★ 私のクラシック音楽館 (MCM) ★ 蔵 志津久

クラシック音楽研究者 蔵 志津久によるCD/DVDの名曲・名盤の紹介および最新コンサート情報/新刊書のブログ

◇クラシック音楽◇コンサート情報

2010-07-30 09:24:19 | コンサート情報

 

                 <コンサート情報>


東京で初開催の「ウィーン音楽フィルムフェスティバル」

上映演目:モーツァルト生誕250周年祝祭コンサート2006 (13日)
       ウィーン国立歌劇場再建50周年記念ガラコンサート2005 (14日)
       ウィーン・フィル ニューイヤーコンサート2002 (15日)

会場:恵比寿ガーデンプレイス センター広場

日時:2010年8月13日(金)~15日(日)<3日間>
    午後7時―9時(予定)/オープニング・セレモニー(13日)午後6時45―午後7時(予定) 
      (荒天時、中止の場合あり。中止の場合、振替上映は行わない)

料金:入場無料(飲食は有料)
  
 クラシック音楽やオペラを市庁舎前のスクリーンで上映する、世界最大の音楽フィルムフェスティバルはウィーンの夏の風物詩。 1991年より始まり、現在では1シーズンに全世界から64万人もの観客を動員する一大イベント。そのウィーン音楽フィルムフェスティバルがアジアで初めて東京にやってくる。場所は、恵比寿ガーデンプレイスのセンター広場。特設のスクリーンを設け、日没とともに、小澤征爾氏が指揮を執った「ウィーン・フィル ニューイヤーコンサート2002」などのオーケストラ・コンサートやオペラ・アリアのフィルムが上映される。会場には約150席を設置し、音楽の都「ウィーン」一色に染め、ウィーンにちなんだ屋台も出店。ウィーン風の軽食、お菓子やオーストリアビール・ワインを販売、またウィーン・オーストリアならではの音楽関連グッズ等雑貨の販売も予定されている。

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◇クラシック音楽CD◇ミンツのクライスラー:ヴァイオリン小品集

2010-07-29 09:24:17 | 室内楽曲(ヴァイオリン)

 フリッツ・クライスラー:
道化役者/ジプシーの女/タンゴ/ベートーヴェンの主題によるロンディーノ/ウィーン奇想曲/ラルゲット/ジプシー奇想曲/カプリース 変ホ長調/愛の悲しみ/中国の太鼓/ スラヴ舞曲 第2番 /レチタティーヴォとスケルツォ・カプリース/スペインのセレナーデ/スペイン舞曲/才たけた貴婦人/シンコペーション/愛の喜び

ヴァイオリン:シュロモ・ミンツ

ピアノ:クリフォード・ベンソン

CD:ドイツ・グラモフォン UCCG-5082

 フリッツ・クライスラー(1875年ー1926年)の作曲・編曲したヴァイオリン小品集は、すべて珠玉のような作品であり、もしこれらの愛らしいヴァイオリン曲が存在していなかったら、ヴァイオリンの世界は今より随分とかたっくるしい世界になっていただろう。それはコンサートの終わりに、ヴァイオリニストがアンコールに応えて、クライスラーの小品―例えばウィーン奇想曲とでもしようか―を演奏したと思い浮かべてみよう。もうコンサート会場は一挙に盛り上がり、演奏者と聴衆との心が一体となり、互いに幸福感に包まれること請け合いだ。クライスラーは、優れたヴァイオリニストとして名演奏を今に残しており、それらを聴くと、全てロマンの香りに包まれた格調の高い演奏であり、ヴァイオリンの本来持っている柔軟な息づかいがリスナーに直接伝わってくる。そんなクライスラーの演奏の特質を曲にしたのが一連のヴァイオリン小品集といえよう。

