「凛」~歌い継ぐ日本のこころ FORESTA(フォレスタ)男声作品集~
1.箱根八里
2.城ヶ島の雨
3.琵琶湖周航の歌
4.北上夜曲
5.若者たち
6.銀色の道
7.風
8.戦争を知らない子供たち
9.黒い瞳の
10.ヴォルガの舟歌
11.ともしび
12.麦と兵隊
13.加藤隼戦闘隊
14.戦友
15.竹田の子守唄
合唱:FORESTA(フォレスタ)男声(大野 隆/横山慎吾/榛葉樹人/澤田 薫/
今井俊輔/川村章仁/河村洋平)
ピアノ:南雲 彩/吉野 翠/江頭美保
CD:BS日テレ
毎週月曜日夜10時からBS日テレで放送される、全員音大出の若手混声コーラスグループ「FORESTA(フォレスタ)」出演の1時間番組「BS日本・こころの歌」に、私は文字通り釘付け状態になってしまう。それは我々の年代が生きてきた、戦後の時代が生み出した名曲の数々が、若い「フォレスタ」のメンバーの実に美しく、生き生きとした歌唱力で、あたかも新しく作曲された曲のごとく再現されているからである。つまり、単なる懐メロとは次元を異にした、現代にも通用する感覚で歌われており、少しも古臭くないところがとってもいい。「フォレスタ」が歌う曲の多くは、童謡とも違うし、歌謡曲とも違う。また、演歌とも違う。今の時代の音楽ジャンルであるJ-POPとも違う。ピタリとした表現はなかなか難しい。やはり、「こころの歌」あるいは「青春の歌」というのが一番近いのかもしれない。そして、テレビの舞台のデザインが、透明感溢れるシンプルなことが「フォレスタ」の歌声を一層引き立てている。
「フォレスタ」は、これまでDVDとともにCDの第一弾「まほろば」を発売した。この第一弾のCDのライナーノートには「名歌は美しい風土とともに生まれ、名曲は時代の流れに育まれ、さまざまな人生の想い出の寄り添いつつ、いつまでも心の中に生き続けます」と言葉が添えられているが、このことを基本に、今回、男声コーラス名曲集として全15曲を収録したCDの第二弾「凛」が発売となった。これは、古き名曲から昭和の歌、また今回初めて“時代を反映した歌”などを、男声フォレスタのメンバーが力強く熱唱している。フォレスタの特徴は、メンバーの全員が音大を出ているだけに、一人一人の歌唱力が優れているのに加え、男声陣および女声陣のバランスがいいことが挙げられ、それが聴いていて心地がいいのだ。それでは男声陣だけになったらどうなるのか。今回のCDは、このことへの回答が詰まってるわけである。
「フォレスタ」男声陣のCD「凛」を聴いてみて思ったのは、混声コーラスとはまた違った、「フォレスタ」の新しい側面を、我々リスナーの前に示してくれたということだ。男声コーラス独特の力強さに溢れていると同時に、若きコーラスだけに、軽快さや明るさが漲っているところが、新たな可能性を予感させる。CD第一弾「まほろば」では、誰が聴いても正に名曲の定番といった選曲がなされていたように思えたが、今回の第二弾「凛」では、いかにも男声合唱に合わせた選曲がなされ、個性溢れるCDに仕上がっている。ある意味では問題提起的な選曲も含まれているとも思える。私の個人的趣味を言わせてもらうと、「若者たち」(作詞:藤田敏雄/作曲:佐藤勝)が特に印象に残った。同時代に青春の時代を過ごした曲であるから、個人的な懐古的情緒に浸れるということだけかもしれないが、「フォレスタ」男声陣のナイーブな音質が、一番曲にピタリとあっているように私には思える。勿論、第1曲目の「箱根八里」(作詞:鳥居忱/作曲:瀧廉太郎)は、「フォレスタ」男声陣の実力を存分に示したもので、このCDを代表する歌唱といってもいいであろう。
「フォレスタ」のコーラスは、男声でも女声でも混声でも、他のコーラスグループとは、ちょっと何か違うように感じられる。それが何かをストレートに表現するのは意外に難しいが、一つ言えるのは、「フォレスタ」は詞に対して執念みたいなような感情を持っていることがリスナーに伝わってくることだ。「こころの歌」といわれる、先人が悪戦苦闘してつくり挙げてきたジャンルの曲の一つ一つの曲の素晴らしさは勿論だが、詞も負けずに素晴らしいことが「フォレスタ」歌声を聴くとよく分る。今、正しい日本語を使うことが余りにも疎んぜられていやしないだろうか。正しく、美しい日本語を守り、伝えていくことは、今を生きるものの務めではなかろうか。その意味からも私は「フォレスタ」は貴重な存在のコーラスグループだと思う。それに、テレビでも何時もそうだが、ピアノ伴奏陣がいつも若々しく、メリハリが利いた伴奏をしていて、コーラスを十二分に盛り立てているのも、このコーラスグループの特徴の一つに挙げられよう。(蔵 志津久)