元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ブロークバック・マウンテン」

2006-05-24 06:52:24 | 映画の感想(は行)

 (原題: BROKEBACK MOUNTAIN )1963年~80年代という時代背景、ワイオミング州の美しい自然、そしてグスターボ・サンタオラヤによる叙情感あふれる音楽etc.こういう設定を得たことでこの映画の成功は約束されたようなものだ。これがたとえば現代の新宿二丁目あたりが舞台だったら、あまりの小汚さに大抵の観客は“引いて”しまうだろう(爆)。

 快作「ウェディング・バンケット」を観ても分かるように、アン・リー監督はゲイを描く時にも全く気負いがない。ゲイ自体が何か特別に注目される(あるいは貶められる)事柄であることを前面に出さずに自然体に扱っており、ドラマの動きをゲイを取り巻く“環境”の方に振っている。それが「ウェディング~」ではゲイに対して比較的鷹揚な東洋人コミュニティの間で話が展開したからああいう結末になったのであり、偏見の激しい一昔前のアメリカ中西部を舞台にした本作ではこういう痛切極まりない話になる。素材に対する作者のスタンスは実に冷静だ。

 通常の不倫映画として捉えてもレベルが高い。互いに惹かれつつも世間体のために意に添わぬ“正常な”結婚をした二人。それでも相手のことが忘れられずに人の目を盗んで逢瀬を繰り返す彼らに、今ではもう滅びかけた純愛路線の真髄を見るようで、ただただ感服した。

 ヒース・レジャーとジェイク・ギレンホールの演技は申し分ないが、それぞれのパートナーに扮したミシェル・ウィリアムズとアン・ハサウェイも素晴らしい。真相を知りつつも健気に世間体を取り繕い、でもやがて開き直るしかない境遇を、文字通り身体を張った演技で見せきって圧巻だ。

 余韻たっぷりのラストを含め、ドラマとしての完成度は高い。同性愛を扱った映画では傑作「風たちの午後」に迫るヴォルテージの高さだ。アカデミー賞は本作がふさわしかったと言える。それが成せなかったのは、何らかの“政治的背景”があると勘ぐられても仕方がないだろう。

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