 こんな素敵なクライスラーのヴァイオリン小品集を1枚のCDに収めてあるのが今回のCDで、シュロモ・ミンツのヴァイオリン、クリフォード・ベンソンのピアノによる、それはそれは愛らしい演奏を聴くことができる。意外なことであるが、今、クライスラーのヴァイオリン小品集を1枚に収めたCDは、残念ながらそんなに多くはない。理由はよく分らないが、演奏する方も、リスナーの方も、CD制作会社も、クライスラーのヴァイオリン小品集は大曲の陰に隠れた作品といった認識しかないのではないか、と勘ぐってしまう。もし、そうだとしたらとんでもない思い違いだ。大著の小説だけが偉大な存在で、詩や俳句がそれらの陰に隠れた存在だ、と誰かがもし言ったとしたら笑いものになるだけだ。ベートーヴェンやブラームスのヴァイオリン協奏曲などは無論偉大な作品ではあるが、クライスラーのヴァイオリン小品集は、それらの作品と両立しうる作品なのだ。

 このCDに収められたクライスラーのヴァイオリン小品集は、いずれも極上の味がする作品ばかりであるが、私としては、どうしても気になってしょうがない曲がいくつかある。例えば、「愛の悲しみ」「愛の喜び」はどうしても避けては通れない。「愛の悲しみ」はウィンナーワルツの前身である3拍子の舞曲のレントラーの調べによったもの。レントラーはよくシューベルトが作曲していましたっけね。「愛の悲しみ」の出だしを聴いただけで、何かもう夢の中にいる心地がして、自然に体が揺れてくる。なんと切ないメロディーなんでしょうかね。これに対する姉妹曲の「愛の喜び」は、ウィーンの明るく伸びやかな古謡を主題にしたワルツ。感じもがらりと変わって元気いっぱい人生を謳歌するような明るさがなんとも爽やかだ。思わず歌いだしたくなる雰囲気が何ともいい。次に挙げたいのが「ベートーヴェンの主題によるロンディーノ」である。この曲を聴くと私がクラシック音楽リスナーのビギナーだった頃のことを思い出す。とても親しみやすいメロディーなのでビギナーが聴くのにぴったりなのだ。当時私は「さすがクライスラーだけあってベートーヴェンの隠れた名曲を見つけ出した」と思っていたら・・・どうもクライスラーが茶目っ気で、自作の主題をベートーヴェンの名で発表し、皆を煙に巻いたというのが真相らしい。

 このCDで名演を聴かせているのがモスクワうまれのイスラエルのヴァイオリニストのシュロモ・ミンツ(1957年生まれ)である。ジュリアード音楽院に入学し、16歳でカーネギーホールでデビューコンサートを行う。以後、大きなコンクールの入賞経験なしに現在まで、世界の楽壇での地位を揺ぎないものにしている。大きなコンクールの入賞経験なしで一流のヴァイオリニストの地位を得ているところは、デュメイに似ていよう。このCDでのミンツのクライスラーのヴァイオリン小品集の演奏は、誠にもって艶やかな演奏で、ヴァイオリンの音そのものにあたかも色彩が付いたかのような錯覚に捉われるほどだ。高音は透き通るように滑らかに奏でられる。演奏自体の安定感はこの上ない。そして何より嬉しいのがクライスラーの演奏に欠かせない豊穣な詩情をたっぷりと含ませているところである。今、数少ないクライスラーのヴァイオリン小品集のCDで推薦したいのは?と訊かれれば、私はミンツのこのCDを挙げたい。現在のミンツはヴァイオリンの教育者としての名声も得ているようだ。確か、庄司沙矢香の先生でもあったと思う。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2010-07-28 09:25:09 | コンサート情報

 

                  <コンサート情報>

 

東京オペラシティ ショパンシリーズ 第3回~若き晩年 天国への扉の前で~

ショパン:幻想曲/2つのノクターン/バラード第4番/ポロネーズ第6番「英雄」/
     ポロネーズ第7番「幻想」/子守歌/舟歌/即興曲第3番/スケルツォ
     第4番/3つのマズルカ/ピアノソナタ第3番

