★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽◇コンサート情報

2009-01-30 13:27:14 | コンサート情報

 

              <コンサート情報>


ベートーベン:3大ピアノソナタ「悲愴」「月光」「熱情」
菅野由弘:ピアノと南部鈴のための「光の粒子」
                   (世界初演の委嘱作品)

ピアノ:小川典子

会場;ミューザ川崎シンフォニーホール

日時:09年2月11日(水/祝) 午後2時

主催:ミューザ川崎シンフォニーホール

 ピアノの小川典子は、ロンドンと東京を拠点に活躍し今年デビュー20周年を迎える、わが国を代表するピアニストの一人。1987年リーズ国際コンクールで第3位に入賞を果たす。これまで、文化庁芸術選奨文部大臣新人賞、川崎市文化賞など受賞多数。今回は「ベートーベン+(プラス)」ピアノリサイタルの第1回目で、小川典子は次のような意欲的なメッセージを寄せている。「ベートーベンのソナタを演奏することは、ピアニストに大きな歴史を残す。そのベートーベン自身、卓越したピアニストの力量を持った大作曲家であった。彼の作風は冒険的で野性的で、当時、一曲一曲新作が生み出されるたび、大スキャンダルとなった。私たちも、ミューザの豊かな響きのなかで、歴史を作ろう。ピアニストにとって、そしてピアノ音楽にとっての。・・・それが本シリーズのコンセプトだ。ここミューザで歴史の新しい一ページが記される」。その心意気やよし。

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◇クラシック音楽◇ルドルフ・ケンペのブラームス交響曲全集

2009-01-29 11:28:11 | 交響曲(ブラームス)

ブラームス:交響曲第1~4番
       悲劇的序曲/ハイドンの主題による変奏曲

指揮:ルドルフ・ケンペ

管弦楽:ベルリンフィルハーモニー管弦楽団

CD:TESTAMENT(EMI Records) SBT 3054

 ドイツ人の指揮者のルドルフ・ケンペ(1910年6月14日ー1976年5月12日)のこのCDは、最初はあまり印象に残ることはないが、何回も聴くうちにその真価がじわじわと心に沁みてきて、最後にはケンペの虜になってしまうという、独特の魅力が込められた隠れたる名盤なのである。通常指揮者はその指揮ぶりが、フルトヴェングラーみたいだとか(あまりいないが)、ワルターに似ているだとか、まるでトスカニーニみたいなど、と過去の巨匠たちの指揮に似ているといった捉え方をされることが多い。ところがケンペはどの巨匠とも異なり、独自の世界を展開する。そこが新鮮に映るし、魅力ともなっている。強いて挙げればシューリヒトに近いのかもしれない。しかしよく聴くと、シューリヒトは楽団員と一体化して自分の世界に引きずり込むという感じがするのに対し、ケンペはあくまで楽団員の自発性に期待し、団員各自の能力を最大限に発揮させるようにもっていく。

 そこにケンペの魅力の根源がある。曲の最初から自分の個性をぶつけるのではなく、最初はごく普通に淡々と演奏を進めていく。そしてその曲のクライマックスの部分に合わせ、それまで溜めてきたエネルギーをすべて放出するかのごとく、一挙に爆発させる。その爆発も指揮者の爆発でなく、オーケストラ全員の自発的爆発のような感じだ。このためケンペの演奏は何か人間賛歌のような肯定的な明るさを持っている。ブラームスの交響曲は多くの場合、おどろおどろしい感じで、鬱積された感情が内に篭ったような感じの指揮をする指揮者が多いが、ケンペのブラームスの交響曲に対する指揮ぶりはこれと異なり、あたかも、ベートーベンの交響曲の延長線上にあるかのような、健康的で颯爽としたブラームス像を描いてみせる。ケンペはやはり、誰かに似た指揮者でなく、独自の世界を開拓した名指揮者ではなかったのではなかろうか。

 ケンペは一般にはそう有名な指揮者とはいえないので、ざっとその経歴をWikipediaで見てみると・・・。ドレスデン音楽大学でオーボエを学び、ライプチヒ・ゲバントハウス管弦楽団のオーボエ奏者となる。1950年ドレスデン国立歌劇場の音楽監督、1952年バイエルン国立歌劇場の音楽監督を歴任。1954年渡米してニューヨーク・メトロポリタン歌劇場の指揮者の就任した。1960年ー1963年バイロイト音楽祭で「ニーベルングの指輪」を指揮する。以後、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、チューリッヒ・トーンハレ管弦楽団、ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団の各首席指揮者を務める。この経歴を見ると、なかなか玄人ごのみの実力指揮者であったことがうかがえるのだ。

