ショパンリサイタル(マズルカ、ワルツ、バラード他)
ピアノ:アルトゥーロ・ベネデティ・ミケランジェリ
CD:ERM 122 ADD ERMITAGE
アルトゥーロ・ベネデティ・ミケランジェりは、現在私が最も聴き込んでいるピアニストだ。リヒテルと並び現代を代表する2大ピアニストといって過言でないと思う。シュナーベル、ケンプ、バックハウス、ホロビッツ・・・並み居る巨匠は数多いいが、どれも現代の感覚からすると今一つずれを感じてしまう。しかし、リヒテルとミケランジェリは違う。もう二人ともこの世には居ないが、正に今という感覚で聴くことができる。社会の成り立ちといおうか、社会生活のスピードといおうか、今と昔は何かが感覚として多少違っているのだ。イタリアという国は時々とんでもない天才を世に送りだす国だが、ミケランジェリもその中の一人だと私は思う。
私は若いころはミケランジェリにはあまり興味はなかった。そのころショパンについてはサンソン・フランソワに熱中していてあまりほかのピアニストには関心がなかった。フランソワは情熱をそのまま鍵盤に向かいぶつけるという演奏ぶりで、若かった私にとっては一番共感を感じた。それに対しミケランジェリの演奏は、ギーゼキングと似ており、曲に対して客観的に向き合うという雰囲気が常にある。透明感といおうか、氷のかけらをその辺に撒き散らしたといった演奏振りはミケランジェリ独特なもので、曲の持つ雰囲気をありのまま表現する。ありのままといっても、やっぱりミケランジェリ風というところが天才のなせる業とでもいおうか。
このCDは1986年のライブ録音だが音が良く録れているので、演奏会場で聴いている錯覚に陥る。生のピアノ演奏を大ホールで聴くなら自宅でCDを聴いたほうがいいと私は思う。大ホールでのピアノの音は風呂場で聴いているようで、ぼんやりしていて好きではない。歳をとると物事を客観的に捕らえることが多くなる。そんな私にとってはミケランジェリの演奏は最も共感できるピアニストなのだ。(蔵 志津久)