ピアノ:横山幸雄

会場:東京オペラシティ コンサートホール

日時:2010年9月5日(日) 午後2時

 ピアノの横山幸雄は、1971年生まれ。東京都三鷹市出身。1987年、 東京芸術大学音楽学部附属音楽高等学校在学中にパリ国立高等音楽院にフランス政府給費留学生として留学。1989年、第41回ブゾーニ国際ピアノコンクール第5位。1989年、ロン=ティボー国際コンクールピアノ部門第3位。1990年、パリ国立高等音楽院卒業。1990年、第12回ショパン国際ピアノコンクールにて第3位およびソナタ賞を受賞。2003年、上野学園大学教授、エリザベト音楽大学客員教授に就任。近年は作曲も手がけるほか、FM放送のパーソナリティを務めたり、東京と京都にレストランをオープンさせるなど、活動は多岐にわたっている。 

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◇クラシック音楽CD◇コーラスグループFORESTA(フォレスタ)男声作品集「凛」

2010-07-27 09:23:01 | 合唱曲

「凛」~歌い継ぐ日本のこころ FORESTA(フォレスタ)男声作品集~

 1.箱根八里
 2.城ヶ島の雨
 3.琵琶湖周航の歌
 4.北上夜曲
 5.若者たち
 6.銀色の道
 7.風
 8.戦争を知らない子供たち
 9.黒い瞳の
 10.ヴォルガの舟歌
 11.ともしび
 12.麦と兵隊
 13.加藤隼戦闘隊
 14.戦友
 15.竹田の子守唄 

合唱:FORESTA(フォレスタ)男声(大野 隆/横山慎吾/榛葉樹人/澤田 薫/
                     今井俊輔/川村章仁/河村洋平)

ピアノ:南雲 彩/吉野 翠/江頭美保

CD:BS日テレ

 毎週月曜日夜10時からBS日テレで放送される、全員音大出の若手混声コーラスグループ「FORESTA(フォレスタ)」出演の1時間番組「BS日本・こころの歌」に、私は文字通り釘付け状態になってしまう。それは我々の年代が生きてきた、戦後の時代が生み出した名曲の数々が、若い「フォレスタ」のメンバーの実に美しく、生き生きとした歌唱力で、あたかも新しく作曲された曲のごとく再現されているからである。つまり、単なる懐メロとは次元を異にした、現代にも通用する感覚で歌われており、少しも古臭くないところがとってもいい。「フォレスタ」が歌う曲の多くは、童謡とも違うし、歌謡曲とも違う。また、演歌とも違う。今の時代の音楽ジャンルであるJ-POPとも違う。ピタリとした表現はなかなか難しい。やはり、「こころの歌」あるいは「青春の歌」というのが一番近いのかもしれない。そして、テレビの舞台のデザインが、透明感溢れるシンプルなことが「フォレスタ」の歌声を一層引き立てている。

 「フォレスタ」は、これまでDVDとともにCDの第一弾「まほろば」を発売した。この第一弾のCDのライナーノートには「名歌は美しい風土とともに生まれ、名曲は時代の流れに育まれ、さまざまな人生の想い出の寄り添いつつ、いつまでも心の中に生き続けます」と言葉が添えられているが、このことを基本に、今回、男声コーラス名曲集として全15曲を収録したCDの第二弾「凛」が発売となった。これは、古き名曲から昭和の歌、また今回初めて“時代を反映した歌”などを、男声フォレスタのメンバーが力強く熱唱している。フォレスタの特徴は、メンバーの全員が音大を出ているだけに、一人一人の歌唱力が優れているのに加え、男声陣および女声陣のバランスがいいことが挙げられ、それが聴いていて心地がいいのだ。それでは男声陣だけになったらどうなるのか。今回のCDは、このことへの回答が詰まってるわけである。

 「フォレスタ」男声陣のCD「凛」を聴いてみて思ったのは、混声コーラスとはまた違った、「フォレスタ」の新しい側面を、我々リスナーの前に示してくれたということだ。男声コーラス独特の力強さに溢れていると同時に、若きコーラスだけに、軽快さや明るさが漲っているところが、新たな可能性を予感させる。CD第一弾「まほろば」では、誰が聴いても正に名曲の定番といった選曲がなされていたように思えたが、今回の第二弾「凛」では、いかにも男声合唱に合わせた選曲がなされ、個性溢れるCDに仕上がっている。ある意味では問題提起的な選曲も含まれているとも思える。私の個人的趣味を言わせてもらうと、「若者たち」(作詞:藤田敏雄/作曲:佐藤勝)が特に印象に残った。同時代に青春の時代を過ごした曲であるから、個人的な懐古的情緒に浸れるということだけかもしれないが、「フォレスタ」男声陣のナイーブな音質が、一番曲にピタリとあっているように私には思える。勿論、第1曲目の「箱根八里」(作詞:鳥居忱/作曲:瀧廉太郎)は、「フォレスタ」男声陣の実力を存分に示したもので、このCDを代表する歌唱といってもいいであろう。

 「フォレスタ」のコーラスは、男声でも女声でも混声でも、他のコーラスグループとは、ちょっと何か違うように感じられる。それが何かをストレートに表現するのは意外に難しいが、一つ言えるのは、「フォレスタ」は詞に対して執念みたいなような感情を持っていることがリスナーに伝わってくることだ。「こころの歌」といわれる、先人が悪戦苦闘してつくり挙げてきたジャンルの曲の一つ一つの曲の素晴らしさは勿論だが、詞も負けずに素晴らしいことが「フォレスタ」歌声を聴くとよく分る。今、正しい日本語を使うことが余りにも疎んぜられていやしないだろうか。正しく、美しい日本語を守り、伝えていくことは、今を生きるものの務めではなかろうか。その意味からも私は「フォレスタ」は貴重な存在のコーラスグループだと思う。それに、テレビでも何時もそうだが、ピアノ伴奏陣がいつも若々しく、メリハリが利いた伴奏をしていて、コーラスを十二分に盛り立てているのも、このコーラスグループの特徴の一つに挙げられよう。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2010-07-26 09:24:43 | コンサート情報

 

                  <コンサート情報>


~SAITO KINEN FESTIVAL MATSUMOTO~

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番
         交響曲第7番

指揮:山田和樹

管弦楽:サイトウ・キネン・オーケストラ

ピアノ:小菅優

会場:長野県松本文化会館

日時:2010年8月23日(月) 午後7時

 指揮の山田和樹は、1979年神奈川県生まれの指揮者。指揮法を小林研一郎と松尾葉子に師事。2001年、東京芸術大学音楽学部指揮科卒業。大学在学中に芸大生有志オーケストラ「TOMATOフィルハーモニー管弦楽団」(2006年より「横浜シンフォニエッタ」に改称)を結成し、音楽監督に就任する。2009年9月17日、若手指揮者の登竜門として名高いブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。現在、将来が嘱望されている若手指揮者の一人である。

 ピアノの小菅優は、 1983年東京生まれ。東京音楽大学付属音楽教室を経て、1993年よりヨーロッパ在住。9歳よりリサイタルを開き、オーケストラと共演している。ヨーロッパで研鑚を積みながら演奏活動を重ねる。2000年、ドイツ最大の音楽批評誌「フォノ・フォルム」よりショパンの練習曲全曲録音に5つ星が与えられたほか、2002年に第13回新日鉄音楽賞 、2004年にアメリカ・ワシントン賞、2006年に第8回ホテルオークラ音楽賞、2007年に第17回出光音楽賞を受賞。2006年8月には、ザルツブルク音楽祭で日本人ピアニストとして2人目となるリサイタル・デビューを果たした。

 サイトウ・キネン・オーケストラは、前身は、桐朋学園創立者の一人である斎藤秀雄の没後10年記念として1984年9月に東京と大阪で開かれた「斎藤秀雄メモリアル・コンサート」おいて、斎藤の弟子であった小澤征爾と秋山和慶を中心に、国内外で活躍する斎藤の教え子たちなどが結集して臨時編成された桐朋学園斎藤秀雄メモリアル・オーケストラが前身。1987年にヨーロッパへのツアーを行い大成功を収める。同オーケストラが中心となり、長野県松本市で毎年8月にサイトウ・キネン・フェスティバル松本が開催されている。

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2010-07-23 09:29:36 | コンサート情報

 

                  <コンサート情報>

 

~小山実稚恵デビュー25周年記念 協奏曲の夕べ~

ブラームス:ピアノ協奏曲第1番/第2番
       大学祝典序曲

ピアノ:小山実稚恵

指揮:大野和士

管弦楽:東京都交響楽団

会場:サントリーホール

日時:2010年9月3日(金) 午後7時

 ピアノの小山実稚恵は、1959年、仙台市に生まれる。東京芸術大学卒、同大学院修了。1982年チャイコフスキー国際コンクール第3位、1985年ショパンピアノ国際コンクール第4位と、二大国際コンクールに初めて入賞した日本人。1986年第12回ショパン協会賞受賞、1994年飛騨古川音楽奨励賞受賞、2005年文化庁芸術祭音楽部門大賞受賞、2005年第7回ホテルオークラ音楽賞受賞など数多くの受賞歴を有し、現在日本を代表するピアニストの一人。国際コンクールの審査員の経験も多く、これまで1994年第10回チャイコフスキー国際コンクール審査員、2004年ロン=ティボー国際コンクール審査員などを務めてきたが、2010年10月には第16回ショパン国際ピアノコンクールの審査員として参加する。

 指揮の大野和士は、1960年東京都生まれ。東京芸術大学卒業後、ヨーロッパに渡る。1987年にアルトゥーロ・トスカニーニ国際指揮者コンクールで優勝。2002年から2008年までベルギー王立歌劇場(モネ劇場)の音楽監督を務め、2008年からはフランス国立リヨン歌劇場の首席指揮者に就任。2011年にはバイエルン州立歌劇場への客演も決まっている。これまで2008年紫綬褒章受章、2009年フランス批評家大賞・ヨーロッパ大賞受賞、同年第39回エクソンモービル音楽賞受賞、2010年日本芸術院賞・恩賜賞受賞、同年サントリー音楽賞受賞など多くの受賞歴を有している。

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◇クラシック音楽CD◇レオンスカヤのシューベルト:ピアノソナタ第19番/第21番

2010-07-22 09:37:14 | 器楽曲(ピアノ)

シューベルト:ピアノソナタ第19番/第21番

ピアノ:エリーザベト・レオンスカヤ

CD:ワーナーミュージック・ジャパン WPCS 21132

 シューベルトは、生涯で21曲のピアノソナタを作曲している。その最後の第19番、第20番、第21番の3曲は、シューベルトの最高傑作として評価され、コンサートでもしばしば取り上げられているし、現在まで多くのピアニストによって録音されてきているので、我々リスナーは比較的聴きやすい環境にあると言ってもよいであろう。ところが、このような状況は、比較的最近のことであり、昔は、シューベルトのピアノソナタは、冗長な曲が多いという理由から、あまり評価されてなかったようである。それをシュナーベルやケンプなどのピアニストが、コンサートで取り上げたり、録音することによって、やっとベールが剥がされ、現在ではその真価が正等に評価されるようになってきたのである。シューベルトの最後のピアノソナタの3曲は、ベートヴーェンの最後のピアノソナタ3曲とよく似ていると思う。ベートーヴェンが最後の3曲を書いたのは1820年ー1822年。一方、シューベルトは死の年の1828年に最後の3曲を書いたのだ。シューベルトは、尊敬するベートーヴェンのオマージュとして、この珠玉のような最後の3つのピアノソナタを書いたのであろうか。

 第19番は、ベートーヴェンのピアノ変奏曲を意識して書かれたという。第1楽章は、どう聴いてもシューベルトというよりは、やはりベートーヴェンに近いような力強いモチーフが用いられており、聴き応えのある楽章といえる。第2楽章は、如何にもシューベルトらしさに溢れた、優しくも、懐かしさをいっぱい含んでいるので聴きやすい。第3楽章は、比較的軽快な曲にまとまっており、メリハリも効き、説得力がある。第4楽章は、アレグロの舞曲のような軽快な楽章だ。シューベルトは、こんな舞曲風の曲を書かせると、急に陽気になり気分を発散させるような癖があると思う。ベートーヴェン風で始まり、シューベルトの陽気な一面を覗かせる舞曲風な曲で終わる、そんな曲が第19番のピアノソナタだ。

 第21番は、これぞシューベルトの真髄を聴ける、待ちに待った名ピアノソナタという思いがする。第1楽章の出だしのメロディーを聴いた途端、その崇高ともいえる調べに、思わず聴き惚れる、というの正直なところだ。何かシューベルトは死の予感でもしたのであろうか、ある意味で人生を達観して書いたようにも思えてならない。次々に湧き出してはまた消える美しくも哀しいメロディーを聴いていると、シューベルトは最後の力を振り絞って、我々に別れの挨拶をしているようにも聴こえる。シューベルトのピアノソナタは、第1楽章に多くの時間をかける傾向があるが、このCDでも第1楽章だけで24分弱あり、この楽章だけで立派にピアノソナタが成立しそうなほど、その内容も充実している。第2楽章のアンダンティーノは、あまりにも美しい、美しすぎるほど。第3楽章は、軽快なスケルツォで気分が救われる。最後の第4楽章は、最後に終えるのにぴったりとしており、全体に落ち着いた曲想には説得力が充分にある。

 このCDで、シューベルトの最後のピアノソナタの2曲を弾いているのがエリーザベト・レオンスカヤである。レオンスカヤは、1945年、旧ソ連に生まれている。モスクワ音楽院在学中の1964年にエネスコ国際コンクールで優勝。1978年からウィーンに移住し、ザルツブルグ音楽祭で成功を収めて、知名度を高め、さらにリヒテルが四手のピアノ曲を弾くときのお気に入りのピアニストとしても有名であった。このCDでもレオンスカヤは名演を聴かせる。がっしりとした構成力は男性ピアニストを凌ぐものを持っている、と同時に繊細な表現は女流ピアニストしか出せないものだ。現在、実力ではレオンスカヤに対抗できる女流ピアニストは、ピレッシュ(ピリス)と内田光子しかいないのかもしれない。ところで、このCDで抜けている第20番のピアノソナタが聴きたくなり、パソコンのピティナ(PTNA)のウェブサイトの音源で聴いてみたら、余りに凄い演奏なので一体誰が弾いているのかと見てみたら、西川潤子であった。この西川潤子の演奏は、レオンスカヤに互角に勝負できるのではとさえ思えたほどだ。西川潤子は今度、是非とも音質の良いCDにシューベルトのピアノソナタを録音して、我々に聴かせてほしいものである。彼女はメジャーになれる資質を持っている。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2010-07-21 09:27:52 | コンサート情報

 

                   <コンサート情報>


モーツアルト:ピアノソナタK.576
ベートーヴェン:ピアノソナタ第8番「悲愴」
ショパン:バラード第1番

ピアノ:小林愛実

会場;横浜みなとみらいホール

日時:2010年8月28日(土) 午後2時

 ピアノの小林愛実は、1995年生まれ。山口県宇部市出身。3歳からピアノを学び、山口県よりメダル栄光文化賞を3度受賞。2001年から 2004年の間、ピティナピアノコンペティションに4年連続で全国決勝大会に出場。2001年の5歳での出場は最年少記録。 2004年、8歳のときピティナピアノコンペティションJr.、G級(高校1年生以下)全国決勝大会第1位 。 2004年、ショパン国際ピアノコンクールin ASIAアジア大会にて第1位金賞受賞。 2005年 、9歳のとき全日本学生音楽コンクール全国決勝大会にて第1位。同年、フランス、パリのコルトーホール、アメリカ、ニューヨークのカーネギーホールにてコンサートを開催。 2009年、第1回Asia-Pasific国際F.ショパンピアノコンクール(韓国)Jr部門第1位。同年、12月10日、サントリーホールにてメジャー・デビュー記念コンサート(同ホールソロとしては日本人最年少記録、女性ピアニスト最年少記録)を開催。2010年、EMI ClassicよりCDデビューを果たす。

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◇クラシック音楽CD◇ベーム/ウィーンフィルのモーツアルト:交響曲第29番他(ライブ盤)

2010-07-20 09:27:18 | 交響曲(モーツァルト)

~ベーム、ウィーンフィル 1977東京ライブ~

モーツアルト:交響曲第29番
リヒャルト・シュトラウス:交響詩「ドン・ファン」

リハーサル風景
ブラームス:交響曲第2番

指揮:カール・ベーム

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

CD:TDK-OC 006

 このCDは、カール・ベームとウィーンフィルが来日公演を行った時のライブ録音盤で、リハーサル風景も録音されているため、カール・ベームの肉声を聞くことができる貴重なCDである。録音は1977年3月11日、東京文化会館で行われた。演奏自体が名演の誉れ高いもので(特にモーツアルト:交響曲第29番は、生、録音いずれでも、現在に至るまでそうめったに聴くことができない極めて質の高い演奏内容)、FM東京で放送されていた民放唯一のライブ・コンサートの番組「TDKオリジナルコンサート」を、その音源としている。インターネット放送を含め、今でこそクラシック音楽は、多くの放送局から、あらゆる時間帯で聴くことができるが、1970年代には、来日オーケストラの演奏会を高音質で収録し放送してくれる「TDKオリジナルコンサート」は、クラシック音楽ファンにとっては掛け替えのない貴重な放送であったわけである。このCDは、発売元の変更があり、それを契機として発売された中の1枚のようだ。当時、世界的に見ても高い水準にあったTDKのオリジナルテープを基にCD化されたものだけに、今聴いてみても音質が心地よい。

 モーツアルトの交響曲第29番は、ウィーンからザルツブルグに戻ったモーツアルトが1744年に作曲した、後期の交響曲にも繋がるような、非常に充実した内容を持つ、初期の交響曲である。第1楽章の出だしからして、ベームとウィーンフィルの名コンビは、これ以上考えられない程に安らぎに満ち、弦楽器の音色の微妙な変化を愉しむかのように演奏していく。これだけ聴くだけで、このコンビの巧みで自然な演出力の虜になってしまい、気分はもうモーツアルトの世界に釘づけとなること請け合い。第2楽章は、アンダンテのゆっくりとした楽章で、この高貴な雰囲気の中に身を置いていると、何か俗世間のことを一時忘れ去るような雰囲気に包まれる。ここでも、ベームとウィーンフィルのコンビは、考え得る最良の音楽をリスナーに届けてくれるのだから堪らない。第3楽章は、軽快なメヌエット。管楽器と弦楽器の掛け合いのような音づくりに酔わされる思いがする。第4楽章は、これまでのゆっくりとした雰囲気から、一気に交響曲らしい壮大な音づくりに大満足。この楽章あたりは、モーツアルトの後期の交響曲を彷彿とさせる。ベームとウィーンフィルのコンビは、その能力をフル発揮させている様子が手に取るように分かり、リスナーの気分も高揚へと向かう。

 リヒャルト・シュトラウスの交響詩「ドン・ファン」の演奏も、このコンビの自在な音づくりの鮮やかさに、一時、夢の中にいるような雰囲気を味合わせてくれる。正に、このコンビでなくては出せない、豊穣な奥深い音の森の中を歩いていくような気分に浸れるのは、流石と思わざるを得ない。「ドン・ファン」をはじめとして、リヒャルト・シュトラウスのオーケストラの曲を演奏する指揮者およびオケともに、張り切りすぎてやたらと大きい音を出しすぎるきらいがあるものだ。それに対し、このコンビの演奏はどうだ。ロマンの香りが臭い立つような、妖艶なリヒャルト・シュトラウスの音楽の世界を描き切る。この「ドン・ファン」は、ドイツの詩人ニコラウス・レーナウの詩に基づいており、リストが創始した交響詩の様式に則って作曲されている。ドン・ファンは、17世紀スペインの伝説上の放蕩児で、このプレイボーイの貴族が繰り広げる女性にまつわるお話。たまには、文学的な雰囲気の中に身を置き、ベーム/ウィーンフィルの名コンビの演奏を聴くのもおつなものだ。

 カール・ベーム(1894年―1981年)は、オーストリアのグラーツに生まれた指揮者。1921年にワルターの招きにより、バイエルン国立歌劇場の指揮者に就任した。ベームはワルターから多くを学んだが、とりわけモーツアルト演奏では大きな影響を受け、後年ベームはモーツアルトの権威者としての立場を築くことになる。1943年にはウィーン国立歌劇場総監督に就任している。戦後は、1964年に「オーストリア(共和国)音楽総監督」を、また、1967年にはウィーン・フィル創立125周年を記念して、特にベームのために創設された「名誉指揮者」の称号を授けられたりして、大指揮者の道を歩んだ。しかし、フルトヴェングラーみたいな神様のような存在というよりも、年配のリスナーの多くは、常に我々に近いところにいた名指揮者と感じていたのではなかろうか。このCDの最後にブラームスの交響曲第2番のリハーサル風景の録音が付けられているので、その中からカール・ベームの言葉を一つ紹介しよう。「私は皆さんと音楽をしながら死んでいければいいと思っています。何とか立っていられる間はね。もし立てなくなっても、小さな杖でひざをかばうことができれば(笑)、皆さんと一緒に音楽をしていきたいね」。カール・ベームはこの4年後、ザルツブルグで亡くなっている。音楽をこよなく愛したマエストロに合掌。(蔵 志津久)

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◇クラシック音楽◇コンサート情報

2010-07-16 09:25:58 | コンサート情報

 

                  <コンサート情報>


レナード・バーンスタイン:ミュージカル「キャンディード」(全2幕、英語上演・字幕付き)

指揮:佐渡裕

管弦楽:兵庫芸術文化センター管弦楽団

合唱:ひょうごプロデュースオペラ合唱団

演出:ロバート・カーセン

会場:Bunkamuraオーチャードホール

日時:2010年8月6日(金) 午後6時30分、8月7日(土) 午後2時、
         8月8日(日) 午後1時

 「佐渡裕芸術監督プロジュースオペラ2010」と題して行われるレナード・バーンスタイン作曲のミュージカル「キャンディード」は、あの「ウエスト・サイド・ストーリー」の前年に生み出され、バーンスタインが生涯にわたってこだわり続けた執念の作品。今回、バーンスタイン最後の愛弟子・佐渡裕のタクトによって、その真価が明らかにされる。2006年にパリ・シャトレ座が制作した「キャンディード」は、ヨーロッパの名だたる劇場で次々と上演され、センセーショナルな成功を収めた。その話題のプロダクションがオリジナル・キャストと共に日本上陸を果たす。演出は、大胆な解釈とアイデアでオペラファンを夢中にさせる、今世界で最も多忙な演出家ロバート・カーセン。

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