 今回紹介したCDはブラームスの交響曲全集なのであるが、悲劇的序曲とハイドンの主題による変奏曲の2つの管弦楽曲が付録のように収められている。ところがこの付録の悲劇的序曲が交響曲をも凌ぐ超名演なのである。いつもはスロースターターのケンペも、この曲ばかりは、出だしからド迫力で、最後までこの緊張が持続する。ベルリンフィルもこのときばかりは、ケンペの迫力に押されっぱなし、といった感じの必死の演奏が盤面を通じて感じられる。ブラームスの悲劇的序曲を聴くならこのケンペ盤だと聴きながら私は思ったのである。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2009-01-28 09:32:55 | コンサート情報

 

              <コンサート情報>


シューベルト:第8番「未完成」
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番
       :交響曲第5番「運命」

指揮:マレク・ヤノフスキ
管弦楽:ベルリン放送交響楽団(RSB)

ピアノ:ラファウ・ブレハッチ

会場:サントリーホール(東京)

日時:09年2月9日(月) 午後7時

主催:ジャパン・アーツ

 指揮のマレク・ヤノフスキは、1939年ワルシャワに生まれ、その後ドイツへ移住。指揮はザバリッシュに師事した。ケルンなど主要歌劇場の首席指揮者や音楽監督として活躍。1984年には「アラベラ」を指揮してメトロポリタン・オペラにデビューする。02年秋からベルリン放送交響楽団の首席指揮者・音楽監督に就任した。管弦楽のベルリン放送交響楽団は、ドイツ初の放送オーケストラで、1923年にドイツ公共放送の最初の放送番組とともに始まった歴史を持つ。ピアノのラファウ・ブレハッチは1985年ポーランド生まれ。05年10月の第15回ショパン国際コンクールにおいて優勝し、マズルカ賞、ポロネーズ賞、コンチェルト賞の副賞をすべて受賞するという快挙を成し遂げた。08年夏にはザルツブルク音楽祭に初出演し、大成功を収めた。

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◇クラシック音楽◇クレメンス・クラウスのヨハン・シュトラウス2世名演集

2009-01-27 15:48:11 | 管弦楽曲

ヨハン・シュトラウス2世:喜歌劇「ジプシー男爵」序曲/ポルカ
                「狩り」/ワルツ「我が家で」/ピチカ
                ート・ポルカ/ポルカ「クラップヘンの
                森で」/ワルツ「春の声」/ポルカ「観
                光列車」/ワルツ「ウィーンの森の物
                語」/常動曲

指揮:クレメンス・クラウス

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

CD:キングレコード K35Y 1016

 毎年元旦は、ウィーンの楽友協会大ホールを会場に、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団がウィンナワルツやポルカなどを演奏する「ウィーン・フィル ニューイヤーコンサート」の実況をテレビで見ないと正月が来た気がしないと感じている方も多いいであろう。私もその一人。今年はダニエル・バレンボイムが指揮をしたわけだが、バレンボイムも随分歳をとったものだと眺めつつ、その指揮ぶりを十分堪能できた。この「ウィーンフィル ニューイヤーコンサート」を聴いている時だけは“今年こそ世界が平和で、いい年になる予感がする”とお屠蘇をいただきながら毎年思うわけであるが、そう甘い結果とならないのが現実である。この「ウィーンフィル ニューイヤーコンサート」を1939年に開始したのが、このCDの指揮者、ウィーン生まれのクレメンス・クラウス(1893年3月31日ー1954年5月16日)なのである。

 このCDの録音は1951年ー1953年と記録されており、クレメンス・クラウスの死の3-1年前と最晩年の録音である。音質自体は少々硬く、十全とはいえないが、鑑賞にそう大きな支障はない。演奏自体はいかにも颯爽とし、優美で、粋なウィーン気質が前面に出ており、さらに気品があるということで、とても今風の指揮者には真似できない、格調の高い仕上がりとなっている。私生児だったクラウスは、外交官であった祖父の下で育ったが、父親はハプスブルク家の人間ではないかという噂が絶えなかったそうである。この録音を聴いても、どことなく貴族の雰囲気が漂ってくるようで、この噂は本当かもしれないと思わせる。

 クレメンス・クラウスは、1929年にウィーン国立歌劇場の音楽監督に就任したが、翌年にはフルトヴェングラーの後任としてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任。さらに、ベルリン国立歌劇場の音楽監督、バイエルン国立歌劇場の音楽監督、ザルツブルク音楽祭総監督などを歴任し、戦前の楽団の大御所的存在であったわけである。戦後はナチスに協力したということで、一時活動を停止されたが、1947年には活動が解除された。こうみると何かカラヤンのたどった道に近いのかなと思わせる。ただ、カラヤンの録音が今でも愛聴されているのに比べ、録音の質にもよるのかクラウスの録音はあまり聴くチャンスに恵まれない。また、同時代のクナッパーツブッシュやシューリヒトへの関心が今でも高いのに対し、クレメンス・クラウスは何か過去の人として忘れ去られようとしている。この辺でクレメンス・クラウスの録音を掘り起こして、再評価するなどという企画は如何なものであろうか。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2009-01-26 14:52:52 | コンサート情報

 

              <コンサート情報>


モーツアルト:ピアノソナタ第8番
ラフマニノフ:前奏曲より
スクリャービン:ピアノソナタ第5番
ショパン:24の前奏曲

ピアノ:仲道郁代

会場:サントリーホール(東京)

日時:09年2月8日(日) 午後2時

主催:ジャパン・アーツ

 ピアノの仲道郁代は、現在の日本を代表するピアニストの一人。4歳からピアノをはじめ、桐朋学園大学1年在学中に第51回日本音楽コンクール第1位を受賞。以後多数の受賞を得る。1987年ヨーロッパと日本で本格的にデビューを果たす。97年から行った「ベートーベン・ピアノソナタ全曲演奏会」で高い評価を得る。現在、「ショパン鍵盤のミステリー」「モーツアルト・ピアノソナタ全曲演奏会」に取り組む。大阪音楽大学特任教授、財団法人地域創造理事。

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2009-01-23 09:44:13 | コンサート情報

 

              <コンサート情報>


モーツアルト:ロンド イ短調/ピアノソナタ第9番
ブラームス:6つの小品
ラヴェル:高雅で感傷的なワルツ/ラ・ヴァルス
フォーレ:舟歌第1番

ピアノ:ロマン・デシャルム

会場:彩の国さいたま芸術劇場

日時:09年2月7日(土) 午後2時

主催:埼玉県芸術文化振興財団

 ピアノのロマン・デシャルムは、1980年フランス・ナンシー生まれ。パリ国立高等音楽院のすべてのクラスでプルミエ・プリ(最優秀賞)を得て卒業。06年AXAダブリン国際ピアノコンクールで最優秀賞受賞。07年ヴラド・ペルルミュテールコンクール優勝。現在、ヨーロッパ、アメリカ、中国、日本でリサイタル、室内楽、オーケストラとの共演を行っている。テレビ・ラジオへの出演も多く、日本では06年NHK教育テレビ「スーパーピアノレッスン~フランス音楽の光彩~」に出演した。

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◇クラシック音楽◇ブーレーズのドビュッシー:管弦楽名曲集

2009-01-22 11:42:58 | 管弦楽曲

ドビュッシー:交響詩「海」/牧神の午後への前奏曲/遊戯/管
        弦楽のための「映像」/神聖な舞曲と世俗的な舞
        曲/夜想曲/交響組曲「春」/クラリネットと管弦
        楽のためのラプソディ第1番

指揮:ピエール・ブーレーズ

管弦楽:ニューフィルハーモニア管弦楽団/クリーブランド管弦楽団

CD:CBS/SONY 73DC 242-4

 日本人はクラシック音楽というと、まずドイツ・オーストリア系音楽を思い浮かべ、次にイタリアのオペラを考え、さらにチェコなどの東欧音楽、そしてフランス音楽が続くといった按配で、日頃フランス音楽とあまり付き合いが深いとはいえない。私もフランス音楽はあまり聴いてこなかったし、直ぐに何を思い出せるかと言われるとぐっと詰まってしまう。そして出てくるのがドビュッシーとラベルの名前だ。私はこれまでは、ドイツ・オーストリア系クラシックをさんざん聴いた後に、一時の気分直し的な感覚でフランス音楽を聴いてきた。ところが、それを根底から覆させられたのが、このブーレーズによるドビュッシーの管弦楽を収めたCDなのである。

 学生時代から、ラジオから流れてくるドビュッシーの「海」とか「牧神の午後への前奏曲」などは、何回聴いたか分からないほどであるが、それほど心酔したこともないし、モーツアルトとかベートーベンとかとは大分雰囲気が違っていることに戸惑いを感じつつ聴いてきたというのが実情であった。ところが、このブーレーズのドビュッシーの管弦楽のCDと出会ったことで、これまでのクラシック音楽に対する考え方が大きく変わってしまった。私にとってそれまでクラシック音楽というと、バッハなどの音楽を純粋に突き詰めていくバロック音楽、それにベートーベンやシューベルトなどにみられる人間としての愛とか憎しみとか怒りだとか喜びだとかの感情の表現、さらにはイタリアのオペラのような人生の機微を感じさせるドラマがすべてであった。ところがこのブーレーズのドビュッシーの管弦楽のCDは、これまでのクラシック音楽では得られない、自然の描写が克明に描かれ、あたかも印象派の絵画を見ているような感情に体全体がとらわれ、まったく新しいクラシック音楽像が私の前に忽然と現れたのである。

 ブーレーズの指揮ぶりは、精緻を極めるといった趣で自然の息吹が部屋いっぱいに広がり、例えようのない幸福感といおうか満足感で心が満たされる。よく考えてみると人間の感情は、人間と自然のかかわりと比べるとその次に位置づけられるものであろう。あくまで人間と自然の出会いがあり、その後に人間同士の葛藤が生まれてくるのである。ドビュッシーは何かそんなことがいいたくてこれらの傑作に位置づけられている管弦楽集を書いたのにちがいない。この考え方は我々日本人に近いものがある。日本人は万葉の時代から、自然と一体とした考え方を基本に据えてきた。逆に言うと論理的に詰めていくことに対しては一線を画してきたし、さらに人間としての感情をあまり露骨に表すことのない環境に身を置いてきた。そのことが、自分の欠けているものをドイツ・オーストリア系クラシック音楽に求めるという結果を、これまで及ぼしてきたといってもいいのではないか。

 ドビュッシーは今後クラシック音楽が発展を遂げるのに、絶対欠かせない作曲家であると思う。それまでのクラシック音楽の限界を超え、何か宇宙的な広がりを持つ可能性を我々に投げつけているとも思える。残念ながらその後の現代作曲家は、ドビュッシーの持つ健康で雄大なスケールを歪曲し、何か病的で小さな世界に閉じ込めてしまった。唯一ドビュッシーの世界を押し広げさせて見せたのが、世界でただ一人、わが武満徹だと私は考えている。武満の音楽は、クラシック音楽だけでなくジャズミュージシャンなどにも支持者が多く、大きな広がりを見せている。年を経るに従い武満の評価はさらに高まると私は確信している。そしてその原点にドビュッシーがいる。冬の夜長、暖かくしてドビュッシーの管弦楽曲の音楽に浸ってみませんか。素晴らしい世界が目の前に広がってきますよ。
(蔵 志津久)      

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2009-01-21 08:54:41 | コンサート情報

 

              <コンサート情報>


間宮芳生:弦楽四重奏曲第1番/第2番
ウェーベルン:弦楽四重奏曲(1905)/弦楽四重奏のための5つ
         の楽章/弦楽四重奏のための6つのパガテル/
         弦楽四重奏曲op.28

弦楽四重奏:クァルテット・エクセルシオ

会場:第一生命ホール(東京)

主催:クァルテット・エクセルシオ/NPOトリトン・アーツ・ネットワ
    ーク/第一生命ホール

 弦楽四重奏団のクァルテット・エクセルシオは、年間60公演をこなす、日本では数少ない常設の弦楽四重奏団。1994年桐朋学園大学在学中に結成。96年第1回東京室内楽コンクールにおいて第1位受賞。2000年パオロ・ボルチアーニ国際弦楽四重奏コンクールで最高位およびサルバトーレ・シャリーノ特別賞を受賞。07年ジェイズ・ミュージックより「QUARTET EXCELSIOR」をリリースした。

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◇クラシック音楽◇グールドの弾くベートーベン交響曲第5番ピアノ編曲版

2009-01-20 11:40:32 | 器楽曲(ピアノ)

ベートーベン:交響曲第5番「運命」(リスト編曲によるピアノ版)

ピアノ:グレン・グールド

CD:CBS/SONY RECORDS 28DC 5266

 リストはベートーベンの交響曲全曲をピアノ編曲している。私はこのことを知ったのはだいぶ前のことだが、そのときはそんなものもあるんだと、格別興味はなかった。交響曲をピアノ編曲するなんてゲテモノみたいな感じがして、とても聴く気にはならなかった。そんなある日レコード店の店頭で、あのグレン・グールドが録音したベートーベンの交響曲第5番のCDが目に入った。「へ~グールドが弾くんだ」というだけで買ったのがこのCDである。最初のうちは聴いてもそれほど面白いとは感じなかったが、最近になり、まったく聴いた印象が違ってきた。ベートーベンの交響曲第5番は、リストーグールドのピアノ版の方が迫力があり、曲想がよく掴めるのではないかと、私の従来の考えは180度変わってきてしまった。今や「ベートーベンの交響曲第5番はオーケストラ版がなくなっても、グールドの弾くピアノ版があればいい」とさえ考え始めている。ただ、私はグールド盤しか聴いていないので、他のピアニストの盤ではあまり自信がない。

 このCDの冒頭が凄まじい。まず、心臓の悪い方は聴かないほうがいい。これは冗談を言っているのではなく本当の話だ。禅寺の和尚からいきなり、後ろから肩をバシッと渇を入れられた感じがする。この出だしを聴いて何の感情湧き起こらない人は、正直なところ心が病んでいると言うほかない。普通の人はその迫力にたじろぐ。これはオーケストラ版の何倍もの迫力が感じられる。最近は癒しとかが主流で、人はむき出しの感情を押し殺すことに慣れきってしまっている。下手に感情をむき出しにするとせいぜいパワハラといわれるのが落ちだ。しかし、所詮人間は人間である。感情を目いっぱい出すことだって必要な場合もありうる。このCDの冒頭は、私にはベートーベンが「まだ人類はおろかな戦争に明け暮れているのか。何度言ったら分かるのだ。いい加減にしろ」と感情をむき出して叫んでいるように感じられる。そして天才グールドは、曲の最後までリスナーを引き付けずにはおけない名演奏を聴かせ、ベートーベンの感情を的確に代弁してみせている。

 このCDのもう一つの聴き所は、ピアノは打楽器だったんだということを教えてくれることだ。普通、ピアノを叩きつけて演奏すると長く聴いていられない。ところがグールドの才能は、最初から最後までピアノを打楽器のように叩きつけても、少しの不快感も与えず、むしろ今まであまり意識してこなかったピアノの新しい魅力を引き出してくれる。これは生演奏よりCD録音だからなし得たのかも知れない。ライナーノートで小林仁氏は「これを仮にコンサート・ホールでしたらとてもこれだけの音の幅の広さは期待できないが、レコードならばエコーをつけたりすることで、かなりすくわれており、演奏形態の一つの新しい形と言えるかもしれない」と、録音であることから実現できたということを指摘している。ここに現在のCDの存在意義の一つの形があるのではなかろうか。いずれにしろ、一度リストによるベートーベン交響曲のピアノ編曲版を聴いて見てください。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2009-01-19 13:13:03 | コンサート情報

 

              <コンサート情報>

~日本初演コンサート~
チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲「偉大な芸術家の思い出に」
ショスタコービッチ:交響曲第15番(室内楽版/デレヴィアンコ編)

バイオリン:コリア・ブラッハー
チェロ:イェンス・ペーター・マインツ
ピアノ/チェレスタ:ヴァシリー・ロバノフ
パーカッション:竹原美歌
パーカッション:ルードヴィッグ・ニルソン
パーカッション:マーカス・レオソン

会場:トッパンホール(東京)

日時:09年1月31日(土) 午後3時

主催:トッパンホール

 デレヴィアンコがショスタコーヴィッチの許可を得て編曲した交響曲第15番室内楽版は、作曲者自身も絶賛するできばえで、室内楽の傑作といわれている。この室内楽曲版は、ヨーロッパではしばしばコンサートのレパートリーにのぼる人気作品であるが、日本ではなぜかほとんど知られていない。今回、ヨーロッパの精鋭を集めて、日本初演を行う。

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