元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「JFK」

2006-07-11 06:53:57 | 映画の感想(英数)
 91年作品。“いつでも過激、どこでも攻撃”“知らぬ・存ぜぬは許しません”、これはドキュメンタリー映画の快作「ゆきゆきて、神軍」の劇場公開時のキャッチ・フレーズだが、それがそっくり「JFK」のオリバー・ストーン監督に当てはまる。当時のストーンは“アメリカ映画界の奥崎謙三”のレベルに達していたのかもしれない。

 ケネディ大統領暗殺事件は調べれば調べるほど不可解な点が数多く出てくる。ウォーレン報告書が示した“オズワルドの単独犯行説”は素人目にも納得いかない部分が多い。第一、タイム・ライフ社に長年保存されていたという暗殺場面の記録フィルムによると明らかに撃たれた瞬間、大統領は後ろにのけぞっており、オズワルドが撃ったとされるビルは大統領の後方にあったのだ。後ろから撃たれて後ろにのけぞるわけはない。事件の関係者の不可解な死、隠滅された証拠書類、直前に変更された大統領のパレード・コース、まさに謎だらけで何らかの陰謀が働いていたと考えるのも無理もない。

 ここで当時の時代背景を見てみよう。映画の冒頭に1961年に引退したアイゼンハワーの演説が挿入されている。“いまこの国に危険な怪物が育ちつつある。それはMilitary-industrial Complexだ”。“軍産複合体”と訳されるこのシステムは第二次大戦時に生まれた。戦争に勝つためにペンタゴンは大学を中心とする研究機関に多額の補助金を出し、その成果を軍需産業に回したのだ。大企業をはじめ15万社ともいわれる巨大組織が出来上がった。第二次大戦が終わっても、共産主義打倒のスローガンのもとに“軍産複合体”は成長を止めず、歴代の国防長官はすべて軍需産業の大企業から就任し、戦争経済を推進していったのだ。しかし、ケネディは初めて“軍産複合体”を押さえようとした。軍事力ではなく外交的駆引きでキューバ危機を乗り越えた。ところがその結果の暗殺だ。

 ケネディの代わりに大統領になったジョンソンはベトナムに55万人の米兵と大々的な物量を投入する。3週間でハノイは陥落すると言われていた戦争を15年間も続けた。多数の犠牲と敗戦によってただ一人得をしたのが“軍産複合体”である。勝とうが負けようが関係なく、カネがもうかればそれが一番。実際ベトナム従軍で地獄を見てきたオリバー・ストーンにとって、この事実は耐えられないものだったろう。彼にとってケネディ暗殺は、アメリカが堕落していくきっかけとなった重大な事件であり、映画化して糾弾する価値のある素材だったに違いない。

 はっきり言ってこの映画は欠点だらけである。暗殺事件の犯人の一人に刑事責任をとる裁判がクライマックスになっているが、あの程度の証拠では無罪になってあたりまえ。起訴する地方検事(ケヴィン・コスナー)も無謀と言うしかない。あまりにケネディを美化するあまり、マフィアとの黒いつながりやマリリン・モンローとの噂などのマイナス・イメージを排除しているのも納得できない。そして主人公について行けない妻(シシー・スペイセク)や子供のとらえ方も通りいっぺんで不満だし、当時のニュース・フィルムの中に巧みにオリジナル映像を織り込んで本当らしく見せるあたりは相当あざとい。全体的にハッタリかました大芝居が多く、こうした点が封切り当時アメリカのマスコミから叩かれた理由であろう。

 それでは観る必要のない映画かというと、断じてそうではない。ひたすら自分が正しいと信じ、これでもかこれでもかとアメリカ社会の不正を糾弾するオリバー・ストーンの常軌を逸した演出は、社会に裏切られた元愛国青年が何とかしてアイデンティティを取り戻そうとする必死のあがきが凄まじいパワーとなって全篇にみなぎり、目を見張る映画的興奮で観客を圧倒するからだ。彼にとって裁判の敗訴という結果は全く重要ではない。大事なのは真実を追求しようとする姿勢であり、社会の不正に立ち向かう毅然とした態度なのである。

 圧巻は裁判シーンにおけるラスト30分間の主人公の演説だ。単なる一検事の論告が、いつの間にか裁判の勝ち負けという次元を超越し、堂々とケネディ暗殺の陰謀を告発し、ニクソンやジョンソンを暗殺者として非難するという過激な、そして観客への力強いメッセージとなって展開する時、私は映画が文化的・娯楽的創造物から社会的事象へと転化する決定的な瞬間をそこに見る。それはかつてチャップリンが「独裁者」のラストシーンで我々に見せようとした“映画の魔術”なのかもしれない。

 “この作品を真実を追求する若者たちに捧げます”というラストのタイトルが泣かせる。ジョン・ウィリアムズの音楽。ロバート・リチャードソンのカメラ。上映時間3時間8分。「プラトーン」と並ぶストーンの代表作である。

コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 不毛な主張/在日米軍再編問題 | トップ | 「立喰師列伝」 »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
JFK (朝霞)
2006-07-11 11:30:12
私も友人に強く勧められ、この映画を観ました。

真実を追求しようとするその姿勢、とてもいいと思いました。

でも、今だに政府の陰謀ってあちこちにあるような気がして…。

それが怖いですね。

真実をねじまげる政府はアメリカだけじゃないですからね…。
返信する
「陰謀」・・・ですか・・・・ (元・副会長)
2006-07-11 22:29:11
朝霞さん、こんばんは。



そう、古今東西「政府の陰謀」の絶えた時代はありません(笑)。その「陰謀」にコロッと参ってしまうのが、現実論よりもスローガンが大好きなナイーヴな一般庶民ではないかと、最近思う次第であります(おいおい ^^;)。



「知ったら怖い。知らないともっと怖い」というのは映画「シリアナ」の宣伝文句でしたが、世の中、それに尽きますな。



O・ストーンも、もう一回ベトナムものに立ち戻って当事者意識溢れる力作を撮ってもらいたいものです。



それじゃ、今後ともヨロシク(^_^)/。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(英数)」カテゴリの最新記事