~マレク・ヤノフスキ指揮ベルリン放送交響楽団 来日公演~
ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲
シベリウス:バイオリン協奏曲
バッハ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第2番から第4楽章“アレグロ”(アンコール)
ブラームス:交響曲第1番
交響曲第3番から第3楽章(アンコール)
ヴァイオリン:フランク・ペーター・ツィンマーマン
指揮:マレク・ヤノフスキ
管弦楽:ベルリン放送交響楽団
収録:2015年3月16日、東京・サントリーホール
放送:2016年3月24日(木) 午後7:30~午後9:10
今夜のNHK‐FM「ベストオブクラシック」は、ベルリン放送交響楽団来日公演から、ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲、シベリウス:バイオリン協奏曲、ブラームス:交響曲第1番の放送である。指揮はマレク・ヤノフスキ、ヴァイオリンはフランク・ペーター・ツィンマーマン。ベルリン放送交響楽団(RSB)は、ベルリンに本拠を置くオーケストラ。創設は1923年。第二次世界大戦後は東ベルリン側に属し、DDRラジオ放送局の放送オーケストラとなった。ドイツ再統一後の1994年に、RIAS室内合唱団、ベルリン放送合唱団、ベルリン・ドイツ交響楽団を所有する会社の傘下に入った。これまでの首席指揮者には、オイゲン・ヨッフム(1932年―1934年)、セルジウ・チェリビダッケ(1945年―1946年)、ヘルマン・アーベントロート(1953年―1956年)、ラファエル・フリューベック・デ・ブルゴス(1994年―2000年)などが名を連ねてきた。そして、2002年からマレク・ヤノフスキが首席指揮者に就任している。
指揮のマレク・ヤノフスキ(1939年生まれ)は、ポーランド出身。フライブルクやドルトムントの歌劇場で音楽監督を務めた後、欧米各地のオーケストラを指揮。これまで、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団、モンテカルロ・フィルハーモニー管弦楽団、ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団、スイス・ロマンド管弦楽団の音楽監督および首席指揮者を歴任するなど、常に一流オーケストラを指揮してきたことが分かる。そして、2002年から、ベルリン放送交響楽団の首席指揮者を務めている。ヴァイオリンのフランク・ペーター・ツィンマーマン(1965年生まれ)は、ドイツ出身。エッセンのフォルクヴァング音楽院で学ぶ。1976年「全国青少年音楽家コンクール」で優勝。その後、ベルリン芸術大学で学ぶ。初来日は1983年。現在、ドイツを代表するヴァイオリニストの一人として、高い評価を得ている。
今夜の最初の曲は、ウェーバー:歌劇「オベロン」序曲。この曲でのマレク・ヤノフスキ指揮ベルリン放送交響楽団の演奏は、曲に真正面から取り組む姿勢が如実に聴き取れた。リスナーも思わず襟を正して聴き入るといった塩梅の演奏内容である。ただし、音楽がコンコンと湧き出すような演奏スタイルであるため、堅苦しさを感じさせないところは流石。2曲目は、シベリウス:バイオリン協奏曲。ヴァイオリン独奏は、フランク・ペーター・ツィンマーマン。この協奏曲は1903年に作曲されたが、1905年に、よりシンフォニックな形に改訂された。現在通常演奏されるのは、この改訂版。通常のヴァイオリン協奏曲が、ヴァイオリンの名人芸的要素を多分に取り入れているのに対し、シベリウス:バイオリン協奏曲は、ヴァイオリンとオーケストラとが対等に渡り合い、高度な技巧をヴァイオリン独奏者に要求する難曲に一つに数えられている。今夜のツィンマーマンの演奏は、如何にもドイツ音楽の正統的な演奏家の第一人者らしく、重厚に、大きなスケールで弾き通し、見事な出来栄えと言ってよかろう。そしてマレク・ヤノフスキ指揮ベルリン放送交響楽団の伴奏のど迫力ぶりといったら、半端なものでない。このため、この協奏曲の特徴が十二分に発揮された演奏になったようだ。
最後の曲は、ブラームス:交響曲第1番。この曲は、着想から完成まで21年が費やされ、1876年に完成した。ブラームスは初演後も種々の改定を加えた。よく「ベートーヴェンの交響曲第10番」と言われる。この交響曲第4楽章の第1主題はベートーヴェンの交響曲第9番第4楽章の「歓喜の歌」を思わせることなどからそう言われるのであろう。しかし、そのことは、ベートーヴェンの模倣ということでなく、ブラームスは、ベートーヴェンの交響曲の延長線上に、自分の最初の交響曲を位置づけた結果にほかならない。マレク・ヤノフスキ指揮ベルリン放送交響楽団は、この交響曲の演奏で持てる力をフルに発揮した感じだ。マレク・ヤノフスキの指揮ぶりが凄い。その集中力の高さは、現役の指揮者の中でも一、二を争そうのではなかろうか。鋼鉄のような頑強な曲のつくりは、ドイツのオーケストラの真髄に触れる思いがした。今夜のマレク・ヤノフスキの指揮を聴きながら、私は、「何となくフリッチャイやシューリヒトの指揮を思い起こさせるなあ」と感じ入ってしまった。マレク・ヤノフスキは、日本では、そう有名な指揮者ではなさそうであるが、今夜の演奏を聴くと「巨匠マレク・ヤノフスキ」の実力や恐るべし、なのである。(蔵 志津久)