・トーンハレ管弦楽団の音楽監督・首席指揮者に迎えられた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

◇クラシック音楽◇コンサート情報

2014-05-15 13:31:27 | コンサート情報

 

<コンサート情報>

 

~ローマ歌劇場 2014年日本公演  ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」~

ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」(プロローグと3幕のメロドラマ)

指揮:リッカルド・ムーティ

管弦楽:ローマ歌劇場管弦楽団

演出:エイドリアン・ノーブル

シモン:ジョルジョ・ペテアン
アメーリア:バルバラ・フリットリ
ガブリエーレ・アドルノ:フランチェスコ・メーリ
フィエスコ:ドミトリー・ベロセルスキー
パオロ・アルビアーニ:マルコ・カリア

合唱指揮:ロベルト・ガッビアーニ

合唱:ローマ歌劇場合唱団

振付:スー・レフトン

会場:東京文化会館

日時:5月25日(日) 午後3時

 ローマ歌劇場は、プッチーニの「トスカ」なども初演された歴史ある劇場であり、特に2010年にムーティを終身名誉指揮者とし、事実上の音楽監督に迎えてから、素晴らしい躍進を遂げている。ヴェルディ:歌劇「シモン・ボッカネグラ」は、14世紀、ジェノヴァに実在した人物を主人公にした物語。優れた歌手がそろわないと良質な舞台は難しいとされているが、今回の公演は、ムーティも納得のキャストを得ての上演となる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする