★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽◇コンサート情報

2010-10-28 10:46:44 | コンサート情報


                           
                   <コンサート情報>


レスピーギ:交響詩「ローマの松」「ローマの噴水」「ローマの祭」

指揮:フランソワ・ブーランジェ

吹奏楽:パリ・ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団

会場:横浜みなとみらいホール

日時:2010年10月30日(土) 午後2時

 指揮のフランソワ・ブーランジェは、1961年生まれ。パリ音楽院で学ぶ。打楽器奏者としてパリ(80)とジュネーブ(82年)の国際コンクールに入賞。85年、ブサンソン国際コンクール第3位。97年3月より、パリ・ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団の第10代楽長(首席指揮者)に指名された。

 パリ・ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団は、“世界の名門”として知られる吹奏楽団。起源は、1848年の創設された12人の金管楽器奏者によるファンファーレ隊。1867年、パリ万国博でのコンクールで1位となり、一躍その名が知られるようになる。1961年、初来日し、センセーションを巻き起こした。

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◇クラシック音楽CD◇ストルツマンの“ロマンティック・クラリネット曲集”

2010-10-28 09:33:58 | 室内楽曲

~ロマンティック・クラリネット~

シューマン:幻想小曲集Op.73

シューベルト:ソナチネD.385

シューマン:3つのロマンスOp.94

シューベルト:ソナチネD.384

クラリネット:リチャード・ストルツマン

ピアノ:リチャード・グッド

CD:BMGビクター R32‐1124

 私は、好きな楽器は?と問われれば「ピアノの次にクラリネットが好き」と答える。クラリネットの哀愁を含んだ音色が好きなのだ。何か落ち着いた感じがして、あまり露骨に感情が剥き出しにならない所に共感を覚えてしまうのだ。ピアノとかヴァイオリンは、表現力が豊かである反面、激しさも併せ持っている。これに対してクラリネットはというと、いくら激しく鳴らしても全体の印象そう激変はしない。豊穣という表現がぴったりとするような穏やかさが聴いていて心が和む。その昔、ウラッハというクラリネットの名人がいて、ウエストミンスターレーベルのレコードをする切れるくらい聴いた覚えがある。だから今だにクラリネットというとウラッハが耳から離れずにいる。今回、リチャード・ストルツマンが演奏するクラリネットの小品集を聴いて、ウラッハとは異なる響きを聴いて、クラリネットにまた新たなる興味が湧いてきた。

 リチャード・ストルツマンは、1942年生まれのアメリカのクラリネット奏者だ。オハイオ州立大学で数学と音楽を学んだ後、イェール音楽学校およびコロンビア大学の博士課程に在籍したというから相当のインテリではあるが、ソロのクラリネット奏者として自立できるかは別。ピアノやヴァイオリンならともかく、当時クラリネットのソロの奏者として生計を立てるのには相当の勇気がいったようだ。1967年から毎年マールボロ音楽祭に参加し、そこで知り合ったピーター・ゼルキンらとともに“タッシ”を結成する。ソリストとしては、1976年にモーツアルトの協奏曲でデビュー。今ではクラリネット奏者として第一人者に上り詰めている。ストルツマンはクラシック音楽だけでなく、父親ゆずりのジャズクラリネット奏者としても活躍している。このような例は、意外ににそう多くはない。ストルツマンのクラリネットの音色はちょっと他の奏者と違う印象を受けるのは、多分にこのことが影響をしているのに違いない。

 このCDでストルツマンが取り上げた4曲のうち、シューマンの幻想小曲集Op.73だけがクラリネット用に書かれたもので、後はクラリネット以外の楽器に書かれたもの。こんな選曲にもストルツマンの音楽に対する意欲的な姿勢が反映されているかのようだ。クラシック音楽だけのクラリネット奏者ならブラームスとかモーツアルトのクラリネットに書かれた曲を選択するかもしれないが、ストルツマンは、クラリネットの可能性を求め、ジャズとの両立を果たしたように、クラシック音楽の中でも、クラリネットという楽器の新たな境地の開拓を目指しているかのようだ。

 シューマンの幻想小曲集Op.73は、チェロ版でも親しまれている。ここでストルツマンは、シューマンのロマンの世界を自由に飛び回るように、鮮やかな演奏を披露してみせる。けっしてシューマンのロマンの世界にのめり込むのではなく、あくまで明るく陽気なクラリネット演奏だ。シューベルトのソナチネD.385は、ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ第2番として知られている曲で、聴き慣れたメロディーがクラリネットから聴こえてくる面白さが味わえる。ここでもストルツマンのクラリネットは明るく、陽気に、そして同時に優雅さも備えた音色で聴くものを魅了する。シューマンの3つのロマンスOp.94は、原曲がピアノ伴奏によるオーボエのための3つのロマンスで、オーボエの代わりにクラリネット、ヴァイオリンも可と書かれているそうだ。また、シューベルトのソナチネD.384の原曲は、ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ第1番。いずれの曲の演奏でもストルツマンの確かなクラリネット演奏の技法の冴えが光る。それとリチャード・グッド(1973年のクララ・ハスキル・コンクール優勝者)のピアノ伴奏もいい。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2010-10-27 13:39:43 | コンサート情報


             
                   <コンサート情報>


ドビュッシー:2つのアラベスク/バラード

ショパン:ピアノソナタ第2番「葬送」

ショパン:夜想曲第8番/バラード第3番/12の練習曲より第1番、第8番、第12番

ピアノ:今川裕代

会場:サントリーホール

日時:2010年11月3日(水) 午後2時

 ピアノの今川裕代は、福井県出身。シュトゥットガルト国立音楽大学およびザルツブルク・ モーツアルテウム国立音楽大学修士課程首席卒業。第25 回サレルノ国際ピアノコンクール第1位併せて最優秀ドビュッシー演奏賞受賞。第10 回シューベルト国際ピアノコンクール第2位、第9 回ブラームス国際音楽コンクール第2位、第1回アントン.ルービンシュタイン国際ピアノコンクール第3位に入賞。2002年、オーストリア政府よりヴュルディグング賞を受賞。日本においては、地方公共ホールでのソロ・リサイタルも数多く行い、公共ホールの全国制覇も大きな目標にしている。

 

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◇クラシック音楽CD◇ヒラリー・ハーンのブラームス/ストラヴィンスキー:ヴァイオリン協奏曲

2010-10-26 13:13:49 | 協奏曲(ヴァイオリン)

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲

ストラヴィンスキー:ヴァイオリン協奏曲

ヴァイオリン:ヒラリー・ハーン

指揮:ネヴィル・マリナー

管弦楽:アカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズ

CD:Sony BMG Music Entertainment SICC 1052

 ブラームスのヴァイオリン協奏曲ほど数多くのヴァイオリンにストにより演奏、録音されているヴァイオリン協奏曲はないと言ってもいいだろう。このことは、人気のヴァイオリン協奏曲であることの確かな証拠になる。程よく響き渡る哀愁のあるメロディー、ヴァイオリンの持ち味を最大限に発揮する技巧が求められ、弾く側にもやりがいがあろうし、聴く側にもとっても山あり、谷ありの起伏に富んだ曲調は面白く、共感を持って聴くことができる。それにオーケストラのパートが、まるで交響曲を聴くような厚みのあるものとなっていることが、この協奏曲を一層深みのある、重厚な曲に昇華させている。そんなヴァイオリン協奏曲だけに、耳の肥えたリスナーを満足させるには、ヴァイオリニスト、指揮者、オーケストラともに相当な覚悟が求められる。

 さて、このヒラリー・ハーンとネヴィル・マリナーのコンビによるブラームスのヴァイオリン協奏曲の出来は一体どうなのか。正に興味津々。第1楽章を聴いてみることにしよう。マリナーとアカデミーが演奏するオーケストラだけの出だしの部分だけ聴いても、その羽毛のように柔らかく、包容力のある音色に思わず引き込まれる。決してマリナーは、こけおどしに威嚇的になることはしない。あくまで紳士的なのだ。そしてゆっくりとヒラリー・ハーンのヴァイオリンの登場となる。音は限りなく透明感があり、しかも幻想的と言ってもいいほど柔らか味に満ち満ちていることよ。特に高音になれば成る程、その音色は冴え渡る。成る程、ヒラリー・ハーンが現在注目されている理由の一端を窺い知れる。その繊細さといったら、表現に困るほど。何か精巧なガラス細工の工芸品を見ているようにも感じられる。昔オードリー・ヘップバーンが世界中で日本人が一番愛した女優と言われたように、ヒラリー・ハーンは、その繊細な佇まいから特に日本人に愛されるヴァイオリニストと言えるのではなかろうか?

 ブラームスのヴァイオリン協奏曲の第1楽章は、優美にゆっくりと透明感を漂わせながら演奏される。普通、ブラームスのヴァイオリン協奏曲の第1楽章は、力強く堂々と時にはカウンターパンチを効かせながら演奏されるのが普通。ハーンとマリナーはこの逆を行って成功した珍しい事例に私には聴こえた。第2楽章は、ハーンとマリナーのコンビにつくられたような楽章である。それだけに伸び伸びと思いっきり優雅に曲が進む。晦渋なブラームスの曲であることを一瞬忘れてしまうようにも感じる。何かシューマンかメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を聴いているようだ。演奏芸術の凄さを感じる程。第3楽章は、軽やかに、何か軽快な足取りでスキップをしながら小走りをしているようだ。ここでもブラームス特有な晦渋さは姿を消して、ブラームスが明るく微笑んでいるかのようだ。「ヒラリー・ハーンによって新しいブラームスのヴァイオリン協奏曲像が誕生した」というのが私の結論である。

 ストラヴィンスキーのヴァイオリン協奏曲は、私はこれまであまり聴いたことがなかったので、これを機会によく聴いてみることにした。ストラヴィンスキーの作品は、よく原始時代、古典時代、それに12音階時代の3つの分類されるが、これは古典時代の曲。それだけに、聴きやすく、直ぐ覚えられそうなメロディーが次々に登場して飽きさせない。しかし、それはそれストラヴィンスキーのこと、一筋縄では行かない。裏には現代音楽風な感じが時々頭をもたげる。ハーンはそんな現代音楽風古典曲ともいえるこの“不思議な曲”を明快に弾き語ってみせる。その技量は相当なものであることが分る。ヒラリー・ハーンは、1979年生まれのアメリカ出身のヴァイオリニスト。10歳でフィラデルフィアのカーティス音楽学校に入学。1995年にロリン・マゼール指揮のバイエルン放送交響楽団と協演し国際デビューを果たす。2001年、今回紹介したCDの録音により、2003年のグラミー賞を受賞。さらに同年12月の日本でリサイタル・デビューを飾り、聴衆を魅了した。現在、世界で最も注目されているヴァイオリニストの一人である。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2010-10-25 13:41:40 | コンサート情報

<コンサート情報>


~クラリネット&ハープをめぐるフランスの精彩~

ダマーズ:クラリネットとハープのためのソナタ

フランセ:クラリネット五重奏曲

サン=サーンス:クラリネット・ソナタ

ラヴェル:序奏とアレグロ  他

会場:JTアートホール

日時:2010年11月2日(火)  午後7時

ハープ:吉野直子

クラリネット:亀井良信 他

 ハープの吉野直子は、1967年、ロンドンで生まれる。米国で6歳からハープを学び始める。1981年、第1回ローマ国際ハープ・コンクールで第2位。1985年、第9回イスラエル国際ハープ・コンクールで参加者中最年少の17歳で優勝。同年、アリオン賞受賞。1987年、村松賞受賞。1988年、芸術祭賞受賞。1989年、モービル音楽賞奨励賞。1991年、芸術選奨新人賞受賞。

 クラリネットの亀井良信は、桐朋女子高等学校音楽科(男女共学)卒業後、渡仏。ポール・デュカ音楽院、オーベルヴィリエ・ラ・クールヌーヴ地方国立音楽院をそれぞれ1位で卒業する。1997年、トゥーロン国際コンクール(クラリネット部門)スペディダム賞を受賞。2003年、日本木管コンクール1位及びコスモス賞受賞、第16回出光音楽賞受賞。2005年度「アリオン賞」受賞。2009年度名古屋音楽ペンクラブ賞受賞。現在、東京音楽大学講師。 

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2010-10-22 14:03:23 | コンサート情報


                            
                          <コンサート情報>


モーツアルト:ヴァイオリンソナタ第30番
シューベルト:ヴァイオリンソナタOp.162
ヴィターリ:シャコンヌ
コルンゴルト:おとぎ話の絵~幻想奇想曲/歌劇「死の都」~ピエロの踊り歌
エルンスト:ロッシーニの歌劇「オテロ」の主題による幻想曲

ヴァイオリン:吉田恭子

ピアノ:白石光隆

会場:紀尾井ホール

日時:2010年11月1日(月) 午後7時

 ヴァイオリンの吉田恭子は、1974年生まれ、東京都出身。桐朋学園大学音楽学部を卒業後、英国ギルドホール音楽大学院、米国マンハッタン音楽院に留学。以後、ニューヨークを拠点に多岐にわたる演奏活動を行い、数々の賞を受賞。雑誌や新聞、テレビやラジオなどの出演が多い。2003年から地域社会活性化と福祉の精神を目的に、全国の小中学校等をクラシックの世界へ道案内する巡回教育プログラム「ふれあいコンサート」シリーズをスタートさせ、これまでに約300公演、7万人以上が参加している。積極的な活動と功績が認められ、平成20年度「関西経済と心の会・奨励賞」を受賞。

 ピアノの白石光隆は、1989年東京藝術大学卒業後、ジュリアード音楽院に進む。1991年、ジーナ・バッカウアー国際奨励金コンクール入賞。1992年、学内におけるコンチェルト・コンペティションで優勝。帰国後、1994年、第63回日本音楽コンクール声楽部門において優れた日本歌曲の演奏に贈られる木下賞(共演)受賞。2007年2月にリリースした「成田為三ピアノ曲全集」で平成19年度(第62回)文化庁芸術祭レコード部門優秀賞を受賞。

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◇クラシック音楽CD◇ミッシャ・エルマンのヴァイオリン名曲集

2010-10-21 11:27:21 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

                                       

~ホーム・コンサート ヴァイオリン名曲集~

マスネー:タイスの瞑想曲
アレンスキー:セレナーデ
シューマン:トロイメライ(フルヴェック編)
ドリーゴ:花火のワルツ(アウワー編)
サラサーテ:チゴイネルワイゼン
シューベルト:アベ・マリア(ウイルヘルミ編)
ドヴォルザーク:ユモレスク(ウイルヘルミ編)
ゴゼック:ガボット(エルマン編)
ショパン:夜想曲変ホ長調(サラサーテ編)
ベートーヴェン:ト調のメロディ(ブルメスター編)
チャイコフスキー:メロディ
クライスラー:愛の喜び
ドヴォルザーク:スラブ舞曲第2番ホ短調(クライスラー編)
クライスラー:美しいロスマリン
クライスラー:ジプシーの女
クライスラー:ベートーヴェンの主題によるロンディーノ
クライスラー:ウィーン奇想曲
ドヴォルザーク:スラブ舞曲第2番ト短調(クライスラー編)
ドヴォルザーク:スラヴ幻想曲(クライスラー編)

ヴァオリン:ミッシャ・エルマン

ピアノ:ジョセフ・セイガー

CD:フラミンゴ・レコード・サプライ EGR0006

 クラシック音楽のリスナーの醍醐味は、交響曲や協奏曲、オペラ、管弦楽曲など大規模な楽曲を聴くことだけでなく、愛らしい小品をバックグラウンドミュージックを聴くように楽しむことにもある。もともと私がクラシック音楽を聴き始めたのは、今回のCDに収録されているような曲がAMラジオ(まだFMラジオは放送開始になっていなかった!)から聴こえるのを無意識の内に聴いたのが始まりである。まだ、ベートーヴェンの交響曲など一曲も通して聴いたことがなかった頃でも、このCDににある、例えばマスネーのタイスの瞑想曲やドヴォルザークのユモレスクなどをよく聴いていた。確か、授業が終わって帰宅する時に決まってドヴォルザークのユモレスクが流されるので、今でもこの曲が流れると、当時の帰宅途中にあった田園風景(単なる畑ではあるが)が目の前に展開する。当時は、今の日本からは想像できないくらい環境は貧しかったが、大人から子供まで「今に見ておれ、いつかはアメリカに追いつき、追い越してやる」といったような全国民に共通した暗黙の目標みたいなものがあり、貧しかったが充実した日々であったように思う。

 今、考えてみると当時の日本の夢の多くが現在実現され、当時と比べると信じられないほど豊かな環境にあることに初めて気づく。こういうと「とんでもない。今だって大変だよ」と言うかもしれない。しかし、大変さのレベルが違うのである。今、職を探すのには車と携帯電話は必需品だそうであるが、昔は車も個人には普及していなかったし、電話は一家に1台が当たり前であった。そうなると、秘密の電話を掛けようにも掛けられない。家人に全て筒抜けになる。クラシック音楽の環境も激変している。先日、東京オペラハウスで行われたスロヴァキア放送交響楽団のコンサートに行ってきたが、指揮者のマリオ・コシック(私はこの指揮者の名前はこれまで知らなかった)の下、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲(ヴァイオリンは前橋汀子―実は私は前橋汀子を聴きに行ったのだが・・・)とドヴォルザークの「新世界」を演奏したが、これがまた凄い名演であった。さすが弦の国スロヴァキアのオーケストラといったところだ。昔なら日本でこんな凄い演奏をしたら大きな話題となること請け合いであるが、今の日本では連日、世界中から超一流の演奏家やオーケストラが来ているので、残念ながら話題にもならない。

 話が逸れた。今回のCDで演奏しているのは、“エルマントーン”で当時一世を風靡したウクライナ出身のヴァイオリニストのミッシャ・エルマン(1891年―1967年)である。“エルマントーン”とは一体何か?一言でいうと「甘いヴィブラートと官能的なポルタメント」が特徴とでも言ったらよいのであろうか。常に音程が揺れ流れており、曲全体が甘く、官能的に聴こえてくるのである。ここまで徹底して自己のヴァイオリンの音色を主張し続けたヴァイオリニストも珍しいのではないかと思えるほどだ。ちょっと鼻に掛かったようでもあり、ジプシーの音楽を聴いているような感覚にも陥る。多分、今こんなヴァイオリンの奏法したらたちどころに先生に矯正されるに決まっているし、リサイタルを開いたら、古い弾き方だと非難轟々となり、そのヴァイオリニストの将来はお先真っ暗になるのは目に見えている。ミッシャ・エルマンが生きていた時代はまだおおらかな空気が流れ、充分にその存在価値を主張できたのではないであろうか。でも、今また、ミッシャ・エルマンみたいなヴァイオリニストが登場してくれないかな、と私は密に思っている。

 そんな、ミッシャ・エルマンだからこそヴァイオリンの小品の演奏にはぴったりだ。やはり、ミッシャ・エルマンはベートーヴェンやブラームスのヴァイオリン協奏曲を弾くより、小粋で愛らしいヴァイオリンの小品を弾いている方がしっくりと似合う。このCDに収められた小品はいずれ劣らないヴァイオリンの名作であり名演だが、やはり第1曲に収められたマスネーの「タイスの瞑想曲」がいい。胸を締め付けられるようなメロディーを聴いていると、何か天上の世界にいるような感じがして堪らない。それにドヴォルザークの「ユモレスク」も秀逸な出来栄え。ピアノのジョセフ・セイガーとのコンビも完璧で十二分に「ユモレスク」の世界に浸れる。「愛の喜び」や「美しいロスマリン」などクライスラーの一連の小品達は、これぞミッシャ・エルマンの十八番といった感じで、明るく、楽しく弾いている。何かミッシャ・エルマンが、踊りながら弾いている感じが目に浮かんでくるようだ。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2010-10-20 13:25:07 | コンサート情報

                          <コンサート情報>


~徳永二男の挑戦~10年間・10回リサイタルシリーズ/第3回

モーツァルト:ヴァイオリンソナタK.378
ベートヴェン:ヴァイオリンソナタ第1番
イザイ:無伴奏ヴァイオリンソナタ第3番「バラード」
シューマン:ヴァイオリンソナタ第1番
シューマン:ヴァイオリンソナタ第2番

ヴァイオリン:徳永二男

ピアノ:伊藤 恵

会場:紀尾井ホール

日時:2010年10月29日(金) 午後7時

 ヴァイオリンの徳永二男は、1946年生まれ。神奈川県出身。父茂および鷲見三郎に師事。桐朋学園特別高等科入学。1966年、当時日本楽壇史上最年少のコンサートマスターとして東京交響楽団に入団。1968年、文化庁在外派遣研修生としてベルリンへ留学。1976年、NHK交響楽団のコンサートマスターに就任。その後、首席第一コンサートマスターを経て、ソロ・コンサートマスターに就任。長年NHK交響楽団の“顔”として抜群の知名度と人気を誇った。1994年、NHK交響楽団を退団し、ソロ、室内楽に専念。1995年からJTアートホール室内楽シリーズの音楽監督、1996年から宮崎国際音楽祭総合プロジューサーを務めている。国立音楽大学教授、桐朋学園大学特任教授、洗足学園大学客員教授。

 ピアノの伊藤恵は、1959年生まれ。名古屋市出身。桐朋女子高等学校を卒業後、ザルツブルク・モーツァルテウム音楽大学、ハノーファー音楽大学で学ぶ。1983年、ミュンヘン国際音楽コンクール・ピアノ部門で日本人として初の優勝を飾る。2008年からの新たな8年シリーズでは、シューベルトを中心としたリサイタルを開催。1993年日本ショパン協会賞、1994年横浜市文化賞奨励賞を受賞。2003年より東京藝術大学准教授。

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◇クラシック音楽CD◇クリュイタンス&パリ音楽院管弦楽団のベートーヴェン:交響曲第7番

2010-10-19 13:21:41 | 交響曲(ベートーヴェン)

                          
ベートーヴェン:交響曲第7番

ハイドン:交響曲第96番「奇跡」

指揮:アンドレ・クリュイタンス

管弦楽:パリ音楽院管弦楽団(ベートーヴェン)
     ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(ハイドン)

CD:DISQUES REFRAIN DR‐920042

 今回のCDは、ベルギー出身の名指揮者であったアンドレ・クリュイタンス(1905年―1967年)のライブ録音盤である。ベートーヴェンの交響曲第7番(1957年録音)は手兵のパリ音楽院管弦楽団(現パリ管弦楽団)、ハイドンの交響曲第96番「奇跡」(録音年不詳)はベルリン・フィルとの共演。2曲とも音質は悪くない。ベートーヴェンの交響曲第7番などは、今から53年前のライブ録音とは思えないほど録音状態はいい。アンドレ・クリュイタンスは、ベルギー出身といってもフランスのラテン系音楽を代表する指揮者と知られるが、ドイツ・オーストリア系音楽にも通じており、ベートーヴェンをはじめとしたドイツ音楽でも優れた録音残している。1927年にベルギー王立歌劇場第一指揮者就任後、1944年パリオペラ座指揮者、そして、1949年にはミュンシュの後任としてパリ音楽院管弦楽団の首席指揮者に就任。以後、このコンビはクリュイタンスの死まで続き、その間、名演を重ね歴史に名を残すことになる。このコンビは1964年、クリュイタンス59歳の時に来日しており、当時の日本人に彼我の差を見せ付けたことが今も語り草となっているほど。

 パリ音楽院管弦楽団について少々話を続ける。1938年~1946年の間、パリ音楽院管弦楽団の首席指揮者であったシャルル・ミュンシュの後を、アンドレ・クリュイタンスが継ぐことになり、その後1960年まで首席指揮者の地位にあったのであるが、1960年以後はどうなったかというと、首席指揮者不在のまま、実質的にアンドレ・クリュイタンスがその任にあったという不安定な状態が続く。このことが7年後のパリ音楽院管弦楽団解散という流れに繋がってしまうのだ。真相はよく知らないが、クリュイタンスの辞任後、クリュイタンスに比肩できる指揮者が見つからず、ただ、時間ばかりが過ぎ去ったのではなかろうか。この間、パリ音楽院管弦楽団の実力は徐々に低下していき、これを見てフランス文化省の大臣アンドレ・マルローが激怒し、パリ音楽院管弦楽団を発展的に解消し、現在のパリ管弦楽団を1967年に設立した。初代の首席指揮者には、かつてパリ音楽院管弦楽団の首席指揮者であったシャルル・ミュンシュが就任。この時、新発足したパリ管弦楽団の記念すべき第1回演奏会の模様を録音したCDが最近発売され、このブログでも既に紹介した。

 このCDでのベートーヴェンの交響曲第7番を指揮するクリュイタンスは、ベートーヴェンの雄大なシンフォニーを明快に、しかも力強く描ききっており、充実した演奏内容に十分に満足させられる。第1楽章の出だしからして、重厚極まりない響きに思わず引き込まれ、さらにゆっくりと曲の細部まで目を行き届かせながら進み、雄大な曲の構成を大きく再現させる。第2楽章は心の奥から響いてきそうな重々しいメロディーが胸を打つ。しかし、ここで力強さを少しも失わないのが、ベートーヴェンらしいところであり、次の楽章での爆発に繋がる一時の安らぎとでも言ったらいいのであろうか。第3楽章は、ベートーヴェンらしい戦いの楽章だ。クリュイタンスとパリ音楽院とが一体となり、壮大なオーケストラが戦い詩を高らかに歌う。第4楽章は、指揮者とオーケストラと一体となった最期の勝利の雄叫びを響かせる。全体がきりっと引き締まり、地底から鳴り渡るような力強さに、ただただ聴き惚れてしまう。最期は壮烈な拍手とブラボーで終わる。

 ベルリン・フィルとのハイドンの交響曲第96番「奇跡」でも、クリュイタンスの棒は冴えわたる。ハイドンの交響曲というと何となく古めかしい印象がするが、クリュイタンスは、細部に充分な目を行き届かせると同時に、曲全体はすっきりと、現代人が聴いても納得がいく、比較的早いスピードで進める。このため、曲のたるみみたいものが全て払拭され、何とも軽快ですっきりしたハイドン像が現れてくる。ベルリン・フィルとクリュイタンスの一体化が特に目立つ演奏といってもいいかも知れない。こうやって聴くとクリュイタンスほどフランス音楽とドイツ音楽の両方に長じ、それぞれの分野で優れた録音を残した指揮者も珍しいのではないかと思う。このCDはドイツ・オーストリア系の音楽だが、クリュイタンスはもともとドビュッシーやラヴェルなどフランス音楽を得意としており、数多くの優れた録音を残している。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2010-10-18 09:25:52 | コンサート情報


                       <コンサート情報>


~ホセ・カレーラス テノール・リサイタル「ロマンス」~

マルティーニ:愛の喜びは
デンツァ:愛してくれたら、他

テノール:ホセ・カレーラス

ピアノ:ロレンツォ・バヴァーイ

会場:サントリーホール

日時:2010年11月23日(火/祝) 午後6時

 テノールのホセ・カレーラスは、1946年スペインのバルセロナにうまれる。1958年に子役としてリセウ大劇場でデビューを飾る。リセウ音楽院で学び、プロとしては、1970年にリセウ大劇場で「ナブッコ」と「ルクレツィア・ボルジア」に出演。以後、異例の若さで世界有数の劇場や音楽祭にデビューを果たした。オペラのレパートリーは60作品以上に及ぶ。また、リサイタル活動にも意欲的で、レパートリーはバロックから現代音楽まで600曲以上。プラシド・ドミンゴ、ルチアーノ・パヴァロティと共演した「三大テノール」のイベントでは、全世界20億人以上の観客を魅了した。1988年以来、「ホセ・カレーラス国際白血病財団」(米国、スイス、ドイツに支部)の活動をライフワークとしている。

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